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一話 クロッカスへ

一話 クロッカスへ


「もう一回聞くぞ……あの後、俺はどうなったって?」

「……天使に、なっていました」

「……マジで??」

「マジです」


街道だったものを縦に馬で並んで駆けていくヴァルト達。ノイが先頭で後方にヴァルト、フアンで並ぶ。周囲の森林や草原の緑は寒さに備え……あるいは、耐えかねて色落ちを始めつつある。


「なっていました、か……」

「……はい」

「どうやって元に戻った」

「ヴァルトが気絶から復活した……からかと」

「……マジか?」

「マジです」


深呼吸をヴァルトが行う、長く長く、かなり回数を踏んだ。


「信じる」

「本気ですか?」

「なんでお前が言うんだよ……そうするしかねぇだろ、お前らが俺に嘘付く意味ねぇだろうが。こっからの動きは……一旦クロッカスを見に行くだったか」


ヴァルトはため息を付いた。


「なんでクロッカスなの?」

「べストロの発生源とされる禁足地がアドリエンヌ西方にあるので」

「……ん?」

「天使を追うのもそうですが、それよりもまずアドリエンヌそのものが、べストロによって壊滅させられた可能性があるんです」

「えっ!?」

「ナーセナルまで来るってことはそういうことだ。禁足地の東にアドリエンヌ首都オルテンシア、そこから少し南東にクロッカス、んでクロッカスから東がナーセナル。道中残存する都市全部が抜かれた可能性がある」

「それでクロッカスに行くんだね」

「はい……ヴァルトはともかく、ノイ?あなたちゃんとじいさんとの話、聞いてましたよね?」

「えっ!?」

「ヴァルトは先日の戦いでかなり消耗しているんです。疲れとかそんなんじゃありません……筋力低下が一番大きいですね、記憶力の低下も少々。僕らがしっかりしないといけないんですよ」

ヴァルトは拳を強く握ろうとしたが、力が入っているようには見えない。

「あの力の代償ってこと……だよな」

「たぶん。でも、件の天使曰く……そんな力は知らないと」

「その俺と体が取って変わってたとかいう天使、何者だよ」

「オフェロスという名前だそうです」

「なんだそれ、べストロみてぇな名前だな」

「なんというか、娘がいるそうです。何だか慌てた様子で聞いてきました……名前はリンデ」

「それ以外は?」

「えっと、その……」

「なんだよ、勿体ぶるなって」

「……ちょうどそこで、ヴァルトが目覚めたんです、急に体が眩しくなってそれで」

「そういう感じか……確かに記憶にある、馬車の中……ノイが俺を殺すくらいの勢いで締め上げてて、ガチでビビった」

「はっはっはっ、まぁでも“しかたない“ですよ」

「なんでだよ!」

ノイが慌てた。

「そそそれより!クロッカスってどれくらいかかるのかなぁ!?朝から結構走ったよ!?」

「丸々2日は必要ですよ、駅伝だったら速いんでしょうけど」


ヴァルトは地図を広げる。


「ノイが1人で突っ走っていけば1時間くらいじゃねぇかな?」

「私を何だと思ってる訳!?」

「四肢のある筋肉。あと、命の恩人。頼むぞぉこっからも、俺今弱いからマジで」

「……分かった」


フアンはヴァルトとノイを見ていた。


(それは……ズルいですねぇ。あぁ~もうノイ、そんな顔赤くして、なんでこれでヴァルト、気付かないんでしょう?)


並木と共に街道添いには、在り合わせの木材で作られた簡素な絞首台が時折立っており、1つあたり3からの遺体を吊るしている。


「べストロの登場で吊るされたっていうのは、なんつうか……」

「可哀想、だよね……亜人、獣人、それを庇った人……何でそんなことしたのかな……おかしくない?」

「おかしくないのがここだ。ナーセナル周辺のは解体してあるが、ちょっと離れりゃこのザマだ。ノイ、コイツらには悪いけど、イチイチ気を落とすのはやめた方が良いぞ」

「……分かった」


並足を刻み、水も草も与えながら山を越えていく、道中名無しと遭遇したりするも、過去と比べれば容易いそれは、今のヴァルトらには脅威ではなかった。

日を跨ぎまた跨ぎ、彼らには件の街であるクロッカスが見えてきた。丘に目立つ青白い旗のある城塞と、その回りに乱立する建物群は、ナーセナルよりも上質な、石材混じである。周囲を取り囲む石の防壁は、その堅牢さが確認できてしまった。


「……はぁ?」

「健在……いや嬉しいです。嬉しいですけど……とりあえず近寄りますか」

「もう武器持っておいた方が良い?」

「はい、その方が良さげです」


ヴァルトは馬をフアンに寄せた。


「慎重に行くか?素早く行くか?」

「ここまでで体力使いましたが……どうでしょう、ノイもいますし、馬で走って近寄った方が安全かと」


ノイが戦棍を持ち出す。


「それ、なんかあったら私が守るってことで良いよね?」

「はい、お願いします」

「分かった!」


ヴァルトらは、馬の速度をそのままに接近した。


「ベヒモスがいたんだ、無傷な訳ねぇだろ」

「僕ら、相当上手く倒せましたからね」


ノイが来た邦楽を見る。


「来る方角、少し違ったとか?」

「あり得るかもな。デボンダーデってのはそもそも、一定数のべストロが集まることで生じる集団での攻撃。聖典教じゃ神による試練とか言ってるが、じじいの推測だと、集団になることで人類や亜人・獣人の持つ文明が狩猟可能な獲物に、認識が変わることで生じるものだとか?」

「建物が美味しそうに見えるのかな?」

「って俺もじじいに言ったが、結論それは無しだ。でもやっぱ気になるよなぁ。集団で固まってくるにしたって、もっと小規模とかなら納得いくんだよ多すぎるんだよなぁ……なんつうか、波みてぇじゃん」


徐々に速度が下がっていく。


「でも、ナーセナル付近でべストロ達が運悪く集結した可能性もあるにはあるんですよね」

「結局分からず仕舞い……感で推測ってのは、結局徒労でしかない」

「前方、煙です!!」


フアンにそう言われ姿勢を低く接近していく。煙の元はベストロの死骸を燃やしているように見える。防壁の関門には衛兵らしき人物が2人いた。

左腕に青白い腕章を付け、簡素な槍を装備している。


「青白の腕章……ここの自警団じゃねぇか」

「クロッカスは何事もなかった?」


ヴァルトとフアンがその者らに話しかけた。


「あの、自警団の方々。ここは大丈夫でしたか?」

「貴様ら、何者だ!」

「あ、すみません。ヴァルト、ノイ、こちらへ」


フアンは袖から木製の首飾りを3つ出す。


「何これ?」

「クロッカスで1番上の人と知り合いですよな首飾りです」

「長ぇ名前だなおい」


ヴァルトらがそれを首にかけると、自警団の方々が近寄ってきた。


「あんたら?」

「こっちも襲われたって具合か?ナーセナルからだよ」


ノイが状況に追い付いていない。


「あれ?さっきまでめちゃくちゃ厳しかったのに」

「嬢ちゃんもようこそ」

「えっ?あ、はい」


フアンが周囲を見渡す。


「首飾りがないと赤の他人のように振る舞う、良い衛兵の証です」


ヴァルトが防壁を見るが、やはり傷は少ない。


「そっちの状況は?あんたらはとりあえず無事みたいだが……お前ら、ベヒモスなんかよく抑えられたな」

「ベヒモス?絵付きなんて見てないぞ?」

「……どういうことだ?」

「昨日の夕方か、突然べストロ達がやってきた。だがそんなに量がいた訳じゃないし、ベヒモスなんて見かけてない。なぁ、そうだよな?」


自警団の1人がもう1人に話しかけた。


「えぇそうよ、ベヒモスって……かなり強い奴でしょ?そんなのがいたら、防壁が未だに健在な訳ない」

「どういうことでしょうか……」

「……でも、1つ理由がある気がする」


自警団の1人の話を注意深く聞いていた。


「今、冬の始まりの時期よね?」


フアンが肯定する。


「そうですね」

「オルテンシアでは直近で、今年の冬期第一デボンダーデがあったはずよ」


ノイは頭に?が浮かんだようである。


「ノイ、あなた……自警団の方、この黒髪さんにそれを教えてあげて下さい」

「えぇ?えっと、オルテンシアでは1年通して計8回、季節ごとに2回、定期的なデボンダーデがあるの、例外なくね……去年の冬もこれくらいで来てたはず」

「オルテンシアが突破された?」

「……分からない、傷だらけのべストロもいたから、単純に敗残したべストロがこっちに逃げてきたのかも?でもやっぱり、絵付きだけは分からないわ……本当にごめんなさい」


ヴァルトとフアンは向かい合った。


「傷、そんなの見てない……ような」

「見てる余裕なんてなかったしな」


自警団の一人が道を開ける。


「あんたら、1回街へ入れ。団長やポワティエさん達と話をした方が絶対に良い

。あとフアン君、気になってることだろうけど、あんたの母さんは無事だ」

「はいはい知ってます、場所はいつもの酒場ですか?」

「おいおい少しは心配を……今は巡回中、酒場で待っとけば良い」

2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。

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