十一話 作戦情報
十一話 作戦情報
イグナーツ、フアン、ナナミはユリウスと、隠し階段を下りた場所で作戦を練っていた。
「ヴァルトは僕が強引に寝かせておるので、お気になさらず」
イグナーツはほっとした様子になった。
「そっか、そいつぁありがたい。なんか寝てないってきいてたからよ。で、フアンくん……君は、結局戦えるのか?」
「……はい」
イグナーツが机に資料を置いていく。
「じゃあ、さっそくだが情報だ。ユリウスさんの調査で、当日存在する脅威が判明した。今年は特に厳重な体制で、しかも奴らが配置されるらしい」
「もったいぶるでない」
「カイゼリヒ・メッツガー・トルッペンだ」
「……あの長いの名前のか」
「またの名を、ナハトイェーガー」
「そっちの方が、まだマシかもな」
「もっと略して、ナハト」
「おぉ、良いではないか」
「当日は、ナハトも護衛に参加する情報が出てきた。ナハトは周辺区域を警戒する任務と、要人警護が基本だったが、シレーヌ討伐で外周の警戒度を下げたんだろうな」
「シレーヌ?」
「西陸の災害、デボンダーデを引き起こすとされていた現況だ」
ユリウスが、さらに資料を机に置いた。
「あと、これね。まぁ、とりあえず事前情報はこんだけ。説明はイグナーツから」
イグナーツは、ユリウスを見る。ユリウスは首を横に振った。
「そうだな、俺は隊長だ。こういうときに示しをつけないと」
「そういうこっと」
「まずナハトは合計……五人で構成された部隊だ。部隊長、ユンカース。副隊長、フォッケ・ヴォルフ。隊員のドルニエ、ウーフー、メッサーシュミット」
資料が五部、机に置かれる。フアンはユンカースの容貌が浮かんだ。
「ユンカース……あの大きな?」
「ユンカースは、おそらく西陸でもっとも大きな男だ。使うのは超大型の槍と大口径の銃、片手づつで使う。庭園を警備している予定だ。軍馬のエッケハルトに乗馬しながらの攻撃が主流だと思ってくれ。次、フォッケ・ヴォルフ。オオカミの真似が上手く、数匹のオオカミを従えている。爪みたいに刀剣を扱う。ウーフー、射撃担当、遠距離から射撃、建物のなかで遭遇したら終わりだと思え、コイツは弾丸を壁に跳弾させて狙撃してくる。メッサーシュミット……銃を鞘に付けた剣を使ってくる。順当に剣がうまいが、爪のような武器を隠し持ってる。フォッケ・ウルフがいる以上は発見される覚悟をしとけ。オオカミの嗅覚は凄まじい」
フアンは、フォッケ・ウルフが気になった。
「オオカミの、真似?」
「あおーんって感じだ。言語でもあるのか、精度の高い指示を出す」
ユリウスはフアンの肩を叩いた。
「言いたいことは分かるよ、でも事実さ」
「……了解です」
ナナミは、まず資料で3つを手に取った。
「発見し次第殺しておくべきは、この3名じゃな。ドルニエ、ウーフー、メッサーシュミット」
「そうなんですか?」
「質はもっともじゃが、基本的に戦いは数じゃ。やれそうな奴を先に倒す方が良い。孤立を狙いたいが……どうにかならんかのぉ。それに、距離を開けて戦えるのとすばしっこいの、こういう戦闘の磐石さを担うのを先に仕留められれば、敵の強者どもの得手を押し付けられて、一瞬で壊滅することもない」
「当日までにさらに情報を集めておく。コイツらにだって、家の一つや二つはあるものだ」
フアンが手を上げる。
「事前に仕留めるということですか?危険だと思います」
ユリウスが腕を組んでフアンを見る。
「当日に全員を相手取る可能性だってあるんだ。名のある奴は、仕留めておいたほうが良いんじゃないかな?」
「逆に警戒度を引き上げる結果になるかもしれません。これは勝手な考えなんですが、大事の前に起きる事件って単純に、過度に警戒しちゃいませんか?」
「あぁ~、下手に刺激するよりは、しっかり気を抜いてもらってたほうが良いよってことね。イェレミアスはベストリアンの目撃、まぁ街の有り様と同じくらいみんなが殺し回ったから、極端に低い……逆らうよりも従順に生きてるほうが、金も男女も寄ってくる。憲兵、近衛兵、どの兵士もオルテンシアと比べて極端に弱い……うん、一理あるね」
「ん?その場合当日、城の中は私兵だらけなのでは?貴族なんですから、色々と警戒もするでしょうし」
「まさか。私兵を入れるってことは、この国を信用してないっていう証だよ?どんだけ死ぬのが怖くても、そんなことはしないよ」
「……では、当日警戒するべき敵は」
イグナーツが、見取り図に点を書いていった。ナナミは耳飾りを鳴らす。
「守衛の数は多い。だが少数部隊で散発的に展開してる。兵士の質では勝ってるから、見つかったら各個撃破。影から仕留めておくのが手だ。交代の時間の入れ替わりの瞬間なら、一番効果的に狙えることも考慮だな……一応侵入する時間帯で、交代が一度起こる。ほい、今分かってる限りの当日の敵の配置だ。音楽祭の会場である会館付近はまだ不明だが、俺たちが潜入する場所あたりは調査完了。城内くまなく、当日までに調べ上げる。待ってろよ」
「まるで、お主がやっておるみたいじゃな」
「諜報できなきゃ、革命なんざ夢のまた夢だ」
「まて、我らは食料の箱に入ると言うたな」
「あぁ」
「兵士に供給される糧食に、なんぞ毒でも仕込むのが良いじゃろう。殺傷ではまく、体調不良にする。三日三晩起きっぱなしの生肉とかの。虫の寄った魚でも良い」
ユリウスが手を上げた。
「それ、全部僕に任せてもらっていいかな?丁度それっぽいの用意してるんだ。明日には結果が出ると思うよ?」
「何をなさるんですか?」
「ちょっと便所を混ませてやろうとね」
ナナミは笑った。
「……ふふ、なるほどそういう手筈か」
「やるだけやってみるさ」
2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。




