第一章 託児火薬庫 3話
第三話 過去
「あれ、まだ置いてあるかな……」
淡すぎて濃い期待を胸に、作りかけの色々なものが置かれた机の引き出しを見る。
(一番下の……まだあったらいいな)
一番下の引き出しを開けたノイは、その中に何も入ってないのを確認した。
(何も入ってない。でも)
底を触って少し押すと底が取れる、取れたものを持ち上げると、一冊の落書きでいっぱいの木の板が入っている。
「懐かしい!!あっ」
ノイは手で口を塞ぐ。
(声出ちゃった……鍋ずっと持ったままだった、置こう、よいしょ)
ノイは木の板を取り出す、板には手を繋いだ3人が拙く彫られており、文字も彫られている。
(3人伝説……ふっ、ダサいなぁ。私とヴァルトとフアン、まともに会話できるようになって、友達になって……流れで部屋で遊んで、好きなものの話になって。あの頃のヴァルト、今と全然違うよねぇ……今のフアンくらいの、いい子な感じでで、丁寧で笑顔が多くて……今のヴァルトもいいけどね、なんか砕けた感じで)
ノイの体感の背丈は、机に頭がギリギリ届く程度までになっていた。ヴァルトとフアンがいる。
「この屋敷凄いですよね、本がいっぱいあります!」
「学術から物語、なんでもあるよね」
「わたしあれ好き!えっと、なんだっけ「えっとねぇ~えっと」
「一対の旅人?」
「えへぇ!たぶん!」
「たぶんって……ちゃんと覚えましょうよ」
「ずっと2人で旅して、助けて助けて、えっとあと、助けて!」
「うん、助けっぱなしだね。片方すごい辛そうだよそれ」
「男の人はいつもキレイで、女の人はいつも強くてで、ずっと一緒に世界を旅するの!」
「え~、それ普通逆じゃないです……?」
「う~んどうだろう……まぁ人によるかな」
「それに2人って寂しくありませんか?僕とヴァルトだけは寂しいです、僕とノイでも寂しいです。ヴァルトもノイだけでは寂しくないですか?」
「そうだね、2人より3人かもね」
フアンが部屋から飛び出し、適当な板材を持ってきた。
「よし、今日から僕達3人の伝説、始まりましたよ!それを本をにしましょう!名前は、3人伝説!」
「でんせつ!!」
ヴァルトが部屋の工具を取り出す。
「僕が道具で彫る」
「そんなこと、できるの?」
「できるよ、じいちゃんみたいになんでもできるようにならないと」
「なんでも……結婚も?」
「えぇ??まぁそりゃあなんでもできるようになったらできなくはないだろうけど」
ノイは少し笑っていた。
(アホだったなぁ私、あの頃から成長してないね)
ノイは少し顔が険しくなった。
(あれから少したって、ヴァルト様子が変わっていった。今みたいな少しの失礼な感じに……別にいいけど、何かあったのかな?あの頃何かあったっけ……?)
ノイはふと、ヴァルトの寝床を見た。吸い込まれるように近付く。はっと気付きいてノイは頬っぺたを叩いた。
(な、何をしてるの私……)
ノイは、呼吸が荒くなった。
(ヤバい、部屋の中ヴァルトだらけで、何かおかしくなる!あぁあ!)
ノイは寝床に顔を近付ける。理性と本能の狭間で悶える彼女に、マリーの言葉がよぎる。ノイは鼻を寝床に付け、深く呼吸をした。肺を、脳を、心を情に染めた彼女は
一瞬の果てしない幸福の末、深く絶望した。
「何やってんだ私……」
「何やっとんじゃお主」
ノイは心臓を止めながら振り返る、ハルトヴィンがいた。部屋を締め忘れていた訳でもない。
「大概にするんじゃぞ」
ノイは何も言えなかった。そしてノイは只でさえ冷えた肝を一層冷やした。
(夕陽……?)
窓の外をノイが見ると、日の傾きがかなり進んでいることに気付いた。
「まぁ、お主もそういう年頃じゃもんな。ヴァルトは優秀じゃし、ワシが同い年の女じゃったら、気持ちは理解できんこともないが」
ノイはハルトヴィンの方に向き直り、また黙って聞いていた。
「の行動は理解できん、ヴァルトを探すのを手伝え、このことは黙っておく」
「あ、ああありがとう、いっしょう、忘れない、忘れられないぃ」
「じゃろうな」
ノイは窓を見る、ほぼ夕陽だ、もう一度見ると、やはりほぼ夕陽だ。
(どれだけここにいたのよ私!!おじいちゃんでよかったぁぁ!!良くはないけど)
ノイは部屋を出るハルトヴィンを横に、もう一度部屋の窓を見た……1滴、2滴、3滴、4滴、5滴、赤いものが窓に付着した。
「え?」
「どうしたノイ、いい加減部屋から出ろ、次はないぞ」
「お、おじいちゃん……窓」
「窓?なんじゃガタツキか?」
「違うの、窓に、窓に」
「ベストロか!?」
ハルトヴィンは部屋に勢いよく入る、その手にはすでに短剣があった。
「……赤い、これは」
時間の経過と共に増える赤いものを、距離を置いて監視する。
「屋敷の上に、何かがおるかもしれん……ノイ、使え」
短剣を渡されたノイは、一気に集中を入れる。ノイは窓をそっと開け少しだけ身を乗り出し顔を上に向ける。
「何もいな」
1滴、2滴と顔に落ちる赤。
「え、これ、何?雨?ねぇなんか外が鉄臭い、意味わかんない!」
「一旦下がれ、どうなっておるんじゃ」
ノイは部屋に戻り、顔を服で拭いた。窓の外から走る音が聞こえる。
「やべぇやべぇなんだこりゃ!?」
「なぁんですかこれぇ!?」
ヴァルトと誰かが走ってきた。
「ヴァルト、あいつ外におったか」
ノイは玄関に走った、丁度ノイが着くと、軽いが全身が赤いヴァルトと、隣には同じく女性がいた。
「これ、血ですかね?」
「ぜってぇそうだ、くっそきもちわりぃ」
「洗濯物、皆で早めに取り込んでおいて正解でした」
ノイは固まった、ヴァルトの隣に女性がいることに。
「ヴァルト、誰?」
「あぁ、彼女がノイさん?」
「えっ?」
同じく赤い女性がノイに話しかける。
「わたくしシュヴァリエ、今日からここに乳児の保育担当で居住することになりました。どうぞ宜しくお願いします」
「え、あ、どうも……」
シュヴァリエが大きいことに、ノイは一瞬睨んでしまう。
「コイツを迎えにいけってばばあに頼まれてな。んでノイ、鍋は部屋に運んでくれたか?」
「え、あ、あぁあ、うん!」
「なんだ、どうした?」
「なんででもないよ!?」
「ん?」
男が屋敷に入ってきた。
「ハルトヴィンさん、ハルトヴィンさんはいませんか!?」
階段からハルトヴィンが降りてくる。
「こりゃとんでもない事態じゃの」
「はい、街中が混乱しています。血の雨なんて、なんというか、不吉で仕方がないですので、こんなこと初めてです。一体何が……」
「農作物と家畜への被害が分からんな、建物や土壌は大丈夫か……降り止み次第調査するぞ。ヴァルト、すまんが今日は寝かせられんかもな」
「おう、そういやガキ共は?」
マリーはかけてきた。
「子供んらは北館におるぞ、1人寝ちまって窓を閉めておったからの、混乱は起きてはおらん」
「それは幸運じゃな」
ただ事ではないな、じゃが動けん以上はいつも通り動くしかあるまい、ヴァルト、飯はできておる、食う……」
「こんな真っ赤でか?」
「一旦着替えと、あとバケツに水でも汲んで水浴びでもせぇ、シュヴァリエとアンタもな」
「ありがとうございます」
男は走っていった。
「すみません、私は家が心配ですのでこれで!」
「街に知らせるんじゃ、一旦家で待機せいとな。防壁の見張りには、警戒を強めろと言っておけ」
「はい!」
男は去っていった。ヴァルトが上着を脱いだ。
「じじい、これベストロと関係あるのか?」
「分からん、じゃが、ベストロが初めて現れたときはあまりに突然じゃった。現実に非現実がいきなり覆い被さるような……少しあの時と、なんとなく空気感が似ててな」
「じじい……」
「友の二の舞にはさせん。大丈夫じゃみな、安心せい」
ばばあがハルトヴィンの背中を叩く。
「じいさんや、昔話はやめい、今は先を見るんじゃ」
「分かっておる」
ノイはハルトヴィンは手が震えてるのを見つける。
「じじい、やっぱベストロってのは怖いものなのかよ?俺からしてみりゃ、まぁ怖いには怖いが……倒せる敵なんだよな」
ヴァルトは質問をするが、ハルトヴィンは黙っている。
「あぁ~……わりいじいさん、やっぱ」
「怖いさ、怖くて当然、お主が凄いだけじゃ」
ハルトヴィンが去っていった。困惑したシュヴァリエ。
「え、あ、あの……」
フアンが東館の方向からやってきた。
「じいさんは、ベストロが最初に現れたとき、近くの漁村に停泊していたんです」
「漁村……?」
「じじいは北の島国、ミルワード出身の船乗りだ。ハルトヴィンって名前は、まぁこっちでの名前だろな。交易で停泊中、ベストロの被害を、世界で初めてまともに受けたんだと」
「俺らには分からねぇな、50年前の話ってのは。ちょうど一世代前の出来事だ」
ノイが口を開いた。
「私達、準備はしてあるよ?」
「防壁の話しか?」
「なんか、色々おじいちゃんが……構築?したんでしょ?」
シュヴァリエがそれでも不安そうなノイの顔を覗いた、手を握る。
「防壁から高速で情報が届くようにはなってる、馬車が通るような道以外で、大量に罠を設置。防壁の下には武装が貯めてありますし、そもそもそういった街の情報を含めた学を提供できるようにもなっている。私や子供達も弓矢は扱えます」
「どうにかなるよ、ね?きっと。これ以上無理ってぐらいやってる、と思うし」
ヴァルトが目をみ開いた。
「おまえ、なんかまともなこと言ってねぇか?」
「何よそれ!」
ヴァルト達は少し笑顔になった。
「よし、じゃあ飯いくか」
ばばあが水の入った桶を持ってくる。
「血ぃ落としてからにしんさい」
少し時が流れ、夕陽がありありと仲冬を照らし出す。山間に敷くように、そして積むように作られた端材の街は、決して活気が悪い様ではなかった。人や亜人・獣人達は明るい間である限り目まぐるしく最大限の活動を行っている。ハルトヴィンは、そんな彼らや屋敷にいる者らを思いながら1人、ひと気のない部屋で折れた剣を見ていた。
(この街を作って、もう48年か……)
剣を撫でる様が、どこか若く、憐れであった。
(お前ら、見ているか?奴らの支配人の外でもヒトは、亜人・獣人は、やっていける。あのクソダメのような聖典教は、お前らの決死の覚悟を、やれミルワードは異端者だのなんだののたまい、散った後のすらをも愚弄した。生き残った……いや、お前らが生き残らせら者らも、半分はそれを信じてしまった。残る半分は歯ぎしりの後、前者に同調し私を追い払った……)
折れ残った刀身は彫られた名前で満たされている、名字はない。
(お前らの全ては残せない、だが意志だけは残す。お前らの、恐怖に打ち勝たんとする様を、私は……)
部屋に1人、黒頭巾が入ってきた。
「やっぱここですよね」
「よさんか、いつ何時もばばあでおれ」
「子供んらはもう騒いでおるよ、じいちゃんいないからやだ~と皆言っておったが、ノイがデカイ鍋持ってきたらもう、香りで1発」
「少し山を登れば、山菜と香草があるからの、芋を増やして、肉はテキトーに……街の皆は飯を食っておるかの……?」
「これだけ上手く街を作ってまだ心配なのですか?大丈夫です、皆で皆に寄りかかって生きることがこの街の仕組み、そうしたのはあなたでしょう?」
「あぁ……」
「あと結局、聖典教や外の世界、西陸のこと、子供んらには教えんのかい?」
「いや、やはりなぁ……」
「おかしな連中だってことは、しっかり伝えておかないと……」
「嫌いであるか、そうでないか……善悪のうちどちらであるか。それを、教育によって施すこと、こう生きろと教えること、それはすなわち宗教ではないかね?ワシは、盲目に生き、神だの天使だの罰だの試練だの、悪魔だの末裔だの、あの者らのように、例え事実があるとしても、何か価値観を刷り込むのがあまり。見たこと知ったことで考え、自らの意志で行動して欲しいんじゃよ……」
「……それじゃ育つの、遅くないかい?」
「矯正はいかん……」
「でも」
「ヴァルト、フアン、ノイにはある程度は教えてある。どの程度教えるのがよいか、さすがに子育ての経験はないから、のぉ」
「3人で、どうやって西陸を救う?」
「西陸の、先人の業を、若人に背負わせることはせん」
「でも、それじゃ……!」
「ワシらは見てきた。ここでは見れないものを沢山な。今飯を食って騒いでいる彼らを、彼女らを、その渦に放り込めるとでも……?ワシは、正直このままで良いと思っておる……初めは復讐に近かったが、やはりこう、なんと言うべきじゃろうか。いや、今でも少し思う、じゃがそれでも、押し付けるようなことはあまりな」
「……そうですね」
「……何も分納得せいとは言っておらんぞ。それに、なにもしておらん訳でもないしな?」
「そういえばイェレミアスで武器を作ったとか……」
「うむ、先に恩を売っておいた。倍以上で還ってくるじゃろうな」
「イェレミアス……オルテンシアの実質的な後方地……何か始める気ですか?」
「さあな、じゃが“お嬢“が動いておるとか。大きなことになるじゃろうな……」
「誰……?」
「知らんでも良い」
「あなたの奥さんとか?」
「他所の女を手に入れようと思うのほど、ワシはミルワード精神から外れているとでも?他者に敬意を、女性には格別の敬意を……」
ヴァルトらは食事を楽しんでいた。ミアはヴァルトから貰った楽器をひたすら振っている、周りの子供らは、それに合わせて踊っている。にこやかながら、フアンは厳しくあろうとしている。
「ミアちゃん、いつまでも遊んでないで食べて下さい、皆食べてから遊んでるんですから、もぉ~、ハンナとピーターどこいったんですか?これじゃ日が暮れますよ?」
「まだ結構時間あるー」
「冬の夕方は一瞬ですよ?」
「踊ってない夕方、知らなーい」
「何を言ってるんですかもう……」
エミルは満面の笑みを浮かべる。
「はっはっは!いいぞぉミア!」
「にぃもこう言ってる」
フアンのため息が響いた。
「エミル、甘やかし過ぎです!」
「いいじゃん、また1年いきたんだ!ミア、もう1年生きるぞ!」
ミアが回転し始めた。
「みんな、めざせ寿命いっぱい、うおー」
「うおぉ~!!」
ヴァルトは角でそれを眺めていた。少し遠くから、しばらく躊躇っていたが、ノイが近寄る。
「ね、ねぇヴァルト」
「ん?何だ、何か壊したか?」
「違う!!いや、えっと、その……外、どうだった?」
ヴァルトはしばらく、黙っていた。
「建物デカイ、馬車の飾りがとんでもない、旨そうな匂いがする店がたまにあったり、きっとネズミとか虫食べたことないんだろうなって思えた。あと、水道ってのがあってな?んで……」
「うんうん、それで?」
「……亜人、獣人、全くいなかった」
ノイは、落胆した。
「おじいちゃんが言ってた……」
「ちょっと席、外すか、こんな話ここじゃできねぇ」
「え、あ、え?」
ノイとヴァルトは東館の一回廊下を歩く。廊下に響く2人分は、徐々に揃った。
「外はな」
「えあ!?」
「何だ急に」
「いや、虫がいた気がして……」
「冬にか?埃かなんかだろ」
ヴァルトがあくびをする。
「ヴァルト、ちょっと眠い?」
「帰ってきてからまともに休んだ記憶がないな、なんだかんだ作業とかしてたし」
「やっぱ寝た方がいいよ」
「いや、でもまともに外出たことないのお前だけだしなもう、クロッカスはともかくイェレミアスの記憶が新しいうちに色々と、とりあえず……」
「ねぇ、本当にいなかったの?」
「あぁ、イェレミアスにはな、クロッカスはむしろ亜人・獣人の方が多いけど」
「あそこもは、こことほぼ同じようなもんじゃん」
「まぁな、でもいない、少ない、どこかにはいるんだろうけど……クロッカスの奴らの話とか聞いて、じじいの言ってたことはマジだ……亜人・獣人は……
「よくない……よね、それ」
「数はもとより少ないが、とりわけ獣人が少ないんだとよ」
「なんで?」
「何年かしたら自然と分かるってよ」
「あ、なんかおじいちゃん言ってたじゃん?ほら、畑の……」
「あ、俺畑の柵直してねぇ!」
ヴァルトは玄関の方へ歩いていった。窓からはやはり夕日が指しており、赤い模様の増殖が止まっている。
「止んだみてぇだな、よし、行ってくるわ」
「え、今……!?もうちょっと休んでもいいじゃん」
ヴァルトは、外へ出ていった。
「行っちゃった……」
ノイのそれは不満に近い声色だった。
トボトボと東館へ戻ると、シュヴァリエは子供らに囲まれていた。シュヴァリエは次々と、子供らの質問に答えた。
「お姉ちゃんどこか……何しにきたの?」
「お姉ちゃんは、ここで赤ちゃんのお世話をしにきたの」
「赤ちゃん?」
「そう、最近この街にまた余裕ができてきたの。今までは家族で頑張って育てて、一定の年齢なったらここに預ける形だったけど、今日から赤ちゃんから預けられるようになった、まだいないけどね」
「みんなのお母さん?」
「わぁ、素敵ねその呼び方」
「シュヴァリエ母さん?」
「そう呼んでいいわよ」
ノイは彼女に驚いた。しばらくして、ノイは彼女に話しかける。
「人気だね」
「いいえ全く、むしろ気遣ってもらっているような」
「え?」
「最初の子、どこから来たの?って聞こうとして……やめた。びっくりしたわ、どこからなんて今の時代どうでも良いってことを、知ってるのね」
「そうなの……?おじいちゃんそういうの教えてないと思うけど」
「各々成長しているってことでしょうか?時代に適応しつつあります……でもなんだろうこの、いつ失っても良いように備える、そんな感じなの」
「50年前に実際に被害にあった人とかが、街にいて……」
「そこから既に世界のことは分かっている……という訳ね」
「話し声とかで覚えるんだろうね……私おじいちゃんから聞くまで、何も知らなかった」
「それこそ、ライプニッツさんが目指したものじゃないかしら?」
「ら……おじいちゃんの名字か、おじいちゃんで慣れてるから、ごめん」
「ノイさん、でしたっけ?可愛いですね」
「えっ?」
「いいえ、ただなんとなく。頑張って下さい」
「え?」
「子供らから聞きました、色々と。ついでにピーター君とハンナちゃんのことも。今いないってことは、そういうことでしょう。年下が先へいっていますし、ね?お姉ちゃん?頑張りましょうね」
「?」
子供の1人が近付いてきた、獣人の男の子だ、鹿に見える。
「ハンナねぇちゃん、どこ?」
ノイが困った。ミアがやってくる。
「ハンナねぇはいまダメ、絶対ピーターにぃと一緒にいるから」
エミルは腕を組んでいる。
「いい?ハンナねぇはピーターにぃが恋人、分かる?」
子供の1人が飛び出す、お人形を持った女の子で、姿勢で分かる、大人ぶった様子だ。
「私達のお世話と街の警備で、2人っきりの時間とれないの。ミアから提案したんだし、2人にしてあげなよ」
「う、うん、わ、分かった」
子供らのに唖然するシュヴァリエ。エミルが話す。
「大丈夫大丈夫、大人が思ってるよりみんなしっかり育ってる」
「ちょっと心、育ち過ぎかな。少しくらい……」
ガコンと言うべきか、ドシャっと言うべきか、むしろグチャっという音が、東館に響いた。ノイは反射的に臨戦態勢を取り、子供らは各々頭を守るような動きを取る。
「音、どこから!?」
先ほどの獣人の男の子が耳をたて、指を指した。
「何かいる」
ノイは窓に近寄りそっと畑を見渡した。雑草がいまだ力強く繁る、柵の新しい、ひとしきり収穫が終わった後の畑。隙間から、鉄臭い風が強く吹き込む。いまだ夕陽の目立つ時間の草は赤を反射し、少し向こうで転んだというか、驚いて横転したように見えるヴァルトが見える。
「ヴァルト!!」
ノイは近付くと、ヴァルトが何によって横転したかが伺えるともいえない光景があった。
「お、おい、いま……え、いや、なんだったんだ……?」
「ヴァルト、大丈夫!?」
ノイはヴァルトにかけより、怪我の有無を確かめた。ヴァルトを見ていて気付かなかったノイは、怪我の無いことに安心してヴァルトの目線を追う。
「えっ??」
ヴァルトとノイの前には、鳥だったといえばよいのか、人だったというべきか、本来どちらか一方であるべきそれは、この世界の“教え“に登場する、1つの生物の形と同じであった。
「なぁ、これ……コイツってよ」
「うん、覚えてる」
ヴァルトとノイは同時にある言葉が出た。
「「天使」」
2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。