十話 火器奪取作戦
第十話 火器奪取作戦
フェリクスが先頭で登る。近衛兵特有の、太い円筒のような胴に青で水平にてっぺんが張られ、ツバが水平についた帽子を全員が深くかぶり、顔を布で覆っている。蓋を開けて、明かりが差すと、周囲で銃を向けている近衛兵が数名いた。
「何者だ!」
フェリクスは顔だけを出して、話す。
「第1倉庫の部隊です。第5倉庫方面に向かって走るベスリアンを発見、下水道に」追い込み、4体討伐しました」
「おぉ、そうでしたかっ……うぅ、酷い匂いですね」
「汚れを落としたいので、第5倉庫の設備をお借りしても宜しいでしょうか?それkら、遺体の確認をお願いします」
「はい、では上がって下さい」
こもった声で声を出しながら、登り、全員が地上に出る。ノイが、女性の近衛兵に話しかけられた。
「あなた、それおろしなさい!」
ノイはリリアンを抱えるように持っていたのを、近衛兵は銃床を使ってはたくようにして、ノイから落とさせた。足から落下して首を打ち、鈍い音が響く。
「こんなに血で……ベスリアンのだっていうのに、あなたもっと危機感持ちなさい!?」
「えっ、えっと……えっ?」
「はやく落とさなきゃ、あなたまで穢れてしまうわ……みんな、この子連れてくからあとお願いね!」
ノイは布越しに手を握られて連れてかれた。
「了解です。では皆さん、死体はここに置いて下さい。我々で焼却しておきますので」
「了解」
フェリクスが雑にフレデリックの死体を投げ、テランスに小声で話す。
「できるだけ雑に扱うんだ……いいな」
テランスも同様に、投げる。テランスとヴァルトでニコルとロベールも投げられる。
ヴァルトは兵士の一人に、距離をおいて話しかける。
「なぁ、あんた。ここで武器を点検してもいいか?下水道で仲間にがいくつか色々と詰まらせちまってよ」
「はい、場所は分かりますか?」
「できれば案内を頼みたい」
「まずは服を着替えるのが先かと」
「だな……んじゃ、全部頼んでいいか?」
「了解です。討伐、お疲れ様でした」
変装した行動隊は歩いて、第5倉庫に向かう。その後ろで鳴る音は酷かった。
「コイツら、本当にどこでもいやがるな」
「見ろ、コイツ耳が切られてやがる。そんなんで自分がベスリアンじゃないってか?ったく、気楽だな……なぁ、っオイ!!」
死体は蹴り飛ばされた。
「はっ、身の程をわきまえろってんだ。お前らは主から完全に見放されてんだよ。この聖なる都オルテンシアにズケズケ入り込んで何してやがったんだ?ったくよ!」
「おい、ほどほどにしとけ。街が汚れるだろ」
「了解です先輩……あぁ獣クセェ、これが嫌だから近衛兵になったってのに。このクマ野郎とか、とくに匂う。腹でもさばいたら、子供の骨とか出てきそうだぜ……」
「まぁな、でもなに食ったらこんな匂いに……人だけとは思えない」
「下水道の水とか?」
「はっはっ、それは食べるではない飲むだよ。おっと……」
「あぁ先輩笑った~!仕事中っすよ~?うりうり~っ」
「おい、腹をつつくなっ」
テランスが、拳を握り締める。
「……彼らは、彼らが同じに見えないのか?」
「堪えろ」
ヴァルトは、疑問に思う。
(コイツらは、銃を持ってても良いってことだよな……近衛兵、指揮系統が別ってのもマジみてぇだな)
前列にはヴァルト、近衛兵がそれを先導していた。
第5倉庫へ到着すると、ノイが女の近衛兵と一緒にいた。ノイの顔色が酷いので、ヴァルトは近寄る。
「おい、大丈夫か?」
ノイが思わずヴァルトに駆け寄るのを、近衛兵は止めた。
「何考えてんの、近寄らないで!まずはその汚いのを落として、服も着替えて、いい!?」
ヴァルトらは随伴していた近衛兵らによって、第5倉庫の裏手に向かった。穀倉のようにも見える倉庫を、ヴァルトが見る。
「……穀倉、小麦でも入れてたのか?」
近衛兵が反応した。
「ですね、元々ここは食材を保存する設備でした、その通気性の良さから、武装の保管に適していたので、50年前のベストロ出現のときに改修したそうです」
「じゃあ、火薬とかは樽で保管とかかか?」
「はい、それは第1倉庫なども一緒ですね」
「なぁ、俺ら早めに持ち場に戻りたいんだが……馬車の手配って頼めるか?」
「すみません今用意できる馬車がなく。倉庫前で待機している馬車に乗せる形でなら」
「おぉ、助かるぜ」
「操縦者はすぐ戻るので、お早めに」
「荷物増やしてもいいか?俺ら近衛兵は火器の使用は大丈なはずだから、今のうちに防備を固めておきたい」
「あぁ~、はい問題ないかと。でも旧式しかありませんよ?」
「銃なんて旧式しかねぇけどな」
「それもそうですね」
ヴァルトたちは裏手で水などを浴びて臭いや血を落とし、服を着替える。随伴していた近衛兵は離れた。
「……馬車は一台か」
「ふむ……樽か。積むのはかなり簡単に思えるが、馬車に入れる有用があるかどうか」
「奪っちまうか?」
「暴れることになれば、ここの近衛兵全員を敵に回すことになる……」
「……とりあえず運び出す物はどうする?」
「火薬、弾丸、砲弾、銃、大砲……銃と弾薬は私が運ぼう。旧式なら種別も多い、私がで弾薬の口径ごとに整理する。テランス、お前は大砲だ。ヴァルトくんは馬車をどうにか……できるか?」
「大砲なんて、野外でどうやって使うんだよ。第一馬でいけんのか?」
「担いだ経験があるはずだ、テランスにはな。途中まで馬、そこからはテランスとノイくんに持ってもらう。我々で絵付きを片付ける。名付きほどなら、ジェルマンなどでも対象はできる」
「馬車……馬車……」
ヴァルトは考える。
(まて、50年?じゃあ、こいつは少なくとも築50年以上。倉庫の柱を発破して……)
ヴァルトはフェリクスたちに指示を出した。
内部に入って、フェリクスとテランスで必要な物資を倉庫前方に集めていく。ヴァルトは前方の馬車に行くと、ノイが乗っていた。近衛兵の女が近寄ってくる。
「綺麗になっても、あなたが考え無しなのは分かっていますよ。彼女、ベスリアンの血を浴びたんですよ?どう責任取るんですか?」
「……どうって、は?」
「はぁってなんですか!?彼女の傷付いたのをどう考えているのかって話です!」
「いや、兵士なんだしそんくらい覚悟だろ……」
「だからって、あなた、分かってませんね?ベスリアンの血は、我々の先祖を殺した罪で穢れているんです。それを浴びたというのは、オルテンシアではどんな意味が持つのか、分からないんですか!?はぁ……あの子可哀想に」
ヴァルトは馬車に乗り込むと、ノイは黙々と場所を開けていた。
「お前」
「ここに乗せる……って思ったから、先に乗ってみた」
「正解だ、頭良くなったか?」
「……かも?」
「大丈夫か?」
「……あの人、勝手に私に同情してくるの。みんなのことも悪くいうし、何ほんと……」
「外で戦ってるのに、誰もそれ考えてなさそうだよな」
「壁を登れるベストロは、銃で撃って殺せるって言ってった」
「さっきの女か」
「……なんだろ、嫌なの、何かこう」
「退かしたらここにいろ。何かあったら馬を守れ」
「馬を?」
「そ、馬を」
フアンは倉庫前方、門を見張れる高い屋根の上で待機していた。鞄に入れた全員の服はキレイになっており、武装も整えてある。しかし、破城釘はない。
(ヴァルトたち、大丈夫でしょうか……ていうか、重いですねこれ……)
フアンは、音を察知する。突如、火炎が巻き起こり、第5倉庫が屋根から順に崩れ始める。フアンは、ただ唖然としていることしかできなかった。だが、フアンは不思議と安心していた。少し経過すると、帳のない馬車が門を出てくる。三頭の馬に連結された馬車の操縦者は手に銃を持って、掲げるようにしている。そして、大砲を担ぐ女性の近衛兵が見えた。
フアンは、見張る位置から飛び降りる。馬車に着地する。
「っしぁぁああ!!」
「テランス、少しうるさいぞ」
「フアン、すぐに武器の整理をするぞ。火薬と装填する!」
「はいっ!」
ヴァルトたちは近衛兵の服装のまま、武装に合う装備や、なんとなく詰め込んだ武装をとにかく掻き分ける。
「奪取の方法……当てても良いですか?」
「あぁ?」
「穀倉を利用した設備、旧式だらけという情報……あそこは、そうした重要ではなう武装を保管する。かなり古い年代の建物だったのでは?」
「……」
「そして、馬車に詰め込める量には限りがある……更にいえば、僕から見える馬車は倉庫前に待機する一台だった。そしてヴァルトは、いまある武装が、すぐ使える状態であると判断している」
「……」
「前段階で使える品を厳選した後、倉庫を爆破……火薬の類の物資を避難させる名目で物を詰め込んで、脱出……」
「おぉ、正解だ。無理くりだったが、とりあえず追手なし」
ノイは装填し終えた大砲を下げ、2つ目の大砲を抱える。
「……これ、使えるのかなぁ」
「大丈夫だ、だがまっすぐ飛ぶとは思えないな」
「じゃあ、ほぼ破城釘みたいに使えば良い?」
「おぅ、そうおうのは任せた」
「わかった!」
ノイは大砲を上向きにして、砲弾を装填しようとする。
「今、これ担いでた?」
白装束が、大砲上に乗っていた。右手で持つそれは、比較的細身の剣。下向きには刃が備わり、上向きにはイヌやオオカミの歯の並ぶ、深い溝を連続する刀身を持つ。錆びた血で溝の汚れておりおぞましさを持つ。
「誰っ……!?」
「担いでたよね?」
「……」
「……あれ、君ら、行動隊?」
フェリクスは持っている長身の、近衛兵の銃に自身が持つ銃剣を取り付ける。振り向き様に一発銃弾を発射する。白装束は頭部を狙ったそれを、大砲に乗ったまま最少の動きで回避する。テランスが大砲を蹴り体制を崩そうとする。
足場を求めて落下する白装束。その隙に接近し、突きで攻撃するフェリクス。フェリクスの銃剣は、白装束の腹部を狙う。白装束の剣の上部にある溝がそれを捉え、捕まえ、溝で挟み込む。力を加えてねじり銃剣はを取り付けた部品に負荷をかけて破壊。
着地を狙ったノイの拳に大きく吹き飛ばされ、馬車の上に打ち上げられ、そのまま減速し馬車の後方に行く。
白装束は、懐から爆弾を取り出し自身の懐で起爆する。白装束は黒く染まりながら馬車に、吹き飛ばされるように接近し、身体の回転に合わせて剣を振りながら接近し、馬車の車輪を狙ってきた。
「んだコイツ!?」
空中にいるうちにフェリクスは銃でそれを撃つ。脚部に命中し姿勢を崩すもそのまま突撃してくる。テランスが銃剣で攻撃を弾き、白装束は馬車の前方に飛んでいく。
ヴァルトは箱の錠を器具で解除し、中にあった大口径の銃を取り出し、装填して発射した。引き金を引いてから発射までの間隔が長いそれで、体が大きく後退するほどの火力を出し、いまだ宙にいる状態の白い装の腹部を撃ち抜いた。フアンがヴァルトを受け止める。馬の上から力抜けてながら落下し、馬の蹄と車輪に引かれ、血を撒き散らして転がっていくのを、フェリクスが再度射撃する。相手が完全に事切れたのをフアンが見る。
「いったい……ともかく、南門へ向かいましょう!」
白装束は、目が霞んでいく。
(これがぁ、俺の命の価値。あっちで幸せ……に……)
―大鐘楼 上階―
「彼の死に、意味があると?」
「それ自体に意味はないよ。だが、我々は常に先を行かねばならん。あの者は部隊のなかでも」
「部下を死なせてまで、これのどこに、その先というものに行く方法が?」
「彼らは討伐を完了した。由々しき事態にあれらも動き出しはするが、一枚岩ではない。我々は我々の目的を果たそう」
「我々はどう動けばよいでしょうか?」
「この国を守るために動くのみだ、猟犬たちよ」
「獣を嫌うのが教えでは?」
「馬とは、便利だとは思わんかね?」
「利用価値で、善し悪しを選別していると?」
「人は結局、利をもたらすのを好いて、それ以外への意識は極端に低いのだよ。愛する者の欠点に目を瞑るように、国民は馬を無意識に受け入れている、それは革新派であってもだ。だから馬車という概念がこの国にもある」
「牛による農耕は広まらなかったのですね」
「それをベスリアンが担っていたからな。種まきも、石臼を回すのも。風車も必要なかった」
「今のアドリエンヌにおいて、それは何で賄っているのですか?」
「……イノヴァドールだよ」
「やれやれ、いったいあの壁の中で何をやっているのやら……」
2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。




