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ブルートアウス ~意思と表象としての神話の世界~  作者: 雅号丸
第四章 傾城帝政 二幕

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二話 女子会

二話 女子会


「男ども、どっか行きよったな」

「兄さんたちは忙しいですから」

「お主、たしかハンナとか言うたな?」

「掃除、手伝ってくれますか?」

「足元、ネズミがおる」

「……」

「っはっはっはっ、冗談じゃ。じゃが肩に蜘蛛がおるぞ」

「冬にああいうのは出ないです」

「引っ掛からぬか、西のわらべは賢いの」

「あと、ネズミは食べ物です」

「お主、さてはキモすわっておるな」


ハンナは、箒を持った手を離して、片手で肩を払った。


「……あの、ナナミさんはどうしてここにいるんですか?」

「ワラワの持っておる他国の情報の値打ち、それを確かめる為の猶予じゃな」

「そうではなく……その、たった一人で何年もかけて来たんですよね?」

「……」

「あっ、えっと……話せないというなら、いいんです。すみません、話題まちがえました」

「よいよい、お主、中々にめんこい奴じゃの」


ナナミは耳飾りの鈴を鳴らした。


「しかし、ほんに奴らどこへ?妾でも分からぬ」

「……いま、近くにいないのですか?」

「ほうじゃな。屋敷におらん」

「……少し、いいですか?」

「なんじゃ、掃除に付き合えと?」

「いえ、でも今かなと思って」

「???」


ハンナは早足で歩き、とある部屋を開ける。甘い香りのある部屋の暖炉は消えており、ノイはいなかった。


「あれ、いつもならここでお菓子を……」

「んあぁ、ノイに用事があるのか?それなら、ほれあやつ、マルティナのところじゃ」


ユリウスの書斎を開ける。少しだけ、獣の匂いがした。大きな寝具の上にマルティナが腰掛け、奥でノイが背筋を立てている。ノイの様子はマルティナで見えない。


「……ベス、いや違う。普通に、動物の?」

「なんじゃ、ここは犬猫でも飼っておるのか?」

「そんなはずは……だって、聖典教は獣を基本的に嫌っているんです」

「でも馬は使うんじゃよなぁ」

「……そう、ですけど」


マルティナは手招きでハンナとナナミを寝具へ誘導する。


「ノイ様が、その……固まってしまいまして」

「……??」


背筋を伸ばして正座するノイの太ももの上には、猫がいた。整った、黒と白の毛並み。目は瞑っており、寝ているのが伺える。


「こ、これ……どうすれば良いの?」

「姉さん……普通に抱えれば良いじゃないですか」

「いや、だって……わたし頭悪いんだよ。力も強いし、潰しちゃったらどうするの……!?」

「そんなに柔じゃないでしょう……というより、この子は?」


マルティナが指を、窓に向けた。日の差し込むところは開いており、ほんのり暖かな風が入る。


「飼っているというより、庭や畑に住み着いているんです。まぁ実質、飼ってはいますがね。まだ何匹かいますよ」

「動物は臭いで分かりますよ、大丈夫なんですか……?」

「消臭剤などを作って配置してあります。樹脂や花の香りを移した油を燃やして、打ち消すのです」

「臭いが取れる訳では……」

「入浴もキチンとすれば良いですし、バックハウス家の庭はほぼ耕されており、土の香りで誤魔化しも効きます」

「……」

「触ってみます?」

「……あの」

「どうかなさいましたか?」

「マルティナ様って、どうやってユリウスさんと結婚したんですか?姉さんのためにも、聞きたいんです」

「ノイ様のため?」


ノイは肌が逆立つ。


「私……!?」


ハンナは、ため息をついた。


「……姉さん、せっかくの機会なのに全然兄さんに甘えないんです。まぁ、一回兄さんからこう、奇跡が起こったというか」

「目の前にいますよ、ハンナさん……!」

「だからこそです!ちょうど兄さんたちもいないので……」


ナナミは耳飾りの鈴を鳴らした。


「……近くには誰もおらんよ。あぁなるほど、妾は辺りを警戒すれば良いな。外におる、来たら教える」


ハンナは寝台に寄る。

猫が起き上がってマルティナに向かった。マルティナが猫を抱えると、ハンナは寝台に座る。


「姉さん、もっとやっちゃおうよ」

「……」

「一回できたじゃん」

「あっ、あれは私も意味分かんなかったし、ヴァルトも……ヴァルトがずるかったんだって!だって、私あんな意味分かんない状態だったのに、手作りで、しかも散歩も!ほ、褒めてくれたし、う、嬉しかったもん、だから……!」

「姉さん、兄さんにそれ言うだけです!」

「ででで出来る訳ないじゃん!」

「ちゃんと、面と向かってありがとうって、もう一回言おう兄さんも、驚いてたじゃないですか!反応は、まぁ良いというより面白かったけど……もっと姉さんから、意識させる必要があるんです」

「……」


マルティナがハンナを落ち着かせると、ノイは顔を真っ赤にして枕に飛び込んだ。

マルティナが慌てる。


「あぁ~それユリウスのです~!」

「あっあぁああ、ごめん!!」


マルティナが慌てて寝台に膝を立てて擦り動く。驚いて猫が飛び上がり、ノイに向かってしまった。ノイは枕をマルティナに投げる。


「何やってんの姉さん!」

マルティナは、そのまま顔面と一緒に枕を抱き締める。


「あぁぁあ、慌てちゃったんだから仕方ないでしょ!」

しばらく経過した。ノイが顔を青くする。

「……気絶、しちゃった!?」

「人はそんなに柔じゃないです……でも、あれ?」


マルティナは、少しずつ枕から顔を出した。赤い顔をしている。ハンナが口を開けてしまった。


「あの、ひょっとしてマルティナ様って」

「……私だって、殿方の扱い、知りたいです。こんな」


ナナミは扉を開け放つ。


「お主ら!!」


部屋の中、全員の背筋が伸びた。ナナミは口を閉ざしていたが、持っておる竹棒を地面に立てた。


「この中で、男とまぐわったことあるやつ、手ぇ上げてみぃ」

静寂。

静寂。

静寂。

静寂。

の果てにたった一人手を上げるのは、ハンナだった。


「なんじゃ、お主めんこい感じしてやることやっておるのか!?」

「あ、あなたはどうなんですか……!」

「ないぞ、出会った男なんざ基本は敵じゃったからな。おじじは武術しか教えなんだし、姉様に至ってはおなごが趣味じゃったからな。お陰で夜伽もなんにも分からん。よし、ハンナ先輩に教えてもらって、ノイ、そしてマルティナ殿、今晩にでも実践せい。良いか、妾が知っとることなど、既成事実を作れということくらいじゃ」


ハンナの元にマルティナが向かう。


「……あぁ、あの!」

「やめてください。手なんて挙げるんじゃなかったです……」


ナナミは、ハンナの肩を組んだ。


「いやいや意外とお主、その経験を誇りに思ってるんじゃないかぁ?でなければ手など挙げん、もし不快な経験であればなおのこと手など挙げんよ。愛されとるんじゃなお主」

「……」

「しかし困ったものじゃのぉ。貴族、戦士、給仕、忍、この面々で唯一の経験者が給仕だけとは……しかも妾以外は傍に男がおる。いったいどうなっとるんじゃ?」


マルティナが赤面する中、ノイはため息をついて寝台に寝転ぶ。


「女の子ってさ、どんな感じなの?私さっぱり分かんないんだけど」


ナナミは顎に手を当てた。


「うぅん改めて聞かれると、なんじゃろうな?」

「……優しい、とかだったりするの?」

「安直が過ぎるじゃろうて」


マルティナは枕を降ろした。


「西陸における、いわゆる淑女というのは、清く、美しく、慎ましく、そして従順さが求められますかね」

「……そっか、私と全然違うね」

「お主はとりあえず、随分と美しいのを持っておると思うがのぉ」


ナナミはノイの長い髪を撫でた。


「ツルツルしとる、なんか塗っておるのか?」

「……これは、うん。故郷にいたときに貰ったんだ、髪の毛にほんの少しだけ香油をって。貰ったやつは香りが強かったんだけど。私あんまり強い香り好きじゃないから、その……ヴァルトにさ、香り全然ないやつを貰ってる、んだよね」


ナナミは、顎が外れる勢いだった。


「あっ、あやつ……奪うだけ心を奪っとるのか。ズルい奴め、ほぼ生殺しじゃ」

「……ねぇ」

「なんじゃ?」


ノイは、しばらく黙った。ナナミは近寄る。


「外には誰もおらんぞ?」

「……さっき、清く、美しく、慎ましく、従順って?」

「まぁ、そんなのは男どもが勝手に考えてる奴じゃろうて、気にするだけ無」

「女の子っていうのが仮にそうだとして……それで、好きな人を守れるの、かな……?」


全員の頭が凍りつき、そして重圧がのし掛かる。


「……なんて、ね」


ハンナとナナミが呼吸を忘れた一瞬、マルティナはノイを抱き締めた。


「ノイ様は!」

「……?」

「その……そのままで良い、と思います!」

「……」

「あの」

「……そう、なのかな……」

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