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ブルートアウス ~意思と表象としての神話の世界~  作者: 雅号丸
第四章 傾城帝政 二幕

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十五話 輸血革命二叉戟作戦

十五話 輸血革命二叉戟作戦


過大な騒音が鳴り響く昼を越えて、粛々とした楽団による演奏が城を越えて城下に響き渡り、あるものは歓喜し、あるものはそれを睨み、そしてあるものは見据えた。


満月に幽天、その下の城へと繋がる門前には、馬車の列で混雑してはいるが、兵士たちによる指揮の元で、列に正しさは生まれていった。


次々と降りる老若男女は、例え子供であってもその服装の妖艶さは薄まることなく、互いが互いを侍らせる。赤い口びるの目立つなか、そうして1つの馬車は、中が見えないように幕を下ろした。


「……うえ」

「どうしたの、ヴァルト」

「……いや、キッショイ連中だ。真冬だってのにほぼ裸だ」

「……私は、あんなの着ないから」

「それでいい、あんなの育ち悪いですって大声で言ってるようなものだよ」


向かい側で座るマルティナはうつむいていた。


「……そう、ですよねぇ。やはりこの服装は」


マルティナの頭を隣で座るユリウスが撫でた。


「俺だって嫌なんだから。マルティナは僕だけの、はぁ……」

「……はぁ」


ヴァルトがケゲンな目をする。


「お前らな、溜め息出るのはえぇよ。空気悪くなんだろうが」

「私もノイ様と同じ服が良かったです」


ノイの顔がじゃっかん赤くなる。


「……なんか、恥ずかしくなってきた」

「えぇ、なんでですか!?」

「……なんかまともに、おしゃれ?したことないし」

「あぁ、そういう……でも、お似合いですよ?」


馬車は静かに揺れるのをやめる。コツコツとした音は女人たちの靴であり、群がるように周囲からそれらに混じるように、黄色い声が聞こえ始めた。


「バックハウス家よ!」

「ヴァルト様がいらっしゃるのは本当だったのだわ!」


ヴァルトとノイは溜め息を出す。


「あしらいかた、ある程度教えたけど大丈夫そ?」

「めんどくせぇ。ノイ、門まで頼んだ」


ノイが強くうなずく。


「うん、分かった」


ユリウスが困惑する。


「頼んだって、何を?」


馬車の漕手が降りて、扉を開ける。兵士に押さえ込まれる男女の傍若さが眼前を圧倒する。ヴァルトとノイが武器を携行しているのに気を止めない彼ら・彼女らは、ただ一丸となって自らの幸せにのみを勝ち取りに来ていた。


「ノイ」


ノイはヴァルトを、城から脱される姫君のように抱え、群衆を飛び越えて門を越えて着地する。抱えられたヴァルトを下ろすと、ヴァルトはふぅと一息入れた。


「あんがとよ」

「うん……」


ノイは後ろを振り返ると、一個団すべての睨みを一点に受け取った。ノイはすくんでしまうのを脚と、頬をひっぱたいて止める。


「どうした?」


ヴァルトが視線に気付いた。


「あぁ?俺らが武器持ってる理由、なんだったけっか」

「えっと……ベストロと戦ってそれで……あぁ、ピーなんとか」

「まぁようは、心が弱ってるっていう話にして、安心するために武器の持ち込みが許可されてることになってる。あいつら、それどうせ知ってるぞ?それ知ってて、ここぞってばかりに漬け込もうと必死なんだ。


あいつらは誰かを幸せにしたいんじゃない、幸せになりたいんだ。デケェ面して、いっちょまえに人の努力の隣に座ろうって思ってやがる。そんな奴らの目となんざ合わせるだけ無駄だ。見るな見るな、やめとけって」

「ヴァルト……」

「中入って、出された物は食べない、時間になったら会場へ行って、座って、曲聞いて、あとは成功を信じる。何かあれば俺らも行く。こんだけ覚えろ」

「……うん、分かった!」

「じゃ、行くか」


ヴァルトとノイが、門を通り、楽器の音色による街路の装りつけを抜けていく。門の向かい側の建物、少し高めな建物からそれを、密輸品の単眼鏡で見つめるのはイグナーツであった。


「あの嬢ちゃんすげぇな……男1人、武器ごと抱えて群衆を飛び越えたぞ」


フアンは、二刀剣の刃を研いでいた。


「あぁ、まぁそれくらいやるでしょうねぇ」


ナナミは屋根上で、左右の足の甲を裏もも上に乗せて、手を合わせて深呼吸をしている。呼吸は静かであった。イグナーツは、少し手に力が入る。


「……今晩、決まる。全てが、全てがだ。あぁくっそ、体が力む」


フアンは、天井を見上げた。


「ナナミさんは凄いです。鼓動にブレがまったくない」

「……フアンくんは確か、獣人だっけか」

「そうですね」

「……俺らが、憎くはないのか?イェレミアスでもアドリエンヌ同様に、昔は奴隷としてベストリアン……亜人・獣人を使役させていた。それがエトワール城の惨劇の余波で、イェレミアスでも同様に虐殺が起きた。俺は、俺たちはその子孫でもある」


「当事者意識、それ自体は持っています。でも……」


フアンは、刀剣を袖に隠して、イグナーツに寄る。


「……なんでしょう?僕にも、分からないですね」

「恨みとか、憎しみとかは?ないのか?」

「……分かりません。結局僕自身に向けられた差別というのはないので、なんとも」

「君は俺たちを憎む権利があるはずだ」

「恨むべき、蔑むべき、そう考えた結果がベストリアン差別でしょう。現在何もしてない人々を蔑むそれらの行為と、今のところ何もされていない僕が貴方を咎めること。それは同質であり、忌むべきです。というか、貴方はベストリアンを差別していないのですね」

「俺の惚れた女は……獣人だ」

「……えっ?」

「俺は……まぁなんだ、あの城で勤務してた時期があんだよ。結構上の方でな。貴族が開催する裏の会合だったり、酒池肉林の宴会にも、護衛として出向くことだってあった。そういうこの国の影に生きてるうち、どこの貴族かは知らねぇが、獣人を捕まえたっつうんで連れてきやがった……ひどく傷付いたあいつを見て俺は、その裏の会合の金銭の出所から逆算して、関係者らに賄賂を渡し、財務省に違法として検挙させた。その関係者を通じて、その獣人の保護を取り付けた、んだが……」

「その保証は、ない……」

「保護を約束するが、面会ができるかは分からないという話になってな。俺はそのときひどく悲しんで、憤った……俺を幸せにしたいだけだったんだって感じた」

「……」

「一縷の望みにかけて、約束を取り付けた。あいつがもし生きてるなら、場内の牢屋だ。あそこには誰も近付かない」

「……牢屋?」

「あぁ、いわくつきだ。こいつは確かな情報なんだが、どうもそこには、王族きっての忌み子がいたらしい。ずっと閉じ込めてたとか。そのせいか、やれ呪いがあるだのって噂があって、兵士も貴族も近寄らない」

「じゃあ、そこに行けば」

「……分からない。だが、愛を全うするなら、愛を行使するなら、せめて行動がなくっちゃな。それが男だ」

「その勢じゃないですか?」

「なぁ、君はどうして……」


ナナミが窓に、宙吊りになって顔を出す。


「時間じゃ、行くぞ」


同時に、部屋の扉が開けられて、私兵たちは入ってきた。


「隊長、準備できました」

「……あぁ、始めようか。輸血革命二叉戟作戦、開始だ」

2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。

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