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ブルートアウス ~意思と表象としての神話の世界~  作者: 雅号丸
第四章 傾城帝政

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二話 イェレミアスへ

第二話 イェレミアスへ


大きめの幌馬車に揺られ、ヴァルトら3人はイェレミアス帝国へ向かっていた。厚手の布でくるみ、寝かせられて乗っているヴァルトは、馬車の天井のみを視界に入れている。平原から森に入ったあたりで馬車は止まり、手綱を握ったのが振り向く。

「では、ジェルマン様の指示通りに……ここからは皆様がたのみでの行動となります」

「3人だけで、大丈夫かな……」

運転手は、ヴァルトがノイはとフアンに支えられて降りるのを見ている。兵士は駆け寄った。

「あの……私としても、いささか不安ではあります。オルテンシアとイェレミアス間において散見されるベストロは、主に保安課の方々によって討伐されております。しかし、新兵教育も兼ねた討伐ですので、見逃しなどもあります。ジェルマン様からの指示で掃討作戦が実行されてはいますが……」

「あぁ、気をつけるよ。まぁ俺はいま戦えないけどな」

「迂回して森を出て北上すれば帝国に到着します、一昼夜はかかるでしょう。郊外に一台だけ馬車がございます、帝国へ入る場合はそれに乗れば通行証代わりになりますのでお忘れなく。では、お気をつけて」

三人は森へ入っていた。フアンが地図を出して、進路を決めていく。

「まぁ、僕で聞き耳たてれば。案外どうにかなりますので。気にしなくても良いんですけど……」

フアンがヴァルトを見る。

「大丈夫ですか?」

「まともに戦えるわけじゃねぇな」

「破城釘の射出、レドゥビウスへの初撃、シレーヌに打撃を与える。状況を変えるのはいつもヴァルトでした……ありがとうございます」

「んなことより、あのガキだ。アイツ、テオフィルの名前と、あの言葉を言った」

「人形を堀たまえ……」

「つまり、アイツは下にいる亜人の中でも、よりテオフィルに近いってことだろ。じゃあ、アイツらに匿われてる可能性もある……ノイ、お前が探したっつうあのガキ、生きてるかもしれねぇ。気付くのが遅れた」

「……ありがと、ヴァルト」

ノイがヴァルトを支え、フアンが先行して音を聞く。

「……飯、食えないか?」

「なんだろ……食べたくない」

フアンが振り向く。

「やはり、言わなかった方が良かっ」

「違う、それは絶対的にっ!」

ノイが力んでしまい、ヴァルトを強く掴んでしまった。

「おぉ……」

「あぁ、ごめん!」

「ノイ、落ち着け」

「ごめん、あの……フアンにもごめん、そうじゃなくて……絶対、いっぱい迷ったよねって思った、なのにそんなこと言わせちゃったって……」

「イェレミアスにある飯はあっちで取れたもので占めてあるって、あの給仕の女が言ってた、バックハウス家がそれを保証してくれる。まぁだからって無理に食えなんて言わねぇけどよ」

「……ごめん、ごめん」

ノイは段々と泣きながら返事をして、ヴァルトとフアンはノイを見た。

「今は寝るくらいはできてるんだろ。それでいいんじゃねぇか?フアンが何か言ってたな」

「不眠症のことですね?」

「心の問題……だっけか」

「だそうですが、詳しくはお医者様に聞かなければいけません」

ノイは、ヴァルトの具合を目で見ている。

「私たちだけで、本当にいいの?」

「あぁ、オルテンシアが強く動いて俺たちを討伐しにくる可能性があるからな」

「んぇ、なんで?」

「フアンは宮殿に入ったとき、追跡された」

「なんか、いてったね」

「フアンは行動隊、国の重要人物……が、なんでそんなことになった?」

「デボンダーデが終わってたった1日、被害状況や国民に対する様々な対応。さらにベスリアンのことで只でさえ人員が割けない、その上で今回のデボンダーデで露呈した近衛兵の怠惰、つまり質の低さ……そのような状況であっても僕に監視をつける理由があって、図書館での追跡者の動きは、監視よりも包囲……僕を捕縛しようとしたと思えます。経緯があるとすれば……」

「フアン自体を監視している……というよりは、俺らやフェリクスを監視していると見て良い。フェリクスが俺に資材倉庫で話したのは、最高指揮官の任を外された通達が自宅に届いているのを発見、するとすぐに監視され、さらに、明らかな殺意で、民間人に攻撃されたっていうのだ。ジェルマンから話を通して、今回の帰還兵制度利用者の一団よりもこうして早めに出て単独で動くのは、一段に紛れる可能性のある刺客から俺たちを遠ざけるためだ」

「えっ?」

「フェリクスを襲ったのは、民間人に装った誰かだろうな……」

「じゃあ……私たちってどういう……」

「オルテンシアの誰か、からはかなり嫌われてる。シレーヌ討伐を、喜んでいないやつがいるかもしれないってのが、フェリクスの残した話だ」

「なんで、嬉しくないの……」

「それは、こっから調べる。つうわけで、俺たちはオルテンシアからイェレミアスに移動するだけでも、できるだけ警戒する必要があるんだよ」

「だから、私たちだけで移動……」

「主な理由がそこにある。こうして危険なことをするほどのな」

「……わかった、今日はどれくらいいく?」

「森を抜ける直前までは行く。南下すればナーセナルだ。寄るか?」

「……いい、帰る意味なんて」

「……そうか」

日の落ちるほどに歩いて夜。全員で焚き火を囲んだ。ヴァルトは寝たまま、フアンなどにも手伝ってもらいながら食事をする。資材倉庫から持ってきたものを片っ端から食べていき、すぐに済ませた。フアンは、預かった食べ物の袋からリンゴを1つ取り出し、袖から専用の小型の剣を取り出して解体。1個のリンゴを3当分ぶんにして、1つをのに渡した。

「……ノイ、せめてこれだけでも」

ノイは、リンゴの赤い部分を見て肉を思い出し、口を押さえた。

「……!!」

「フアン、それ貸せ」

ヴァルトは皮を剥いて、ノイに見せた。

「ほぃ」

「えっ?」

「……あれ、違うのか?今、赤色見て肉思い出しただろ」

「……ありがと、フアンも」

ノイは、口を極めて小さく開け、吸っているようなほどにしか食べず、時間が過ぎていった。火を着けた薪が崩れ、新しい薪をくべたとき、ノイが半分ほど食べ終えた。

「フアン、お前も何か食べろ」

「……じゃあ、食べるついでに周り見てきます」

「聞いてきます、だろ?」

「あんまり変わりませんよ、はっはっ」

フアンが食糧の入った袋を持って焚き火を離れようとしたとき、シャンという鈴の音が聞こえた。フアンが袖を振って二刀の剣を構える。

「……誰ですか!?」

ヴァルトが立ち上がろうとするとふらつき、ノイが支える。

(……重っ!!!)

ノイが力を込めて持つと、やっとヴァルトが建て直す。フアンが音で周囲に聞き耳を立てる。

(まずい、今まともに戦えるのは僕くらいだ。でも、これで確定した……)

フアンは、周囲をいくら聞いても足音が1つしかない。

「……??」

コツコツと、木か何をつつく音がする。二本足の音と、杖の音だった。鈴の音は高い。

「杖?鈴?なんですかいったい……?」

奥から、紫がかった服装が見えた。地図でいえば西側なので、フアンは疑問に思う。

(もしイェレミアスからの刺客なら北部、オルテンシアなら西からくる……いや、さすがに考えすぎか。待ち伏せ……でも、たった一人で?僕のことは、感が鋭い程度の情報は、監視したい側にも伝わっているはず……)

フアンが聞き耳を立てるまでもなく、音の発生源たる者は声を発し始めた。かなり違和感のある発音で、聞いたことにない言葉をだった。

「スシ、ミソシル、オコメタベタイ……」

一歩一歩、確かに震えて弱々しく呟き、杖にもたれて歩いてくる。

「スズケニシタタコ、シチリンデヤイタマツタケニオショウユタラシタシテ……オナカスイ、タ……アァ、シヌ……ゥ」

フアンの目の前で倒れた奇っ怪な女人は、西陸の格好ではなかった。やや平たい顔をした黄色とも見える肌は、西陸より右側の東陸らしさを醸し出す。褪せた紫の装いと薄紫の髪型。後ろ髪は雑に丸くまとめられていて、目と、服のはだけた胸元は包帯で巻かれていて、傷痕が見え隠れしている。その格好に、フアンは目を疑った。


挿絵(By みてみん)


「……ニンジャ?」

2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。

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