二十三話 謎が謎を呼んで
二十三話 謎が謎を呼んで
ヴァルトたちは、資材置き場のような場所で背を伸ばしていた。ユリウスが笑顔でいた。
「こんな帰り方は予想できないね。ははっ。で、収穫は?」
「これからだ」
「そっか。まぁ落ちついたらでいいけど。僕の部屋に来てよ」
「あいよ。んじゃ」
ヴァルトは全員の武具を携えて一人、工房に向かった。
(……で、結局どんくらい話す気でいるんだ?)
(知る限りの全てだ)
(……まぁ、とりあえず修理しながら聞くとするか)
(2つのことを同時にできるのかい?)
(できなきゃこんな世界やってらんねぇぞ)
(……そうか)
ヴァルトは、ノイの戦棍の頭部を製作し始める。炉を暖めて鉄を溶かし、型に流して時間をおき、たひたすら叩いていく。再度焼きを入れて叩き、そうしてできた物を2つに分けた。片方は先端を尖らせ円錐形。もう片方はさらに細かく分けた後に砥石で研いて刃を作り、6枚でそれぞれが刃を持つ、鈍角の二等辺三角形を作り上げる。
(……これは、戦棍の?)
(この鉄の塊にこの三角形をぐるっとは張り付ける。三角の角っこに当たればまず、とりわけノイの筋力でなら瞬殺だ)
(殺傷力を上げて耐久性を……ん、まて、その鉄……)
(お前の奥さんから預かったやつだ。何か問題でも?)
(いや、そうあるべきだ。耐久性なども考慮して、ノイ君の武具はできるだけ高い等級の素材を使うべきだと思ってな。ちょうどそれを言おうとしていたのだ)
(優生を引くまで、本当は鍛造し続ける必要があるんだが。まぁ今回は……)
柄に、刃の付いた頭部を接合部した。外に出て、用意してあった鉄板に振りおろす。鉄板から跳ね返って火花が散る。とくに壊れることはない。戦棍の首をよく振ってみると音が鳴る。接合している釘を打ち直す。音はならなくなった。
(……んで、天使に関する情報だ。頼むぜ)
(……あぁ、知りたいことから順にかい?)
(片っ端からだ。どんだけ長くても良い)
(……承知した)
しばらく時間が経過する。
(……私が知るのは、空にある国家の話)
「……はぁ、国だ!?」
(……10年前までの天使の動き。そして役割だ)
(く、国ってお前……そりゃつまり)
(聖典の最初に記載されているな。天上の楽園と。我々はそこを、カエルムと呼んでいる)
(……いや、だが)
(……話すだけ話す。私も、どのようにして雲の上にそのようなものを作ったのか。基礎工事などは不可能だからな)
(……)
(天使が人類に敵対していると捉えた場合、現状の仕事内容は検討がつかない)
(……)
(先に話したレガトゥス全員を統括するのが……)
(アマデアか)
(君らを襲ったのは……どんな?)
(白く長い髪の毛、背丈のある……そうだな、色々な男から見ても、まぁ理想的な見た目じゃねぇかな。だが目は鋭い)
(その目は、君が人間だからそうみえているのではないか?)
(俺らを睨んでる訳か。何か理由はないのか?)
(……いや、それは分からない。レガトゥスは他にもあと3人いる。第2席、ヴァーゴ・ピウス。第3席、レドュビウス。第4席、ソル・フィリア。いずれかに、情報を聞き出してみてはどうだ?)
(あのガキんちょ天使、捕まえられれば良かったんだがな……)
(ソル・フィリア……)
(お前、なんか呼び方変わったな)
(人類への敵対をありありと知ったのだ。つまり、私の妻や娘を殺す……敵)
(なるほどな)
(あれは最後どうなった?)
(ノイが羽根ををもいだ)
(波を背に……死んでいる、あるいは何者かに助けられたとして、オクルスになったという訳か)
(オク……?)
(補足するが、我々天使の階級はレガトゥスとオクルスの階級があり……そしてオクルスには二つの階級がある。ミーレスとオクルスだ)
(オクルスは羽根がないのか?)
(……レガトゥスや武闘派の天使、ミーレスなどに下に見られ、そうして心をやられ、オクルスに転落するのだ。自主的な左遷とも言える。私は、生まれたときからオクルスで、羽根も地位もある程度あった)
(……天使の中じゃ、羽根がないってのはヤバいんだな)
(私の見ていた限り、ヴァーゴ・ピウスはソル・フィリアを気にかけていた)
(……?)
(おそらく、あれはソル・フィリアを家族と思っている……あの目は、あの街にあった……家族を慈しむ目だ)
(あいつお姉さまお姉さま言ってたな。フアンの挑発にもまんまと引っ掛かって)
(あぁ。ソル・フィリアに繋がりがあれば……ふむ、ヴァーゴ・ピウスを経由して、ソル・フィリアのことを聞き出せる)
(自ずと、アマデアのことも分かる……だが、ミーレスとかいうのもいるんだろ?戦闘要員か、どうする?)
(……それから、もっと大きな話をしよう)
(なんだよ、全部急だろうが)
(カエルムは完全崩壊……そしてミーレスは全滅。オクルスも極少数だ)
(……はぁ?おいおい、じゃあ今まで聞いてきたの全部)
(……もう意味のない情報だ)
(全滅って……まさか、そうか奈落の奴らか)
(いや、それも全てではない……奈落におそらく派遣されていたミーレスたちは、過半数以上を失い、そうして帰還した。私はそのときオクルスとして医療班に配属させられていた。しかし……)
(話がデカくなってきたな……んで?)
(……殺しあいになった)
(……脈絡がねぇよ)
(いや、分からない……本当に急だったのだ。オクルスとはいわば左遷先、そんな奴らに面倒を見られているのに腹を立てたのか……あるいは、我々の傷のない体に腹を立てたのか。帰還したのはほぼ負傷兵で、しかし凄まじい殺気を持ちながら……そうだ。怒りに任せるようにして)
(お前がそのカエルムに帰ったのって……)
(あぁ……ちょうど、あの街から出たときだ)
(おい、そうなった場合……奈落からベストロは、十年ちょっと前に天使たちによって消されたことになる)
(おそらくだが、ミーレスの者たちは、奈落でベストロを討伐する任務に就いていたはずだ、でなければ、ミーレスがあそこまで減少するはずがない)
(だが今もベストロは……いる)
(天使でも聖典教関連でもない何かの仕業?)
(いや、まったく情報がないからそう思うだけかもしれねぇ)
(奈落にミーレスたちが向かったのはおそらくレガトゥスからの指示だ……そして、私たちオクルスたちには、別の任務も与えられていた)
(お前、この数分でどんだけ情報を吐くんだよ……)
(私が保証できる情報はこれで最後だ。我々オクルスは、レガトゥスの指示で任務を受けている。それは、各国の主要都市を調査し、人口密度や人間性、科学技術を換算して……数値化する任務だ)
(……んで、お前の担当が)
(あの街だった……)
(それ、全部繋がるとかないよな?別個の事件か?)
(……全て、レガトゥスの指示で動いている者らによる事件だ。どこかで一つにつながるのだろう)
(意味が分からねぇ。レガトゥスはミーレスを使って奈落のベストロを討伐し尽くした。それは人間に対する支援に他ならない。だが現状……ベストロはいて?ミーレスはオクルスと殺しあって?んでお前は生きて……殺しあ、まさか)
ヴァルトはナーセナルで起きた、血の雨を思い出した。
(お前が降ってくる直前、血の雨が降ったんだ)
(……確かに私も、あの落下の直前は、ひどく生臭い大地を感じていた。我々の血は、ふったというのか)
(……だが、あれのせいでカエルムの存在に、少なからずの保証ができちまってる訳か)
(……つまり?)
(お前の話を、少しは信じる必要が出た訳だ)
(……そうか)
(で、街の数値化なんざどうやるんだ……?)
(様々な規格が用意されていた、どれも理路整然だがちんぷんかんぷんだ。公式が公式を結び、出た数字をまた別の公式に当てはめる……算術の極地。ハッキリ言うが、まったく仕事はできなかったな)
(……お前、意外とアホなのか?)
(マリアにも言われたな。結局、近隣住民を頼ってなんとか公式を紐解き完成させて……数字が街の価値だという前情報もあったから、少し盛って報告した)
(はぁ……まぁ良い)
(……私が、正確性を担保できる情報はここまでだ)
(……そうか)
(それから1つ。これはただの感なのだが……)
(なんだよ)
(……我々の使う言語は、一応カエルム語という。それが、ほんの少しだけ、君らが使う言語と似ている気がしているんだ。まぁ、何にも関係ないかもしれないが……)
(……似てる?)
(あぁ、名前がとくにな。スで終わる者が多くないか?)
(……いや、さすがに分からねぇよ)
(私もだ。なんせカエルム語は、単語1つあたりに七十個近い変化がある。文脈から形を選びとる必要があるんだ。まともに扱えるのはレガトゥスでも難しいと聞いた)
(アマデアなら、あるいは?)
(おそらく完璧に使いこなせる。カエルム語への理解力は、知性をそのまま表すかもしれない。警戒は怠るな)
(……あいよ)
―オルテンシア西方森―
炎の1つもない爆風が咲き乱れ、木々は倒れ、岩肌が耕された。
「……いいねいいえねぇ!」
「ったぁく、どうしようもねぇガキだなてめぇは!」
「ジジイ、てめぇが相手してくれるんなら俺はいつまでも命令を無視できる。あぁ、そうだそうだ、法治なき、仁義なき、正義なき!枷も建前もない純粋な暴力こそ、あるべき力のあり方だ!」
「おい、あんま難しい単語使うな!おじさんお前の話聞いてらねぇんだよ!」
「それで終わりか、ジョルジュぁ!!」
飛び上がって日差しに潜入する。大きく羽根を広げ腰を曲げて一投。
「投擲が来ます、ラブレーさん!」
「わぁってる、しっかり見えてっから任」
飛来する槍をさらに一度蹴り放つレドュビウス。炸裂した地面に突き刺さる斧槍に降り立つレドュビウス。眼前には誰もいなかった。
「……逃げるの早すぎだろ。しかも腕壊れた男を鎧ごと担いで。やっぱお前、筋力で外れ値引いてるだろ?」
「……すみません、ラブレーさん」
「いいさいいさ、若いのは年寄りをこき使ってなんぼなんぼ」
「……いえ、その」
「傷も手当てした。大丈夫だろ」
風の騒がしさは、海の方から感じ取る。
「……なんか、不愉快だな」
「はぁ~?ジジイ何言ってんだ?
「ちょっくら、徘徊老人宜しいかい?」
「……なんだその言い方」
「自虐に決まっんだろ、お前俺より頭悪いのか?」
「……言ってこい、お前がいる限りこの落ちこぼれジョルジュには、手を出さねぇよ」
「……」
「テランス、なんでもいいからちゃんと言い返しとけよ」
「……はい」
エヴァリストは、海岸へ向かって全力で駆けていった。砂塵が舞っている。建物と建物を通り抜けるような突風のように走り行くそれは穴の空いた船舶を発見する。
「……あぁ、なんかこのあたり村あるっつってたな。テオ」
潮の香りを楽しむように息をした。両手を広げ、胸いっぱいに溜め込んだのを吐き出す。
「……朝の海って気持ち良いもんだな。夜通しでやりあったのもあるが……」
海岸へ行くと、1つ本が流れ着いていた。
「……なんじゃこりゃ、流れ着いたのか?」
手に取ったそれは、間違いなく聖典だった。しかし、その表紙などの全ての空白箇所に、極めて小さな文字で人名が敷き詰められていた。
「こりゃ間違いねぇ。テオの文字だ……いったいアイツは今、何してやがんだ?あの野郎、ミルワードで……船?まさか、溺れちまったとか!?」
海岸線に目をやる。荒れた海は流れていた。
「一番キツイ冗談だぜ、じゃあ何だ……お前、自分の女置いてったって訳か?」
エヴァリストは、海を眺める。
「あっちから全部ミルワードなんだよな……行ってみるのも、ありなんだろうかねぇ」
2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。




