四話 鋼輪刀
第4話 鋼輪刀
数年前、豪勢な邸宅中、眼鏡をかけた糸目の男と机を挟んで会話する。
「ほら、これだよ」
ヴァルトの前には、一冊の本が出された。表紙には、眩く十字に交差する同じ長さの、曲線で装飾された立体感のある線が書かれている。
「これが聖典?」
「聖典教の信仰、その根本」
「神を信じてるとかじゃないのか?」
「いや、うーんまぁそうとも言える……」
ヴァルトは本の表紙をもう1度見る。十字光の下には、西陸で主に使われているアドリエンヌ語で文章が綴られている。
「書いてあることの意味が、あぁ分からねぇ……どういうことだこれ」
「この世界の全部が、神が住んでる楽園から出た太陽の光みたいなもんで作られたんですよ。私達には、正しく生きられる運命が既に存在していて、死後必ずその楽園とやらにいけるんですよ……ってな具合だ」
「なるほど、さっぱり分からんしクッソ都合良いな」
「言葉通り受けとると、単語が難し過ぎて意味分からないから注意な。聖典の内容はほとんどそうだ」
「じじい、もっとはやく教えてくれよなぁ……」
「ライプニッツさんの考えは、まぁ僕は知ってるけどね?」
「あぁ~、やっぱ理由あんのか」
ヴァルトは、意味を聞いた後に文章をもう1度読み返した。
ー普く象は楽園の歓喜 麗しき閃光より産まれるー
ー粛々とした道としてその後は 至天と共にかくありきー
あくびをしながら、ヴァルトは話を始める。
「はぁ~……わかんねぇ……」
「それから、その次のやつ、1回捲れば出てくるんだが…」
ヴァルトが聖典を捲ると、また意味が分からない文章が出てきた。
「なぁ、後これどのくらいあるんだ?」
「何回捲れば最後に行き着くか…今から試すかい?」
「いや、日が暮れそうだからやめる」
「そこの、半分くらいいった所だったかな……ある文があってね、それがどうやらとある生物を意味しているらしい」
「ある生物?」
「あぁ」
ヴァルトはその奇っ怪な文を読み進めてみた。
ー降り立つ翼のとどまる所 義は獣を外に見る、理は獣を内に見る
すべての時にかなって獣は この世の態より見棄てられる
天にまします使いの如く 御光を投じ 律する者こそ聖であるー
「眠っ……」
「分かる、それでどこか分かったか?」
「天にますます使い」
「そこ。天使、奴らはそう呼んでいる。鳥の翼が背中に生えた、人間だとか」
「まさか、天使と人間が見た目似てるから、俺ら人類ってぜってぇ神に近い存在だよなって感じだったり?」
「かもしれないね、あとそれ、信者の前でいったら殺されると思うよ」
「……分かった」
ヴァルトの聞いた話の通り、だがそれ突然目の前に降ってきた。地面と衝突して死んだのか、死んで落ちてきたのか。ヴァルトは状況を呑んだ。
「天使……いや、マジでいるのかよそんな奴が。こりゃ、神もいそうだな……」
窓からフアンが出てきた。
「何かありましたか?」
「ガキを前に出すな、マジでやべぇからよ」
「これは一体……!?」
窓からはシュヴァリエがこちらを見ている。
「何かありましたか~?」
シュヴァリエ達のいる部屋に、ハンナとピーターが扉を開けてやってきた。2人とも、やけに髪が乱れている。
「あの、何かありましたか?」
「変な音、鳴ったよね?」
フアンは、急に西側に振り向いた。
「ん、ん~?」
「フアン、どうした?」
「いえ、なんでも……」
フアンは顎に手を当てる。
西側を見るフアン、それは屋敷の玄関から出た方向と同じで、夕陽も沈んできている。しばらくフアンはそちらを向いていた、そして音に気付いた。
「馬が走ってきているようですね?かなり飛ばしています」
ヴァルトは、否応ない悪寒に襲われる。
「じじい、言ってたな……いきなりだったって、現実に非現実がくるようなみてぇに……あいつらは突然現れたって」
ヴァルト、ノイ、フアン、ハンナ、ピーターは玄関の前に集合すると丁度、ハルトヴィンとマリーも現れた。
「じいさん、おばあちゃん!」
「フアン、お主も気付いたか」
「あの、おばあちゃん……」
「なんじゃ?」
「えっと……」
フアンとマリーは、一瞬で凍りつくような思いになった。
「やってきたみたいです……」
「やるしかないの」
ハルトヴィンが一歩前に出る
「整列!」
ヴァルトらは訓練された者の動きそのものに整列した。
「ナーセナルはこれより、戦闘態勢に移行する」
フアンは手を上げる。
「西からのデボンダーデと言っています!」
「ヴァルト、ノイ、フアン、ハンナ、戦闘準備!装備を整え玄関前に集合、ワシが馬車を持ってくる。マリーとシュヴァリエ、ピーターはこの場所を守れ、武器は屋敷中に沢山ある。ここはナーセナルの希望じゃ、何かあれば、例え死んでも、守ってくれ!」
馬の蹄がヴァルト達にも聞こえる大きさになると同時に、大声で叫ぶ木鼠の亜人がやってきた。
「デボンダーデ!西から、デボンダーデ!!」
ハルトヴィンが深く息をすう。
「守りたいも全てを守れ!今日の為にしてきた訓練を思い出せ、涙一滴も妥協するな!行動開始ぃ!」
ヴァルトらは南館に向かった。やけに乾燥した倉庫なのか工房なのか分からない場所に入る。ノイが奥から木箱をいくつも運び、部屋の中央の大きな机に、置かれたものを雑にどかしてそこに並べた。ヴァルトらはそのうちに、恐らく戦闘で使う品をいくつか袋に詰め込み各自装備した。
「ヴァルト……その」
「お前は、そうだなぁ……大剣か戦棍か……まぁどっちも持っていけ」
「えっ!?」
「いや、かさばるな。馬の速度に影響でても困る。戦棍でいこう」
ノイは、その瞬間に似つかわしくない安堵の表情を浮かべた。
全員が箱を開けると、弓のような剣とは明らかに容貌の違う、そしてまた明らかに拘った作りの武器が入っていた。ハンナが少し驚く。
「あのヴァルト兄さん、これ……」
ハンナは自分の武器に驚いている様子だ。両端にある滑車が弦を張り、手で握る箇所のすぐ下に、真っ直ぐ長い棒が地面と水平になるように取り付けられており、射抜く方向にそれは長く、重りが先端に装着されている。
「あぁ、いつものとちぃと形が違うと思うが、まぁ問題ねぇ。矢の速度が上がってるから、偏差は考慮しろよ」
「私最後に触ったの昼なんだけど……なんか車輪みたいなの付いてるし……相変わらず作業速度おかしいでしょ兄さん」
ハンナが弦を引くと、弓の端でしなるような部分を折るように設計されたそこにある滑車が回転する。何度も弦を引く、感覚が違うように見える。
「……弦が軽い」
「重りで、射出するときの揺れが抑制できるはずだ」
「ありがと、これで守ってみせる」
フアンやノイも装備を取り出していく。フアンは2つの刀剣を袖に格納した。
「ヴァルト、僕のは何か」
「変えてねぇ」
「残念」
ノイは、6つほどの放射状の刃を先端に取り付けた戦棍を取り出す。ヴァルトはまだ、箱に入ったまま装備を持ち出した。更にヴァルトは、工具など手入れに必要そうなものを一式所持、そして謎の袋をいくつも鞄に入れた。
「ハンナちゃん、ピーターに挨拶しときましょう。戦いに集中するためです!」
「え、あ、はい」
ハンナはピーターの元へ向かい、近付くやいなや抱き付いた。フアンは、確かに何を話していたかを聞き取った。
「続き、帰ってきてからしよ?私だけとか駄目だから、ね?」
「こっちは任せて、だからそっちは任せる。行ってらっしゃい」
ハルトヴィンの操作で馬が出た、走り出す馬車にハンナは乗り込む。屋敷の方から声が沢山聞こえ始めた。
「にぃに!ねぇね!」
必死にエミルの方に乗って、涙を流しながらミアが楽器を振る。
「にぃに!ねぇね!」
その声に、荷馬車に乗るノイ、フアン、ハンナ、ハルトヴィンが反応し、遅れてヴァルトが反応した。ヴァルトはみんなの目を見ていた。そしてしばらく、沈黙が続いた。
ヴァルトが箱から武器を取り出す。刀剣に見えるそれは明らかにその風貌が銃にも見える。鞘と柄に取り付けられた2つの引き金や、お尻の部分である柄頭には何かを巻き取るような装置か。鞘はもはや、銃床を取り払った銃に見え、側面には火打石で点火するような装着がある。ヴァルトは刀身を抜き鞘を半分に折り、鞄から袋を取り出し開封、中の黒い粉を鞘の中に1袋分流し込んだ。
「完成、してたんですね」
「練習もバッチリだ、使うか?」
「いや、たぶん僕じゃ扱いきれないかと。あれ、鞘に何か文字が……」
ハルトヴィンが振り返る。
「ヴァルト、後ろに“アレ“も積んである。そっちにも火薬を入れといてくれ」
ハンナが驚く。
「火薬……!?」
フアンも続いた。
「火薬って、高騰してるんですよ?ただでさえ戦いに使えるものが、オルテンシアの独占で値上がりしているのに、一体どこから手に入れてるんですか……?」
「ツテじゃ」
「なんと都合の良い……」
日が沈み始める中、黒煙の昇るのが見え始めた。ヴァルトは素早く“アレ“に火薬を装填し始めた。袋をいくつもいくつも入れる様にフアンは唖然とした。
「これ、結局金食いでしかありませんよね……」
「見合う一撃になるはずだ」
「実験は?」
「1回だけ、やっぱ火薬使うの駄目だな、実験に金かかって、情報が足りねぇ」
「ぶっつけですかぁ!?」
「いいだろ別に」
「いや、でも」
ハンナが弓をひきしぼって、度合いを再度確認する。
「ヴァルト兄さんが作ったんだから、私は信じるよ。信じるというか、その辺、任せるしかないから……お願いね」
ハンナの目をヴァルトが見る。
ヴァルトは再び、糸目の男との会話を思い出していた。
「まて、まだある」
「もう良いだろ……ちょっと、詰め込むの時間かかるから、もうちょっと待ってくれ」
ヴァルトは立ち上がり、部屋を出ようとする。
「ベストロに関することだ、ほら、この分厚いのってさ……半分くらいが、ベストロの図鑑なんだよな」
ヴァルトは、ため息を付きながら席に着いた。
「そんなにいるのか……?」
「そこまでいる訳じゃない、名前だけの奴もいる。絵が付いてたりして、結果分厚いってだけだ」
「絵が?」
「ベストロの強さには3つに段階が分かれている。【絵付き】【名付き】【名無し】 この順で強いしめんどくさい。後は暗記しろ、んじゃ帰り気を付けろよ。じいさんに頼まれたのはここまでだ、あの髭おじ、俺の本業は会社経営だぞ?」
ヴァルト達は、気を引き締めた。
「そろそろじゃ。良いか、とにかく防壁を昇ってきた奴を叩け、一撃でももらうな。到着次第、備え付けの階段かはしごで壁上に。よし、行け!」
ヴァルトらは装備を固めて降車、階段で昇っている。ノイははしごを飛んで上り、周囲を見渡す。壁上に今はベストロがいないことを確認し、壁の奥を覗いた。
「せぇーの、撃てぇ!!」
戦士の1人の雄叫びに合わせ、壁に並ぶ100人以上の戦士が、一斉に矢を放つ。
「次いくぞ皆ぁ!せぇ~の!」
雨にすら見える矢の幕が、ベストロらに降り注いだ。すると、ヴァルトに戦士の1人が話しかける。
「皆さん、到着されましたか」
「ありがてぇことに、出番は今のところなさそうだな」
「今のところは、ですが……」
1人の男が話しかけた。
「かなり名無しが多い、まさしく初動って感じだ。デボンダーデがここで起きるなんて信じられないですとまったく」
「それはそうなんだよな、ここまで来るってなると、オルテンシアとクロッカスが抜かれたのかもしれねぇ」
ノイが首を傾げた。ヴァルトがあきれる。
「名無し、分からねぇか?」
「え、ええと」
ヴァルトはため息を付きながら説明する。
「名無しってのは、50年前に現れたベストロの中で、聖典に乗ってない奴らの総称だ。全部雑魚だから1括りにそう呼んでる」
「あ、ありがと!良い復習だった!」
「初耳だっただろ、お前の中で」
ベストロらに矢が注がれた。
「名付きがそろそろ出てくるんじゃねぇか?」
ノイはやはり首を傾げた。フアンが大きめな声で説明しだす。
「こほん。デボンダーデは基本三段階、名無しの軍勢、名付きの出現、最後に絵付きの襲来。あと、その合間には少し猶予がありまして、その間に色々と備えられます」
ハンナは矢をつがえた。視線の先にはコウモリや鳥のベストロが何体もいるが、まだかなり遠方である。
「飛んでるのは任せて」
ハンナは弦を引き絞る。1人の女性の獣人が声をかける。
「あんた、結構小さいのに、もう戦え」
ハンナが放った矢は山なりに飛翔する、フアンがそれをしっかりと目で捉えてる。
「ここまで十四年もかかった……ずっとここにいた訳じゃない。私はもう、泣きたくない」
奥で飛ぶ、カラスのようなベストロの腹部を貫き、落下した。
「感謝と、敬愛と、自負。私は皆を守れる」
「命中です!凄い!」
ハンナは、矢継ぎを早めながら次々と撃っていく。少し外しながらも、飛んでいるベストロらを落としていく。
「ヴァルト兄さん、この弓凄いね。でもなんていうか、引っ張ったままにするのがちょっと難しい……っしょ」
「そこはおいおい調整だな。弦を強く張れば当然、矢の速度が上がるが、引っ張る力が必要になる。それを2つの滑車で軽減してるんだが……重さも相まって構えるのは、やっぱそうだよな」
話している最中ですら、ハンナは射撃を止めていない。ヴァルトらの後ろで、男が綱を引っ張り、下から物資をあげている。フアンが駆け寄った。
「手伝います」
「いいや、あんたらは後で頑張るからな、これくらい俺達でもできる」
男が物資を上げると、籠を持った人達が集まりそれらを回収、各自の場所へ補給を開始した。ヴァルトら3人はそれを見ながら、武器の点検を行っている。
「良い動きじゃねぇか、じじいの作戦上手くいってるみてぇだな」
「補給と攻撃に別れた分業での戦闘。単純ですが、訓練を分けられたり、諸々の効率は良いです」
「俺たちが帰ってくる時間だけ罠を解除してたり、やっぱじじいの指揮はすげぇよな」
「ひょっとして、軍事関連の家の出だったりするんですかね?」
「そうじゃねぇと説明付かねぇよ」
補給の係が1人戻ってきた。ヴァルトに声をかける。
「そろそろ、名前付きが出てるはずですよね……?」
「ベストロの出現が止まない。……こりゃとりあえず異例の事態だな」
フアンは壁上を見渡すと、戦士の1人1人が、徐々に疲れを見せ始めているように見える。誰かが走りながら、指示に出しをしているように聞こえる。
「お前とお前、交代だ。ベストロが止まない、少しずつ交代していくぞ!」
ヴァルトがそれに目をやった。
フアンは遠くを望むようにする、ベストロの中を掻き分けるような視線を向け、何かを探すが、そのうち、奥から何か大きなものをが迫ってきていることに気付いた。
「あれ、名付き……いえ、名付きだけじゃない……」
赤く黒い絨毯を踏み荒し、突撃を敢行する巨大な者が現れる。後ろには、ベストロが続いている。
「名付きと絵付き……同時に現れました!」
「対応するしかねぇ、種別は?」
「ライラプスとサテュロス。ライラプスは昼に遭遇した名無しの犬より、大型で強暴です。サテュロスは山羊のような顔を持つ大きな人型のベストロ、これはノイを正面から戦わせましょう。数がいますが、弓矢でも十分に迎撃可能です……でも」
「絵付きはなんだ?」
「…………ベヒモス」
「絵付き最強角かよ……!」
ヴァルトら付近の全員が、その戦慄に蝕まれる。ノイは慌て出した。
「え、ど、どうしよ……!」
「ベヒモスはとにかく攻撃性が強いです。障害物はもれなく破壊、とにかく前進してきます。それから、少しだけ知能があり、人の武器を覚えたり、投石をしかけてきたりします」
「それどれくらい届くんだろうな、あまりその辺は書いてなかった……」
「聞いた話だと、そこまで頻繁には行わないとか。攻撃で傷付いたときに使ってきたとかも」
「個体差か……防壁は持ちこたえられそうか?」
「何度も攻撃されては無理でしょう。鉄を合わせて色々頑張ってますが、結局この防壁は木材が基本の設計ですから」
ベヒモスは、速度を上げて此方に迫ってくる。隆々とした筋骨を剛毛に隠したそれは、顔だけでなく腹部にまでに口を付けている。4足で走行しながら、嗚咽に似た低い音で喉を抉りながら出すような雄叫びを挙げ、眼前の木製の粗末なクローシュを自らの手で開けまいと睨み付けた。
「う、うてぇ~~!!」
震える心を必死にこらえながら、壁上の戦士全員が矢を放った。1本1本刺さりはするが、蚊に刺されるよりも遥かに反応が鈍い、それらに続くベストロらには多少被害を与えた。名無しの軍勢の前線すら破壊しながら、それらは一斉に飛び出す。低空で飛行する名無しを噛み、喰らいながら潰し、己が我欲の一端を充たしながら。
「ヴァルト、どうする!?」
「賭けにでるしかねぇ……門を普段上げたり下ろしてるやつらいるか!」
数人が手を上げた。
「お前ら」
ヴァルトは何かをその者らと話す。
「頭に、野郎が来たときの作戦入ってるよな!?」
全員が首を縦に降った。
「俺ら3人は全力で奴を仕留める。あれをそのまま壁に寄せるってのが、一番の問題だ。あの眼前に障害さえなけりゃいいんだ。じじいの作戦その1……っつうか、ベヒモス相手にはこれ1個しかねぇ。やるぞ!」
ヴァルトは皆に指示を出し、その通りで全員は配置に向かう中、ハンナが声をかけた。
「ヴァルト兄さん」
「どうした」
「ベヒモスの目は、潰さなくて良いの?」
「この作戦は、ベヒモスをあのまま真っ直ぐ走らせる必要がある。そうやって考えられるなら、お前は大丈夫だな、名付き供の足止め頼むぞ、俺らは下に降りる。ベヒモスが生きてる間、壁上で一番強いのはその時、お前だハンナ」
ヴァルトと話が終わるとハンナは矢をつがえ放ち、サテュロスの膝を撃ち抜いてみせた。走る速度が落ちている。
「任された」
下に階段で降りるヴァルトら、ノイは階段を降りきってすぐ近くに置いてある例の“アレ“を手に取る。顔を渋った。
「えっと、ごめんもう1回説明して!」
「1回も説明してねぇよバカ」
「え?あ……よし来い!」
「まず頭をベヒモスの頭の真ん中に向ける。ケツは水平……向けたら、引き金を引け。しっかり踏ん張れよ、じゃねぇと効かねぇ」
「水平……?」
「んで……はぁ?んあぁくっそ、カチッとやってドンっ!!だ、分かったか!?」
「めっちゃ分かった!」
「マジか」
ノイはそのカチッとやってドンをひたすら連呼しながら、内の門前から少し離れて、アレを装備している。壁で上から、誰かが叫んだ。
「近いですよ!!」
足掻きが始まった。
2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。