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ブルートアウス ~意思と表象としての神話の世界~  作者: 雅号丸
第四章 傾城帝政

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九話 私兵

九話 私兵


ナナミは屋根の上で寝転んで、ヴァルトとユリウスの会話を聞いてしまった。

(ダメじゃ、有事だからと少しだけ聞き耳立てておったら聞いてしまったわ。フアン、すまぬ……)

ナナミは、屋根伝いに歩いていると、一人の外套が跳びかかる。後ろに下がって竹棒を構えると、その外套は動きを止めた。

「あんた、うちの客か?」

「あぁ、良い湯じゃった」

「……すまん、敵だと思っちまった」

「いいさ、屋敷中でおっぱじまっておるし、夜じゃし。静かじゃが確実に、命が消えていっておる。朝日が昇れば、屋敷中大掃除じゃな」

「……あんたは、参戦してくれないのか?」

「妾はあの二人を守っておる故にな。それに、相手の数に対してこちらが劣勢にも関わらず有利に戦っておる」

喉を掻き斬る音。血を吹き出す喉を流させた者が抑え、そうして歩く。元庭園の、建物付近は、誰にも気付かれない静かな流血で満ち溢れ、疲労の呼吸すら押し殺して、名前もわからない者らが散っていく。

「俺たちは代理人さ、血で貴族を汚さないための」

「それでは雑巾ではないか」

「あぁ、血を残したらダメだ。だからって、あぁ……返り血を各々被らねぇとなのが、ほんっと……」

「しかしにしては中々に戦意に溢れておらんか?」

「そういうの分かるのか?」

「小さな会話から、どっちがどっちなのかは分かる。そして、相手兵士が死ぬときは誰かの名前を言っておる、家族かの。じゃがこの家の兵が死ぬとこは、バックハウス家のことを言っておる」

「……そうか」

「命を捧げるほどの価値は、戦いにはない」

「……ニンジャのあんたがいうのか?」

「お主は思っているのか?」

「あぁ」

「そうか、なら存分に死ぬが良い」

「……いや、俺の出番は少ないだろ」

「確かに、こちらの手勢は全員が猛者じゃな」

「俺たちには目的がある。だから強い、あんたも、壁になったら覚悟しろよ」

「……こりゃあ妾の出番ないの。二十対六十で優勢とは……この強さ、隠しておったのか?」

「あぁ。喧嘩は誰にも、いままで売ってなかったのさ」

「それをここで解放か、強さの目的はそこにあるな?」

「面白い景色が見れると思うぜ」

「……」

静けさは、極まった。夜風が吹いて、血の臭いを飛ばす。

(間際になって大切な者がよぎらんというのも、中々に物騒じゃろうて……)

ナナミは、フアンたちのいる部屋の上に立って。窓の小さな軒下にぶら下がって叩く。ヴァルトが開けた。

「終わったようじゃ」

「……お前、なんもしてねぇって感じか」

「しかしバックハウス家の私兵か……ここは後方と聞いたぞ。人同士やり合ってなんになるのじゃ?べすとろというのが、西陸にはおるんじゃろ?」

「お前、ベストロにあったことは?」

「……」

「ベストロがなにか、聞き回って分かってるんだろ?」

「……まあな、じゃが色々踏まえてそのあたりは話さんよ」

「お前の情報の価値は、そこまで高いってことか……何が釣り合う?」


フアンが扉を開けた。ヴァルトがロウソクの火を消そうとしている。

「あの、なんだか静かになりました」

窓からナナミが入ってきた。

「……よし、妾はちょいと外を回ってみる」

ナナミは部屋の外へ出る。何名かの音が前方にあるが、聞き覚えがあった。扉が閉じる。

「おや、さっきぶりじゃな」

「……二人、死んだ」

「いやいや、二十で五十七を討ち取って、被害は二じゃ」

「命に算術は必要ない」

「そうか、ならお主は、その長の任を降りた方がええ」

「……そうだ、俺に隊長の務めは重い、そんなことは分かってる」

「何が言いたい?」

「十八人じゃ、戦えない。あと二人いる」

「……妾に、入れと?それで、誰が助かる?」

「……誰かなんてもんじゃない、この街で苦しんでるみんな全員だ」

「この街……まてお主ら、この国の都はここが最後のはずじゃ」

「……」

「随分と、この家は大きなことを考えているようじゃな。さすがに、はい分かったとは言えんよ。口の固さは保障しよう、一人を除いてな?壁越しに、確実に聞いておる者が一人。そやつに今度聞いてみる。今日はもう寝ておれ、妾があとは見張っておこう」

「……」

「二人でたんじゃろ、はよぉ供養したれ」

フアンは外の会話を聞いてしまい、ヴァルトの話を遮ってしまった。

「どうした?」

「あぁ、いえ……」

「お前あんま休んでないだろ」

フアンは、ヴァルトがノイを守るために、目の前でモルモーンの覚醒したシャルリーヌを斬ったことを思い出す。

「……?」

「……ヴァルトも守るために、ためらいがなかった。僕も同じ気持ちでした。なので大丈夫です」

「ん?あぁ、あんときの話か……いや、関係ないだろ」

「ヴァルト、その」

フアンは外に出て、ナナミを見つけて、追いやった。手をす早く動かす

「なんじゃ、妾は羽虫ではないぞ?」

「しっしっ!」

「んあぁ、聞いちゃあダメなな、あい分かった」

ナナミは廊下を歩いていく。足音が聞こえなくなった。

(……まぁ、聞かれるだろうなぁ)

フアンは部屋に戻る。ノイが起きてしまっていた。

「ノイ、まだ夜ですよ?」

「……ごめん、私」

「いいですから、でも……そうだヴァルト」

「分かってる、なんでこうなったかだろ。る」

ヴァルトは、ユリウスとの会話をノイとフアンに共有した。

「……じゃあ、この国に天使が」

「確定じゃねぇ、だが……例えばレドゥビウス。アイツが空を飛ぶ速さは異常だった。一瞬で空に飛んでいく。あれが他の天使に報告したか、アイツ自体がここに、あるいは……」

「アマデアがいる?」

「あの街に行けば、それが分かる」

「あの街……まさか」

「……あぁ、待ってくれ」

「??」

ヴァルトは、しばらく黙っていた。

「……ひょっとして今」

「あぁ、俺と変わったっていう天使、ゼブルスと喋ってる。頭のなかでな」

「……!?」

「……コイツの言い分はこうだ。私の娘と妻の行方を知りたい。あの街へ言って、調べて欲しい」

「……ヴァルト、あの街はどうなっているんですか?」

「まぁ、色々とな」

「……?」

ノイが目が覚め、自分の寝台を飛び降りて倒れ、ヴァルトの寝台にすがる。

「……また、無茶するの?」

「はぁ?んな訳ねぇだろ。お前は休んでろ」

「……やぁだ、やぁだ!」

「……ノイ、ゼブルスは俺に持ちかけた。娘と妻の行方さえ、その片鱗だけでも分かれば、天使に関する情報を開示する。知る限りの全てだ」

「そんなの、嘘だって……」

「……」

「もう、倒れないで……」

「……」

ヴァルトは、ノイを見て黙っていた。

「……そうだな、俺も疲れてる。ゼブルスに、どんくらい有用があるか聞いてみる……ん?」

ヴァルトはしばらく黙る。

「……年明けまでは良いそうだ」

ノイは、安堵するようにして眠りに付いた。ヴァルトはそれを抱えて、元々いた寝台に寝かせて毛布をかける。

「……こりゃマジで、俺動けねぇな」

「全く、一人で勝手に。ヴァルト、もっと自分を大切にですね」

「お前、ベヒモスのときに自分じゃなくて破城釘逃がしたじゃねぇか」

「あれは、その……」

「シレーヌのときだって、アイツの口に槍を食い込ませて」

「……僕が言えた話じゃないですね」

「全員しっかり、回復してからだな……」

「ヴァルト、勝手に出ようとしたら許しませんよ?ナナミさんに言って、監視してもらいますからね?」

「……わぁったわぁった」

2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。

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