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ブルートアウス ~意思と表象としての神話の世界~  作者: 雅号丸
第四章 傾城帝政

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八話 外務省

八話 外務省


夜。二日月は三日月になり、ふける夜に明かりが灯り始める。ナナミはフロにまた入って、夜風に当たるために館を登ってみた。鈴おw何度か鳴らして、深く息を吸った。

「んぉ~以外や以外。結構な感じじゃのぉ~」

ナナミは、目に付けた包帯をいじる。

ナナミは、手に持つ竹棒を屋根に背負わせ、寝転んだ。頭を持ち上げるように手をあてて、三日月を浴びる。

「おじじ、姉上……」

下で物音がして、屋根を渡って窓を、下向きに宙ぶらりんで覗いた。

「……??」

鈴を鳴らして、窓を開ける。

「こんばんわじゃ」

「あの、屋根の上でなにを?」

「ん?いやぁ、夜風を少々」

「……ここ、3人で使うんです」

「妾は別じゃと?まぁ当然、じゃがこの上で寝ても問題なかろう?」

「……色々と聞かれては不味いんですけど」

「いやいや、不味いといえばお主じゃ。あのできてそうでまったくできておらん二人。どうにかせんか」

「……ですよねぇ」

「降りてはどうですか?」

ナナミが組んだ足をおろして部屋に入る。

「しょっと……そういやぁ」

「月、綺麗ですね」

「ぷっ……はっはっは」

「何か言いましたか僕」

「はっはっはっ」

「……???」

「よいよい、これも言語の面白いところじゃ」

「……あなたは、どうしてアドリエンヌの言葉を?」

「おじじの教育方針じゃ。さいあく他国でも生きられるように、あるいはお国のために活躍できるように」

「……教育方針?」

「聞き耳を立てていて分かった。お主ら中々の境遇じゃな」

「……」

「ほぼ、妾もそんな感じなんじゃよな。拾われて、生き残った。剣の振り方、身の程のわきまえ方、そして言葉を知って、使って生きた、生き抜いた」

「そうでしたか……」

「……妾は、これ以上はまだ話さんぞ?おなごは秘密を抱えれば抱えるほどめんこいんじゃ」

「……1つ、教えていただきたいんですが」

「なんじゃ、女の扱い方か?」

「いえ、剣の扱いです」

三日月が少し動く中、ナナミはフアンを聞く。

「……お主、会ってから1日のおなごにそんなこと聞くのか?」

「僕は、正直あまり彼らの役に立っているとは思えないんです」

「……そうか、お主そうか。強いの、心が」

「あなたは、ここにいる間に自分の持つ情報の価値を見定めなければなりません」

「その心は?」

「必要以上に相手に支払わせる行為は、後ろ楯のないであろうあなたにとって、痛手になるからです。もし自身の持つ情報の価値が低い場合に、あなたは備える必要がある。例えば、先に恩を売るなど」

「……」

ナナミは拍手した。

「……お主、素晴らしい才覚を持っておるな。なるほど口上手の剣客……うむ、よいよい。良かろう、しかしお主のと妾のとでは勝手の違いが分からん。今晩は妾に、その得物を貸しとくれ。それを壊さないで返して、ちゃんと妾でも扱えるようにしとく。明日にでも稽古を付けよう……それで、この二者間での信頼の証とでもしようか?」

「はい、宜しくお願いします」

「……しかし、ノイはともかくあのヴァルトという者。当日はともかく今日は、お主に何も気遣いをしておらんな」

「あぁ……確かにそうですけど……」

「……?」

「ヴァルトは今、忙しいんです。ここが」

フアンは、頭を指差した。

「考え事か?」

「……なんといえば良いか」

「……聞かれては不味いこと、じゃな?良かろう、今日はここの反対側で寝るとしよう。聞こえない範囲は分かっておる。ついでに……悪い虫をしばきまわそうかの」

「……はい?」

フアンの耳には、玄関の扉が開く音が聞こえた。

「……誰か来た?」

「聞き耳を立てていたといったじゃろ。町を回ってここエイヘンフトーのことを聞いて回っておった。か~なり破廉恥な国らしい、ヴァルトもノイも危険じゃ。どうにも今日はいささか、客が多いと聞こえる。目的は、容姿の割れておる二人じゃな。結構な戦果を上げた偉人が心を痛めて療養中……今のうちに近寄っておこうとでも、きっと考えておるのじゃろう……思い出すわ、姉上に近寄った阿呆をしばきまわしたのを。ヴァルトとノイをここに集めい」

異様に荘厳が馬車が2台、館に到着し門を潜って中に入ってくる。足音を波立たせながら玄関が開く。給仕たちの前に現れたのは、十は下らない貴族であった。年齢は全員が若く、男女。男たちの服装は、半袖の服に薄絹の羽織ものをして、腕の筋肉量を見え隠れさせる。長い履き物は細い。女たちの服装は、肩や首筋をひどくさらけ出し、胸元は意図的に溢れそうなほど強調されている。腰などの曲線もよく見えるよいな格好であり、冬物とは思えない妖艶さを醸し出す。ふわりと柔らかな、高い見立ての襟巻きが暖をとらせて、幾人かはそれの大きさを強調するために、あえてその尾を胸元に挟んでいた。全員が、おそらくその美貌のみで国を飛び越えていけるような資質を持っているのを伺える。

それらを見た給仕の人間は、様々な思いを巡らせる。憧れるもの、焦がれるもの、忌むもの、嫌うもの、ただ見るもの。一人の女性貴族が話し始める。

「こんばんわ、バックハウス家の皆様。突然の訪問をお許しになって下さい。しかし我々レルヒェンフェルト貴族としては、前線アドリエンヌの英雄たち……しかも母国はイェレミアス、そんlの療養と聞けば、またさらにその心身がお疲れであるならば、こそ我々のよる〝癒し〝が必要であると存じます。ヴァルト・ライプニッツ様並ぶ英雄の皆様方に、お会いさせていただけないでしょうか?」

長く、拙い丁寧な言葉には、確かに渇望が伺える。

昼間には見えなかった壮年の男性が、優しく笑顔でお辞儀をしながら、頭を下げながら会話し始めた。

「これはこれは、皆様お初にお目にかかります。ベヒトルスハイム家、ヘルメスベルガー家、ローゼンクランク家、バッハシュタイン家、エンゲルハイト家……そして、あなた様は、バルシュミーデ家、イルメラ夫人でございますね?」

「……」

「皆様方の来訪を予想し、お食事などの準備が完了してございます。お席を用意してございますので、まずはそちらへ」

「いいえ、それらは全て皆様でお召しになって下さい。日々、様々な労働でお疲れになっていることでしょう?今日はお休みになられても大丈夫です。見てくださいこの彼らを、我々は日々、皆様と同等かそれ以上に、体を作り、奉仕の心を叩き込まれた精鋭です。お屋敷のことも、任せていただけませんか?」

壮年は目を瞑る。

(……この者ら、私がここに仕えてから始めての来訪であるというのに、ズケズケと言いよる。やはり目的はヴァルト様ら行動隊隊員の、名声を我が物にすること。いや、あるいはただの独占欲。不純な思考を日々行っているからか、会話になんら理論がない。しかし、これもユリウス様のご命令)

壮年は目を開ける。

「……しかし、不可思議ですな」

「……と、仰いますと?」

「いえ、実はヴァルト様の来訪がここレルヒェンフェルトに広まったのは今日の昼前にございます。そこからここまでの規模での来訪というのが……家々で根回しをするには時間がかかるはず」

「レルヒェンフェルト貴族としての思いがみなを団結させ、こうして来ている。我々の善意を信じられないと?」

「いえいえ、とんでもございません。しかし、我がバックハウス家は農業・工業地であったハーデンベルギアが陥落した際、最も早くに自身の所有地を開墾し、難民を雇い入れました。しかし、他貴族はそういった措置を行わず、被害から逆算して落ち目になりそうな市場から撤退し、国力の低下が発生、その年はオルテンシアのデボンダーデでの兵站が足りず多大な犠牲を払う結果となりました……」

「……それは、バックハウス家の言葉として受け取って宜しいのかしら?」

「先々代より昔からこのような発言はままあった話でございます」

「物知らず、とでも……?」

「いえとんでもない、しかし……そう仰るということは、その自覚がおありなのでは?」

「……!?」

「おや、私は何か仰いましたかな。失礼……齢、六十七にございまして」

女は怒りを持って拳を握る。少しの間。

「申し訳ありません、我々も少し、焦っていたのかもしれません……そうです、頭を冷やすとしましょう。そもそもこんな大所帯で見舞いを行うこと自体、何か間違っていたかもしれません。ですが、何もせず帰るというのも、お連れした皆様に申し訳がたちません。用意される食事、いただいて宜しいかしら?」

「かしこまりました」

壮年と女性は笑顔。その壮年と給仕たちの誘導で移動していく貴族の集団は、廊下を通って奥へ歩く。女性は、少しだけニヤけた。

(この壮年はは何も分かっていない。この数のお家が絡んでいるというこの見せつけこそ、つまり抗争の戦力を開示しているということ。私が手駒にした家系の数を見て何も慌てないなんて、よっぽど頭が悪いのね。ここの警備、私兵の数、全て考慮しているのよ?ライプニッツ両名、ランボー、全てバルシュミーデ家に組み込ませてもらうわ、それに何より、中々にヴァルトという人物は、顔が可愛らしいと聞く。うずくわ……あはは!!フアンという人は顔を隠している。きっと自信がないのね、顔が良くないなら、最初の子を産んだ後で他の家に譲ろうかしら……まぁ、それは娘たちに任せるとしましょう)

女性は指を鳴らす。壮年はそれを見る。

「どうかなさいましたか?」

「いえ、少し気分が上がっただけです」

壮年は、貴族たちを部屋へ通した。部屋は閉じられ、壮年は1つ深く呼吸をする。

(……では、開戦ですな。ユリウス様、私兵たち諸君、御武運を)

フアンはヴァルトとノイを、ナナミと話していた部屋に押し込めると、ユリウスがそこへ強引に入ろうとフアンの前で動き回る。

「あっ、ちょっと!?」

「いいじゃん」

「いえ、有事なのでその」

「気付いてるみたいだね、言うの忘れてたごめん。大丈夫、ハンナちゃんもレノー君も、マルティナや私兵たちと一緒にいるよ」

「レノー君……あっ!」

フアンの懐を抜けて部屋に入る。

「邪魔だよね、でもちょっと話があってさ」

ノイは眠り、ヴァルトはその隣の寝台で、ロウソクを灯して本を読んでいた。

「……静かに寝てるねぇ」

「意外だろ」

「……とりあえず、ハルトヴィンのじいさんの指示通りで動けたね。良かった良かった」

ユリウスは椅子を持ってヴァルトの傍に座る。

「まず今襲ってきてるやつらなんだけど、つまり君らをどうにか拘束して、既成事実作って強引に婚約結んで、財産絞ろうとしてるって感じだね。イェレミアスじゃよくあるよ。親父も苦労したとか」

「ゴミだな」

「……で、結論。君らをイェレミアス郊外で襲ったのは、オルテンシアの近衛兵とイェレミアス帝国、あとはどこかの私兵の混成部隊だね」

「……調べたのか」

「死体をね。君らがここに来ることは、帰還兵制度を利用する人の情報がオルテンシアから馬でイェレミアス帝国の外務省に届いて、そこから各地の様々な宿泊施設や、そこを治める貴族たちに通達がいく。確認がとれ次第外務省からオルテンシアへ馬が行く」

「時間がかかる?」

「ミルワードにあるような伝書鳩でもあればもっと早いけどね。君らが到着したころにはすでにイェレミアスから馬は出ていたから、イェレミアスの意向などでのみなら動ける。でもあそこには近衛兵もいた。とにかく、情報の伝達速度に対してあまりに人の動きが早いってこと。馬より早い、伝書鳩みたいな早い存在。そんなものがなけりゃ、いまここで起きてる、複数の家系を巻き込んだ君らの取り合いも、君らを襲うこともできない」

「……」

「君らが命をかけて行った、イェレミアスへの危険な旅の成果は……」

ユリウスは、自身のかけているメガネを外して拭き始める。

「……オルテンシアとイェレミアスはなんらかの方法で素早く情報伝達を行え、そして混成部隊やこのお家騒動を引き起こした、そんな素早い情報伝達の手段がイェレミアスにあることを証明してみせた。君らは、オルテンシアからもイェレミアスからも、なにか敵視されているようだね。おめでとう、イェレミアスにも敵はいた。これで、先手をどこかで取ることが可能性になったわけだ」

「……まぁ、そんな感じだよな」

「オルテンシアじゃ、君の上司も襲われたんだっけ」

「あぁ……まぁアイツなら大丈夫だろ」

「じゃ、もっと本題を言うけど……その何らかの手段って、天使だったりする?」

「お前、知ってるのか」

「じいさんからね。それだけじゃないよ?」

「……内通か」

「ごめんね、商人としては備えてなんぼだし」

「ジジイもそれくらい覚悟だろ、ナーセナルに内通者放つって、どんだけだよ」

「で……」

「さっき、外務省って言ったか?」

「うん、言ったね」

「そこのお偉いさんあたりが、怪しいんじゃないか?」

「……安直だけど、そうかもね。単純に、オルテンシアと繋がってる部分だし。天使の話を聞いて僕も、聖典教のことは怖くなったよ。昼飯のときはごめんね、デボンダーデのこと話してもらって、奈落の話も怖かった。よく頑張ったよ」

「天使関連で、アドリエンヌ関連は警戒するべきだな」

「それも言えば、国家間の流通で金稼いでるうちもだけど」

「……っていうくらいには俺らを警戒してねぇだろ。白っぽさ全開だ」

「演技かもよ?」

「……あの街へはどう行けば良い?」

「馬を用意しよっか。平地で早い奴。数は?」

「一」

「……ふぅん。じゃ、それでいこっか。でも数日は大人しくしてくれよ、今日はこれで、お休み~」

「寝れるかよこんな状況で」

「隣、見ろって」

2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。

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