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ブルートアウス ~意思と表象としての神話の世界~  作者: 雅号丸
第四章 傾城帝政 二幕

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八話 パトロン

八話 日輪


「お主ら立たんか。実戦では、敵は待ってはくれんぞ」


ナナミは、眼前で倒れ込む人々を一喝していた。


「日輪だったら雑兵以下じゃぞお主ら……イクナアイツ、これはどうなっておる」

「イグナーツ隊長……です」

「お主には聞いとらん、はよう立たんか。ほんの三百、素振りしただけではないか」

「……百とかならまだしも、これは」

「うぬらそれでも兵か?やること成すことの大きさに、潰されてどうする。意図した通りに振れん刀剣など、あってないようなものじゃぞ」


イグナーツは立ち上がって、ナナミに寄った。


「……いやしかし、これはどうなんだろうな。頼んでおいて言うのはなんだが、あと一週間もないんだ。できれば座学あたりを」

「そういうが、革命とやらは付け焼き刃でどうにかなるものなのか?」

「……いや、ここからさらに徹底していくっていう話だ」

「こやつらの特技は、確か1対1をしないことにあるんじゃったか」

「あぁ、そりゃあ戦士としては不粋かもだが……」

「なに、勝てば良いのじゃ。そこは良い……じゃが、単純に体力がいくばかりか少ないのじゃ……まったく、日輪の女児も、ここまでではないぞ」

「日輪じゃあ、みんな戦えるのか?」

「何十年と戦国の中じゃと、頼れるのは自分くらいになる。ここもそうじゃと思うておったが、少し違うようじゃな。体格では日輪の人間に勝ってはいるが、根性と器用さには劣る。根を上げるまでの早さは死ぬまでの早さ……これはおじじの言葉じゃ」

「夜修羅って言ったか、国賊感はあるが、その実、ただ国のために動いてる感じもあるよな」

「まぁな」

「……で、どうだ。日輪のこと話す気にはなったか?」

「革命が終わってからじゃな」

「理由は?」

「その段階に入ってからでないと、この情報は開示できん。色々と面倒になるからじゃ」

「革命の面倒に?」

「そういう訳じゃ」

「……信じよう」

「聞き分けの良い男は、悪い女に捕まるぞ?」

「もう捕まってるさ、ずっと……」

「ほぉ、まぁ搾り取られんよう気を付けい。まぁ取られて嬉しいなら別じゃがな」

「で、何か座学はないか?」

「であれば、まず作戦の詳細を知りたい。妾の知識が使えるかどうか全て精細しよう」

「分かった。みんな、休憩しててくれ!」

イグナーツは指示を出した。何十人が一斉に疲れを声にしながら、冬場に汗をかいて、肩を揉んでいた。


「肩ばっか使っとるのぉ、もっと全身使ってじゃなぁ……」


イグナーツと室内に入り、部屋に向かう。入った部屋の机に、見取り図などが置かれていた。ナナミは耳飾りの鈴を鳴らす。


「まぁ、ここでいいだろ……そこに地図を広げる」

「口頭だけでも良いぞ」

「あんたはそうでも、俺は無理だな」


イグナーツは、見取り図のようなものを広げた。


「……どこの地図じゃ」

「音楽祭の会場、そしてイェレミアス帝国政府関係が全て押し込まれた、この国最重要拠点……エクメーネ城だ」

「行政区といったら宮殿のような気もするが、城なんじゃな」

「元々イェレミアス帝国は、聖典教の傘下に入る前は軍事国家だったんだ。周辺諸国をひたすら征服していたらしい。俺の予想だが、聖典教の傘下に入ったのはそれら民族を統一するためだ。現に、今は誰がどの国の血を引いてたかなんて分からない」

「で、どうやって侵入するかじゃ」

「まぁ待て。そういう訳で、城は攻めにくい構造になってる。城壁、城門、監視塔、どれも古臭いが実に利にかなった構造だ。警備も万全、だから内部から一度崩す」

「……続けよ」

「まず、ユリウス様やマルティナ様の付き人として、内部に仲間を潜入させる。そして、その仲間がお色気作戦を決行する」

「なんじゃそれ……そんなのにひっかかる兵士が」

「兵士こそ、もっとも引っかかるんだよ。兵士はすぐ死ぬ、だか女には人気がないんだ」。俺らが突入するとき、看守はそいつと監視塔にいる」

「正面きって、入るのか?」

「いや、側面の城壁からだ。問題は城壁だがな……」

「上に監視は」

「それも仲間が片付ける……だが、そこからだ。壁を越える訳だが、内部に危険物を持ち込める訳じゃない。警備が貴族の誰もをベタベタと触るから、事前に持ち込むのもむずかしいし」

「つまり、我々で城壁を登る?」

「あぁ」

「……まさかそこで手詰まりじゃと?」

「……登り方が、な」

「……日輪が上なのか、うぬらが低すぎるのか」

「何かあるか?」

「当日は貴族をもてなす準備で荷馬車の流入が多いじゃろ?どうせ」

「そう、だな」

「バックハウス家なら、いくつかその荷馬車に紛れ込ませて、うぬらを潜入させられるではないか……武器もそんとき持ち込めば良い」

「なんで、そんな簡単な物に行き着かなかったんだ……??」

「……妾も知ってるからこの作戦が言えるだけじゃな。すまん、自分で思い付いた訳でもないのに」

「いや、いいんだ。だが……マジかよそんな簡単に」

「鎧は着るのか?」

「できるだけ目立たないにもしたいが……軽量の鎧で西陸の武器は防げない」

「変装はダメか?」

「音楽祭では、一部場内は立ち入り禁止だ。その禁止の場所に潜入するのがこの作戦。どの道、隠れながら移動するのもあって、変装は意味がない」

「なるほどな」

「そうなると……城壁からは、音楽祭で振る舞われる料理に使われる、食糧の箱に入って中に潜入していく。そのとき、箱に入る組と、外から城を登って潜入する2班に別れる」

「その理由は?」

「全滅を危惧っていうのもあるが……イェレミアス皇帝の寝室の場所が不明だからだ」

「ほぉ、では妾たちで見つけられたら……」

「部屋に入って潜伏、相手が入ってきたら……」

「そこで作戦成功か。待て、確かフアンが言うておった、マルティナも参加するのじゃろ?あやつは寝室がどこか……まて、寝室?」

「音楽祭の詳細の説明がなかったな。音楽祭は、各貴族の持ちよった楽団や奏者によって繰り広げられる大会だ。全員が数に限りのある〝今年の名曲〝という枠を狙ってくる。それに選ばれた奏者や楽団、代表者は貴族の中でも上位の貴族から援助が約束され、最優秀の枠〝神曲〝という枠に入れれば……」

「その貴族は皇帝の援助が得られる?」

「いや、その貴族で選抜された女性が皇帝の寝室に呼ばれる。パトロンとしての手続きといわれているが、女性限定という時点で実際何をしているかは丸見えだ。援助といえば聞こえは良い、つまり肉体関係を構築する機会だ」

「なるほど合点がいった。妾は、レノーという青年からあることを聞いておる。援助……なるほど」

「音楽祭の醜さが分かったか?楽団や奏者の代表者は常に、貴族で、各家系一番の美男美女、勝っても負けてる、奏者も何もかも、結局はさらに上層の玩具、強欲さの捌け口でしかないということだ」

「マルティナは大丈夫なのか?」

「ヴァルトくんに色々と作らせてるらしい。自分を守るためのものをね」

「俺たちで寝室を見つけられない場合、マルティナが殺す」

「導線は完璧じゃな」

「だな。しかも噂じゃ、このとき皇帝は警備を配置しないらしい。どんな派手なことをしてるのやら……」


イグナーツの声に、疑問を持つ。


「悲しそうじゃな」

「……俺の惚れた女、国に連れていかれてよ。まぁ少し特殊なんだが……それっきり会ってなくてな。アイツ、せめて幸せであって欲しいんだが」

「お主が革命に参加するのは……まさか」

「……もう一度、会いたい」

「正気か?」

「……正気で生きていられるかよ。自分が惚れた女が、会ったこともない奴の玩具になってるかもって思うとよ」

「いやそうではない。なぜそんな薄情な女にこだわる?お主の隣より、捌け口になることを選択したのじゃろ」

「俺がそれを選ばせたんだ。アイツは少し、特殊だった。俺が……」

「……」

「っていう感じでよ、うちの兵士は何かとこの国に因縁持ってるやつが多いのさ。がさつに扱われた元娼婦、知らない子供を育てる親、家族がいきなり連れ去られた連中」

「士気は高い訳か」

「恨み、恋心……それ以上に上質な士気はないな」

「恋かぁ」

「お前、あっちで男はいたのか?」

「興味を持つ前には消えとるか、消しとる。忍びとはそういう、俗世の笑顔からは遠いんじゃ」

「夜修羅……キツかったか?」

「産まれよりは、幾分マシじゃよ」

2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。

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