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ブルートアウス ~意思と表象としての神話の世界~  作者: 雅号丸
第四章 傾城帝政

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十九話 施条加工【ライフリング】

十九話 施条加工【ライフリング】


抜かれた剣は内側に少し湾曲している片刃、切っ先に向け刀身は幅を大きくしていた。右手にそれを持った娘は、ヒラヒラとした下衣の腰後ろから左腰までズラリと鱗のように装備された短剣よりも細く小さい剣を、指の間に4本、扇状になるように力強く挟んだ。


「……私は時間を稼ぐだけ、あなたたちは波に飲まれたら終わり」

「お前は飛べるからギリギリまで戦える……だから一人でやれるってか?」


娘は笑顔を強くした。歪なほどに可愛げのある明るい笑顔に、朝日が差し込んでいた。ナナミは鈴を鳴らす。


「この娘、さきほど港にいた者じゃ。仕留めるべきだったか……」

「さっきって、コイツあの街に……?」

「こやつ、大層可愛がっておった飼い犬……いや猫か?良くは分からぬが、自分で育てておる愛玩の類いをためらいなく殺して、嬉々としておった。こういう手合いは何を考えておるのか皆目分からん、合理に欠いた行動で無作為に虚を穿つ。捨て身も考慮せい」


「あいよ、フアン!強装弾で羽根を狙え、落としたら一気に仕留めるぞ!分かった、全員でフアンを守れ!」


大波は刻々と海岸に迫り、海底から浮き上がった泥にまみれて暗く濁り、初期微動のように襲いかかる突風はやけに腐っていて、海底の弱肉強食を感じさせる。


「……大っ嫌い、お姉様を泣かせるやつは皆、消えちゃえばいいのよ」


娘は左手で4本剣を投げる。全員にまっすぐ向かったそれに追随するように娘は飛んでくる。標的をヴァルトに定めた娘は羽根で体勢を変更し、回転しながらヴァルトに攻撃をしかけた。


ナナミは竹棒の長さを利用して羽根の付け根あたりを突くようにし、一方的に体勢を破壊して受け流す。地面に落ちる寸前、ヴァルトは鞘の引き金を引いて火薬によって剣を撃ち出すように抜刀。羽ばたきによって体勢を立て直し、抜刀を飛びながら受け止めて、勢いを利用して身体を加速し空へ離脱。


重点的にフアンに向かって左手で剣を投げる。8本の剣が向かうのをフアンは跳躍で回避するも、着地点に投げられたものがあった。フアンは袖から二本の刀剣を取り出してそれを弾き、ノイは破壊されかけていた車輪や木箱を盾のように重ねてして防壁を簡易的に作った。


フアンはその雑多な防壁を柱に見立ててグルグルと回りながら、ノイが集めた銃や弾薬で強装弾を完成させる。六丁の、長めで先込め式の銃を持ってフアンは防壁を飛び出る。


「ヴァルト!」


フアンは三丁の銃をヴァルトに投げる。ヴァルトは一丁を口で、ちょうど銃身の真ん中あたりを加え、残りは両手で携行。フアンは2丁を右手で、銃身の真ん中あたりを持って、残り1丁は左手で持った。


鏡合わせのように半身で構えた二人は、その照準を娘に向ける。娘は海を背に左手で剣を4本投げると、ナナミはそれに反応して、竹棒を振り回して打ち落とす。

再度投げようししたところを見てノイは、右手の握力で砕いた石ころをもって、走り込んで比較的高く飛び上がり、それを思い切り投げつけた。


娘は腕を交差して頭やのどを守る。散弾のように命中し娘を傷付け、その隙に二人は銃弾を発射する。

強い風が娘の方から吹き、弾丸は逸れて彼方に向かっていった。


「……!?」


体勢を立て直した娘は、続く5発を猶予をもって避けながら、ヴァルトとフアンの銃を狙ってくる。


「波で気象がイカれてやがる。もっと初速を上げねぇと」

「でも、どうすれば……」


ヴァルトは、ノイが石を砕いて投擲したのを思い出す。


「いやそうか、ノイ、俺と位置変われ!!フアン、銃貸せ!!」

「分かった!」


ヴァルトは、受け取った銃や散らばった銃を一ヶ所に集める。前床や銃床全体にある留め具をすばやく外していき、銃身を取り外してから一本ずつ、施条加工の状態を確認していく。最後の一本を見ると、四番目めに見たものを手に取る。


(こいつだ、こいつが一番加工をが磨耗してる)


何本もある銃床に取り付けられた、弾丸を込めるための棒を外して並べて、4本目めの銃身を見つめる。


(……施条加工を削り落として、こいつを散弾銃に改造する)

(そのなんたら加工を削る必要を感じない、手順と目的を常に意識するんだ)

(散弾が溝に引っ掛かって、内部で反射しあって銃身がぶっ壊れるかもしれねぇだろ)

(……確かにそうだな、銃弾単体を加速させるための加工では、散弾の邪魔になるか)

(擬似的に口径を広げながら精度を低下させれば、少しは散弾の数も増やして装填できて、尚且つ拡散性を広げられる。槊杖で削るか……いや、こいつは大概が真鍮でできてる。銃身は鉄だ、強度が足りねぇ……ん?)


ヴァルトは娘が投げた剣を見る。それは取っ手から真っ直ぐと伸びており、羽のなく矢じりのほぼない尖った矢とも言えた。


「あんじゃねぇか……!」


ヴァルトは投剣を拾って束にして持ち、銃身と剣の幅の比率を目測で計る。


(何と戦っているのだ?)

(天使だ天使、ガキんちょだ)

(ガキんちょ……幼少の存在、息子、娘……ソル・フィリア様だな)

(どんなうやつだ、どっか怪我してたりしねぇか?)

(怪我……いや、むしろあるとすれば心の方だろう。あの方は大層アマデア様を好いている。姉妹同然といえよう。あるいは)

(関係性なんざ意味ねぇ、視力がどうとかだろうが)

(……)


剣を三つ並べれば銃身と同等の長さになるのを見て、強度の強いノコギリを取り出して銃身をに傷を付けた。


「ノイ、傷跡から真っ直ぐこいつを切り落とせ!」


ノイは肩の力を入れ、体重をかける。赤熱して火花を散らすようにしてすばやく切り落とした。

投剣1本半ほどの銃身が地面に転がる。ヴァルトは銃身の銃口に投剣を当て、地面に立てた。


「次、釘打ちの要領だ!こいつを押し込め!!」


ノイは携えていた戦棍を取り出して大きく振りかぶり、ヴァルトの支える銃身、そこに立つ剣に振り下ろした。銃身内部を剣が押し潰していき、摩擦による威力で加工を削り破壊していく。長さは足りていない。


「あと一本、次で最後だ!」


振りかぶって叩きつけると、ノイの戦棍の頭部が大きく損傷し、そのままの勢いd3飛んでいってしまった。釘は少しだけ侵入している。


「くっそ、テキトーに金槌で代用するか、いや強度足りるのか……!?」

「任せて!!」

ノイは固定されたと剣の石突との部分に掌を当てる。

「お~らぁぁぁ!!」


ノイは肩や胸の力で投剣を内部へ押し込んだ。金属が摩擦をもって削っていき、銃身内部の加工は全て破壊され、剣の大きさに一回り口径が広くなった。


ヴァルトが地面から銃身を取る。銃身の銃口と薬室の両端に剣は見えている。


「引っこ抜いたら、銃口を広げろ!」


ノイは残った戦棍の石突をノイは残った戦棍の石突を斜めに押し上げて、加圧しながら回転させるようにした。口径に対して明らかに巨大であり、そして銃口は円錐に見えなくもない状態になった。

ヴァルトはそれを受け取り銃床と連結すると部品を填めて固定する。そして火薬と、形のまばらな石粒を流し込んで、槊杖で火薬と石ころを薬室に押し込んで固定した。


(散弾銃よし、あとはできるだけ接近を……)


ヴァルトに投げられる剣を、フアンは叩くようにして二つ落とした。


「できましたか!?」

「あぁ、波はどうだ!?」


水平線が地平を飲み込む。波は陸に上がり、馬の何倍もの速度で這いずり回って、街を飲み込んでいる最中。土砂混じりのススを纏った建物を飲み込んでいく。


ヴァルトは波を背に飛んでいる娘を見る。視線は銃に向けられており、少し荒くなった呼吸を整えていた。


「あいつどうやらあのアマデアとかいうの妹らしいぞ」

「ずっと中距離から攻撃してきます。いったいどれだけ武器を持っているのか……」

「銃を警戒してのことだな。中・近距離で散弾をぶちこんで、羽根に穴を開けて高度を落とす。そこを全員でかかって羽根でも千切れば……」

「僕らを追跡はできない……レドゥビウスほどの能力はないように見えますし」

「そういうこった、たった一回、接近してくれりゃあ……」


それを聞いたナナミは思い出す。


(……あやつ、姉上だかなんだかを酷く好いておるようじゃったな?ヴァルトは聞いた感じ、内に何者かをやどしておる。それ経由の情報か?)


ヴァルトは鞘に火薬を装填する。ナナミとフアンで投剣を弾いていく。


「あのワッパめ、時間を稼ぐだけで勝てるのをよく分かっておる……何か策は思い付かんのか妾は……」

「やるだけ、やってみます。汚いですけど」

「なんぞ策があるのか?」


フアンは弾くのに使う刀剣を袖に片付けると、左手を上向きに付き出す。大きく息を吸い込んで、中指を上向きにして、立てた。


「この中指!貴方の姉に向けられていると思いなさい!!」


ソル・フィリアは、剣を濁る拳を強くする。身体中が強ばった。


「あの薄汚い売女なんざ……死人の陰嚢がお似合いだぁぁ!!!!」


ソル・フィリアは、握る剣の柄が壊れそうなほどに力み、そして泣き始めた。幼く、拙く嗚咽し、鼻水と共に息を吸った。


「あなたなんかに、あなたなんかに……お姉様の……お姉様の」


馬の血が乾いてこびりついた柄から、血が流れ始めた。涙は下向きに落ちていき、土に染み込んで見えなくなる。


「何が、分かるって言うのぉぉあぁぁ!!!」


淀んだものを吐き出すような金切り声。そしてソル・フィリアは大きく羽根を広げて強く羽ばたき、低空でいっきに接近した。しかし銃弾を警戒して、旋回しながら攻撃を開始し、フアンにそれは集中している。


「まともに斬撃を受け止めるでないぞ!」


フアンはナナミの声を聞いて、受け流そうとした剣を引っ込め、姿勢を低くして首を狙う一撃を避ける。ソル・フィリアはその場で減速を開始し、フアンに向かって剣を投げ付けつつ脚で走って突進。

剣の牽制を避けたため対応が遅れ、二剣を取り出して剣を受ける。腕のあまり太くない様相からは想像できないような重さが襲いかかり、連撃によってフアンは体勢を崩して、また剣を落とした。


「……重っ!」

「お前は、徹底して切り刻んでやるぁ!!!」


振りかぶった一撃を、ヴァルトに当たられることで回避した。


「あっぶねぇ、大丈夫か……!」


フアンは構え、ソル・フィリアに向かう。


(なぜ重たいのか、分かりましたよ。少し湾曲した刀身と差のある身幅……あの剣は切っ先に向かうほど重いように作られている、遠心力で威力が上がっているのでしょう。腕が細くても、持てる時点で威力を確保……支点と作用点の距離の関係で、切っ先は普通力がもっとも弱い、だから普通は攻撃を受け止めるときはそこを狙って受け止める、そう習うに、慣れる。この形状なら、その知識、慣習の隙を突ける……ナナミさんが警戒したのは、そういうことでしょうか)


フアンは刀剣の間合いから一歩だけ足をめるように立ち回り、攻撃を弾く。


「近いわよ、穢らわしい!」

「そんな汚い言葉、どこで覚えたんですかねぇ!?」

「あなたに言われたくなんかないわ!」


ソル・フィリアは攻撃に対してさらに攻撃、受け流すより打ち払うよう動いている。


(……やはり、遠心力で力量を隠すようにしている。相手の余裕を失くして、根元に叩き込めることができれば!)


フアンは連撃に緩急をつけ、相手の調子を壊して上段に構え腰を入れる。柄に近い、刀身の根元に、剣を叩き込んで攻撃を弾く。

ソル・フィリアは手から剣が飛んでいき、土と石にぶつかって音を立てた。


(力の差、武器の重さで、ねじ伏せられる!)


ソル・フィリアは即座に投剣を構え、近距離で投擲した。フアンは回避と同時に剣に近寄って足で踏みつけ、相手の得物を封印した。


「……!!」


ソル・フィリアは海から来る突風を羽根を受け止めて回避する。その右側面から、ノイが銃を発砲。ナナミはノイに銃を渡して、渡して、また渡す。ノイの度重なる射撃に対して、低空で旋回しながら、広く羽根を広げた。


(大丈夫、大丈夫。羽根を広げてしっかり速度を高めれば、あんな小細工いくらでも……!)


ヴァルトは左側面から、半身になって呼吸を止め、静かに目立たないよう銃を構えた。


(……怒ったときっていうのは、天使でもやっぱ視界は狭いもんだな)

(あぁ。そして天使は飛行中に速度を付けるとき、ああして羽根を大きく広げる。鳥と一緒で、羽ばたくのにはやはり、予備動作としてはそれが必要。そしてその直前は、面での身幅が一番広くなる。結果として……)


ヴァルトは引き金を引いた。

固定されていた爪のような硝石で火薬が弾かれ、燃え盛って薬室内の火薬を引火させる。火薬は熱を持って白煙を吐きながらまばらな石粒を銃口に向けて吹いた。

銃身内部で石粒は、磨かれて凹凸が少なくなった筒の内を通って、拡大された銃口によって一挙動に散らばり、そうして広く羽ばたいた天使の、腹部や羽根、喉を貫く。全て体内で留まったそれが酷い激痛を生み出す。


(散弾の命中率が大幅に上昇する……考えたものだな)

(飛んでるベストロに対する銃の撃ち方そのものだ。オルテンシアの保安課連中なら、無意識でやれるよう訓練してんだろうぜ)


まっ逆さまに落下したそれを見ると、すでにソル・フィリアの羽根を掴んでいたノイは、片方の羽根を掴んで、力ずくで引っ張り、羽根をもぎ取ってしまう。


「ぁぁぁぁあああああ!!!!」


ヴァルトがノイに叫ぶ。


「走れノイ、走れぇぇ!!!」


ノイは掴んだ羽根を投げて、血の少し付いたのを衣服で拭きながら走った。悶えて震える身体を起こした視線の先、そして逃げ去る者らの背に、すでに波は押し寄せる。何十というベストロが溺れて押し流されるのているのを、ソル・フィリアは見る。消え入りそうな視線で、伏しているのを起き上がった身体から、涙の落ちると共に力が抜けていく。


(……そっか、私死ぬんだ。負けたんだ。自分勝手に行動して、結果はこれ。お姉様、お姉様、ごめんなさい。私が助けられたように、お姉様を助けることは、どうやら叶わないようです。この波は、あの時の獣と一緒です、私はこの獣を殺す石を持ってなどいません、あるいはこれは……お父様の罰でしょうか?)


目を閉じ、背中から滴る血が池を作っていくほどを感じながら、少ない力で泣いていて、そして眠った。

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