一話 殷々として
第一話 殷々として
黒い視界に、雪のような砂嵐が写るようにして、情景は浮かんだ。ひどく整った、絶望。女性の慟哭は喉を己ごと抉って潰し、それを願うかの如く煉瓦に響き、吸われていった。アリの巣のように、濁点をあぁに詰め込んだもの。その合間に使われる、微かに人徳と理性を混ぜた嗚咽と懇願。
「やめてぇぇ、助けてぇぇ!!やだ、やだ」
牢屋の前に白髪の男は1人、光景を見つめて、紙に文字を起こし、そして画角を取って精密に、目を凝らして描いていた。男が何を描いているかは、視点の主には見えなかった。
「やはり獣というのは、目と鼻で物を感じることが多いのかもしれん。ここまで人語を叫んでいるのに、いまだ同類としてこれを扱っている。おぉ見たまえ、このおぞましい光景を……犯しながら喰らっている、なんて下賤なのだ。彼らこそ、やはり忌むべき存在。だが枢軸議会は、この実験ではまだ足りないという……だが、如何せん母数が足りなさすぎる。私が死ぬまでに、どうにか成功させなければ……母数、そう母数だ。区画の拡充だけではない、種別として、やはりこの能力に長けた物でなければ……げっ歯類、そうかウサギ、ネズミでも良い。さっそく手配しよう、そうすれば成功率は跳ねるはずだ……」
一発の銃声。
薄暗くボロい一室で目覚めた外套は、部屋の外に出る。日差しが目にはいったようにして、手を太陽に、空にかざす。
「……いつか、君は言ったな。夢ほど順列の整ったものはない。なぜなら、真実はより回りくどく、奇っ怪なのだからと」
男は、太陽から現れた降り立つ白い者に話しかけた。連れられた者はひどく怯えているが、外套を見て安堵している。
「……状況は?」
「我ら魔天、彼岸へ到達せり」
「……第二団を向かわせる。では彼岸にて……また会おう」
「はい、ゼナイド様」
2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。




