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ブルートアウス ~意思と表象としての神話の世界~  作者: 雅号丸
第三章 信人累々 二幕

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五話 脱出

第5話 奈落を脱出せよ


了解の返答を全員が告げる。砂塵の上を走る6人は、肉々しいのを踏みつけ始める。マルセルが鼻を塞いだ。

「足場に注意して下さい、臓器が散らばっています!うっかり踏めばころんでしまいますよ!」

フェリクスが前方を見る。名無しのイヌや猫が突撃を開始する。

「マルセル、先頭でノコギリを構えろ!前からくるベストロは巻かせる」

マルセルはノコギリを駆動させ突撃し、かかってくる名無しが回転や、機構に絡まり、挽かれていく。木クズのように骨は砕かれていき、それらを回転する軸に詰まらせながら、大きく凪はらって連なる死体を振り払い、詰まりを解消して再度回転し始める。前屈みに、槍で突くような体制で回転するのを付き出して、考え無しにかかってくるベストロを捌いて、喉を掻ききって骨を削り、瑞々しく肉々しい金切り声をあげながら、ノコギリはチミドロに染まっていった。

「側面と、それから名付きが来たらはお願いします!」

クマの名付きが側面から現れた。大きく吠えながら立ち上がり威嚇する。テランスは担いだ大剣を捻り火薬を添付し、振ってくる鋭い爪に刀身を叩きつける。衝撃の摩擦で表面についた火打石から引火し爆発。爪は腕ごと吹き飛ばされた。

「おっらぁぁぁ!!」

体制が崩れたところをテランスは飛び込み羽交い締めるようにしてそのまま張り倒し、倒れたままのそれの首をはねた。

オオカミのベストロ、ライラプスは3頭で同時にかかってくる。フアンが二刀を変形し槍にして、振り回して撹乱しライラプスを散らばらせる。一体がフアンに襲いかかるのを後ろからフェリクスが短銃を発砲し負傷させる。フアンがその隙で一体仕留めると、フェリクスが撃った銃を交換する隙にライラプスが二体、発射した右手の方から仕掛けた。全体に影響が出ないように少し離れるように回避しながら銃剣を装着、し左手で発砲、能天を撃ち抜き一体仕留める。残る一体がかかるときに寸手で避けながら、目を切り裂き、着地でよろめいたところを刺し殺す。銃を入れ替えながら交互に8発撃つと、懐から弾と火薬を取り出す。ヴァルトがそれを見る。

「フェリクスが装填に入るぞ!援」

フェリクスは発砲した。ヴァルトは見紛ったと思い二度見する。

「愚問だぞヴァルトくん、私は指揮官だ。兵士に守られるようなやわな者に、指揮など務まらん」

ヴァルトが驚く。

(弾丸と火薬、別れてんだろ……先込め式は再装填に時間くっそかかるはずだ……)

「再装填など、瞬く間に行える」

フェリクスは周囲にいるベストロを視覚に捉えた。

フェリクスは握る弾丸と火薬を瞬時に装填し4発射撃する。飛びかかる名無しの脳天に、それぞれ花が咲く。

再度4発。半獣に近い羊の二本足、サテュロスの四肢を破壊した。

銃剣で、ひざまづいたサテュロスの喉を掻ききって。8つの銃を上空に投げる。落ちてくるそばから再装填し、姿勢を変えながら、装填する度に射撃していく。一体にいるベストロに負傷を追わせ、7つ絶命させた。落ちてくる8丁目の銃を装填し、頭部を抜かれて落下し、立ち上がろうとするツバメのベストロに銃を突きつける。銃は発砲された。発砲と同時に、ケリュネイアがベストロを蹴散らして突撃してきた。

「絵付き、ケリィネイア……縦断は避けるが、テランス!」

テランスが地面を叩き付けて、ケリュネイアは横にズレて避ける。

「フアン、マルセルの守り頼む!」

ヴァルトに合わせてノイがケリュネイアに向かう。姿勢が爆風でよろけるところにノイが戦棍で殴りかかり、下がった首を骨折させる。負傷した箇所をヴァルトが、鞘の引き金を引いて抜刀しはねた。マルセルへ、ベストロが数体近寄った。マルセルが、周囲にフアン以外でいないのを確認する。

「フアンさん、しゃがんで!」

マルセルは大きく4周、自身も回りながらノコギリを、さらに加速させて振り回して、かかる集団を玉砕させた。さらにかかるの5体の名無しは、フアンにより凪払われていく。周辺が一層され、マルセルの止まった歩みが加速し走る。引っ張られるようにして、全員が走る。マルセルが口をふさいで、切り刻み続けながら走っていく。

「どれくらい進めてますかね!?寄ってくるベストロ、片っ端から倒してますけど!?」

「穴まで半分です、この先絵付きも多いので、前衛を交代しましょう!僕が先導して、穴を開けます!」

「……お願いします!」

ベストロの皮膚が絡まってきたのを、火薬を発破して強引に剥がして下がる。しゃがんでノコギリの機構を開閉し、火薬を装填し始める。フアンは相対するあサテュロスの先に、ベヒモスともケリュネイアとも違う、絵柄付きのベストロが見える。犬牙は鋭く、喰らうだけに生きるような風貌を見せる。食らった数を彷彿させる巨体には、2つの犬の首が付いていた。薄い毛に覆われていて筋肉質であり、尖った耳と短い尻尾。片方で周囲のベストロを捕食しながら、もう片方で周囲を警戒し、フアンと目があったように感じた。

(名付き、オルトロス……筋力や速度、どちらも驚異的な強さ。だが何より、別れた頭は各々の思考で動き、あらゆる動きに反応してくる。この集団を相手にしながらあれは、相対してはいけない)

フェリクスは8丁の銃に弾丸を込める。部隊は進行を続け、走るのをやめないでいる。前方には、絵柄付きが何体も存在する。

(ベヒモス、ケリュネイア、オルトロス……全種というわけではないにしろ勢揃いはか……だが、突破が不可能というわけではない)

フェリクスは、絵付きの傍で名無しや名付きのベストロがその傍を離れようとするそぶりを見た。指示で、進行方向をベヒモスに向ける。ノイとフアンで先行し、突破していく。

「絵付きはアベランを除けば環境下、最強のベストロ。ベヒモスは巨体で、共食いの量も比例して尋常ではない。あれには、名無しも名付きも寄らない!あれにしがみつけ、ひとまずそれで、囲まれることはなくなる」

ヴァルトが走りながら、少し刀剣を研いだ。

「んで、そっからどうする!?」

「絵付きだけはかかってくるはずだ。ベヒモスにしがみつきながら、襲いかかってくる他2種の絵付きを狩る!」

眼前に来る名無しに対して、フアンは流れるように2刀で切り刻んでいく。

(小型のベストロに対しては、いままで通りに振れば良い)

サテュロスが付近の、ネコの名無しの死体を片手で持って襲いかかった。

(中・大型は一度崩す必要がある。しっかりと腰を据える、肩、腕、指、全ての力を連動させ、重心を傾けて力を集中させろ!!)

フアンは流れる動きから一転し、重厚な、鎧でも来ているような動きで刀剣を振りかざす。膝を打って弾かれるも、サテュロスは崩れた。姿勢を柔らかく飛び上がり、また流れるようにして首を切断した。巨大で下向きに曲がった角から、勢いよく地面に落ちた。フェリクスがそれを見る。

(型はなっているようだな……)

ベヒモスは、やはり角などが全身に映えている、首のない猩々であった。以前あったのと変わらないから、ヴァルトたちは怖れなかった。

テランスが先行して、大剣を振りかざして爆発し、ベヒモスが怯む。少し怯んだところに、一瞬で全員がかかり足元に入る。胸元にある大きな、牙だらけの口からヨダレが血混じりで垂れ、腕を曲げて前傾し食らおうとする。

「回避っ!!」

マルセルが少し遅れる。足元を出ると、すぐさま全員はベヒモスの全身にある角を登っていく。テランスとの素早すぎる動きに引っ張られ、マルセルは焦って上ろうとして、手をかけるのを失敗して落ちかける。

「あっ……!!」

テランスが気付いて、落ちるように手を伸ばしてしまう。

「マルセルぁぁ!!」

ノイが片手でマルセルを掴んだテランスを持つ。

「ちょっ!」

「ノイくんすごいな!!」

「みんな先いって!!」

ベヒモスの動きで揺られ、遠心力で少し浮いてしまう。腕を捕まれた状態で浮き上がり、自由になってしまった足首に名な無しのオオカミ型のベストロが噛みついた。直前でフェリクスは銃を構えたが、動きで姿勢が崩れて命中しなかった。

牙が鎧をかみ砕き、貫き、骨まで届いて出血し、血がその喘ぎと共に吹き出た。

「あぁぁあああっ!!」

「マルセルぁあ!!」

フェリクスは再度発砲しベストロを倒した。テランスは腕力と腹筋だけで、繋いだマルセルを、足場無しで持ち上げて、上に投げる。そして、上でヴァルトとフアンで捕まえた。フアンはマルセルが装備している回転ノコギリを回収して一旦装備した。

「マルセルくん、大丈夫ですか……!?」

「足首、を……」

ベヒモスの動きは、全員を振り落とさんと必死になっていく。ノイはとっさに、所持している大きな荷物を地面に投げ、ベストロがそれに群がる。それを他所に、ノイはマルセルを掴み、背骨の上で、筋力だけで固定し自身も安定させる。

「ノイ、そのまま固定してろ、俺が処置する!テランス、俺を動かないようにしてくれ!フェリクス、フアン、あと全部なんとかしてくれ!!」

フアンとフェリクスが胸部の上、うなじのような箇所で伏せてしがみつく。

「頼んだぞヴァルトくん!」

「フェリクスさん、どうします!?」

「ベヒモスを動かさない必要がある……が、それは無理といえよう」

オルトロスとケリュネイアが面々を見ると、ベストロたちを挽き殺しながら接近してくる。

「さきに来るのは、やはりケリュネイアか」

(ベヒモスと同等級の大きさが、4体で一個のベストロ……面倒なことだ)

先に2体のケリュネイアがかかってきた。残る一体はやはり、後ろで見ている。

「揺れるぞ!全員、つかまれ!」

ケリュネイアのうねり、枝のようにして別れる角が4本、ベヒモスに近寄る。ベヒモスは腕で全てを受け止め、突き刺された。衝撃がベヒモスの全身に伝わり、衝撃で全員が揺れ動く。ヴァルトとマルセルはそれぞれ、テランスとノイによって支えられていた。テランスはマルセルを、顔色を変えて見ている。ヴァルトが大きく揺れた。

「うおっ、くっそ……テランス、しっかり支えててくれ!」

「……あ、あぁ」

ヴァルトが肘で鎧を叩く。テランスは首を横に、一瞬でなんども振った。

「テランス、集中しろ!!」

「すまない、頼むぞ!!」

ヴァルトは破壊された鎧の箇所を見て、脚部の鎧を全て外した。鎖の膜のような鎧が見える。

オルトロスが接近し、ケリュネイアを攻撃し始めた。ベヒモスの動きが鈍くなる。2頭のうち1頭は回避したが、真後ろからこられたもう片方は発見が遅れて後脚を噛み潰される。

「くっそ、これ外せってか……!?」

「私がやる!マルセルを抑えて、離すよ!?」

「待て!!」

ベヒモスは叫びながら倒れたケリュネイアを殴る。オルトロスが腕を噛み、潰すように顎に力を入れるが、振りほどかれる。

「よし、やれ!」

ノイが下鎧を力いっぱい掴み取る。

「んんえい!!」

革を引きちぎるようにして鎧を破壊した。

「ノイ、膝を縛れ!血管を縛って血の流れを抑えるんだ!」

オルトロスはケリュネイアを転倒させて首を噛み、暴れる体をを抑えていく。後ろで控えていたケリュネイアがオルトロスに突撃した。オルトロスは片方の首でそれを見ながら、捕まえているのの角をもう1つの首で食らいつき、瀕死になったケリュネイアを振り回して後ろから来た、一回り大きなケリュネイアに攻撃した。

「全力でだ!破れやしねぇ、優生だからきにすんな!」

ベヒモスが勢いよく突撃するも、振り回されるケリュネイアによって動きを封じられる。ノイは少し姿勢を崩した。

「うおあっ、マルセルくん、痛いからね!」

ノイは言われた通りに、膝を縛った。

「うえぁ……!」

ヴァルトは鞄から革袋に入った水を取り出し患部にかける、血を洗い流して容態を確認すると、出血が完全に止まっていた。

帰るまで時間がかかったら、さいあく壊死して膝下は使い物にならなくなる。頭回せ、切り抜けるぞ!」

体を回しながら、ケリュネイアをの足元を攻撃するオルトロスは、避ける方向を予測するように見やる。

「マルセル、血は止めた。だが左膝から下の感覚がなくなっていくと思う」

角を放して体を軽くすると勢いよく踏み込み、角を噛んでいた方とは違う首で噛みついて拘束した。

「怪我したところに、砕けた骨が残ってるかもしれねぇ。くそ痛ぇだろうが我慢してくれ!あとはここを切り抜けてからだ!」

「何か、できることは……?」

フェリクスが駆け寄り、マルセルに銃を一丁渡した。

「マルセル、何かあれば対空を頼む。フアンくん、良いか?」

落ちて立ち上がろうとするケリュネイアを再び噛み、持ち上げて相手の角に大きく振りかぶって深く突き刺した。重みで一回り大きいケリュネイアは動けなくなってしまった。

「しかしオルトロス、なぜ強いのでしょう……特筆して聖典には強さは書かれていないはずです」

フアンは聖典の内容を思い出すも、現状としてあるオルトロスの優勢に疑問を持った。

「そもそもイヌやオオカミといったのは、もとから身体の構造が運動や殺害に特化しているという研究もある……あれの強さは、知識のない人間がが森に入ればオオカミに食われる、あの自然が、すでに強さを保証しているのだ」

「できるだけ負傷させる必要があるのでは?」

「我々の目的はあの穴だ。あそこまでいければ良い。今はこれらが争っていれば良いのだ。しかし思ったよりベヒモスが動かない、いやそれは良いことだが……」

フアンは、過去見たベヒモスを、できるだけ思い出した。そして思考し始める。

(1対1対2……ベヒモスが静観している幸運、いや待て、やはりベヒモスが動いていないのは奇妙だ。ナーセナルのとき、ベヒモスは進行方向に向かってまっすぐ向かってきた。我々を襲うため……?武装を覚える知性はある、追い込まれれば投石も。だがそれらをベヒモスはしていない。この個体は戦闘経験があまりないのか?だが、あのエヴァリストという人物にはいち早く気付いた……視界、視界に対する強みを持っている?それに、オルトロスには攻撃を…奇跡なだけ?)

フアンは話始めた。

「ベヒモスは、武装を覚えるような知性がありますよね?」

「あぁ」

「おそらく、いま乗っている個体はすでに、武装を覚えるように、ここにいる三種の絵付きに、何らかの……そう、序列をつけているのでは?オルトロスにはあまり手を出さず、ケリュネイアには手を出す、といった」

「序列を学習……武装を覚えるというより、自身をわきまえるという項目に後で特徴を変更する必要があるか……まて、ケリュネイアには手を出す?」

「それを使えないでしょうか。ここから、あの遠方の穴付近で待機しているあのケリュネイア。あれに傷を負わせれば手を出すのでは?」

「あれに誘導できるように仕向ける……しかし今は動いていない現状がある。それにこう話していられる以上、我々を振り落とそうともしていなくはないか?これが単純な疲労状態になっている可能性も」

「現状の変化を見ているんです、きっと」

「……ベヒモスの合理性に、突破の鍵があると、そう踏むか?」

「はい、先ほどベヒモスは、より驚異であろうオルトロスではなくケリュネイアを殴打しました。しかしベヒモスは、オルトロスの意識が、他のケリュネイアに向かった瞬間に、2対1をオルトロスに仕掛けました。この個体は、あるいは知性などにおける優生の個体なのではないでしょうか?であれば、遠方にいる一体に対して、あれが負傷すれば、あそこに向かってケリュネイアと戦い始めるかと!」

「……それを、どうやる!?」

フアンは、ヴァルトを見た。その背中には、アレがあった。

―穴に入る前、馬車の中―

「荷物はまぁノイとテランスが持つとして……これはどう持てば良いんだ?くっそ重てぇんだよなぁ」

「それも私でいいよ」

「いやさすがに……俺が持つわ」

「そっか……」

テランスが、ヴァルトたちが持つ筒のような武装を持つ。

「重たいなぁこれ……あのときの大砲みたいな……いやあそこまでじゃないか」

「けっこう軽量化したんだが……やっぱ、しっかりと重い釘を叩き込んだ方をが火力でるんだよなぁ」

テランスが両端に開いた穴を覗き込む。

「中身、あぁ、ほぼ矢じりみたいな」

「おい、一応それ銃口だぞ、覗くなって」

「あぁ、そっか!危ないじゃないかヴァルトくん!」

「俺が怒られるのよ……」

「しかし、なんか溝みたいなのが掘られてるな??なんだいこれ」

「あぁ、それ……なんかミルワードの技術らしいぞ?施条加工【ライフリング】っつうらしい」

フェリクスは語る。

「我々の持つ大砲や銃もそう加工されている。手入れは格段に難しくなるが、その螺旋状の溝にそって弾丸が回るようにして射出され、旋回運動により弾道が安定する仕組みだ、原理は分かる」

「じゃあヴァルトくん、これ打ち込むだけじゃなくて、射撃にも使えるのか!?凄いぞ!!」

「はぁ?んなわけねぇだろ、元々は弾丸の入らない大砲を目指して設計したんだ。溝にそって回転させて貫通力を上げてるだけだ、射撃の機能は……ん?いや、ちょっといじれば……」

ヴァルトは鞄から道具を出して、構造を固定するネジのようなものを外し、中身を開けて確認した。

「……だよな、うん……あぁ、撃てるな、一応」

「おぉ!!」

―ベストロ、ベヒモスの上―

「ヴァルト、破城釘をいま、射撃できるように改造して下さい!そして……テランスさん、支えるのはもう大丈夫です。上の警戒を!」

「分かった!」

テランスはヴァルトから少し離れる。フアンとヴァルトは極めて、極めて小さな声で話す。

「……弾の着弾に合わせて、ヴァルトの力で爆発を起こして下さい」

「はぁ!?」

「ちょ、声っ……!」

「お前、あれは俺が倒れるんだぞ、二人も戦えないの背負ったら……いや、そうか、物体を作るわけじゃねぇ、単純な爆発だったらまぁまだ……あぁ、確かにいける、のか?」

「はい、しかし問題はまっすぐ飛ぶかです」

「そんな飛ばねぇぞ、コイツを砲身に見立てても、砲身の長さが足りねぇだろうが……いや、火薬以上の爆発をコイツの中で起こせば良いのか」

「はい、僕もそう考えました。そうすればきっと……面倒なことにもならない」

「力を使うと、俺は雷が……火薬が周囲にあるのは面倒だな」

「はい、なのでフェリクスさんに狙ってもらいましょう……雷のことを言われたらもう……オルテンシアにおるのは危険ですが……」

「……」

「言い訳、1つ今、思い付きました」

ヴァルトとフアンは、声量を戻した。

「お前、急に活躍じゃねぇか……」

「ちょっと、足りなかったでしょう?」

「かもな……テランス、やっぱ俺を支えろ!」

ベヒモスは少し動き、目の前でいまだ優勢のオルトロスに再びかかる。ベヒモスは腕を差し出すようにして防ぎ、しかしもう片方の腕で殴った。オルトロスが姿勢を崩し、ケリュネイアはそこに突撃した。

ヴァルトはテランスに支えられながら、動き出したベヒモスの上で作業を開始する。

(破城釘の構造……こっからまずネジを外す。外格を取って、銃身と機構が露出。引き金の上、取っ手……ネジは取れた。取ったらすぐ鞄に、これで銃身を開ける……)

ベヒモスが途端に素早く動き出し、部品が転がる。マルセルが無理に動いてそれを掴み取り、出血した。

「ヴァルトさん……!これ……!」

「鞄に入れてくれ!」

ノイはマルセルからそれを受け取り、フアンに渡して鞄に入る。

(よし、内部構造露出……釘を固定する実包の張り出しを完全に切除すれば……釘を取り出して、こっから……こっからヤスリ?いや金切りだ、やばい時間が)

マルセルが、ヴァルトの知らない間に指示を出す。

「テランスさん、その釘の、一周あるやつ、出っ張りを壊して!」

「分かった!」

テランスはヴァルトから、腕3本はある太さの釘を奪い、出っ張りと釘でちょうど直角な部分を持ち、おもいっきり曲げて破壊した。

「ヴァルトさん、そこから口径に合うように削って!」

「助かる!」

「頭はまだ、使えます!」

ヴァルトは金細工用のヤスリを取り出してマルに削り上げ、ただの円錐状の釘が出来上がった。ヴァルトは一瞬で破城釘を組み直し、フェリクスに投げる。

「フェリクス、ソイツは爆発する弾頭だ!銃弾を回避させてから、あれに向かって本命を撃て!」

フェリクスはただ、ヴァルトの目を見て、そうして奥の、一回り大きなケリュネイアに、銃を構えて発砲、発砲。マルセルを見る。

「グリフォンに使った爆弾は、まだあるか?」

「4つです!」

「テランス、あの足元に投げつけろ!」

「おっしゃぁああ!!おらぁぁ!!」

40馬身は離れた箇所に、テランスが爆弾を落として破裂する。崩れた姿勢にフェリクスは銃を射撃し、さらに回避し姿勢が崩れた。

「もう1度!」

「おらぁぁ!」

射撃しさらにさらに姿勢が崩れる。

ケリュネイアは姿勢を完全に崩したのを見て、フェリクスは破城釘を構える。両腕で肩に担ぎ、屈んで上向きに構える。ヴァルトは刀剣と、鞄から火薬の袋をフアンに渡した。

「火薬量は??」

「大砲一発くらいは入ってるぞ!!」

フェリクスが角度を調整した。ヴァルトが背中の後ろの方でしゃがむ、構えるのをノイが支えた。

ヴァルトはノイが、自身の動きに合わせられているのに、疑問を持った。

フェリクスが引き金を引くのを見て、ヴァルトは強く、脳内で図面や構造を思い描き、そこで爆発するような想像をした。

ヴァルトから雷があふれでる。

「ぶっ飛ばせぇぇ!!」

髪の毛や服ははうき上がり、フェリクスが引き金を引ききる寸前で発射され、フェリクスは倒れる。テランスがそれを支えた。ある程度まっすぐ飛んでいく。崩れたケリュネイアは姿勢を直しかける寸前で、釘はそのそばに着弾する。

「……ぶぅっ飛べぇぇ!!」

雷は散々に待っていく、ヴァルトの大声とズレが少しあって、着弾箇所が極めて大きく爆発した。ケリュネイアの前脚が1本吹き飛び、血が舞うのが見えたのは、行動隊だけではなかった。マルセルがヴァルトをみていた。

「今の……ヴァルトさ」

「グォオアァァアォォォ!!!!」

ベヒモスが突然走り始めた。全員が落ちそうになるが、各自が支えあって乗りきる。四足で、名付きや名無しを踏み潰しながら、その40馬身を走っていく。ケリュネイアから8馬身んほど後ろにある穴が大きくなっておく。シレーヌが通れるような大きさをしている。

「あれだな、ラブレー氏が突入した穴は!」

「あぁ、出口かは分からねぇけどな!」

フェリクスが近寄ってくるカラスやコウモリのベストロを撃ち落としていく。

「おとなしくしたまえ……!」

ベヒモスが急停止しながら拳を構えて突進し、衝撃の瞬間で全員が投げ出された。テランスはマルセルを持っている。ヴァルトが顔色を悪いのでノイが担ぎ上げた。

「走ってぇぇぇ!!」

ノイの声で、全員が速度をつける。穴まで残り6馬身。

ノイはヴァルトを抱えて、フェリクスから破城釘を受け取る。フアンとフェリクスで先方を勤める。回転ノコギリを持ったフアンは見よう見まねで機構を発破して回転させていき、前に突っ込んで名無しの束を切り刻んでいく。フアンの上にきたワシの名無しをマルセルは撃ち落として、落ちる。残り3馬身。後ろからベストロたちをなぎ倒して、オルトロスが迫ってきた。血と肉の弾ける音が、大きく低い2つのイヌの咆哮と共に迫ってくる。フアンは回転ノコギリをフェリクスに渡す。受け取った刀剣を構えて、鞘の引き金を引いて抜刀し、飛びかかってくるオオカミの名付きライラプスを、縦に両断した。眼前のベストロは一層されるが、背後にはすでにオルトロスが口を明けながら迫り、滑りながら、行動隊の後ろのベストロを喰らいながら突進してくる。フェリクスが走るテランスが抱えるマルセルに回転ノコギリを投げる。マルセルはそれを、テランスに背負われながら受け取り起動させ、回転したままのそれを肩に担いだ。

「テランスさん!!」

テランスは走りながら腰を回し回転する。後ろに回りながら飛び上がる。回転の遠心力はマルセルから回転ノコギリに伝わり、そうして投げ出された。そして、避けようのないノコギリがオルトロスの口を掻き削り、刃の回るままに口膣を抉って、喉に入っていった。轟く悲鳴でオルトロスは倒れ、テランスの寸前で顎が止まる。

「うおあぁぁぁ!!!」

全員が雄叫びを上げて、穴に飛び込んだ。それは最初に地上d3入った穴と同様で、奥は暗く、そして次第にぼやけている。落下は、ただまっすぐ落ちていくはずだった。そしておぼろげに、昇る感覚になっていった。

2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。

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