十三話 金庫の中身
十三話 金庫の中身
「……今日は、服来てますよね?」
扉越しにこもった声を出す男は、恐る恐る扉を開けていく。
「ごめんって、昨日も言ったじゃない。イェレミアスじゃこれくらい普通よ」
「……」
「女性に慣れるのだって大丈夫よ?レモンちゃん」
男は、麻袋に詰めた服を取り出して、机に置く。
「ふぅ……あの、僕の部屋ですからね?なんで部屋主っぽく言うんですか」
「隊服、あっちで洗わないの?」
「まぁ、近衛兵といっても、前線の兵士の方が物資、給与共に上です。僕みたいな駒は、手洗いですよ」
「けっこう切り詰めてるのね」
「……話、切り替えました?」
「お姉さんの調子どうなの?ゼナイドの襲撃で夫が亡くなったって言ってたわよね?」
「今は、母と祖父の家で療養を」
「そう……」
「じゃあ、始めますか」
レモンは、机の上に金庫を置いた。木造の机が軋み、埃や木屑がこぼれた。
「……これ、中に何が入ってるんでしょうね」
「重さだけででいったら、鉛とかかしら?でも、単純に金庫として分厚過ぎるってのもあると思うわ。壊すのは全部無理。優生、あるいはそれ以上の硬度があるわよ」
「そこまでしてまで守りたいもの……よほど重要なものなのでしょうか?」
「あとありえそうなのは、すごくボロかったり古いやつ。衝撃で崩れそうなものとか」
「陶器だったり?」
「そういう家宝を入れる場合もあるわ。でもそんなものを聖典教の上層が、派閥交えて奪いにくるなんて思えない。さて、どう解除したものかしら?」
レモンは、その金庫の外見を観察する。全体的に若干の傷のある、人の胴体ほどのもの。全ての方向に、無数に鍵穴の空いたのが、レモンの肌を立たせた。
「うぅ……」
「何、もよおした?」
「さっきいきました、なんていうか、苦手なんですよこういうの……っていうか」
「何?」
「……お名前は?フェリクス様と一緒にいたので一応信じてはいますが」
「ん、言ってたかったっけ?私は、うぅん……その鍵、一個でも開けれたら教えてあげる」
「からかわないで下さい」
「はぁ、女性に名前を聞くとき、あなたいつもそうやってるの?」
「……」
「名前聞いたこと、あるの?」
「……」
「……分かったわよ。アーデルトラウト・ボルツ」
「宜しくお願いします、ポルツさん」
「アーデルトラウト、アーデで良いわ。女性を名前で呼ぶ練習、ちょっとはしなさい」
「……はい、アーデさん」
「で、元最高指揮官はいったいどこいったのよ」
「調べ物をしているそうです。旧イノヴァドール、焼け落ちた、聖会の研究施設」
「鍵でもあるの?」
「さぁ……」
「ふぅん、まぁいいわ。情報ついでに私のこと話しておくけど。私、アンタたちの味方って訳じゃないからね?簡単に吐くんじゃないよ」
「フェリクスさん曰く利害は一致しているので、情報共有を忘れるなと」
「先払いで信頼獲得?それ、やる意味ある?」
「後ろ楯、に対してじゃないですか?あなたはバックハウス家に奉仕していたとフェリクス様から聞いてますので」
「なるほど、あんたも存外、食えないじゃない」
「どうもです、アーデさん」
2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。




