八話 カリネ村
第八話 血縁者
夜の中を、松明を掲げて進む馬車は少し早い。テランスの操縦で馬車は、オルテンシアへ帰還を目指しているが、松明はずっと地面を照らすようであり、テランスは地面を、フェリクスは空を見ている。
「マルセル、おばさん……」
「血痕は途切れていた。両者とも止血はできていたようだが……」
フアンは、足を折り畳んで座って、うつむいていた。
「ねぇ、フアン。もう、無茶しなくていいよ」
「……そうですね」
間が空く、走る速度が、荷台の軽いぶん速く、そして揺れていた。フアンは、首を上に向ける。天井の破れた帳が、暗い夜に泳いでいた。
「僕らは、何に勝って、何を獲たのでしょうか?シレーヌ討伐によるデボンダーデの終息も、なんら目処は立っていない。奈落はただ、空っぽといえました。そして我々は結果として、彼らを犠牲にして脱出したようなものです」
テランスが叫び出す。
「犠牲になんかなるもんか!」
「おいテランス、声デケえって。ベストロが回りにいたらどうするんだ……!」
「……すまない」
フェリクスが口を開いた。
「……君たちの真実を、教えてくれないか?」
ヴァルトがフェリクスの顔を見た。暗い夜を危なげに、上を向いて走っている。
「知ってどうするよ?」
「私は……責任者としての務めを果たすまでだ」
「保安課として、俺たちを調査するか?お前、帰ったら人生ないようなもんだろ?」
「元々オルテンシアに、未来はあまり期待していないのだよ」
「……ほぉ?」
「私としては、君という存在そのものに、何か希望を持っている。マルセルと、同様にだ……」
「大丈夫だ、きっとマルセルなら……大丈夫だ」
風が冷たく、全員の頬を撫でていた。エトワール城までの道のりを半分ほど行ったとき、地面に褪せていない血痕を見つける。濃密なそれは乾いてなく、一ヶ所に固まっていた。それをテランスは見つけ、馬車を止めてようとする。フェリクスは、止めなかった。
「テランス、お前はここを捜索しておけ。ベストロが現れても、交戦は控えろ」
「……いいのかい、兄さん」
「ここから北部に、漁村の跡地があったはずだ」
ヴァルトたちが反応する。
「……そこ、名前はなんていう?」
「カリネ村という」
「……そこ、デカイ船が着けそうか?」
「……それは、君たちとあるいは関わりがあるのかね?」
ヴァルトたちは、黙っていた。
「……そこで夜を越えよう。テランス、夜通しの捜索はするな。彼らが生きていることに掛けるのもまた、仲間への信頼だ」
「……兄さんは、不安じゃないのか?」
「……不安ではある。だがそれがどうした、いつものことだ」
「……そっか、強いな兄さんは」
「心は弱くて、それで良い。強い心と呼ばれるものの大半は、苦しみに疲れ果て、磨耗し、その感受性が麻痺しただけにすぎない。心も体も、強さとは成り果てるものなのだ」
「……そっか」
「必要とあらば、帰ったらイェレミアスに療養の申請を出そう。どうやら、外傷以外の傷を研究する医者がいるらしい。私が話を付けてやろう」
「なんだい、それは」
「心には、目には見えない病があるそうな。それを、対話や実験によって発見し、治療するらしい。兵士にこそ、それは必要だろう。お前はとくにな」
「そんなの甘えだよ、兄さん……」
「そう自分で自分を追い込むんじゃないテランス。使えるものは何でも使うんだ」
ヴァルトは会話にくらいついていた。その言葉に耳を傾けているのを、フアンが感じていた。
テランスは馬車を降りる。ノイも降りた。ヴァルトは声をかける。
「ノイ、お前も行くのか?」
ヴァルトの声に振り向くノイ。
「うん、私とテランスなら、たぶん夜も大丈夫」
「じゃなきゃ困る」
「だから、その……難しい話、みんなに全部任せて良い?私とテランスなら、大丈夫だから、その……」
「あいよ、フェリクスと話はつける」
ヴァルトは、懐から干肉を投げた。
「そんだけしか俺は持ってねぇ、だから正直、早めに切り上げろよ」
「……テランス次第かな」
テランスは首を縦に振った。
馬車は北へ進路を変えていく。月があまり明るくない。血の後の先には何もないので、道なりに、松明も無しで歩く。
「ノイくん、良かったのか?君も疲れているだろう、せめて彼といれば」
「……うん、一緒にいたいよ?フアンともそう。でも、私たちがいても邪魔じゃない?」
「……君たちを、僕はもう信じるしかない」
「信じて大丈夫だよ、天使は……私たちの仇だから」
「天使が仇とは……この世界はどうなっているのだ」
「私たち無しなら、皆も色々と話しやすくなると思う。大丈夫、ヴァルトとフアン、フェリクスさんならきっと……」
「君は、ヴァルトくんとは離れないとばかり思っていたよ」
「……そう、したいかな」
「えらく淡々としているじゃないか」
「だって、本当だし……」
「無理をしたら、困るのは彼らだろう。今すぐにでも」
「無理を、したいの」
「なぜだい?」
「……何だろうね、分からないけど」
ノイは、夜空の雲を見つめる。雲の上裏にある月を見つめて、手を伸ばした。
「追い付きたい、のかな?」
「……力だけの僕らは、こういうとき、無力だからな。分かるよ」
「あっ……ありがとう」
「なぜ?」
「たぶん、そういうことだと思ったから。言葉にできないんだよね、私そういうの」
なんならの外傷でひどく出血した跡に見えるのは、先に向かって伸びており、次第に消えていった。
テランスは嫌な予感だけが募り、そして先を見つめている。
「この辺りを、探そう」
「分かった」
馬車は揺れて、次第に潮の香りが漂い始めた。暗い水面が水平に望み、何か建物が近付いてくる。
「……崩れた、聖堂か?」
「カリネ村は漁村であり、また旧保安課の純銀軍における、補給拠点でもあった。元々禁足地あたりは宗教的に危険地帯として認識されており、ここに来るのは禁足地の衛兵か、信仰心が極端に高いか、極端に低い者だ」
「低い方も、ここに?」
「信仰心の高さが、かつてはそもそも治安維持能力として認識されていた。オルテンシアから離れていることもあり、危険視している国との貿易を、ここだけで行うようにしていた。オルテンシアの敵とはつまり、ここより北方の島国、ミルワードだ」
フアンは、ハルトヴィンがどうしてミルワードからオルテンシアに来たのかを理解した。
(そうか、なるほど。じいさんはだからここに……)
ヴァルトが、背強くもたれて話す。
「なおのこと分からねぇな、なんでここに信仰心の低いやつが?」
「密輸だ」
「あぁ、そういう……いや、無理だろ。治安維持能力がって」
「信仰心を、そのままそれに直結させていたのだ。つまり、法整備をしていない状態で信仰心頼りに野放し。信仰で知略に勝つには権力しかないだろう?」
「抜け穴も良いところではないですか?」
「あぁ、だが昔からこれでこの国は成立していた。他国の経済的成長が顕著になる前はな」
「法的整備から何まで信仰に頼った結果、この国だけ置いてけぼりくらった訳か……まぁ前まで科学ダメだったしな」
「身に振りかかる苦しみ、災害、疫病、現象の全てに主などといった巨大な存在による干渉を紐付けることによって、人々は不幸を耐えてきた。それはつまり、問題解決の完全な放棄と言える……科学の否定という、宗教的な事情で問題解決を放棄したこの国では他国に敗北するのは目に見えている。その意味で、この村を通した密輸は、ミルワードからの文化的、経済的侵略だと考えてたものは、きっと私だけではないだろう」
「ほぉん……」
馬車は、大きな船は座礁しているところで止まった。家々の残骸には、生々しく剣nお刺さった遺体などがある。フェリクスがその骨が付けた装備を見る。
「これは、純銀軍……!?」
フェリクスがあたりを見渡すと、ぼろ布をまとった遺体の他に、銃口が広がった短銃を見つける。それを握る遺体の服装は、引き裂かれて形容しがたいが、どこか紳士的であった。
「ミルワードの人間……ここで争いがあったということか?」
フェリクスは銃を手にする。
「我々が使う銃に酷似している……いや、むしろ我々の銃がこれを真似たのだろうか?」
フェリクスの使うものと同様に、先込め式の銃に見える。
「銃口が広い。装填はやり易いだろうが精度の悪化が気になるな……かなり近接用に作られたのか。なるほど、波で揺れる、せまい船の上を想定すればこの武装は妥当か……」
フェリクスは、ヴァルトたちを見た。
「……あるいは君らのいう神父様とは、ここにいる彼らの関係者か?」
「唐突だなおい」
「イェレミアスの技術力はオルテンシアと同等ではある。だがテランスの反応大剣やマルセルの回転ノコギリ、カルメの折り畳み式複合弓……あれら特化礼装は、保安課設立当初に聖会から出された案であり、当時の天才たちによる叡知の結晶と呼べるものたち、それらを原案にマルセルが改良を重ねたものである。イェレミアスに、彼らと同程度の知性を持つものがいるとは思えない。だがミルワードなど、他国から来た存在と、ヴァルトくんがいれば……と、考えたのでな。ベストロの素材を利用した発破装置など誰が思い付く?」
ヴァルトは、刀剣を構えた。
「フアン」
フアンも、袖を振って剣を取り出し構える。
「ごめんなさいフェリクスさん……」
「……良い、そのまま続けよう。そして、あのレドゥビウスという者との面識も含めれば君らの正体とは、私の想像の外側にあるのは感覚的に分かる。私という存在に警戒は怠るな。何より私は銃を持っている。そしていま、我々は天使という共通の目標を持っている。君らは、それを主張したいのかね?テランスは離した、ノイくんも離れた。話し合いといこう」
フアンの力が抜けた。
「……はい。ヴァルトはそのままでお願いします」
フアンは剣を地面にそっと置いた。動きに合わせてフェリクスは、銃を固定する腰巻きなどを外し、地面に置く。
「……テランスを捜索に出した理由、これだったんですね。助かります」
「そうだ、ノイくんもここに同席させるつもりだった。1対3で1人は筋力の外れ値、私に向ける戦力が多いほど、私への信頼は上がると考えた。だがしかしあの娘は……こういう汚い場面には向かないと思える。ヴァルトくんもそれはわかってのことだろう?」
「……あぁ」
「そうか……それで良い」
フアンはもう一歩、踏み出す。
「あなたは、テオフィルという人物を御存じですか?」
「ここまで来て、嘘を付く理由はない。そうだ、あの方は私の味方だ」
「……シレーヌ討伐戦の前に振る舞われた食事って」
「おそらく、あの方からの餞別だろう」
「……美味しかったです」
「それは良かった、伝えておこう」
フェリクスは一歩近付く。
「……君らは、何を持って動く?」
「我々は、天使を追っています」
「それが、行動隊に入る理由に、その実力をつけた理由に?」
「いいえ……力は、守りたいものがあったからです」
「あったから……あの天使は、仇か?」
「仇の仲間です。仇の、あの女天使の恐ろしさはレドゥビウスの比ではありません」
「……ハーデンベルギアと、君たちの関係は?」
「知らねぇよ」
ヴァルトの目が、少し怖くなる。
「ヴァルト、堪えて下さい」
「……わぁってる」
「……フアンくんとハーデンベルギアは、別問題というわけだな」
「お前、イェレミアスになんか医者があるって言ってたな?」
「あぁ……」
「そこ行って、なんとか思い出せないか聞いてくるよ。お前知ってんだろ?俺のこと」
「ヴァルト……!?」
「いつだったか、廊下の外で聞いてたんだよ、ったく人のこと勝手によぉ」
「……すみません」
フェリクスはフアンに近付く。
「大きな謎を前に、私はもはや、手や首に付く爆弾に火をつけてでも、壁を破壊する必要があると考える。私の目的は、真実の解明だ。この世界の謎を突き止める。それが、死んでいった父や、悲しみに暮れた祖母への手向けとなると信じる。悪を暴き、正義を立て、不義理を断罪する。シレーヌが仇でない可能性が高い今、私がいまだ過去に囚われているともいえよう。そしてこれは、テオフィル様も同様である」
「そのばばあの狙いはなんだよ。そいつもあんらのばばあみたく生き残りか?」
「……帰ってから、直接聞いたほうがはやい」
フアンは一歩近付いた。
「僕らの思いは……」
アマデアに言われた文言を、思い出す。
―なぜ、自殺していないのですか?―
「……僕は、はい、僕こそ単純に、復讐です」
「……そうか、それが君の。ヴァルトくんはどうだ」
「……」
ヴァルトは、しばらく黙っていた。
「ヴァルト、?」
「えっ、あぁ……俺は、俺は……急に振るなよ、ちょっと待て」
「???」
「まぁ、つってもフアンと同じだ。俺らが背負ってるのは……」
ヴァルトは、刀剣の鞘に刻まれた、拙い名前をフェリクス見せる。
「ラファル・ド・ソレイユ……それがその剣の名前か?」
「……54名の大人と、23名の子供、この文字は、それを表してる」
「君が、いやそうか……全員で、それを背負っているわけか……あの二人を迎えにいこう。寝床は……船の中でどうだろうか?」
「潮でクセェだろ」
「ヴァルト、どこか屋根のある建物を探しましょう」
―翌朝 早朝―
ヴァルトたちは、日の出と共に馬車で走り、エトワール城を迂回するようにして走っていた。
「……ねぇ、ヴァルト、フアン。テランスとフェリクスさんとは、仲良くして良いってことで、本当に良い?」
「あぁ」
「……そっか、良かった」
「マルセルとカルメ、見つかってないんだろ?」
テランスは、フェリクスと馬車を操縦している。
「……あぁ、しかし問題ない。兄さんと二人は、もう仲良しなんだろ?ならきっと大丈夫だ」
「デカイ謎を前に1つになるしかないってのが実情だがな」
「そうか、でも良いぞ。で、ヴァルトくん」
「なんだ」
「君のあの、ビリビリしてドッカンするやつ……俺にもできるか!?」
「無理だろうな」
「どうやってるんだ、教えてくれ!」
「頭の中で出来事を想像して、それを言葉だったり、強く思うこと。命令形で俺が、ぶっ飛べとか叫ぶなり、強く思えばいける」
「フアンくんが雷落とすとか言ってたような、できるのか?」
「あぁ、でも命令だけじゃダメだ。何が、どう吹っ飛ぶかを考える必要がある」
「……???」
フェリクスが驚く。
「君……それはつまり、願いを叶える力では?」
「あぁ~……確かに、そう捉えることもできなくはねぇ」
「もっとジャンジャン使えばいいじゃないか!」
「えげつないほど体調が悪くなるけどな」
フェリクスが思い出す。
「なぁ、ひょっとしてデボンダーデのとき体壊したのって」
「……すまん、あれはマジで俺の落ち度だ。爆発する機構を思い立ったいいものの、構造が面倒でな……何より、ベストロの素材を使うってのがよ」
「まさか、ベストロを作り出したのか!?」
「いや、ベストロの素材は工房にあった。銀で複雑な構造を作るのが難しくてな。銀は重い、めんどくさい。加工にかかる時間も考えて、しかもいつベストロは来るのかも分からない状態で……」
「……すまないヴァルトくん、マルセルもそうだが、君たちに背負わせ過ぎた。焦らせてしまったのだな」
「すまん」
「まぁ、あのときは来なかったし、よかったよかった」
ヴァルトがノイを見る。ノイは目が合って、思わず反らした。
「なっ、何……??」
「そういやノイ、あのとき丁度いたから捕まえたんだが……」
フアンが息を飲んだ。
(何それ、聞きたい!!)
ヴァルトがノイ見ている。ノイは顔を赤くして目を泳がせた。
「なんであそこにいたお前、テランスしばきまわすの訓練だったろ。外にいろよ」
ノイは鎧で少し誇張された胸を撫で下ろした。
「あ~、それなんだけど……」
「まさかお前、面倒になったのか?」
「なんか、探してる人がいるって言われたんだよね。ほら、あの……誰だっけ、あの白髪の……」
「誰だよ……」
テランスが反応する。
「シラク様」
「そうシラクって人、あの人に言われたの、工房の近くでノイを探してる人がいるって……」
ノイは、目を瞑った。
(っていうことにして、お願い!!ヴァルトが探してるって言われて飛んでいったなんて言えないから!!!てか私、すごい頭、回ってない!?)
ヴァルトは、ノイを覗くのをやめた。
「……まぁいっか。てか探してるってやつ、誰だったんだ?なんか俺、面倒なことしたな」
ノイは平静を保てないで、冬場に汗をかいた。
(この話題から離れてよぉぉぉ!!!)
フアンが、オルテンシアの方向を向いた。
草むらから、音が複数。
「総員、右舷を警戒!!」
高いか草をかき分けて、オオカミの名無しのベストロが走っている。視界内に捉えると、吠えて、向かってきた。飛びかかりをテランスが叩き斬って終わる。
「ふぅ、一体だけか。よかった」
フェリクスは、奈落での出来事を思い出す。ベストロは穴に向かっていったのを。
「……奈落で、テランスとマルセルが、犬のベストロに追い込まれたとき。ヤ
あれらは突如として移動を開始した」
ヴァルトが、目にシワを寄せる。
「……なんでかって話か?」
「あれらが奈落の出口を知っているとは到底思えない。私は……過程として、何者かに呼ばれていると推察……いや、妄想した」
フアンが、ナーセナルで起こったデボンダーデにて、初めに感じた違和感を思い出す。
「……呼ばれて、いる?」
「あぁ」
ノイは、ベストロの押し合いが子供たちと重なったことが、ただ気味が悪くなった。
(よっぽど疲れてたのかな私、なんであのとき重なったのよ……)
フェリクスは続ける。
「……そうであれば、奈落にベストロの必要はない。大地の上であっても、ベストロは生殖器がある故に、増えることが可能だ。故に奈落が原因でないとしても、シレーヌが不在であってもそうであればデボンダーデの、オルテンシアへの一極集中などにも説明がつく」
ヴァルトは膝でほおずえをして考える。
「……まて、じゃあなんで奈落のときベストロは」
「あるいは、起きているのかもしれない……」
昇る朝日に照らされる大地には、無数の足跡がオルテンシアに伸びている。足跡をつけた者の自重でえぐれており、盛り上がった土はまだ湿っている。
「第三次の冬季デボンダーデが……!」
「季節あたり2回だろうが、めちゃくちゃはやく終わらせやがったから印象ねぇけど、もう冬季は二回起こったんだろ?」
「あぁ、だからこそ私も今の今まで思いあたらなかった。だが辻褄が合うとすればこうだと仮定し思考するのは、物事を紐解くにあたって大切なことだろう」
フェリクスは、下を向いている。
(そもそもなぜ季節あたり確実に2回なのだ、ベストロは極端な話、地震や台風、洪水と同じ自然災害であろう。中央の大型の鐘によって知らせが来るのも違和感がある。そのような情報収集力があるならば、なぜ私のような地位の者にすら、その技術の詳細が教えられないのだ。力があるのならば、国を、国民をまことに生かしたいというならば、それらは広めるべきだ)
「フェリクス、考えてることを話してくれ」
「は幼少の頃、孤独の果てに陰謀論を思う人生だった、そしてこれはその延長戦上にあるものである……聖典教こそ、デボンダーデを引き起こす元凶である。天使を人類の敵とするなら、それらを信仰対象とする聖典教は、こうなってはもう怪しさの塊だ。テランス、馬を飛ばすぞ」
「マルセルたちはどうするんだい兄さん」
「……後にするしかない、大丈夫だ。あれらは存外しぶといのは我々が、あのレドゥビウスとやらより何倍も知っている、マルセルは5日連続で徹夜した経験を持つ。カルメの実力は、マルセルを抱えてのあの速力から、我々には実力を隠していたともいえる。何より、マルセルくんはカルメくんのことを好いているのだろう?」
「たぶん、おばさんも満更でもなかったと思う、本当に多分だけど……いや、そうあってくれ!」
「野外で追手を背に二人きり、物語の始まりとしては、いささか以上に僥倖ではないか?」
「そうだね……兄さん!!」
二頭の馬は駆けていく。えぐれた地面、共食いにあったベストロの残骸、エトワール城のように、ある程度形のある骨が転がっていることはなく、バラバラのものが多い。どこまでも広い爪痕は、足跡は、やはり一方に伸びていて、それる足跡もあまりない。
2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。




