三話 旧式の甲冑
三話 旧式の甲冑
もやのかかったような穴に全員で落下すると、視界がボヤけはじめていく、意識はハッキリとしてお、全員が端によって落下の速度を、武器を突き立てて押さえようとする。
「おいクソ、マジでどうなってやがる!!」
「ヴァルト、どうしよ!」
「視界がボヤけても、感触はある!全員、穴の側面に意地でへばりつけ!!」
少し落下すると、自身の落下する方向が、45度変わるのを感じる。視界が鮮明になりながら、そして光が現れて、思い切り投げ出された感触を覚えた。わけも分からないで、ただ事実として、落下はただの水平での加速にしかならなかったことであり、横転しながら減速して、地面らしきを踏みしめた。瞑った目を開ける。
「マジで、おいこれ……どっかについたってのか……?」
起き上がり周囲を見ると、鈍黄と紅が一面に広がった。臓物のような木々、骨のような岩々、筋ばった肉のような地面、褪せて黄色い空をおがみ、少し進んだ崖の下には、似つかわしくない、澄んだ川が一本引かれており、どこかに流れていた。
ノ
ヴァルトは振り返ると、全員いた。各々立ち上がり、地面を見て怯え、木々を見て息を飲んだ。
「奈落、なのか、ここは……?」
「兄さん、大丈夫か……!?マルセルは……フアンくんは」
「僕は大丈夫です……マルセルくんは」
ヴァルトの隣に、マルセルはいた。ヴァルトが驚く。
「お、おういたのかよ」
「これは……地面の下にこんな場所が……なにより明るい、なぜ?地面が太陽を防いでいるはず……」
ヴァルトは頭を振り、だれがなにを喋っているかを意識し始める。
「理屈が通じなくなった、ってことか。ここはなんだ、異世界か?ここが聖典教の信じる天上とか天国とかいうんじゃないだろうな?肉だらけだぞ、もう気味が悪い」
テランスが話す。
「なぁ、さっきの、急な爆発……おばさんは、飛ばされなかったよな。はやく戻らないと、何か上から降ってきてたような」
マルセルが、カルメの口の動きを思い出す。
「……帰ってきて」
全員がマルセルを見た。
「カルメさんは、そう言っていました。泣きながら……」
フアンがヴァルトとノイに駆け寄る。
「さっきいたのって……そうですよね?」
ノイは、降ってきた存在に見覚えがあった。小声で打ち明ける。
「……あのとき、いた。うん、見たことある」
「アマデアを回収してったとかいう天使か……?」
「……うん」
「他には?」
「他?」
「……カルメみたいなのはいなかったかってことだ」
「おばさんも、天使ってこと?」
テランスが話しに入る。
「何を小声で話してるんだ?」
「カルメが俺らの敵かどうかって話だ」
「おばさんが!?」
「都合よく1人だけここに来てないってのもあるが。帰ってこいっていう言葉が事実だとして、まるで下に空間があるのが分かってるようだった」
フェリクスが入ってくる。
「カルメハが、敵だった……我々を吹き飛ばした者だが、一瞬見えただけでなんともいえない。天使?」
ノイは深く首を縦に振った。
「驚いた……吹き飛ばされながらも視認できるとは」
マルセルが、震えていた。
「カルメさんが、敵なわけ……敵なわけが……」
ヴァルトが近寄る。
「お前があれを庇う理由は分かるが……」
フアンがヴァルトの言葉を止める。
「なんだフアン」
「いえ、確かに……あの天使と関係があるのは間違いないでしょう。でも、敵とは思えないですね……」
「お前、なに言ってるんだ?」
「まず仮定としてカルメさんは、そうですね……ここへ我々を連れてくることを、命じられた、のではないでしょうか?我々が生き残るため、彼女は散々尽くしてくれたと、思いうんですが……」
ヴァルトは、カルメの発言を思い出す。
「川、あるから……」
ヴァルトは川を見る。
「……飯も火薬も」
ヴァルトはさらに思う。
「帰ってきて……まて、俺らどっから来た?」
全員であたりを見渡す。空間にはただなり損なった自然が見える。穴、穴らしもの、類似性を持つものは存在しない。マルセルが上を見つめる。
「僕らは、落ちたはずです……でも穴はない」
フェリクスが続けた。
「だが、どうだ……あれは落ちたといえるだろうか?」
「途中から向きが変わったような……不可解です」
マルセルが、自身が立ち上がった場所を見ると、転がった跡があり、その方向を見る。しかし穴はなかった。
「この方向から転がってきた……?」
そこはただの骨の岩であった。
「理屈は通じない……ですね」
「だが幸いなことに、ここを出ることが可能なのはカルメさんが言った言葉にあります。帰ってきてというのは、すなわちそういうことでしょう」
「ただの願望の説もある」
フアンがヴァルトに小声で話す。
「いまマルセルくんのやる気を削いでどうするんですか」
「あぁ、そういうことか……すまん」
フアンはマルセルに近寄る。
「マルセルくんがカルメさんの意志を掴んでくれた、ありがとうございます」
「あぁ、いえ……」
「……戻ったらもう一回言い寄ってみることですよ。君を避けていた理由も、きっとそこにある。つまり……」
「つまり?」
大きく息を吸った。
「……脈ありです!」
全員は、いったん川へ下っていった。
テランスは話し始める。
「どうやって出るんだろうな?」
ノイが拳を握る。
「横からって言ってたよね?じゃあさっきの場所、普通にその辺ぶっ壊したら出口でも出るんじゃない?」
ヴァルトが拳を下げさせた。
「どんな理屈だよおい……あと、普通にあんま音は出せないだろ、ベストロがどこにいるかなんて分からねぇんだ」
マルセルが一団に追いつく。
「うえから見た感じ、ベストロは発見できませんでした」
フェリクスは思案する。
「奈落というには少々驚異にかける……が、いないならそれで良い。いては困る」
テランスが背伸びした。
「兄さん、とりあえず目標としては……どうするんだ?」
「出口を見つける、ための拠点を設営する必要がある」
「荷物は持ったまま移動すれば良くないか?」
「移動量が予測できない以上、それは難しいだろう……」
「じゃあじゃあ、どっかで川に降りる必要が?」
フアンが道筋を見る。
「急な斜面とかではないので……あぁ、でも岩とか木を掴むのはやめたほうがよさげですねぇ……」
奥の、植物らしきものが揺れた。風はない。
川まで降りていくと、より極まって青いが広がった。流れはあり、川底は見えない。濁りで見えないのではなく、深い青が、底に向かってより青くなっていくようだった。
「川のなかに、サカナのベストロっていませんよね?」
「哺乳類という分類は、まず陸でしかほぼいない。そもそも聖典にそのようなベストロは存在していない。安心するんだ」
「名無しみたく、新しく発生する可能性もなさそうか?」
「あぁ、だが警戒は怠らない方が良い」
ノイが川の流れを見る。
「……どこから来てるんだろ?」
ヴァルトが答えた。
「基本的には、上に湖でもあると思えば良い。そっから重さで自然と川ができるってのが、普通の発生原因だ」
ノイは上流を見つめる。
「へ~……じゃあ、あっちに湖が、すごい広いんだねここ」
フアンが袖から瓶を取り出し、水を汲んでみる。透明度はあり、汲んだそれが気味悪さを漂わせる。
「……飲めるんですかね?」
「カルメの言った感じじゃ、そうかもな。だがどうだろうな」
テランスは、下流を見る。
「上か、下……だと、上にいく方が良いのだろうか?」
「……ヴァルトくん、1つ良いだろうか?」
「なんだ?」
「川とは、なんだろうか?」
「はぁ?そりゃ……うぅん……いや、すまん意図がわかんねぇ」
「下には自然があってという君の発言から、1つ思い付いたことがある」
フェリクスが上流を見る。
「水源に銀粉を撒けば、あるいはここのベストロを全滅させられるのではないだろうか?」
「……なるほど?」
「ベストリアンは他の動物と同様、睡眠や食事、繁殖を行う。そして自然において川とはすなわち飲み水がある場所にならないか?」
「地形を利用して、奈落のベストロ全体に毒を盛るって話しか?」
「どれほど効果があるかは分からない、だがここは奈落だ。我々だけで対処できる場面には限りがある」
「出口を見つけるために、ここらのベストロを一掃しようって訳か」
「ここらのベストロ全員を、食中毒にでもできれば、動きは鈍くなるだろうというだけだ」
マルセルが答える。
「銀は重みがあるので、流れはに乗り切れずに川底に沈むと思います。ですが、上流にいくに連れて流れは早くなります。よって上流か中流は影響があるでしょう。しかし下流に影響が及ぶのは保証できません。その作戦を決行するなら、上流から行うべきです」
全員は荷物を持って上流へ移動を開始した。
「なに止まってんだよ、おい」
フェリクスが先頭で歩いていただ、全員を止める。ノイがほんの少し小走りで合流した。
「全員、何か周囲に異常は?」
変わらず、赤い地面、黄色い空、青い川。
「異常しかねぇよ」
ヴァルトがぼやき、フアンが周囲を聞く。ヴァルトに向かって首を横に振る。マルセルも周囲を見渡す。
「ベストロはいまのところいませんね……」
「……なるほど、それがおかしいって訳か」
「川が徐々に狭くなってきている、おそらく今は中流あたりだ。距離もある程度あったはずだ。何より……」
フェリクスは周囲の音を聞いてみる。
「水の流れる音、草木の揺れる音、風の音……およそここが奈落とは思えない。なぜだ、ここはベストロの本拠地のようなものだろう」
さらに全員は歩いた。日がどこにあるか分からない。暗くなることも、明るくなることもない。黄色い雲それ自体が光を放つようにして、空間を鈍く照らす。静かに波打つ川はそれを反射せず、暗い水面に、ただ溶け込んでいくようであった、
「……あの、あれはなんでしょうか?」
フアンの指差す方向には、白く、所々で錆びた鎧が転がっている。血のこびりついて取れないようで、造形は深く、重い。マルセルがしゃがみこんで、それを見る。
「旧式の甲冑……?いえ、もっと違う、これは……発想が違う。オルテンシアの鎧ではありませんね。旧保安課の、純銀軍とも違う」
ヴァルトが理屈を聞く。
「どういうことだ?」
「オルテンシアの鎧は全身を包み込むような、我々がよく装備している重装の設計か、カルメさんのように袖無しの外套と胸を守るための装甲による軽装の設計が多いです。ですが、この鎧は……曲げた鉄の板を重ねたような、僕らオルテンシアよりも数段技術力の低い国で作られたような装備」
「旧保安課の……純銀軍でもない兵の装備がここに落ちているだと?他国の兵士がいたということか?」
「いえ、でもこれは……少し発想だけは我々と似ているというか……」
「先に進めば分かるんじゃない?」
ノイの言葉で進む彼らは、歩くうちに川の流れはさらに早くなる。
2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。




