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ブルートアウス ~意思と表象としての神話の世界~  作者: 雅号丸
第三章 信人累々 二幕

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四話 兵どもの跡

第四話 兵どもの跡


剣が落ちている。槍が落ちている。鎧が落ちていて、骨があった。人型が無数。肉はまだところどころ残っており、川のほとりから水中、草花や木陰のそば、大きな背骨などに絵付きと思われ、名付きも名無しも、ある限り全種類存在していた。腐臭がただようが、虫はいない。

「……これは、一体なんだ、どうなっている?」

マルセルが一体の、ベストロの残骸を見る。

「遺体の状態はかなり古そうな……50年前にこの人たちがベストロを、ここで討伐していたのでは?」

「下で水を飲まなくて正解だったなぁこりぁ」

ヴァルトが骨を見る。仰向けになったそれをひっくり返してみる。

「……おい、何かの冗談か?」

「ヴァルトくん、何か見つかったか?」

「人型の骨の、肩骨から後方に、伸びた骨格がある。コイツらには翼があったってことだ。つまり言えば、コイツらは天使ってことじゃねぇか?」

全員が驚愕した。行動隊は、とりわけ驚いていた。

「……天使、本当に天使なのか…!?」

テランスは人型の骨を見る。たしかに肩から骨が伸びているのを見た。

「本当だ、天使だ!主は、ここに天使の兵隊を送っていたんだ!」

「……彼らは、奈落に入って、戦ったということか?」

「……主は、僕らを助けようと?」

フェリクスはただ驚いていた。真っ青な川の中流、見渡すかぎり遺体で溢れており、骨は食われたようにかけているものも多い。

「この量の天使が……奮迅の働きだっただろう……私は、主は我々の死を楽しんでいるとばかり……」

ヴァルトがフェリクスに声をかける。

「いや、じゃあなおのことだ。俺らをここに落とした天使は、何を考えてる?カルメはなんでここに落とした?味方だとして、敵だとして、とにかく辻褄が一個も合わねぇ」

ヴァルトやノイ、フアンは何よりも、ナーセナルの件を思い出していた。ノイは、頭にこびりついた、ひしゃげた腕や脚を思い出す。

「そんなわけ、ないよ……」

ノイが口をふさいだ。テランスがノイがを見た。

「な、なにもそんなに疑わなくてもいいじゃないかノイくん。彼らは確かに、ここで戦っていた。彼らのうちに、我々の味方がいるということじゃないのか?カルメさんとか、そうじゃ……ないのか?」

「ご、ごめん。そう、だよね?」

「ノイくん、どうした?」

フアンが音を察知する。

「そっち、音がしませんでしたか……!?」

部隊全員が武装を構える。草木が揺れ川は強く波打つ。鈍い、恐怖を煽る。

「……??」

指骨の枝をかき分け、肉の地面をえぐりながら、陰にあった大きなそれは黄色の光を浴び始める。巨体は腐り、爛れており、獅子の四肢や胴体を持つ。牛や馬の4頭は一度で運べそうなほどの大きな鉤爪を持ち、頭部は鷲。胃液か唾液かを滴しながら、かかった血の乾いた羽毛の翼を羽ばたかせている。全身に刺さった矢と数本の剣がつけた傷はふさがっているようで、固定されていると見える。クチバシには肉が付着している。フェリクスが溜め息を出す。

「絵付き、グリフォン……!」

「なんか、変じゃない?」

「歴戦の生き残りというより、死にきれなかったといった具合でしょう。翼もボロボロで、飛べるようには見えません」

フェリクスが銃を抜いた。

「各員、戦闘開始!」

全員で一斉にかかると、グリフォンは血反吐を吐きながら威嚇を行う。羽ばたきで腐臭を撒き散らす。

「うっ!なんだコイツ、腐ってんのか……!?」

「負傷した箇所から壊死してるんでしょう……」

姿勢を崩しながら羽ばたき、転がっている骨や剣を飛ばしながら、姿勢の制御などお構い無しで、倒れながら突撃してくる。全員でそれを避ける。クチバシが地面に突き刺さっているので、ノイは接近して脚に戦棍を叩き付けた。重さで骨を砕くようにして、脚部の間接を破壊したが、破裂するようにして砕けた。

「ひぃ……!」

ノイはそうしてかかるやや茶色の血液に寒気を感じて飛び上がる。

「気持ち悪い……!」

「全身腐ってやがるのか?膿かなにかか?とにかくアイツの体液は全部触るな!病気になりそうだ!」

グリフォンはクチバシを地面から引き抜き、首を振るって挽き肉のような土を振り払う。

「フェリクスさん、指示をお願いします!」

マルセルのそれでフェリクスは周囲に落ちている、剣や槍を見る。

「全員、落ちている武器を投擲。肉体はどうやら柔らかいようだ、接近はするな!」

テランスは足元に落ちている槍を思いっきり投げ付ける。胸部を貫いた。グリフォンは泣くように叫んだ。羽ばたき、少し宙に浮いて滑空し、鉤爪で地面をえぐるように着地、1人1人の位置を確認して口を開け、頭部を振り下ろし、凪払い、体を回転して一段を分断した。グリフォンはテランスを狙い始める。

「僕か、いいじゃないか、こい!」

グリフォンは再度、首を振り回してテランスに絞って攻撃を始める。数回避けて、懐に入る。鉤爪を大剣で、すり抜け様に斬り付け、一本破壊した。反対側に抜けて視界から消えると、駆け出すようにグリフォンは前進し、首から先に振り向く。テランス、ノイ、フアンが剣や槍を投擲して負傷させていく。吹き出すような血液が、地面に散らかり、腐臭は濃くなっていく。生臭い中に血と獣臭が混ざる、血と膿にマルセルが臭いで鼻を鎧の袖部分で塞ぎ、目を細めた。

「これ、このまま攻撃していても良いのでしょうか?臭いだけでも、何かが移りそうな……」

負傷により体勢を崩したが、立ち上がろうとしている。

「早急仕留め、離脱するべきだろうな……これは、中々に耐え難い……」

ヴァルトは下がり、フェリクスに声をかける。

「これ、他のベストロが寄ってくるんじゃねぇか?」

「あぁ」

フェリクスは考えた。

(あれはもはや、匂いを放つ肉の塊だ。このままでは釣られて他のベストロが寄ってくる可能性もある。しかし退避したとて、無作為にベストロを呼びよ寄せるだけだ……)

自傷を与えるほどの威嚇ののち、グリフォンは翼を凪いで、転がる骨や剣を飛ばしてくる。腐った血も混じって飛んでくる。テランスは大剣を盾にしてマルセルを庇った。

「動きを封じれないか!?脚とかを破壊すれば」

「投擲程度で骨を破壊できるわけが……」

「視界を奪って撤退したらどうだ!?」

「……そもそもあれを攻撃すること自体が危うさを秘めています」

マルセルは鞄から、弾を取り出す。

「それはなんだ!?」

「フェリクスさんがモルモーンに使った弾薬です」

「銀粉を撒き散らすやつか!」

「これを呼吸器官に当てましょう」

「毒殺だな、わかったぞ!」

「銀は毒ではありませんけど……!」

マルセルの意見が伝達され、全員が動きは決める。ヴァルトがグリフォンの攻撃をかいくぐる。フアンが剣を投擲して牽制し攻撃が移ると、ヴァルトはマルセルにかけよった。

「その弾貸せ!」

ヴァルトは自身の持つ導線で引火させる爆弾を鞄から取り出し、草のつるでできたような紐で弾と縛って、そのまま抜いた刀剣にくくりつける。

「信管はまだ精度が悪いんだったよな、じゃあもう時限式で確実に発破したほうが早い!」

「動きを封じる必要があります」

「ノイ、テランス、とにかく重くてデカイのぶん投げてアイツの動きを止めろ!」

言われてすぐにノイは周囲を見て、巨大で尖った、あばら骨の残骸を丸太のように担いで、そのまま放り投げる。グリフォンはそれを避けると、避けた位置を予測するようにしてテランスは落ちている錆び付いた大刀を投げ付ける。フアンとフェリクスは周囲を走り回りながら、落ちてい短剣や細剣を投擲していった。体勢を崩したところにテランスは巨大な背骨を投げ付け動きを封じる。多少ひしゃげて臭いが立ち上がってくる。

フアンが音を察知した。他のベストロの接近をヴァルトに手の動きで知らせる。

「全方位、数七火を付けた爆弾と例の弾を、柄を左手にして投げ縄のように回して、投擲した。背骨に圧迫されて身動きが取れず頭部が低くなっているところの、喉に刀身は突き刺さる。

「おまえら、全員どっか隠れるんだ!!」

ヴァルトの切羽つまったような声に疑問はあった行動隊の面々。

「わかったぞ!」

テランスは付近にいたマルセルを連れて岩かげに伏せる。フェリクスは赤い茂みに身を隠した。

爆発して頭部に攻撃を加え、銀粉の舞い上がるで動きが弱っていく。ヴァルトは煤で汚れた刀剣を、柄尾についたゼンマイ機構を起動させて回収した。

「ノイ、こっちへ!」

フアンの指示でノイはがヴァルトを担ぎ出して、赤くて気色の悪い草むらに飛び込んだ。

甲高い悲鳴や叫びが響き渡る。ヴァルトのすぐ後ろや、テランスたちが隠れた岩肌のそば、川の反対側などからベストロが現れる。

銀粉の舞うのが収まったところにいるグリフォンは、動きが鈍りきっており、呼吸のみになっていた。イノシシやイヌにオオカミ、リスやヒツジにクマなどの、名付きや名無しが7体集まってきた。

全ての個体は、舌なめずりするようにしてあたりを見渡し、荒い呼吸で、人間などのの隠れた茂みを謳歌する。フアンのそばに黒く臭く、爪の長く鋭利で巨大なクマのベストロの腕が降りて、フアンはツバを飲み込む。低く震えさせる叫びとともにクマのベストロはグリフォンを見て、突撃していった。あたりのベストロも感化されるようの突撃し、グリフォンに口を開け、腐った皮膚や肉を噛んでちぎり、咀嚼していく。一瞬だけ悶えて事切れたグリフォン。背骨をかいくぐるようにリスのベストロが内側を捕食していく。6頭のベストロがグリフォンの残骸を蹂躙するのを、ノイは光景を見ていた。

「共食い……?」

「共の部類かどうかも怪しいだろ」

「ベストロは、ベストロという種族?なのかもしれませんね。我々のように人の型同士であれば発生はしませんが……いえ、やっていた狂人もいるにはいますが……」

ナーセナルの面々は、ジャン=ポールを思い出した。

「はぁ、思い出したくなかったな」

「あんなの例外だろ、つか災害だ……」

「ノイも大概ですが、テランスさんもすごいですよね」

「まぁ最強だしな」

「火薬で戦うヴァルトは、今は頭回すのに集中して下さいね」

「わぁってる、フェリクスとマルセルもそのつもりだろう。デカイ音出したらそれこそヤバそうだ」

残る一体、イヌのベストロが、テランスとマルセルのそばを離れないでいる。フェリクスがそれを見ていた。

(気付かれらたのか……!?)

イヌのベストロは、鼻で周囲をかぎ分け、岩かげへ向かい始める。

テランスは、自身が大剣でマルセルを庇ったことを思い出して、青ざめた。大剣にはグリフォンの臭いが、風圧でかけられた血などがかなり付着しており、ベストロがそれを嗅いでいるのを考えた。

(……あれか!?しかしどうする、始末したところで、6体同時はかなりキツイ!!名無しならともかく、名付きも複数体)

マルセルは背中に背負った回転ノコギリに手を掛けるのを、テランスが止める。テランスは顔で大丈夫だと伝えるが、しかし足音は大きくなっていく。ヨダレが隠れた岩に垂れる湿った音が1つ。イヌは突如、川の上流を見つめた。グリフォンに群がるすべてのベストロも、上流へ首を向け、走っていった。フアンも、上流を見ていた。

隠れていた位置から全員が出る。会話が起こった。

「全員、損害は?」

「なんとかなった、が……不可解だな」

マルセルがテランスの大剣を、あたりにあったボロ布でふく。

「とりあえずこれで臭いは大丈夫でしょう」

「すまない!そういえば攻撃を受けていたのを忘れていた」

「いえ……ヴァルトさん、素晴らしい動きがでした」

「状況が手札と噛み合っただけだ」

フアンが上流を見ているので、ノイが近寄る。

「どうしたの?」

「いえ、あの……なぜあちらに向かったのかと思いまして」

マルセルが思いを声にした。

「あちらに何かがあるということだろう……あるいは出口は案外、すぐなのかもしれない」

フェリクスたちは、いまだ続く死屍累々を上流へ向かって歩く。歩いていると、投擲していた武具の特徴が、マルセルには奇妙に移った。

上流にいくに連れて死体の量は増えていき、まともに肉を持った死体も散見され始める。しかし、そのどれもがベストロであり、天使たちの死体は骨ばかりが残っていた。

迂回して滝を越えていくと、流れは急になっていった。足場は骨やベストロの死体などで段々と悪くなっていく。フアンは聞き耳を立てているが、音は関知できない。

少し岩肌を登って、上流特有のゴツゴツした地形を回避して、川の流れる音を便りに

沿っていくと、川の音がなぜか消えていった。

「ヴァルトくん、マルセルくん、これをどう考える」

「……迷子か?」

「いや、とにかく引き換えそう」

一行で少し戻ると、川の音が聞こえ始めた。

「離れただけだろ?」

「……ここは奈落だ」

「だからって川になにがあんだ……」

一行で指骨の枝を切り分けて、音の方向を見る、

「……川、なのこれ?」

川は狭く急な流れを上流から中流、そして広く緩やかな下流を形成していた。だがその川は目の前で突如、事切れるわけでも枯れるわけでもなく、なにかモヤの中から放散するようにして流れてきているのが分かる。周囲は青く汚れているが、その色は薄い。

「この水は……」

「どっからか来てる?」

「我々と同じように、この水も、どこかの水源から落としている、ということか?」

「地獄は完全な自然じゃねぇってになるが、ますます意味が分からねぇ」

水源を見ると、それはモヤで円形の陣があるようにして流れている。フアンが観察する。

「……まるで世界を切り取ったような光景です」

上流ではなくなった場所から、遠吠えがきこえた。

「ベストロは、あっちにむかっているようですね」

「……そちらを確認しにいくぞ」

全員で、山岳のような地形を歩き始める。一気に景色が代わり、指骨の木々に生える扁桃の葉は枯れはじめ、荒野にそびえ立つ岩山のような、しかし赤みを帯びた、血に肉に類する材質の大地へたどり着いた。

「いっぺんしやがったな……なぁ、奈落の情報って、今さらだけどよ」

「ない。なんの1つとしてだ。だからこそ、塞ぐという手段を取る他なかったのだ」

しばらく歩くと、そのさきの盆地に下ることができるような緩やかな地形に変わる。高台のようになった全員の現在地から上をみると、乾いた岩肌がトグロを巻くように下に向かっており、徐々にそれは砂地に変わっていくのが見える。中央には多数のベストロがおり、名無しや名付き、絵付きも多数いる。

「……多いな」

ヴァルトたちは各々で、名付きや絵付きの数を数えた。

「58か」

「34じゃない?」

「58ですね」

「くぅぅぅ……」

ノイが間違えた。フェリクスは集団を見る。

「名無しも含めれば、100や200は下らない。小規模のデボンダーデだ。しかしデボンダーデの後だからなのか、奈落という言葉で身構えていたほどの個体数は……ん?」

ヴァルトとフェリクスは目線が合った。

「デボンダーデの前途条件が、壊れているではないか……!?」

ヴァルトが首を縦に振った。

「あぁ。前提条件はシレーヌによって引き起こされる、ベストロによる大規模な生活圏の移動が原因のはずだ。いやまぁあれは仮だったが……」

「旧研究施設であった聖会本部や現在それを受け継ぐイノヴァドールも、奈落で一定数以上の数が増えていき、そうして大地に場所を求めた結果がベストロによる西陸進出が、ベストロ出現の原因でもあると予想している。そうして出ていたベストロがさらにシレーヌによって生活圏の、移動を余儀なくされたとも」

「奈落にベストロがこれだけなら、そもそもデボンダーデなんて起きはしない。個体数が奈落では抱えきれなくなった結果か、強力な個体が縄張りを広げている必要がある、そうして地上に出てくるはずだ。大量のベストロか、シレーヌと同等かそれ以上のアベラン級のベストロがここにいなきゃおかしい」

テランスが首をかしげる。

「あの天使たちが、全て討伐してしまったのではないか?」

「だとしたら、ここはかなり前からベストロの発生源として機能していないはずだろ」

「でも今日みたいく、ベストロはここにいるしデボンダーデも起こってるぞ?」

「……」

ヴァルトは、ナーセナルやクロッカスで起こったデボンダーデやベストロの襲撃を思い出す。

「なぁ、冬季の第一時デボンダーデで、なんか変なこと起こらなかったか?」

テランスはしばらく考える。

「えっと、左側だったから……南側にベストロの一団が突然逃げていったんだ。南に向かって……ビックリしたぞ、絵付きまで逃げたのは初めてだった」

「ほぉん、ありがと」

「……??」

ヴァルトは自筆した西陸の地図を取り出した。地形を目で南方の地形からナーセナルまでの直線をなぞる。ナーセナルとクロッカスの位置は描かれていない。

(そのベストロが、ほぼナーセナルに来やがったってことか……絵付きってのはベヒモスのことだろうな……だが、クロッカスに行かずにナーセナルに来たのは違和感しかないな……山や川で移動方向はいくらでも変わる。やっぱりそうだ……いくつか山にあたる、ここは結構デカイ、もっとベストロは分散するはずだ。地形的に、移動が不自然すぎる)

ヴァルトは溜め息を放つ。

「ベストロの発生源が、奈落以外で別にある可能性がある」

全員が静かに驚愕し、ただ空気が変わった。

「……帰りましょう」

マルセルが話し始めた。テランスが寄った。

「マルセル……」

「ぜんぶ持って、帰りましょう。そして全てを調べ尽くすんです。我々が辿り着くべきは問題の解決です。謎を謎のままで、終わらせるわけにいきません。絶対的になにか、どこかに繋がるはずです。オルテンシアは絶望に溢れるかもしれませんが……世界を調べる必要があります」

マルセルは高台から前に出て、ベストロたちが集まり、全員が下を向いて押し合い、潰しあっているのを見る。

「……カルメさんは、ここのことを全て知っていたのでしょうか?」

フアンは考えた。

「カルメさんがここについて教えてくれたことは、川はあること。しかし飲める水質ではないのを、知らなかったのでは?それから、彼女は身を呈して食料や水、補給を取り返してくれた……」

ノイの顔が珍しく考え込む。

「……おばさんって、ここのこと本当に知ってたのかな?」

「はい、明らかにここを、ベストロの大量にいる、そして地上と同様にしっかりとした土地であるという認識を持っていたと考えられます。ここに入ったことがあるのであれば、間違いなく我々をあそこまで援護する必要はない。備えとは、未知の驚異に対抗する手段です。それを率先して行うということは……」

「カルメさんはここの状態を知らないで、ここへ連れてきた?」

「あるいは、僕らを吹き飛ばした天使によって……指示された。そしておそらく、カルメさんは天使たちがここで大勢亡くなっている事実すら知らないかもしれません。知っていれば、川があってもその水を飲ませようなんて発想にはなりませんから。知らない土地で体を壊す恐怖は、エトワール城を探索したカルメさん自身よく分かっているでしょう」

マルセルが、少し視線を下に向けた。

「……でも、そのエトワール城に本当にいったというのも嘘な可能性だって」

「どうやって行ったのかは保障できませんが、我々が兵器を設営するにあたる移動経路を考えたのはカルメさんです。あなたが信じないでどうするんですか、マルセルくん」

「……すみません、なんだか急すぎてしまい」

フアンは近寄り、少しかがんで低い身長のマルセルの肩に手をのせる。

「……なんです?」

「疑うのはきみ以外のでもできます、簡単ですからね。ですのでマルセルくん、マルセルくんだけは、どうか信じて下さい。ぼくもそうします」

「あなたは、なぜカルメさんを信じられるのですか?」

「疑うのは簡単だと言ったじゃないですか。簡単じゃないことをする、それってカッコよくないですか?信じてあげてください その方がカッコいいですよ」

「……あの、フアンさん?」

「はい」

「……何も言えてませんよ?その仮面の裏はきっとしたり顔でしょうけど。もっと論理的ですね……」

「もう!励ましてるんですから!しっかり受け取って下さいよ!あなたねぇ、だからそんなヘタレなんですよ!会って早々の人間に相談持ちかけるなんて、結構疲れたんですからね!?」

「えっ……!?」

「自分の好きな人くらい、信じてあげなさいよ!」

「あぁ、やめて下さい!」

フェリクスが反応する。

「そうなのか?なるほどそうか。まぁ齢は離れているが……そうか、まぁ関係ないのならいいのだろうか?あれは確か未婚だったはずだ。上層の人間から言い寄られているのを見かけたが……」

マルセルは青ざめる。

「そのあとえらく腹立てていたぞ、上層のご老人になびくほど飢えていないとな」

「……!!」

「あれの趣味がどんなものかは予想はつかない、すまないが協力は……ん、なぜそのように嬉しそうな顔をする?」

「……いえ、なんでもありません!」

赤面のマルセルをよそに、フェリクスやノイはベストロたちをずっと見ていた。

「なんであそこに集まってるの?」

「分かることは少ない……だが押し合っている以上は……あの中心に行きたいということではないか?」

フェリクスは思考する。

「そうだとすればあそこは出口になる……のか?」

ベストロの集団を中心に、左側に何者かが1人現れた。高台から滑るようにして移動し、砂塵を少し舞い上がらせながら、岩肌から砂地へ降り立った。ボロ布の頭巾を被っているのがかろいじて見える。

フェリクスが全員に伝える。

「……誰かいるぞ。天使らしき外見はない」

全員はでその人物の動きを見る。

頭巾は青く、錆び付いた鎧は軽装で、背中にテランスの大剣を越える、特大の剣を背負っていた。なにかうねるようなもので巻かれている。マルセルは鎧をしっかりと見る。布が使われている部分は、青みがかっている。

「青の装い……オルテンシアの兵士?」

「ここに辿り着いていたものが、我々以外にいるというのか?」

「もっと近寄って見れれば良いのですが……」

「あれは敵に見えるか?」

「……分かりません」

人物は何かをまとった大剣を片手で構える。テランスがそれを見て何かを感じた。

「あの方……!?」

少し、口をあけたままだった。

「先々代の、聖会がまだあったとき……ジョルジュ歴代最強の男がいた。国宝の大刀剣、デュランダル。外れ値の強度を引いた特大の両刃剣をわざわざ遠方、日輪への憧れという、完全な趣味で鎖と分銅を柄頭に取り付け、無作為性を発動させて外れ値を普通にその性能を落とし、史上で初めて、教皇を激怒させた男」

人物は、剣にまとったものを振り回しほどくと、鎖のようにうねり、振り回される。一瞬にしてベストロたちの地点にかけていく。音で気付いたベストロたちが振り返る。一番おそくベヒモスが振り返った瞬間、大砲のように分銅が飛んでいき顔面を強打、一撃で吹き飛ばして絶命させる。

「オルテンシアにおけるベストロ討伐数、サン・ゲオルギウスを除けば歴代1位」

伸びきったような分銅を振り回して、鎖にあたる名無しは粉砕されていく。目や歯が吹き飛び、砂上は戦場と化したはずだった。

「第43代ジョルジュ……エヴァリスト・ラブレー」

鎖を、腕力で操りながら引き戻し、足元に鎖を起きながら片手で大剣を振り回す。噛みつこうとするオオカミの名付き、ライラプスを殴り付けて気絶させ、首を持ち上げながら振り回して滑空してくる名無しのカラスやコウモリのベストロを弾きながら、振り回して遠心力をつけたので投擲し、その直線上のベストロをなぎ倒しながら奥にいるグリフォンに命中、国を叩くように斬り、吹き飛ばして、絶命させた。空いた直線を駆け抜けて剣を持つと、周囲に空白が生まれる。怯えるようにしてベストロが、その人物を囲んでいる。

ノイが見ている。

「……すごい!全部一撃じゃん!」

「これは……しかしなぜ先々代がここに、我々よりも先にここへ……」

「先々代ねぇ……だとしてあれいくつだよ」

「えっと、イノヴァドールができる前なので……当時の年齢も鑑みると、80歳以上かと」

マルセルが人物の動きを見ている。

「この時代に生きているご高齢の方は、聖典教の中でも少ないです。裕福か、権力を持つか、幸運に恵まれています。それ以外であるとすれば、歴戦の存在として自らを生きながらえさせる術を、それら才覚を持つこと。老いぼれと、生き残りではモノが違うのです」

「俺らが相対したグリフォンが老いぼれでよかったぜ。んでどうするよ、加勢していっきに……」

テランスが止める。

「ダメだ。話では、かなり視野が狭いらしい、巻き込まれてしまうぞ」

「じゃあ見てろって?」

「岩肌までは、降りても良いんじゃないかな?でもそこからはオススメしない……見たろ、ベヒモスが1発だった」

「あぁ、見た」

ヴァルトたちが岩場を降りていく。人物はさいど分銅を振り回して場を作り出し、中央へと迫っていく。ヴァルトたちがまだ中央がどこかがハッキリ見える高さで、人物はベストロたちの集団の中央に辿り着く。あたりを大剣の叩きつけで吹き飛ばして、空間を作り出す。しばらくの静寂ののち、人物は高く飛び上がり、中央に開いた穴へ侵入したのが全員に見えた。ノイが目をよく開いた。

「あれ、今の穴じゃなかった?」

「んじゃ、あそこが出口か?」

フアンは考える。

「元ジョルジュを信じて、僕らも向かえば良いのでしょうか?」

「選択肢としては、あまり良くはないかもしれない……だが、我々も続こう。どのみちあの者に追い付いてしまえば、例え穴の先がより過酷な環境だったとしても、見たように、彼の届く範囲こそ、離れさえすれば安全圏のはずだ」

全員が覚悟を決め、塞がっていく敵の戦力の穴を前に走る。

「各員抜剣、火薬の使用も許可する。あの穴へ向かうぞ!一点突破だ!火力を集中させろ!」


2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。

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