十話 社会の盾
十話 社会の盾
「おっもい、ですね……」
「……お前ら、色々と注文し過ぎだ」
ヴァルトは工房で、目の下を黒くしながら鉄を打っていた。
「あの、お時間はまだありますので、しっかり睡眠をしても」
「……」
「ヴァルト様、やはり……前回の弓剣のときもそうですが、物作りを楽しんでおられるのでは?」
「……知らん」
「ふふっ」
「何がおかしい」
「いえ、ヴァルト様の特徴……1つ分かった気がします」
「はぁ?」
「あの、これもっと軽くできなかったのですか?」
「頑張ったが、やっぱ鉄だとそれが限界だ……鍵で閉めて固定する鉄の下着、確かにこれは、この国じゃ必需品かもな」
「胸元のは作成しなくてもよろしいです。音楽祭の衣装では隠せないので」
「ユリウスの心中、どうなってんだか」
「私だって、あんなもの着たくはありませんよ。ノイ様の服の方がよっぽど、可愛らしくて素敵です」
「……?」
「レノー様とハンナちゃん、それに給仕の方々によって、音楽祭に出席するための服を用意しているのです。勿論ヴァルト様のも」
「俺作るって言ってあったが……勝手にやってんだな。なるほど、俺らの現地入りとしてはまぁ無難だよな」
「ノイ様の服装は、かなり厚手ですので、まぁ魅力を抑えるようになってはいます。でも一応私と同様に」
「ノイのぶんはもう作ってある。気にすんな」
「ふふっ」
「あ?」
「い、いいえ何も」
マルティナは冷や汗をかいた。
(あぁ、寝不足なのは分かっていますが……顔が怖いです。こんなとこノイ様に見られたら……)
工房の扉が開けられ、レノーが入ってきた。
「ヴァルトさん、少しお時間を頂いても?」
「なんだ」
「音楽祭に着ていく服の案なのですが……見た目に関して相談を」
「あいよ、これ仕上げたらいく。どこだ」
ヴァルトは鉄を整形していくつか部品を製作すると、レノーの言った部屋に向かった。中から、ガタガタという音が聞こえた。
扉を叩くことも無しに入ると、大きめの鏡の前で背中を向ける女性の服装の物がおいた。動きを止めたそれの周りには、ハンナがヴァルトを見て固まっていた。
「……せめて、扉くらい叩いてよ兄さん」
「いやぁこいっつったのは……ん?」
恐る恐るの足運びで振り返ったのは、ノイだった。
「……??」
鳥かごのような下着で、ほんの少し膨らませた腰より下への筒上の下衣は、青を基調として、胸元より下から腰周りで固定され曲線美を作り出す。薔薇の刺繍が敷き詰められた上衣は肩が少しだけヒダ飾りで張るようにして輪郭を見せない。胸元には巨大な蝶々が止まるような織物を装備し胸元を肋骨ごと隠す。袖は広く
「……ど、う」
「……」
「……なんか言ってよ」
「暖かい越えて暑そうだ」
ヴァルトは蹴りを入れられた。立ち上がって、再度見る。
「……まぁ、冬だしな。いいんじゃねぇの?」
「……じゃなくて」
「だから……いいんじゃねぇの?」
ヴァルトは頭をかいていた。ハンナが溜め息を付くと、レノーが入ってきた。
「ヴァルトさん、お早いですね。設計図と、それから……」
「俺のはどんなだ?」
「はい、これなんですけど……どうですか?」
製図を見るヴァルト。
「普通だな」
「まぁ、ヴァルトさんの普段着を、色を整えて公的な見た目になるように、白と黒で整えただけです。ですが、ヴァルトさんが全身に装備している腰帯については」
「……あぁ、これか。全身どこにでも工具を取り付けて、どこでも作業できるようにしてあるだけだ」
「……意味があったのですね」
「そら、意味無い物は作らねぇよ」
「分かりました。公的な場にそぐうよう、刺繍などで多少は加工しても?」
「まぁ、当日着るだけだしな。あと俺とノイは一応で武器を携帯したい」
「危険物は持ち込めません」
「行動隊なのにか?」
「……はい、でも」
「どうした」
「……診断書があればあるいは」
「ん?」
「医者からの診断であれば、例えば足の怪我であれば杖などを持ち込めます。そして、ここには精神科医がおります。ヴァルトさんたちの治療に大きく助力したという報告をユリウスさんが上げて、功績により先日、医療としての認可が降りました。あるいは、武器をそのまま持ち込めるかもしれません」
「……聞いてみるか。じゃあ、装備できるよう頼んどいてくれ」
「はい、分かりました」
ヴァルトとノイの元に、ハンナがアクセルを呼んできた。
「……あまり私を都合良く使わないで下さいよ。まったく、父もこんな気持ちだったのかなぁ。まぁそれは後にして……実は、武器がないと中々安心できないという症状の現れるものがあります。特別に診断書を書いて、今日中に提出しましょう」
「そんなのがあるのか」
「ヴァルト様が見た資料の中にありましたよ」
「……PTSDか」
「はい。心的外傷後……あれは、あらゆる事柄に適合します。例えばそう、戦場を思い出すなど」
「俺とノイが、ベストロの戦いでそうなってるって話にするってことか」
「はい。会話ができる時点で軽度ではあるので他国では通用しませんでしょうが……まぁ、イェレミアスですし、まぁ大丈夫かと」
「頼んだぞ、アクセルのおっさん」
「おっさ……はい」
2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。




