二十一話 焼け跡
二十一話 焼け跡
女性が、背筋をただして歩いていた。オルテンシア、大聖堂を中央とした北側。防壁の傍に位置する焼け落ちた数件の建物を目の端に捉えた。大工の何人かが見える。
(ユリウス様の指示であるならば従いますが、バズレール家を探れとは。中央広場のでのこともあって、ベストリアンはここ最近全く見かけることはない。その影響で、防壁付近まで警備する必要がなくなり結果、警備が薄くなっている。帰還兵制度の利用者も多く、人員も足りていない。探るなら今しかないわね……)
路地に入ってゴミ箱の中に入ると、服装が変わって近衛兵の隊服で現れる。ゴミ箱にから袋を取り出し、中にある銃床や銃身を固定して先込め式の銃を完成させると、焼け跡に寄っていった。木材を撤去しているのが伺え、その方向へ歩いていく。
「すみません、このあたりでベストリアンは見かけましたか?」
「んぁ?なんだ兵士さんか、おつかれさん」
「はい。それで、何か困ったことはありませんか?」
「あんたらや保安課がベストリアンどもをしょっぴいてくれたお陰で、のびのびとやってるよ。警備の数も少なくなった。治安は良いぜ」
「よかった。でも私は、デボンダーデのときに色々と駆り出されていたので、住民の保護には携われなかったんです……申し訳ありません」
「なぁんだあんた、近衛兵のクセに酷く腰が低いじゃないか」
「あぁ、まぁここに来たのって、先輩に仕事を押し付けられた、感じなので……それに、わざわざ嫌われることをする理由なんてないでしょう?」
「そうだなそうだな。ベストリアンがいたら、お前が検挙できるように縛り上げておくかんな」
「えぇ、えっと……それはいいですって!」
「なぁに、善いやつが損する世界なんざ滅んじまえってんだ。頭は悪くても、そんくらいは俺でも分かってるぜ?がっはっはっは!」
「……」
女は笑顔で、焼け跡を見る。
「先輩が言ってた、バズレール家の……」
「あぁ、本当に驚いたぜ。ちょうど第二次デボンダーデの前くらいか?俺はこのあたりに住んでんだが、嫁に叩き起こされてよぉ。外も騒がくって家を出たら、炎が柱みてぇになってやがった」
「魔天教の仕業だと聞いていますが、当時それは見かけましたか?」
「それなんだがよぉ。何人かが見たって騒ぎだしてな?あいつらは大概はボロい布を纏ってるって噂もあるし、見間違いかもわかんねぇんだ。だが、あんたらがいたっつうんだから、まぁ関係あるだろ」
「……そうですよね、上層がいたと言うんですから、証拠もきっと」
「で、警備ってのは、この辺巡回するだけなのか?」
「あぁ、それが……この中に入るとかってできます?」
「はぁ?なぁんだ、おめぇもかよ」
「……?」
「いや、ついさっきも近衛兵が一人入ってったんだ。ひょっとして、お前に仕事押し付けた先輩、それごと忘れてるんじゃねぇのか?」
「……確認しますね」
焼けた瓦礫の山を抜ける。太い柱が縦に延びており、内部が無事なのかいまだ建物はある程度の体裁を持って、青空を向かえてそびえ立っている。いつ降ったか分からない雨で湿気っているが、その陰に潜む匂いを女性は感じ取った。
(……これ、油かしら?匂いがする。燃え残った全部から匂う)
奥へ進んでいく。居間であっただろうところについた。
(居間の上にある部屋がバズレール家当主の部屋。一つ飛ばして、次男であるレノー・バズレールの部屋。目標はここにあるそうだけど、当主の部屋のとかじゃないのよね)
居間から奥、金物の形状から暖炉があったと見える箇所を歩きで通過していく。音を立てないで歩く女は、煤で板材を踏んだ足跡に気付いた。
(比較的大きな足跡、数は1……さっきの大工の言う通りなら辻褄はあうわね)
壁のあったであろう所を越えると、天井から落ちて崩れてバラバラになった、白と黒の細長く四角い棒の、燃え残った数本を見る。
(鍵、あぁ……2階に鍵盤があったのね?焼けて落ちたんだわ)
柱の陰に向かう足跡があった。柱から靴の爪先が出ているのを確認すると、所持している銃を、爪先から垂直に男性の平均身長で胸部の所に構えた。ホコリを立てないで、壁があったであろう施工後を沿うように、柱を注視しながら中腰で回り歩く。部屋の対角線上にあるもう一本の柱に差し掛かった。柱から何者かに襲われた。やや体格の優れた者は深く頭巾を被っており、短く切り詰められた先込め式の銃に、銃剣を着けて、二丁で振りかざす。
地面を這うような連撃を、銃身で受けながら交代。撃鉄を下ろして暴発を防ぎ、銃床を刀剣のようにして構えた。
「あんたが何者?銃二丁って、前の行動隊にいた人思い出すわね」
「君と彼が面識があるとはとても思えない。貴重な銃器を盾のように扱うなど、イェレミアス人でもない限りは思い付かない技法だ」
「……声まで似てるのね」
「……君、バックハウス家の給仕ではないか?」
男は頭巾を外した。
「驚いたわ、まさかご本人が登場だなんて。ヴァルト様の見舞いに来たとき以来ね」
「……と、いうことはだ」
「そちらもここを嗅ぎ付けたという訳、ね」
「……君、筋力に自信は?」
「ある訳ないじゃない、でも体つきには自身あるわよ?」
「金庫を持ち出したいのだ。ここの下敷きになっている」
「持ち出すべき物があるとは思えないわ。焼いて破壊したんでしょ?それに、事件から日付も立って……?」
女は疑問に思った。
(……なら、どうして私はここに向かう任務を?あるいは、犯人たちすら知らない秘密がある?)
女が目線を、瓦礫の下にやった。
(怪しむとしたら、バズレール家当主であるトリスタン・バズレールの部屋。まさか、本当に次男の部屋に何かあるの?なんで?)
フェリクスは、瓦礫を片付けていき、金庫を担ぎ上げると、紐で縛って背負うようにした。体をその紐で縛ることで金庫を固定する。
「……だとして、なんで大事なものがまだ残ってるのよ。日付はあったでしょ?」
「私にも想像は付かない。だが事件後に一時、近衛兵の警備が増量したことも踏まえると……おそらく、近衛兵の警備が手薄な今こそ、我々も……そして敵も回収を狙うかもしれん」
建物の裏手に、女が誘導していく。
「敵も一枚岩じゃないって訳ね?」
「可能性は高い、現にこうして2つの勢力が同じ目標を掲げ、真実を求めている。怪しまれるというのは、悪からしてみれば脅威だ。それを防げていない以上、三流か、派閥かあるか、そして聖典教が三流であれば、ここまで勢力を拡大はできないだろう」
撃鉄の上げられるような、金属類の音が上がる。ほぼ同時に火薬は炸裂して、弾丸は発射される。金庫に命中してよろめくも、女に支えられて立ち直りながら走った。
「……回収しにきたのかしら?」
「急ぐぞ、道は任せた!」
奥に見えるのは、近衛兵と、白装束の混成部隊だった。
「敵は少なくとも、二つの勢力があるらしい」
「喋ってないで走るべきだったわ!」
「好奇心とは、まこと恐ろしいものだな」
「言ってる場合じゃないわよ!」
女は懐から爆弾を取り出して点火。崩れかかった塀を破壊して突破し、住宅街に入り込む。入り込んで道を進んだ先にも部隊は存在感していた。
「仕留めろ!」
銃弾は平穏な街中で悠々とこだまし、押し退けるように平和を外へ追いやった。
焼け跡の前で、大工は唖然としていた。
「いったい何がどうなっていやがる。俺なんかやっちったかなぁ……」
「すみません、銃声についてお聞きしたいんですが」
「んぁ?なぁんだまた近衛兵かよ……さっきっからおかしな奴らだぜ」
フェリクスは息を切らしながら、腕を振ってひた走る。女は前を先行して、敵を発見し次第発砲し絶命させていった。
「……上手いな」
「イェレミアスじゃベストロより人のほうが人を殺すのよ」
走りながら、後装式の単発銃を最近装填していく。火薬は溢れていない。
「……!!」
上から4人もの敵が振りかかった。
フェリクスは敵の携える剣などに向かって発砲。跳弾で2人の体勢を崩して、落下で転倒させた。残る二人のうち一人は女が射撃で殺す。
一人はフェリクスに向かって落下した。鎧を着込んでいないので、フェリクスは後手に回りながら、四肢を斬るような動きで敵を牽制。棒術のように銃で相手の関節を打撃し、みぞおちを銃口で突いて体勢を崩す。金庫をほどいて振り回して頭部を打撃し気絶させる。
体勢を立て直したうちの片方は足首を痛めているのが見てとれたため、二人掛かりでそれを機転に突破し、奥へ走る。
「現在地は?」
「北部四区リアン通り五―三。前方、左右の別れ道、ここからはもっと入り組んでるわ」
「左に向かって、ゴミ箱に金庫を投げる」
「正気なの!?」
「仲間が回収してくれる、その後は偽物を担いで逃げ回る。ほとぼりがさめるまで、私は隠れ家へ行く、君は君で動くんだ」
「用意が良いわね……」
速力を上げ、左手を使って建物の壁を掴み、そこを軸に回転するように曲がる。
フェリクスの前方に、蓋の開けられた木製のゴミ箱がある。投函するようにしてそっrを入れると蓋を閉める。そのすぐ隣で近衛兵がしゃがんでいた。
「では頼む」
フェリクスと女は、近衛兵がしゃがんでいた場所に入れ替わるように隠れ布を被る。近衛兵は付近の曲がり角に向かって、本人が持っていた銃を発砲する。土のまだ表になっている地面に弾痕を付け、煙が上がった。
曲がってきた近衛兵は、煙の銃口から上がるのを見て、弾痕を確認した。発砲をした近衛兵は弾痕の方に指をさす。
「あちらに向かいました!!弾は当たってないです!」
「この無能が、何をやっている!」
「すみません!」
弾痕のあるそばの路地に向かって追跡してきた敵対者たちは、屋根を登ったりなど、散開しながら去っていった。
「……金庫は僕が回収します」
「頼むぞ、レモンくん。それから、こちらの女性にどこか安全な場所を頼む」
「えっと、とりあえずその布を下ろしては?臭うと思いますよ?」
「構わない」
布は、女によって捲られた。
「わたしが構うわよ……」
「これは失敬」
「で、あんたら何なの?」
「……」
「いいわ、言えないくらいがこっちも安心。そうよね、前にあんたを見たときはそりゃ驚いたけど、暗躍するようなタチなのね?」
「想像よりも私は、柔軟だったということで受け取り方は宜しいだろうか?」
「とりあえず移動をして下さい。そうですね、」
「レモンくん、頼むぞ」
レモンは、書き付けを渡す。
「そのお店へ、裏手から階段を上がれば僕の部屋です」
「いきなり部屋?あんた意外と攻めるのね」
「あなたは……イェレミアスの人間ですね?」
「……っ」
「はい、じゃあいきましょう」
2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。




