十四話 Musikfest
十四話 Musikfest
音楽祭前夜、ヴァルトとノイ、フアンはバックハウス家で借りている寝室に集合していた。ナナミが屋根上にいることをフアンは伝える。
「不可解、だな」
「何がですか?」
「色々とな。まずマルティナの話だ。あぁ、フアンは知らねぇか。ノイ、ちょっと教えてやれ」
ノイは、視線を沈めてフアン向く。
「……あのね、マルティナの部屋に、あの本があったんだ」
「あの本?」
「ほら、あの。あんまり良くない方の、一対の旅人」
「……バズレールが携帯していた?それが何か?」
「いや、なんていうか、その……そこからの話があるの。あのね?えっと……マルティナ、天使にあったことがあるんだって」
フアンは息を飲んだ。
「……何、ですって?」
「マルティナが落ち込んでた時期に突然現れて、丁寧に話を聞いて、解決方法も答えて、どこかへいったって……どこで言い出したらいいか、分からなかったみたいなの。ずっと敵だと思ってなかったみたいで……でも、ユリウスから話を聞いて、私からも話を聞いて、確信?を持ったんだって」
「……その天使は、どんな容貌を?」
「……とても綺麗な大人の女性、目は、優しかったって」
フアンは、アマデアが過った。
「……まさか」
「大人の女性で天使って、アマデアだよね絶対。でね?ここからなの」
「まだ、何か?」
「あの変な一対の旅人なんだけどね?アマデアに貰ったって……ねぇ、もしかしたらさ」
「待って下さい、それじゃあ」
ヴァルトが腕を組んで、眉間にシワを寄せた。
「……あの本の持ち主は、アマデアと出会ったことのある可能性がある?バズレールもきっと……そうなると、色々と繋がるんだよ。バズレールは、アマデア経由でクロッカスの情報を入手、アマデアはあの奇っ怪な犯罪者に吹き込んで、クロッカスに越させたんだ」
「どうしてそんな……」
「人間を嫌悪している可能性が、オフェロスとの話で分かった。あいつは、人のことを見るとき、睨む」
ノイが首を傾げた。
「え、何の話?」
「アマデアのことだ」
「私、目があったことあるけど……そんな感じじゃなかったような……」
「は?」
「なんていうか、なんていうんだろ……悪い感じじゃなかったような。あぁでも、攻撃したときとかはそりゃ怖かったけど、捕まえられたときとか凄い……優しかった?」
「お前、頭おかしくなったのか?」
ノイ視線を下にした。
「もっと突き詰めるべき問題がある。アマデアの、その本の入手経路だ。フアン、表紙がアレな一対の旅人ってのはよ」
「はい、確かレノーくんがクロッカスで言っていました。絶版された書であると」
「あるいは、如何わしさから禁書指定を食らった可能性も言ってた。そんなもの、どうやって入手する?」
ノイは、寝台に寝転んだ。
「禁書って、別に捨てられた訳じゃないんだよね?」
「……なるほどそういうことか」
「んえ?」
「……まず、アマデアはどういう訳かその一対の旅人を、何らかの目的を持っているのか、配ってる。その本の入手経路としてありそうなのは一ヶ所しかねぇ。オルテンシア行政、カルマル大聖堂、その図書館」
「仮にそこで禁書、絶版物を扱っているとしたら、現存するその旧一対の旅人の入手は可能……でもなぜ?配布する理由なんて一つも思い当たらない」
「そもそもなぜその本なのかって話だ、気に入ってるとかなら今一般にあるものでいい。つまり、あいつが意味を込めてるとしたら……表紙だ」
「なんらかの、アマデアの目的を示唆している可能性……でも、そんなことしてなにに?」
「レトゥム・ノン・クワド・フィニット……やつは、どうも自分の思いなりを言葉にするクセがあんのかもな。決意表明っつうか、そういうものかもしれねぇ。それ自体の意味じゃないものだ……フェリクスみたく、何の根拠もねぇ陰謀論かもしれねぇ。だが、もし仮にだ。聖典教との繋がりがあるとすれば、簡単だろ」
「そもそも僕たちは、聖典教、ベストロ、天使、これらに何か繋がりがあるかもしれないとして、こうして行動隊になったんです。少なくともそれは僕らにとっては陰謀論ではあせんよ」
ノイは寝ころんだまま首をかしげる。布のこすれる音が響く。
「ノイ……とりあえずあなたはしっかり寝て、明日ヴァルトに何かあったときに備えて下さい。ハッキリ言います、ヴァルトは絶対にモテますから」
ノイは寝台から飛び起きると、目を開いて肌を逆立てた
「……はぁ!?」
「ヴァルトは成功者です。イェレミアスの貴族がそれをほおって置きますかいいえありえません。ヴァルトは力が現状使えない、さらのシレーヌ討伐以降、後遺症のように筋力が低下しています。そして僕は別で動くんよ?いいですかノイ、ヴァルトを守れるのは、あなただけです」
「……!?」
ノイは、ヴァルトを見る。
「……まぁなんだ、そのへん……頼んだ」
ノイは、頭の中で自分と、マルティナの言葉が過る。
(それ、女の子の役目じゃ……いや、でもそうよね。ヴァルトを助けるんだ。そうよ、私にできることで、なんとかしなくちゃ。ひょっとしたら、好きになってくれるかもしれないんだから!)
ノイは、まじまじとヴァルト見つめる。
「分かった、任せて!」
大きめな声で返事をするノイ。
「お?おぅ」
部屋に差す満月の光が消え、窓が開けられる。ナナミが入ってきた。
「少し良いかの」
「どうした、ナナミ」
「いやな、なぁんでそうも全部喋るんじゃよ。妾が聞いておるって、分かっておるんじゃろ?」
「全部どうせ聞かれるからだよ、お前、聴覚で優生か外れ値だろ」
「なんじゃ、分かっとるんか。気になることがある。2点じゃ」
「二点?」
「一対の旅人ってなんじゃ?」
フアンが袖から本を取り出す。
「これですね、触ってみます?」
「なんで持っとるんじゃ?」
「どうせあなたに説明する機会があると思いまして」
「……いったん、納得はしとこうかの。理解はできんが。よいよい、内容だけ頼む」
「一対の旅人、これは男女の旅人が西陸を旅して、様々な人間関係に触れながら、そうして愛を育むという話です。特徴として、男性は推しとやか、女性には慎ましさとたくましさがある点です。西陸での女性像とは離れているため、そこまで人気の書籍ではありません。ノイは、好きですが」
「なんと、妾の知る言い伝えと同じではないか」
「……えぇ?」
「いや、一対のうんやたらはよく知らんが、同じような物語があるんじゃ。姉上が聞かせてくれた」
「どんな?」
「妃が馬車で移動中、とある旅人に一目惚れし、私兵をかき集めて夜な夜な飛び出し、追跡をしたんじゃと。しかし妃は翌日、その私兵ごとボロボロに惨敗する形で城へ命からがら帰還……曰く、その男の旅人の隣にいる女人が、たった一人向かってきて、返り討ちにされたと」
「……たくましい、を通り越していますね」
「まぁ、恋に拳は、男女問わず以外とつきものじゃ」
「以外と、似ている物語ってあるんでしょうかね?」
「さぁ、じゃが伝説、伝承、言い伝え、民話、神話。そういう類いでは、なぜかうちの国じゃ似たり寄ったりじゃったぞ。例えば、山や川にはよく蛇や竜、人里には狼や、娼婦に化けるものなんか、本当に似たり寄ったりじゃ」
「あるいは、我々のベストロのように事実存在しているのかもしれないですね」
「……」
「どうしました?」
「……妾の持つ、他国の情報じゃが」
「えっ?」
「小出しする、とまではいかん、じゃが……まぁ、ハッキリ言おう。無価値じゃと」
「……それが事実として、あなたが戦う理由は、なくなったのでは?」
「しばらく豪邸で贅沢させてもらった礼じゃ。国の一個ひっくり返しの恩返し、できければ、夜修羅の筆頭は名乗れぬわ」
「筆頭、一番強いってことですよね」
ノイがナナミに寄った。
「ナナミ、ファンをお願いね」
「あい分かった。したらば、久しぶりに寝っ転がって休むかの。ノイ、となり使うぞ」
「えぇ?まぁいいけど」
「お主、よい香りがするからの。ぐっすりできそうじゃ」
2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。




