二話 禁足地
第2話 禁足地
「……分かった、じゃあおばさん、ちょっと張り切っちゃおうかな。待ってて、すぐ帰るから。フェリクス、ちょっと良い?私が、物資を取り返してくる。だから、禁足地へ向かって」
「移動はどうするのだ?」
「それなんだけど」
カルメが指笛を鳴らすと、馬が二頭来た。
「お、馬車運んでたやつか」
「うん、さっき見つけた。物資無しなら一頭でもギリギリ大丈夫でしょ?この子たち大きいし」
「馬1頭と弓矢で、ベストリアンを多数相手取ると?」
「いや、盗ってくる。大丈夫、失敗しないよ。エトワール城まで1人で来てる経験をナメてる?」
フェリクスと会話して返事を受けたカルメはそう言い残し、木に登って消えた。
「……あのばばあ、マジでどんな体力してんだ?シレーヌやったあとだぞ」
フェリクスが木陰に座る。
「全員、カルメが戻るまで待機だ」
日はだんだんと、沈む方へと向かっていく。カルメを除く全員は、あり合わせで拠点をとりあえず再建してみた。マルセルが溜め息を出す。
「おばさん、大丈夫かなぁ……」
テランスが、ボロボロの布地や雑多な木材をかき集めて、ヴァルトの前に置いた。ヴァルトは馬車の点検を行っており、歪んだ車軸などは感で金槌で叩いて直していた。それをマルセルが驚愕の目で見つめる。
「ヴァルト、さん?」
「なんだおい」
「いや、直し方が大胆だなと……」
「この方がはえぇだろ」
「カルメさんが帰ってくるまで時間は、当然かかるかと思いますし」
「逆にいま帰ってきたらどうすんだよ」
「……カルメを信頼してるんだろ?だから任せたんだろ?違うのか?」
「いえ……そうですね、案外すぐ帰って……」
カルメがひょっこりと、マルセルの後ろから現れた。背中には鞄を背負っており、ずっしりとしている。マルセルが振り返る。
「か、カルメさん……!!よかった……無事だったんですね」
カルメにマルセルが近寄ろうとした。カルメが、足の行きたいのを見る。
「あぁ、えっと……ただいま」
「はい、おかえなさい」
フェリクスとテランスが寄る。
「おばさん!」
「成果は?」
懐からなにから全てに、とにかく、物を積めて持ってきたカルメは、鞄をおろす。冬前にしては汗をかいていた。
「とりあえずみんなが使う武器の火薬・弾丸・砥石・修理用の部品各種、食料と水。それで……日に二食で、3日だね。干し肉とかしかなかったわ。まぁ、だからこそ持ってこられたんだけど。乾物は軽いからね。でも水の節約は、不可能よねぇ……」
ヴァルトが、鍋を取り出した。
「水を煮る、大きめの蓋を被せる。飲み水はそんだけでいける」
カルメは目を輝かせた。
「それ、すぐ作れる?」
「道具は持ってる。時間さえかけられればいけるが、煙に反応してベストロが来るかもしれねぇ」
カルメがヴァルトの両肩をわしづかみにした。
「じゃあ……お願いね?川、あるから」
「この辺にか?地図には載ってねぇが」
全員は馬を馬車と繋げ乗り込み、走らせた。掲げられた、いままでナーセナルの外ではよく見かけた、ベストリアンを粛清した後の木々は段々となくなっていった。
何者かに破壊され蹂躙された山小屋、けっして綺麗とは呼べない川、秋の後期で色の少し鈍った山を越える。少し高い地形に来た。海が見えた。ノイの目には、遠いが照り輝く波が映り、少し晴れたように、浮き足が立ったように、ほんの少しだけ頬を緩ませた。
「うみだ……」
「海……そういや、他の国はどうなってんだ?」
フェリクスは答えた。
「他国と干渉している余裕はないとして、枢軸議会は、イェレミアスを除いて全世界との外交を停止している。西陸はいまや、情報における陸の孤島といえよう」
「孤島……そういやミルワードもそうじゃなかったっけか?」
「あぁ、あそこは島国だ。ゆえに海軍の力量は凄まじく、全世界に植民地を持っているほど。いまはどうかはさておいてだ」
「50年わかんねぇって、すげぇ痛いよな……ん、まてよ。他国から誰か来てはいないのか?」
「元々オルテンシアやイェレミアスは、風土や人間性において、国際的に問題視されている。ベストリアン差別を行う悪しき蛮族オルテンシア人、奔放さで世界から注目を浴びるイェレミアス人……他国から人間が来ることは元々少ない」
「変に見られてたのかよ……」
ノイが思ったことを、口に出した。
「可哀想だって、思われてたってこと?その、ベスト……」
車輪が石を踏んで車体が傾き揺れる。
「あぐっ!」
ノイが舌を噛んでしまった。血が出た訳ではない。
「いったぁ……」
マルセルは、少し声を大きくした。
「あの!っえぇっと、その……」
テランスがぐっと顔をマルセルに近寄せる。
「どうしたマルセルくん、珍しく声が大きいぞ!いやさっきおばさんが帰って来たときもそうだったが!」
「うるさいですよ……!」
マルセルがためらいながら、間を空けて話し始める。
「その……ベストリアンっていう言い方、その……やっぱやめませんか?」
全員が口を閉じた。
「いまここにいるのは我々だけです。ヴァルトさんたち……えっと、バックハウスさんの言う義勇兵の方々も含めて、その……ここにいる全員、聖典教を誠に信じているとは、とても思えません。僕も、えっと、その……」
カルメハが笑った。
「ふっ、はははっ。ぶっちゃけたねぇっはっはっは」
「いえ、ただそう思っただけといいますか……」
カルメが笑い転げるようにマルセルに抱きついて、狭い馬車のなかを転がった。
「ちょ、ちょっと……!」
「はっはっはっ」
フェリクスが少しは笑って、テランスは黙っていた。
「ほぉ、どこでそう思った?」
「いま笑っていらっしゃるということは、そうなんですね……」
「マルセル、オルテンシアでそれを言うことは厳禁だ。殺されるか消されてしまう」
少し間が空く。風の音。草木の音。
「失くなっていく人たちを、主はなぜ助けないのか……私の父は、そう語ったのだ」
フェリクスは語る。
「私の父は、25前年にあった、シレーヌ討伐作戦における補給を勤めていた。結果は失敗……いまだ帰還しないでいる。父は常々語っていた。主は、あるいは我々に死ぬるをこそ求めるやもと……ベストロは試練や敵ではなく、我々という存在の全力を見て楽しむために、かつてより送り込まれた狩人だと語ったのだ。とっぴ押しもなかったが……私もそう思った瞬間はある、またそうなのであれば、聖典教が遠距離によるベストロの討伐を嫌う意味も分かるのだ。エトワール城から帰った祖母から、すでにそういった反聖典教の思想があった。祖母は父にそう話した。そうして、私にも話した。涙を流していたのを、そのまま溢すように。厳戒体制が引かれたときに、漏らしていた。なぜ私なのかと疑問にも思ったが……父のオルテンシア人という身分や、信心深い母のこともあって¥だろうと、またそもそも、男児というものはなにぶん頑丈たれとして育てられるからなのだろう……私にしか、お鉢を回すことも叶わなかったのだろう。あの日以上に、父を身近に思ったことはなかった……」
カルメが喋る。
「25年前……いま29だよね?4歳か……よくエトワール城のこと飲み込めたね」
「いや、無理だったさ。齢4にそのようなことを話すなよと今は考えるが、やはりそれだけ父は追い込まれていたのかと、同情もある」
語り続けた。
「そして私は引きこもった、父が帰らないことを理由に、そうして私の顔に出る反聖典の片鱗を……隠した。孤独はやがて、とっぴ押しもない陰謀論にまで発展し、これはあるいは、現在のベストロの強襲、すなわちデボンダーデは、主や聖典教が企てているのだとも、思うようになっていった」
カルメが目をみひらく。フェリクスはテランスを見ていた。
「だが、私にはあいにくこのどうしようもないアホが近くにいてな。孤独ではあったが、1人ではなかったのだよ」
「兄さん……」
「いや良い、どうせここから死ぬかもしれんのだ。そう、テランスは」
テランスが口を開いた。
「僕が言うよ、兄さん」
テランスは息を吸い込んだ。
「まぁ、その……兄弟とかじゃないんだ。ただ隣で、デカイ声で喋ってるのを、兄……テランスさんが聞いてただけていうか、そんな感じらしい」
フアンが驚く。
「えっ、ご兄弟じゃない?」
「心の兄弟、っていう感じかな」
「あぁ~」
フアンは納得した。フェリクスが自分を銃を見つめる。
「頭の中で、時間と共に少しずつ増える語彙で、残虐なほどに咀嚼される父の葛藤や祖母の経験が、多感になりはじめた時期の私を酷く蝕んだ。だが隣の家から、もうアホとしか言い様のない、単語の羅列のような言葉が聞こえてきてな。クスッと笑った瞬間、視界の全てが黒かった私は、久しぶりに色が見えたのだ」
フアンが聞く。
「兄弟ではないって……?」
「まぁ、珍しい話でもないが……僕の父さんも、その、亡くなったんだ、デボンダーデで」
「あぁ……そうでしたか」
「まぁ、そこを隣の家に住んでた兄さんに、なんだろうな、拾われた?」
フェリクスは銃の駆動を確認している。
「おまえは、足らない言葉で私に言ったではないか……何かをできるのは素晴らしい、何かができることを尊敬すると」
ヴァルトがそれをテランスに言われたのを思い出す。
「それ俺も聞いたぞ、正直……テランスから出てくるような言葉じゃないよな」
テランスがガッカリする。
「そんなぁ!!」
「いやマジで、えっ、お前から出たのかあれ?なんか本から引用したとか……そうか、お前が本読めるとも……」
「ヴァルトくん!?」
フェリクスが笑う。
「ふっ、言われてしまったな。まぁそれは私も思うところだ」
「いやでも、実際すごいことじゃないか!僕なんて、やれることなんて殴る蹴る叩き切るだぞ!?」
「物騒なことだ」
「いや、だけど……僕はあんまり普通に生活できないんだ、片付けてたつもりが汚くなっちゃうとか、借りたものを返すのを忘れるとか……」
「そういやおまえ人形返し忘れてたもんな」
「時間はなかったとはいえ、それすら忘れたしまっていたよ。帰ったらちゃんと謝らないと……」
「普通に生活ないねぇ」
「ヴァルトくんらは、できるのかい?」
フアンとノイが答えた。
「ヴァルトはたまに部屋にこもりっきりで何かを作ることがありますね。ご飯持っていくのは結構ありました、最近はないですけど」
ノイが首を縦に振る。
「ヴァルトは、失礼なときが結構ある」
「お前に言われたくねぇよ、のっけからシラクのおっさんにおじさんってぶっかましたじゃねぇか」
「あっ!!」
「忘れてたのかよ……!?」
「うぅういいじゃん別に!」
カルメがいまだ、マルセルを抱き締めていたので、マルセルが沸騰しかかっていた。
「ちょっ……えぇっと……あっ、あの……」
「おぉ、マルセルが真っ赤だぞ!こんな野菜あったな!」
「髪が緑でないのが残念だな」
フェリクスの発言に驚くヴァルトたち。
「えっ、フェリクスさんって冗談言うんですね」
「兄さんは機嫌が良いときは結構喋るぞ!お酒飲んだら誰よりも喋るさ!」
「……あまり言うな」
「いげんがなくなるだったっけ?いいじゃないか兄さん、ここには僕らしかいないんだし、片鱗?も見せたじゃないかいま」
「少し教育が必要そうだな……」
フェリクスは拳を握りしめる。
「なんでだ兄さん!?また暴力か!?反対だぞ!?」
「……いや、やめておこう」
ホッとしたテランスが、カルメに話しかける。
「そういえば……おばさんのこと、結局あんまり知らないなぁ。この際だ、おばさんのこと教えれくれよ!」
カルメが慌てる。
「ええぇ!?えっと、その……」
ノイが首を傾げる。
「どしたのおばさん?」
「えっ、あぁいや……流れ的にはその、ずっとウチら行動隊の話ばかりだったから、てっきり次はイェレミアスのみんなの話になるかなぁ、って……」
「それもそうだな!ヴァルトくん、フアンくん、ノイく」
フェリクスが止める。
「彼らはハーデンベルギア出身だろう?あまり話したくはないはずだ」
ヴァルトが聞き返す。
「俺はあんまりガキのころの記憶がねぇんだ、何があったのか教えてくれるか?」
ノイとフアンが驚く。
「えっ、ヴァルトそうなの?」
「あれ、言ってなかったのか?」
フアンが考える。
(ジークと呼ばれるのを嫌うのは、なにカ過去があると思っていたのですが……記憶がない?そうか、何か分からないけど嫌だと言ってましたし……何でしょう、無意識では思えている、的な?)
フアンの目に、大きな、古めかしい石材が入る。
「あれは……」
フェリクスがそれを見て、武装を整えた。
「全員、武装の最終確認を。禁足地に到着だ」
「えっ、結構近くねぇか?本当にシレーヌやる意味……」
「いや、物資運搬も込みでの算出だ。いまは、我々しかいないのもある」
フアンの操縦で、馬車は獣道に化けた果ての街道から、脆すぎる石畳に突入した。車体は安定するも、不安だけは募った。
「なぁ、禁足地ってどんなところだよ」
「ついてからの方がはやい……ベストロは周囲にはいない、だが各員警戒を怠るな」
全員の前に、木材の防壁の残骸が現れてくる。基盤のみを残して、全て破壊されている。旧式も旧式の大砲や弩、錆び付いた鉄臭い剣や槍に矢じりが散乱している。大きな骨が、苔を生やして四散している。
「50年前のベストロ……の残骸か?」
「初見のベストロに攻撃を加えて、討伐した者がいるということだ……おそらく、あたりの骨にその人物がいるだろうが……さすがに見分けはつかない」
「……信仰心のあるやつがここに来てたんだっけか?」
「あぁ、サン・ゲオルギウスと教皇によるベストロの封印後、オルテンシアが建国され、驚異から守るために建国当初から行われていたそうだ」
「サボるやついただろうなぁ」
「だからこそ、信仰心の厚いもののみで構成されていたのだろう。信仰により、他者から見えないここにすらも、主には見られている状態になる。人は誰かに見られている以上は、悪さはできない。自己完結の監視網ともいえる側面が、聖典教えには確かに存在している」
ヴァルトは、フアンが当たってしまった差別の現場を思う。
(あれは人はからも、主からも許された行為……っていう認識でいいよな?そりゃ他国から変な目で見られている訳か)
干からびた地面が徐々に広がる。瓦礫と草木と木々で先が見えないでいるので、フアンは馬車を止めた。
「ここからは歩きでいきましょう」
全員で歩きに移行する。フェリクスは全員に指示を出して、食料と水を持たせた。テランスとノイは大きいな鞄を担ぐ。
「結構あるよ?大丈夫?」
身長を越える大きさの荷物を持っている、ある程度は全員で分けて担ぐ。
「うん、まぁ余裕かなぁ。テランスのも持つよ?ていうか持ってく意味あるの?」
「いや、さすがにいいさ……ていうか余裕なんだな……」
「亜人たちや獣人たちの身体能力をあまりなめない方が良いよ。建物なんてすぐ破壊できるし、逆もしかり……足もはやいんだから。追い付かれて物資もまた持っていかれてもね。ちなみにむかしは奴隷階級で、亜人より獣人の方が需要は高かったくらいには身体能力に差があったのよね」
「へぇ~……」
馬を木に繋げて、全員が歩いていった。
夕方になるまであと少し。全員は、倒木などをくぐって歩いていく。
「まぁでも、ちゃちゃっと見てすぐ帰るだけでも上出来じゃねぇか?」
「我々だけで対処は不可能だろう」
「早めに帰って知らせる方が良いのもそうなんだがな……」
「シレーヌ討伐を指揮したのは、私ということになっている。急いで帰ったところで、日もくれないうちに帰還しては、討伐は疑われるだろう」
「補給部隊は全滅してるわけなんだがな」
「なにより、私であることが問題なのだ。今回のデボンダーデにおいては、少々勝手に暴れものだからな。上層としては、一刻も早く消えてほしく、また一刻も遅く帰還してほしいだろう。功績はなかったことにされ、私は消されるかもしれん。勝手に誰かを伝達で送れば、我々の知らせをよく思わない者によって、消されることもある」
「そりゃまた……」
「随分ととっぴおしもない妄想だろう。私のクセだ、すまない」
「いいさ別に、たぶん当たりの妄想だ」
木々が開けて、全員は息を飲んだ。隕石の落ちたように森は抉れており、砂や土でかぶって、風化しほぼ原型などない石の数々が、窪地の隅に転がっている。焼けただれたような窪地の中央には、急に直下へと続いているよう穴が開いている。大きさはシレーヌの2倍はあり、大穴と呼ぶには、ふさわしいとは言いきれない大きさをしている。ノイとテランスが中央を盛る。
「これが、奈落?大穴?ねぇ、あんまりそうは見えないよ?」
「なぁんかもっとおっきな穴を想像してたが……期待よりは小さいなぁ」
「あそこからベストロが出てくるの?」
「らしいぞ、近寄るか?」
フェリクスが穴の大きさに驚く。
「あれなら……あるいは我々だけでも可能性かもしれん……全員で発破の準備を行う」
カルメが、背負っている荷物を下ろす。
「私が、先にいくよ」
カルメが空の彼方を見ている。
「ねぇ、みんな」
カルメは歩いていった。振り返る。
「本当に……先にいくの?やっぱり帰っても……」
「いえ、僕は行きます。カルメさんがそうやって先に行くんですから」
マルセルが歩み寄った。フェリクスが指揮を執る。
「カルメを先頭に近寄る、ベストロが這い出てきしだい、あの穴にでも落としてしまうぞ。どうせ埋めるのだ、せめてその土台にでもさせてもらおう。警戒は怠るな」
ヴァルトたちも歩いていく。空に風が吹く。漂うものは何もなく、吹き向ける風だけ。その風の向きが、近寄るとおかしくなった。
ヴァルトが違和感を覚える。
「……あっこから、いま風が来たか?」
「ヴァルト、何を言っているんですか?」
「いま間違いねぇ、来てる、おかしいだろ?奈落っつうからには深い穴みたいな感じがあるが……風があるなら、どこかに通じていて……そこには、別の、風が生まれるようなデカイ大地があって、自然があって……ベストロは……いや、もっとおかしいことがあるぞ」
ノイが首を傾げた。
「ヴァルト、なに言ってるの?」
空が割れるように穴が開く。真ん中からこじ開けるような、何かが衝突したときと同じようにして空いたそこからは、一本だけの、全てを兼ね備えたような、すべての戦場にあるべきような斧槍が飛来する。ヴァルトたちの後方にそれが突き立てられるようにして地面をその圧だけで破砕し、爆発したように風が発生し、先行していたカルメを除いた全員が浮き上がる。斧槍の直上、柄の最後尾に、また空から飛来するのは、羽根を生やした存在だった。人型で、髪は白く、酷いほどに傷痕を携えるのをひけらかすような服装で、燃えるような目線を持っていた。
にやけ付いたそれは、翼を1度だけ羽ばたかせ、その見た目から出る力を越えた風圧を発生させ、浮かび上がった全員を穴の方向へ吹き飛ばした。マルセルは、泣いているカルメをそのとき見る。口の動きに何か言葉を発したのを理解したが、それ以外のすべてを理解などできなかった。
言葉には、それを感じた。
―帰ってきて―
2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。




