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ブルートアウス ~意思と表象としての神話の世界~  作者: 雅号丸
第三章 信人累々

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九話 黒煤の執行者

第九話 黒煤の執行者


走り抜け、昼をとうに過ぎたとき、川沿いの発展したような村落の向こうに、岩肌や絶壁に見まがう大きさの塀に囲われ、それらにはノコギリのよいに凹凸のある、回廊がある。見てくれにおいてかなり重要な、最大級の塔は顕在であるが、他に何かがあるとは見えない。遠目から見ても建物が少ない、ボロボロな古城が見えた。たいそうな出で立ちだけは、足りないながらもあったので、その危うさがより際立つ。旗は何らかの家紋か、あるいは聖典教かの印をきっと掲げていたのだろうが、風化か焼けたか、判別はできないでいる。ノイがそれらを見る。

「あれがえっと……えとろ?」

フアンが話す。

「エトワール城……星、ですか。きっと昔は素敵だったんでしょうね」

テランスは自身の武器を見つめる。

「……そんなのが、今やベストロの住家ってのもなぁ」

おそらく村の跡地にたどり着きそうになると、カルメがノイの目を覆った。

「ごめんねぇノイちゃん……ちょっと覚悟したほうがいいんだ。あえて言わなかったけどさ」

「えっ、なに?」

「ノイちゃん、怖いって言ってたし……ここはちょっと」

「だから、なに?」

馬車が止まり、ノイは馬車から下ろされた。ノイの鼻腔に微かに、恐怖がかすめる。

「おばさん、ねぇ……なんか」

うつむきに目を離され、最初に入ってきた。入ってきたのは白い石に見まがう何か、少し赤い。

「えっ……骨?」

ノイは前に視線を向ける。立ち並ぶ家だったものはことごとく倒壊しており、そこかしこが茶色く、風化していた。茶色いその付近には必ず骨が飛散しており、それぞれが、頭蓋であろうとも、小さくとも砕かれていたりする。あばらをえぐるよいに刺され、そうしてそのまま骨になったであろう、角の生え骸。爪を、とくに普通な骨に食い込ませながら、矢で節々が貫かれたような骸。

「これ、なに……?」

ノイは膝から崩れ落ちそうになるのを、足元の骨を見て静止した。フェリクスが答え始める。骨は避けていた。

「私の祖母は、ここから生き延びたそうだ。そうして、ここの悲劇は幼かったときに聞かされた。デボンダーデとすら呼ばれる前の、出現から半年にも満たないとき……ベストロを抑えるために、ここエトワール城はベストロ討伐の前線として機能した時期があった。当時まだ奴隷階級という概念があり、ベストロの末裔としてベストリアンが認識され使役されていた時代。このオルテンシアに、ベストリアンがまだ数多く生存していた時代。人々は、この村落にいたベストリアンの奴隷らをはじめに、鏖殺を開始した。奴隷を殺すというのは、すなわち労働力の無為な消費であったが……それをやめることなく、次第に歯止めは効かなくなり、ここより東からベストリアンらも集めて、ひたすらに、子なども含めて殺した。これはその跡だ、一挙に集めすぎた影響でベストリアンは団結して反旗を翻し、からだ1つで鎧すら破壊して暴れまわっていた者もいたそうだ。エトワール城の城内には、山とつまれたベストリアンと、オルテンシアの人々の死体がどちらも出来上がり、それら死体に引き寄せられたのかベストロが襲来。東陸の、球凰【キュウファン】には確か……漁夫の利という言葉があるそうだな。まさしくそうしてここはベストロの手中に落ち、そうして奪ったベストロも、今度はベストロ・アベラン……シレーヌにそのエサの山を奪われたというわけだ。強者とは常に最後に出で、そうして全てを奪う。強さに、賢さは必ず伴うものだ。強さと賢さ、両者は目的と手段であり、手段であり目的だ。宝石どうしをぶつけ、削り、損なうことなく輝かせる。ゆえにまばゆく、恐ろしい」

フアンは、骨が握った、人の形のあるようで、いま砂のようになくなっていった布をしゃがんで膝をつき手に取る。聞く言葉で、ヴァルト達はアマデアという存在を思い出した。あれもそうやって奪っていったということに対して各々は、全ての言葉を飲み込み、フェリクスの歩幅に合わようと思い立つ。

ノイは、まじまじとそれらを見ながら、しかし歩くことしかできなかった。カルメが付き添う。

「怖くない?骸骨だらけで不気味だよね、ここ。いくらベストリアンだといっても。まぁ人も混じってる」

フェリクスが立ち止まった。

「カルメ……ここはオルテンシアではない」

「フェリクス、あなた防壁のときからだけど、少しらしくないよ?もっとオルテンシアに」

「隠す必要がなくなったのだ。私はもう上層では、戦闘を勝手に指揮した大罪人であろうしな。先はない、ゆえにもう、私はもう私を、隠すことをしない」

後方部隊が到着すると、各員は早々と荷物を下ろし始めた。骨のできるだけ少ない住居を選択し、普通の骨は丁重に扱う。いくらかの骨は、粉砕されて粉になり、また窓の跡から投げられた。それを投げた人間は、やたらと手袋ごしの手を、まるで糞でも掴んだかのようにして見る。ヴァルトがそれを見ると、相手は笑顔で手を振った。

「頑張れよぉ!」

「おう」

ヴァルトは一言だけ返事をすると、フェリクスの歩みへ合わせた。

「露骨だな」

「外に出るということはつまり、それだけこの国に尽くせる人材というわけだ」

「そんだけ強く意識してるってわけか、俺らと……」

ヴァルトは顎が前方に伸び、牙がむき出しになり欠けている、オオカミかイヌかの獣人だったものを、腰を少しだけ曲げて、見つめていた。

「コイツらの違いを……だから、死体でもベストリアンか分かるって話か」

ヴァルト達は、馬車に詰まれた兵器を取り出し、各々の武装を装備していく。ノイは骨を見ていた。そうして、少し力んだ。そうしてフェリクスを見る。

「さっき、フェリクスさん……」

「それはきっと、なにか雑談のようなものだろうか?作戦の詳細をつめてからに回してもらえると助かる」

「えっと……」

ヴァルトとフアンが止めた。

「よし、あとだ」

「あとですね」

「だが、さっきの言葉の意味……しっかり聞かせてほしいぜ。隠す必要ないって、つまりそういうことだよな」

「分かっている、そして……いま私が死んでいないということは、行動隊の面々はやはり、私のような人格を、全員が有しているのだろう」

マルセル、テランス、カルメ、誰もフェリクスを何か、睨む真似はしていなかった。

設営された仮拠点は、雨を防ぎ、寝床は十分な数。調理器具や修繕、簡易的な鍛冶も可能であった。総じて、金がかかっている。補給は潤沢にあり、食事は、オルテンシアの外とは思えないほど量があり、そして質もあった。肉は美味しい。

「ん、なんだぁ……めちゃくちゃうまいぞ!」

テランスが食事をかきこんだ。顔は明るいままである。兵士の1人が話す。

「これは、上層の方からのささやかな品。だそうです」

フェリクスは目を瞑った。マルセルが少し笑う。

「どうやら、僕らは応援されているみたいですね?」

「これでは……まるで最後の晩餐ではないか」

テランスが食べながら話す。

「これ晩飯なのか!?ちょっと早いぞ!」

「お前というやつは……」

兵士達は笑っていた。丁寧に仕事をこなす彼らが、ヴァルト達には恐ろしくみえる。

ほんの少し時間が経つ、構えられた仮拠点の外で兵士たちが少し騒がしくし、テランスとフアンが出た。

「なんだなんだ?」

兵士たちは、城を見つめていた。怯えている。

「大丈夫ですか?」

「いえ、ただ……とても大きなベストロが、いましがた城に降りて。大きな翼を……なんだか、睨まれたような気もする……」

「シレーヌでしょうね。食事を用意するさい、火などは使ってませんよね?」

「はい、発見されると不味いので。出した食事も、だいたい果実か干し肉だったかと思われます」

「素材だけでも、中々でした」

「……すごい胆力ですね」

「まぁ」

「……帰ってきたら、しっかりと温かいものを作りますので」

食事をおえて、すぐに作戦会議にうつった。長い机に配置された資料は、シレーヌの聖典での生態、各種兵装のマルセルが描いた設計図、兵器、エトワール城の見取り図など多岐にわたる。兵士に達によって飲み物が置かれるので、マルセルは頭を下げた。

「ありがとうございます」

「やめて下さいよ。むしろそれをいうのは我々なんです。力及ばずでも役立ちたい、だからここにいるのですから」

兵士たちが出ていくのをみて、フェリクスが指揮を取り始める。

「では、作戦の概要・詳細を説明する」

机に各員が座るか、そばで立っている中でそれは開始された。

「本作戦の最終目標は、禁足地に空いたとされ奈落、そこに繋がる大穴の調査だ」

「ぜんぜん忘れてたぞ兄さん!シレーヌのことばっか頭に!」

「この最終目標は次年度、春期第一デボンダーデまでに完遂する。そのため、なんとしてもこの先にいるシレーヌを討伐し、周辺地域の安全を確保……大がかりな拠点としてエトワール城を、奪還することが必要だ。欲をいえば夜襲にて一撃のもとにやつを吹き飛ばしたいところだが、ベストロは奈落より絶えず来る。短期決戦だ。城内については、シルヴィー・カルメより説明してもらう」

カルメが前に出た。台に地図が敷かれる。

「はい地図に注目しててね、おばさんが調べた限り……まぁ半年くらい前だけど、城はあれ放題だった。足元には細心の注意をしてね。ここからこうぐるっと城にいって、長くてゆる~い階段を登っていって、城門から入ってまっすぐの大広間がシレーヌの寝床。真ん中には、大きなサン・ゲオルギウスの銀の像が立ってる。城内は完全に破壊されているから突入は簡単だよ。門に首をつっこませて、上を破壊して埋め立てるみたいなのは期待しないほうが良いね。あと大量の死体や骨で、とにかく足場も悪い……拠点にした関係で城の中からシレーヌを引っ張り出したいところだけど、引っ張り出したとて、ゆるい階段とかいう変な地形で戦うはめになる。結論、城内をできるだけ立体で使う戦闘が推奨。まぁぶっちゃけた話、拠点として利用できる部分が限られ過ぎているから、城の損害は考えなくて良いかもね」

フェリクスが再び前に出る。

「と、いうわけだ」

フアンが手を上げる。

「あの、馬車に積んである弩の運搬はどうします?運用方法についても……」

ノイが手を挙げた。

「私が運べばいいんじゃない?」

行動隊は様々な戦略を一挙に練り上げ、日の登っているうちに作戦は決行された。

全員がゆるい階段を登っていると、しかし静かであった。先頭はカルメ。

「寝てんのか?」

「まさか、寝てないのを見越したから君ら、兵器作ったんだよ?」

少し進んで、カルメが片手を横に広げ合図し、全員が姿勢を低くしていく。フアンは、事前の作戦のとおりノイに接近し、クロッカスと同様に投げてもらった。崩れかけの場所を避けたそれは、精度があがっていた。フアンは5点で着地し、感心した。

(すごいですノイ、成長しています)

行動隊の面々は、より感心をノイとフアンに向ける。ノイはその視線に、ただ疑問符を浮かべた。フェリクスはよりいっそう感心を向ける。

(普通……といった具合だな。案を聞いたときはカルメが吹き出したほどだったが)

フアンは上から、それが歩いているのと、方向、距離を示す。

「目標シレーヌ。各員それぞれ誘導班と工作班へ別れ。工作班は弩を携帯し、手筈通りに大広間を狙える位置へ計2つ設置。誘導班は大広間手前の教会へ移動、シレーヌを攻撃し、2つの弩の射程に誘導する。工作班は言うまでもなく、誘導班も教会までは、体力消耗を抑えるために隠密行動。各員行動開始」

手筈通りに解散していく。

ヴァルト、テランス、マルセルは工作班として裏側へ回り兵器の設置を担当。カルメ、フェリクス、ノイは、工作班のフアンの合図で、誘導班として表から入ることになっている。

工作班の会話があった。テランスは実に渋い顔で、弩を2台組み立てられる量の部品をかかえる。

「頑張って下さいテランスさん」

「まともにこれを運べるのは、僕だけだろう?シレーヌに発見されようと、僕なら持ったまま走れる」

「ノイなら運べるだろうが……まぁ、普通に音立てそうだしなぁ。陽動班は、あとで自分から体をさらす班……ノイなら、最悪1対1もできら」

「心配じゃないのか?彼女は……」

「心配する要素がねぇ、あれが死ぬのは、世界ぶっ壊れるときくらいだろ」

「なんという信頼だ、これが幼なじみというやつか。フアンくんもそうだろうな」

「フアンはなぁ、なぁんかコロっと逝っちまいそうなんだよなぁ」

フアンが肩を落とす。

「こらヴァルト、不吉です」

ヴァルト達は城壁の側面を登り、崩れた城の残骸などを登坂、内部へ侵入していく。

「カルメの道順、すげぇな。マジで合ってる」

「おばさんは凄い、本当に凄いんだ。ちなみにここへ来るときは、防具なんてしてなかったそうだぞ」

「まぁ、重いだろうしな」

「なに、おばさんは太っているのか……?」

テランスはマルセルに睨まれた。テランスは気付いていない。ヴァルトは気付いていた。

(おっかねぇ……)

崩れた建物の内部には、おそらく日用品の類いがある。布地の多くや、その何らかの骸骨を守るようにしている骸骨がある。

大広間の奥にある塔の下に来た。

「フアン、マルセル、お前らは反対側だ。頼んだぞ」

ヴァルトとテランスは塔の頂に進む。足音の鈍いのが大きくなることはなく、常に安全ではあった。

「遠いな、門の付近じゃねぇか?こりゃ」

「妙だ……さっきからあっち側ばかりうろついてる。兄さんたち、大きな音でも立てんだろうか?屁の音大きいからなぁ兄さん」

「あるいは他のベストロかもな。ベストロ間での捕食行為もある、今はデボンダーデ明けで周囲に、腹を満たせる量もいないから、食い意地はってそこらの名無しでもおってるのかもな」

「……まさか、誰かいるとか!?」

テランスの口をヴァルトがふさいだ。

「声でけぇぞ。つかなんでそうなるよ……いるわけねぇだろ、ここは奴らの領域だぞ」

「だけど……」

「……どうせ俺らは作戦上は動けねぇぞ」

「何か、話なさいか?いままでみたいに小声でなら、大丈夫じゃ」

「……はぁ?」

足音の遠くに響く。

「ジョルジュ……最強の兵士か。お前なにしてそんな称号貰ったんだよ」

「新兵のころに、防壁の外、絵付きと近接で戦ったことがあったんだが……当時所属していた部隊が全滅しかけたときだ。名付きの鳥か何かのベストロが上に飛んでいて防壁に突っ込んだ」

「たぶんエイレーヴェルだなそりゃ、あれは砲弾みてぇに突っ込んできやがる」

「拍子で上から振ってきた大砲を、破れかぶれに1人で担いで、超近距離でぶっぱなしたんだ。頭を貫いてベヒモスは即死」

「ベヒモスをか」

「みんなで追い込んでいたのもあるがな。そうして生き残った、そっからまぁ、とにかく絵付きと戦うときは、げんかつぎで僕が投入されまくって。倒しまわったらいつのまにかここにいた。兄さんと違って、運で上がったようなもんだ。でも、だからって努力を怠って誰かに一番を譲ろうとは思わないさ。でも頭を使うのは、みんなに任せるぞ」

「清々しいなおまえ」

「自分にできないことを他の誰かがやってるのを見ると、僕は尊敬する。何かできるってのはなんでも、全部すごいだろ。だってその何かができるまで、努力したってことだ。頑張ってるときは苦しいもんだろ?僕もつらい、それを知ってる、身をもって。だから任せる。だからこそ、できないことは任せてほしい。僕はジョルジュ、オルテンシア最強の兵士だ」

フアンがそこに合流し、設置の完了を完了したのを確認した。

「シレーヌの動き、変じゃないですか?」

ヴァルトはテランスの発言を思い出す。考慮の結果、顔色を悪くした。

(……ここは、ヤツらの領域。いや、もう一つあるか?)

テランスがヴァルトの肩を叩くように両腕で掴み、強く揺らした。

「ヴァルトくん、任せてくれ」

「……おまえのいったことが事実かもしれねぇ。だがおまえを動かすわけには。フアン、とりあえずすぐ戻れ、マルセルを援護しろ。1人は危ない。ベストリアンだ、可能性は高い」

「えっ??」

「いいから、頼む」

フアンは早々にマルセルの元へ帰っていった。

「言ってくれ。僕はジョルジュだ、何かできることはないか?」

「お前はここにいる必要がある」

「それはつまり、帰ってこれば良いってことか?任せろ、僕はジョルジュだ」

「塔の上までかなりあるだろうが……いや、まて」

ヴァルトはテランスに作戦を伝える。

「大丈夫だ、できる。頭を使う以外なら全部任せてくれ」

「……じゃあテランス、あっちの援護に言ってくれ」


―少し前、城門付近―

カルメが姿勢を低く進んでいく。やたら城門前でたむろしがちなシレーヌが、道を塞いだり、破壊をおこなったり。進むことを拒むように、隠れるのも難しくなってきている。

「……城門付近はかなり密度の高い場所、動くだけで負傷しかない。痛みってのは、動物なら避けるハズなんだけど……ベストロ・アベラン、やっぱり規格外ね」

フェリクスが周囲を見渡した。

「カルメ、道は他にないか?古城とはいえ下水道なども考慮を」

「……前回来たとき確認したけど、全部ダメ。三叉路を抜けて側面、城壁付近の回廊を通ろう。すごく遠回りになるけど……」

「時間も過ぎれば、補給部隊も他ベストロとの対峙は避けられない。あるいは隠密を捨てる必要も考慮すべきか……?」

ノイが困惑しながら提案する。

「えっと、命は大切にいこう?」

「……それもそうだな。ノイくん、助かった」

崩れる建物を回避しながら三叉路を抜け、階段を下りる。ぐるりと回っていき、地点にたどり着く。城壁で行き止まりの大きめの道が右から伸びている。城壁に登れる階段や梯子があり、回廊もあり、屋根付きの見張り台に繋がる。

「城壁を登って、奥に進めるだけ進もう。ヤツは建物は壊してるけど、囲ってる城壁を破壊しようとはしてない。アイツも、この壁の便利なのに気付いてるんじゃないかな?分かりやすい縄張りの主張だし……」

足音が近付いてきた。ひどく鈍い、シレーヌの音。

「なんでこっちくるのよ……!?」

「静かに……」

カルメ、ノイ、フェリクスで、左側面にずれて家の跡にもたれかかる。中から軽い足音を、ノイが聞いた。

「誰か、いる……?」

小声で呟いた直後、大きな物音を立てたそれが遠くに離れた。音のありかに、その骨の見える腕のような羽毛の翼ではたく。男の叫び声とともに勢いよく声の位置が吹き飛ばされる。シレーヌはそこへ移動していった。

「だ、だれかいたってことかしら?」

「補給部隊か……?」

「ううん、違うと思う……」

「だが、とりあえずいまだ。離れているうちに……」

城壁の回廊から、一本の矢が放たれる。フェリクスの喉元をめがけたそれを、とっさにカルメが、懐から組み立て式の弓を取り出し、矢筒から伝え放ち、空中で矢を撃ち落とす。放った者はさいど弓を構える。姿はオオカミであったが、それはしっかりと人であり、殺意を持っていた。

「ベストリアン……!?カルメ、これはいったい」

カルメは矢を放った、それは相手の腕に当てる。出血し弓の構えをやめ、崩れながら回廊の見張り台、その開け放たれていた扉に入る。

「なんでここにいるのよ……!くっそ、シレーヌも近いってのに」

「前はいなかったということか……」

「いや、前は隠れてた……のかも。そうか、エトワールの奴隷、生き残ったんだ、ベストリアンが勝ってたんだ……!」

負傷した獣人が入っていったところから、城壁の側の隙間から、正面の建物の残骸から、目が見える、尻尾が見える、爪が見える、角が見える、毛が見える。

「6、7、8……多いな」

「ごめんねノイちゃん、これ動けないよ。相手をよく見て、弓を構えてるのが何人かいる」

「あまりに想定が外すぎる……」

奥から、1人の亜人がでてきた。毛は白く、汚れている。耳が縦に長いそれは、ウサギであった。一本前に出て、飛び込み、開けた道を一瞬で抜ける。

ウサギの亜人は懐から石を割って尖らせたものを取り出し、先端を向けて襲いかかった。後ろからも続々とくのを、慌てながらノイが、声を抑えて拳で吹き飛ばしていく。ウサギがそれに驚き一歩下がったのをも見ると、フェリクスは装備している先込め式の短銃にかがやく銃剣を取り付け、二丁構える。

カルメが矢を放って倒れているのを首に当てて声を出させずに2つ仕留める。ノイは消え行く彼や彼女を見て、過去の笑顔だった亜人や獣人を思い出す。矢がくるのをノイは避け横に回転する。一瞬視界から外れたところに近寄るウサギは、フェリクスの銃剣が側面から突き出され、受け流せるはずだが、むりくりで避けた。

お互い音を出さないために、金属部に当てないでいる。しかしフェリクスはそのウサギにはあえて接近していく。フェリクスに弓は撃たれなくなっていった。

(同士討ちはしたくない……か。一撃で仕留めよう)

ウサギの攻撃に刃を当てにいき、相手が受け流しを避けようとする、無理に避けた影響で崩れた。重心の傾いた一瞬で懐に入るようにし、銃剣で喉を突き刺した。倒れこみ、しかし声は出さないでいる。

「……教会に急ごう」

1つかかってくるので、ノイが拳で崩し蹴る。倒れたところを今度は、戦棍を構えようと柄を握る。握った拳が強くならないので、ノイは相手が建て直し、石器で殴りかかるのを阻止していなかった。カルメがそれを、懐の短剣を抜いて腕を切り、ひょうしで落ちる石器を掴み取り二刀流になる。布地の服を見て、腹筋を突き刺して押し込み姿勢を崩し、刺したまま振り抜くようにもう一本で首を切った。数が3人と5になる。

「まだ数がいるかもしれない」

「3対5……から増えるかもね」

「全滅させる必要はない、いくらかやれば戦意はなくなるはずだが……」

ノイが提案する。

「いっそ鉄砲撃って、シレーヌ呼ぶ?相手の数なんて分からないよ?」

「いや、エトワール城すべてがこれらの根城なのかもしれない。そうなれば、数的に勝ち筋は……」

轟音が、フェリクスたちのた反対側で響く。

「爆発……!?」

「あのアホめ、私たちの援護のつもりか……死ぬぞテランス」

シレーヌは翼を広げて飛び上がり、羽ばたき、その方向へ顎肉のない口を開いて、乾いたようで血に湿った口を開け、腹の鳴りか叫び声かも分からない音を発しながら建物ごと、音の鳴った場所を瓦礫ごと、着陸しながら食らった。叫び声の数々が上がり

、フェリクスたちの周りのベストリアンは血相を変える。

「ダメだ、そこには娘が……!」

音の方向へ全員が走っていった。フェリクスたちの危機は去った。

―少し前、反対側の城壁付近―

フェリクスは大剣を構えながら、ヴァルトの指示を思い出していた。

「いいか……これは予想に過ぎないが、ベストロアンたちはこの城に分布している可能性がある」

「なぜだ、根拠はないぞ!?」

「ねぇよ、だが……いまシレーヌが暴れてる場所は建物が大量にある。あそこは過ごしやすい。んで、こっちは開けてて……確率的にここは俺らが……くっそ、あとで説明する。まだ感の域は出ねぇよ」

「分かった、で、どうすれば良い?」

「いまシレーヌが暴れているところから反対側まで、シレーヌを移動させろ。大きな音でも出して、暴れさせるんだ」

「それが、正解がなのだな!?分かったぞ!」

「いや……わかんねぇ」

「でも、きみは頭が働いた。すごいぞ」

―現在―

フェリクスは大剣の柄をひねり火薬を添付し、叩きつけて爆破した。シレーヌが降ってくるので、ひたすら走った。余裕で回避できたのはフェリクスだけで、瓦礫から出てきたところを食べられる彼らが見えた。

「……本当にベストリアンたちが!だがこれで、何がどうなるんだ!?」

シレーヌの側面からベストリアンたちが襲いかかる。踏みつけられ、古い石材の隙間に彼らの血肉が挟まっていく。

(ヴァルトくん、きみはなにを考えて……いや、それを考えるのは僕じゃない。いまはとにかく、あのベストロを仕留める)

フェリクスはただ走るが、それでも後ろで抗い、戦う彼らがよぎる。

テランスは再度柄をひねり大剣を叩きつけて爆破した。シレーヌがそれに気付いて、尻尾を振るようにして1回転にあたりを凪払う。そして羽ばたき、飛び上がり、滑空を開始して音に襲いかかった。走るテランスを完全に捉える。建物の瓦礫を飛び越え屋根に上り、屋根伝いにひたすら大広間を目指すのを、後ろからそれら瓦礫ごと食らうようにして、滑走しながらシレーヌは襲いかかった。

(やってやるぞ!なんかよくわからんが、とにかく彼らの被害を抑えるんだ!俺はそうしたい、すまないヴァルトくん!僕は頭が悪いから分からないんだ!彼らの命を、目の前で失わせる理由なんて!だって、何もしてないじゃないか!)

シレーヌの開けられた口を間一髪でひるがえすようにして避ける。

フェリクスたち誘導班が教会付近でそれをみる。

「あのアホは何をしているんだ!1回で十分だったろうに!」

「どうする、シレーヌ彼に任せる!?仕掛けの射程まで、まだけっこうあるよ!」

「くっそ……」

フェリクスはなぜテランスが動いたのかを考えた。

「……ヴァルトくんの判断だな」

「だとして、どうするの?」

「ノイくん、あれを援護するんだ。我々では近寄れない。とにかく動ける君でフェリクスの援護を。攻撃を食らうな、回避は最優先だ」

「……分かった!」

ノイは少し躊躇ったが、走っていった。

「……もう少しためらっても良かったのだがな」

「彼女はたぶん、戦うことに何か……自分の存在を感じてるのよ」

「……なら、簡単には死なんな」

ヴァルトのところにマルセルがやってくる。

「おい、おまえは下だろうが」

「テランスさんのやることを引き継ぎに来ました。それに少し気がかりで。テランスさんが動いたことについて……」

「いや、引き継ぎは問題ない」

「だから動いたんですか?」

「禁足地とここは確率論的にベストロが来やすいって話をだったよな」

「はい」

「だからこう思った……それはもっとも人間が来ることがない場所だって」

「……??」

「オルテンシアの外は、まぁだいたいベストロか。街を抜け出したやつとかだろ?エトワール城みてぇなことが起こったなかで、生き残ったベストリアンはとにかく人間に合わない地点を探すはずだし、ベストロとも会いたくはないはずだ」

「シレーヌの根城……確かにここならまず来ませんし、入ってきたベストロはアレの餌食になる」

「デボンダーデのあとでベストロがほぼいない現状で、アイツが食べるためのベストロが縄張りの中で残ってるってのも、どうかと思ってよ……んで、確率的にベストリアンの方がいると思った。んでそれがフェリクスたちと戦ってると、まぁ全部予想だけどな」

「テランスさんに爆破を頼んだのは……?」

「まぁ、陽動だな……あのあたりは建物が密集してるから、いろいろと建物が崩れて、その……」

ヴァルトは口を塞いだ。

「……いや、もう、いいだろ。だが二発目は指示してねぇ。あとでとっちめてやる」

テランスはひたすらに飛び、走り、重い装備に汗水を滴し、雄叫びをあげながら瓦礫を避ける。屋根から降りて、大通りのような場所に来る。正面には大広間の塔が見える。

「もう少し……!」

シレーヌは翼のような腕で地面をえぐり、引っ掻いて石畳を散弾のようにテランスに浴びせた。テランスは火薬が塗られていない方を盾のようにして構えそれらを受け止める。あまりの威力で体が吹き飛ばされそうになるが、踏ん張った。位置をずらして、体勢を立て直すと、大通りの真ん中におる。

「体格差など、僕には通用しないぞ!」

シレーヌは大きく息をすう。テランスは聖典にあった文言を思い出す。それはよく聖典の、ベストロの詳細を説明する文言だった。

―空を根喰みて、怒りを打ち出さん。濁音の刃は黒き鳥に、恐れを与えるを教える―

シレーヌは吸い込んだと思われる空気を、ただ一心に声として撃ちはなった。空間が歪むように、1本の太い柱のようにして波動を撃ちはなった。テランスは目を見開いた。

(聖典にかかれていることは、だったいが見た目だったり、相手の行動を描写してる。あれはそうかこれのことか。よく分からないが……とりあえず避ける!)

テランスは横に転がって避けると、間髪入れずに何度もそれをシレーヌは放ってくる。テランスは対応に追われていく。

「なんだ、このはやさは!!」

火薬が塗られた面をシレーヌに向けて防ぐと、地面でくだけ散るようになる波動でテランスの全身から血液が吹き出る。

「うっ、くっそなんだこの攻撃は!」

吹き飛ばされる。頭から血を流すテランスが体勢を直す前に、シレーヌは口を開けて突進してきた。

「全然っ、余裕だなぁぁ!!」

テランスが無理やりに回避を試みた瞬間に、だれかがシレーヌの顎をぶん殴って軌道を反らす。テランスはそれにより懐に前転回避に成功した。すぐに体勢を立て直し、回避する。

「あぶねぇ……で、なんだいまの」

「走って、はやく!」

横にノイがいた。

「いま、シレーヌを殴ったのか!?」

「急いで!」

「あぁ!!」

ノイが真正面の塔に走ろうとするのを腕を引っ張って止める。そうしてテランスは、ノイを連れて側面の路地に入った。建物の扉が入りくんでいる。

「なんで!?はやく、いかないと!」

「いまの攻撃は、地面に振れるだけでそこを破壊する威力を持っている。僕じゃなかったら死んでた」

ノイはテランスの全身を見る。ひどく血が流れ、青い装束の部分は赤で染まる。

「えっ、まさかこの血あんたが!テキトーにシレーヌ殴って浴びたのとかじゃないの!?」

「いや、逆にあのデカイのをテキトーに殴れるわけないだろう!?いや君はやったがな!?路地であれが飛んでくるのを回避するしかない!」

シレーヌが建物に首を突っ込んで破壊し、瓦礫を被りながらテランスたちと目をあわせて、波動を放ってくる。テランスは付近の扉を蹴破る。ノイは動きを合わせてそれらを回避していく。砂塵のひどく舞う中、突然攻撃が止んだ。ノイはテランスと一緒の建物にいる。上には屋根がある。

「あれ、止まった?」

声の位置に大きく口を開けて、上から覆い被さるようにシレーヌが、ノイを喰らおうと襲いかかった。屋根は砕かれ、口が露呈し、ノイは息を飲んだ。

テランスが、ノイが殴った箇所を大剣で殴り付ける。爆発でシレーヌは攻撃を中断した。衝撃でノイの近くに落下するなか、テランスはさらに追い討ちするように飛び上がり、大剣で、開いた口の中に入りそうになりながら、少し見えていた顎の筋肉を叩き切る。シレーヌは怯み、そのうちにノイも合わせて崩れた屋根から上へ向かい、建物の上を走っていく。

「くっそ、ここはここで危険じゃないか!!音を聞きすぎだ、意外と繊細なんだなアレは!!」

「テランス、ありがと!」

「いいさ、というより……君が無事ということは、兄さんたちも無事なんだろ!?ヴァルトくんさすがだ!」

「あんたなんでここにいるのよ!なんか大切なのやるって」

「大丈夫、僕がこのまま塔を駆け上がれば良いんだ!」

ノイは、大広間の奥の塔を見る。それを昇るための設備は明らかに、梯子だった。

「かけ……あがる?」

「ノイくん、とりあえず陰に!」

テランスはノイを両手で押し倒し、瓦礫の中に埋まった。

「うえ!」

血の滴るテランスに、シレーヌは波動を放ちながら滑空していく。太陽のようにすばやくテランスは駆け抜けながら、大剣の柄を全力でひねり、限界まで火薬を添付して地面に叩きつける。ひょうしに大剣に乗り、逆さに燃え盛る火薬で噴火を乗りこなして、塔を半分ほど登った。テランスは梯子を掴むも、シレーヌの動きで根元から破壊され落ちそうになる。塔は一部を除いて石材、その石材の割れ目にテランスは手を伸ばし捕まった。上からヴァルトが手を振る。

ヴァルトが綱を用意しようと動くが、テランスはそれを待たない。

「走れば、問題なし!」

ひび割れに足をかけ飛び上がるように、脚力で石材の壁をえぐりながら走る。

「うおぉぉぉあぁぁぁあああ!」

テランスは頂上付近のネズミ返しすらいに返さず登り、ヴァルトの眼前に立った。

「ど、どうだ!」

シレーヌがテランスに引っ張られるよいにして登っていき、テランスを食らおうと頭を頂上に表した。テランスが振り返ってそれをみると、赤い内側、歯に挟まった布地が見える。

「ふせろ!!」

テランスがとっさにふせる。ヴァルトは弩を構えて発射する。口内に突き刺さると爆発し頭を液体の鉄が貫いた、シレーヌは大広間に背を向けながら落下しそうになる。

「いまですね!」

大広間の、ちょうどノイが倒されたあたりでフアンが幕を投げ捨て、四方に十字に伸びる矢じりを、弩で放った。弦だけでなくバネも利用され威力の増したそれは、大きさのかなりある矢じりに似合わず、射手から着弾点までを水平に飛翔し、骨のような背に突き刺さる。

「っしゃぁ、落ちろぉぉ!!」

ヴァルトの声の荒げると共にシレーヌの落下しそうになるが。翼の腕で塔をつかんでたえる。

「落ちろって、いってんだろうがぁぁ!」

ダメ押しで上からテランスが翼の腕を大剣で叩きつけ爆破する。反動で吹き飛び塔の頂点に戻る。低い怒号をさらけ出しながらシレーヌは塔から落下し、背中を向けて地面と衝突すると、バギバギと音を立てて、フアンが当てた矢じりがめり込んでいった。蒸気のようなものが背中から溢れてくる。フェリクスとカルメがフアンに駆け寄っていった。

「当たったか!?」

「はい」

「全く、随分大きな作戦だ」

「ええ、興奮状態にさせたシレーヌを塔を上まで登らせて攻撃で落下させる。落下する前に僕の方から背中に矢じりを当てる。食い込ませたまま背中から落下させて自重で矢じりを体内に深く食い込ませる……」

フアンが話していると、爆音と共にシレーヌは、四方と上下に内から太い柱が生え悶えた。拍子で左翼は肩ごとえぐれて宙を舞う。どの角度から見ても十字になるようにして火花がシレーヌを貫き、頭部、胸部、両肩、尻尾の大部分に穴を開け、血を湯水のように垂れ流して倒れたままでいる。

「まさか……ベストロの皮膚で構築された内部構造を、自重でかかった負荷で内臓あいた銀を当てて融解させ、装薬を混ぜて起爆。ベストロの性質を利用した加圧式の投射矢じり……」

マルセルが回転ノコギリを構える。

「ベストロ由来の加圧起爆方式……踏んで爆発する爆弾の資料見せただけで、こんな兵器を作ってしまいました。それにこの破壊力と貫徹力、僕のまとめた資料でなく、イノヴァドールの前身の資料から、わざわざ1から読み解いて組み込んだんですよ。普通まとめてある方を読みながら作るでしょうに……」

ノイは、火力にときめいていた。

「すごい、これヴァルトが作ったんだ。でも実験のときはヘンテコな感じだったのんに」

「ヴァルトさんが倒れてからは、僕がなんとか火力増大に漕ぎ着けました。といっても、部品の形を少しいじっただけですし、その糸口もヴァルトさんから聞きました」

シレーヌがかすかに息を吹き替えし、ひっくり返ったまま怒号を出し、血を波のように振り撒き、しっぽを動かして重心移動、片翼のシレーヌが体をひっくり返し、睨みつける。しっぽは塔を破壊する。

ヴァルトは崩れる塔の欠片を踏み、飛翔して退避する。

「着地頼む!」

テランスがヴァルトを見やった瞬間には、すでにノイがヴァルトを抱えて飛んでいた。シレーヌの後ろに転がりながら着地した。

シレーヌは体をひねり始める。テランスはとっさに、取れた翼の負傷部位に大剣を叩きつけ爆破。動きを止める。反動で崩れた塔の瓦礫に飛んでいく。

「兄さん!!」

フェリクスが箇所を指示し、カルメは瞬く間に8の矢を放つ。左膝に矢をすべて命中させ、蒸気が出始める。鳴いて威嚇しながら片翼で羽ばたき、散乱する骨を吹き飛ばし攻撃し始める。ノイがヴァルトを庇うと、牙や歯に爪が浅く刺さる

「痛っ!」

「目を守れ、当たったら終わりだぞ!」

ノイが顔を下に向けてヴァルトを庇っていると、シレーヌが片翼で羽ばたき重心を移動させ、その少しの浮遊の慣性でさらに転がるように移動していく。進行方向は前方で、フェリクスとカルメやフアンにマルセルは回避を行う。

「巻き込まれるな!!」

地面と屍山を破壊しながら大広間をぐるりと周り、足場が悪化する。フェリクスが銃を構えて4つ発砲し、命中したシレーヌは重心が変化し、積みあがった骨の山に激突する。内の方にあった死体はいまだ肉が残っており、酷い腐臭が漂い始める。

「……棺桶の中で戦ってるみたいね」

残骸を背にシレーヌは深く息を吸い込み始めた。テランスがこえを大きくする。

「あれはヤバかったぞ!なんというか、音の爆弾だ!いっぱい吐いてくる!」

ヴァルトが声を大きくする。

「塔の瓦礫に隠れろ!」

柱の残骸のようなものに全員が集合する。

「耳ふさげ!」

テランスとヴァルトが耳をふさぎながら話す。

「あれ食らったとき、全身から血が出たぞ!!」

「ベストロは血に反応する、ちょうどよかったんじゃねぇか!?」

シレーヌの吐く波動がいくつも襲い掛かる、悲劇の残骸を押しのけ、眼前の獲物を粉微塵にするべく。音が風のように飛び散るが、まるでその一発一発が砲撃の弾着のような轟音を立てる。残骸を破壊していくも、後ろにまで効果は及んでいない。

「着弾しても威力があるなら、もう分厚いのを盾にするしかねぇ。あとは賭けだ!!」

フェリクスが声掛けをする。

「攻撃が終わりしだい、もう片方の翼を破壊する!テランス、ノイ、フアン、我々で目を破壊して援護する!突撃して、翼に切り込みを入れろ!!マルセルとヴァルトはそこに重ねて攻撃し破壊を狙え!!」

全員の了解の声とともに、シレーヌはより強く息を吸う。嵐の前のような轟々とする風の音を立て、あたりに舞う骨の粉をまるごと集める勢いで行っていくのを瓦礫の陰から見えた。音がやんで一瞬の静寂、シレーヌは首をまっすぐ瓦礫に伸ばし、爪を深く地面に突き立てて体を安定させる。さきほどから吐き出していた音の爆弾の、10発以上の破壊力はあるものを、喉からえぐり出すように放つ。瓦礫は完全に崩れ去り、破片が四方に飛び散る。シレーヌの前に見えたのは、大剣を盾のように構えられた光景だった。銃声がその陰から1つ響くと、シレーヌは視界が欠けた。

「各員、行動開始っ!!」

銃声と共にフェリクスはそう発し、左目に命中させる。ヴァルトとマルセル以外はが一斉に動き始める。カルメは真っ先に相手の視界に入ると矢をつがえて放つ。執拗なまでにカルメとフェリクスは、とにかく互いの射線を切り離していき、対応させる。ノイが急接近し片翼を、輝く銀粉をまぶされた戦棍で殴り付けヒビを入れる。フェリクスが装填に入るときにフアンは二刀を槍に変形しながら突撃し、まぶされた刃を地面にし棒に見立てて高跳びをする。けっして低くはなかった頭部に乗り込み、二刀へ変形する。一瞬目を閉じたところに隙を見て差し込む。弾かれはしたが蒸発が見れる。

(硬い、けどこれで脆くなったはず)

フアンは、兵器によって開けられた背中の穴を見て、自身の所持する銀粉の袋を取り出し、袋を切り裂いて中身を中へ投入した。骨の中の肉がひどく沸騰し、シレーヌは悶え体を波打たせ、フアンを振り払う。落下したフアンをすりつぶさんと飛びかかるシレーヌは、すでにフアンに近かった。

「僕の友人に、振れるんじゃない!」

テランスの豪快な振り上げと爆発により軌道を反らし、ノイが飛び蹴りで追撃し動きを中断させる。懐へマルセルが突撃し、火薬の爆発でノコギリを回転させながら、全員の攻撃で削れた箇所のうち、右翼の爪を1本削り取った。

「おぉ!効いてるぞマルセル!」

マルセルは悶えるシレーヌの暴れるのを、懐に入りながらも回避しながら、立て続けに、確実に負傷部位を削る。体格の小ささを遠心力で補いながら、足元で振り回しところ構わず削っていき、刃が表皮のような骨にあたる度に火花と骨粉と血肉が飛び散る。当たった拍子の切り込みを基点に削り取られていき、シレーヌは足の残った力と片方の翼で跳躍した。マルセルは大きく吹き飛ばされるも、カルメが受け止める。

「すみません!」

「いいよいいよ、偉いよ、すごく!」

中央のサン・ゲオルギウス像は、ただ戦いを見ているだけだった。剣を直上に掲げ、勇ましくも清々しく出で立つ、筋骨みえる軽い甲冑を装備するかのような彫り、土台以外はおそらく銀でできている。塔がなくなったおかげで大きさはより鮮明にみえ。その場にあった屍の山を優に越え、もし動けばシレーヌとまともにやりあえると思わせる。そう思わせる迫力はたしかに目に宿っていた。それの側にシレーヌは、およそアベランとは程遠いように、行動隊に対してだらしなく倒れ込むように着地する。ヴァルトはその隙に塔の瓦礫に目をやり、岩を掘り返した。

「おぉ、壊れてねぇな!!」

ヴァルトは大きな筒の武装を発掘した。破城釘であった。フアンが驚く。

「持ってきてたんですか!?」

「あったり前だ。だが、これどう使うよ」

振り向き、尊厳を振り絞り、唾液と血液を混じるのを垂らしながら大きく口を開け、馬の1頭や2頭は飲めそうに喉を開ける。後先のためらいのない吸い込みが、転がる石や骨ごと吸っていく。テランスが大声をあげる。

「ヴァルトくん、それ貸してくれ!!!」

ヴァルトがあたりを見渡すが、物陰や遮蔽はない。

「……おらっ!!」

ヴァルトは遠心力で破城釘をテランスに投げてみる。

「おい、使い方は」

「ノイくん!!」

「話聞けって!!」

ノイが返事を返す前にテランスは大剣の柄をひねって火薬を充填させてから渡した。

「どうしたの!?」

「ここから、シレーヌまでの半分くらいの場所にこれを投げるんだ!」

とりあえずでノイはそれらしく放物線を描いて投げてみた。剣はグルグルと空気を切り裂きながら落下する。ノイの隣で、腰を落とし急加速で駆け抜けるテランスは、その挙動に細心の注意を払って見る。空気の流れが遅くなり、思考は鳥のさえずりで目覚めた晴れの日にようにに冴え渡り、そうしてくっきりと回転の落下がテランスには見えた。

(3、4……5だな。回転して落下、大丈夫……最強を、背負うんだ!!)

地面を踏み、破壊して進む。相手の目が見えない左の方向から向かい、大剣が刃を水平に火薬の面を下に落ちそうになった瞬間、大剣の刃に向かって大きく跳躍。刀身に乗り爆発、大剣が足元からテランスを打ち上げる。大剣がテランスに速度を与えて落下した。マルセルが回収する。

「うおあぁぁぁあ!!」

テランスは直感で、破城釘という名前が付いていることも知らない武装に引き金があるのがわかり、右手で担ぎながらそれを引いた。爆音とともに釘が打ち出され、そしてシレーヌの右目に命中した。フアンが着けた銀粉が腐食するように溶解させていたため、命中箇所の骨密度は脆くなっており、眼球の破壊に成功した。シレーヌは顔面を血液で染め、ひどく鳴いた。テランスは釘が貫通はしなかったための反動で吹っ飛び、行動隊のところへそのまま飛んできた。5点で着地し転がり、運動を緩やかにして着地すると、ヴァルトに破城釘を投げる。

「よし!!」

テランスが胸の前で拳を握りしめると、しかしシレーヌは目の見えないのを理由に、さらに大きく息を吸い始めた。胸骨がえぐれるような音をかき鳴らし、骨片や瓦礫だけでなく、まるまる頭骨すら吸い込む。ノイが警戒する。

「一番ヤバイの来るんじゃない……!?」

ヴァルトとマルセルが、人間の頭骨すら吸っていくそれを見ると、自身の懐から取り出した導線の付いた球体を取り出し、お互いが自作の着火装置で火をつけて投擲する。シレーヌは目の見えないためにそれを吸い込んでしまい発破、喉奥で起こったそれに対応できず、シレーヌは倒れる。ヴァルトは付近の銀の像を見て、なるべくはやく破城釘の装填を行っていく。フェリクスはそれを見て指示を出す。

「全員、銀の像の破壊を優先!!ヴァルトくんを援護しろ!!」

ヴァルトは驚きながらも装填を完了する。

「ノイ、あれが起き上がるのを抑えろ!」

「分かった!!」

カルメがさすがに違和感を覚えた。

(分かったって何……???)

ヴァルトが破城釘を構えて銀の像に向かっていく。シレーヌが息を吸い、波動を放とうとするのを、カルメの矢が5本顎あたりに命中し顎関節が外れ、吐いた波動が分散する。ヴァルトに向かう弱めの波動を、ノイが腕を前に交差で組んで真正面から受けとる。全身から多少の血液が出る。

「いくよヴァルト!」

ヴァルトが脇を通ろうとした瞬間にノイはシレーヌの正面に立っており、何度も戦棍で顔面や角らしさもあるような箇所、とにかく頭部を殴り付けた。ヴァルトはサン・ゲオルギウス像の前で破城釘を構える。

「ノイ下がれ!!」

しっかりとくっ付けて引き金を引き、爆音と煙に爆ぜて散る銀が混じりながら、左足を破壊した。傾いた像は掲げた剣をシレーヌの首に向けて崩れていき、もろともかぶって剣は刃を硬いか骨の表皮に通した。首を切り落とすことはなく止まり、シレーヌは波動を体内に取り込むようにして、その剣に切り裂かれた喉あたりから波動を噴出させて重く吹き飛ばし、空中で回転し地面にそれは突き刺さった。ヴァルトは目を疑った。テランスは駆け出し、剣を引き抜こうとしている。

「いまので死なねぇのかよ……!!」

ヴァルトの前でシレーヌが暴れ始めるも、ノイはシレーヌの正面に立って顔面を戦棍で殴り付ける。ヒビが入るほどに何度も殴り付けていくが距離が近い、開かれた口はノイの位置を攻撃で認識し噛んで攻撃、フアンは二刀を槍へ変形しておもいきりその口へ飛び込む勢いで突っ込み、斜めに開かれた口の中に突き刺して、口が閉じられるのを防いだ。フアンは即座にノイを抱えて交代し、フアンの槍がひしゃげそうになる中で、マルセルが大きく降りかぶって突撃、火薬で回転を上げたノコギリで顎をより深く破壊して口の動きを止める。間髪を入れずにマルセルは首にノコギリで傷を付けて下がった。尻尾らしきのは激しく動くが、カルメとフェリクスで射撃して動きを鈍らせる、しかし足も含めて動きが止まらない。ノイが尻尾を素手で掴んで、さらに動きを鈍らせる。

「じっと……して、なさいよ……!!!」

テランスは刺さった大き過ぎる剣を抜くが、自身より3倍は大きなその剣は倒れる。金属が響く音がひどく鳴り響くなかで、ヴァルトがテランスに指示を出す。

「おい、剣先を下から爆破して持ち上げろ!」

「分かった!」

テランスが剣の柄を握って火薬を充填させようとするも、出てこない。

「しまった!!火薬が!!」

マルセルは駆けつけ、火薬を補填する。時間を考慮したフェリクスは、ヴァルトやマルセルが取り出した爆弾を思い出す。

「ヴァルトくん、爆弾を使え!!」

テランスが少し持ち上げたところにヴァルトが仕掛け、剣先を発破して持ち上がる。が、持ち上がりが足りないのを、ヴァルトは刀剣を抜刀して火薬の力で剣を打つ。また少し浮いたところに破城釘を打ち込んで剣は、剣先を天に掲げてシレーヌの方向へ倒れていく。しかし距離が足りない。テランスはとっさに人の丈はある柄を全身で持ち上げて運搬する。

「うおあぁぁ!!!」

倒れ込む剣をもってテランスは跳躍し、倒れる力も利用してまた浮き上がる。マルセルは火薬の補填を完了させると、全体の動きを見てフアンに投げた。

「柄をひねって!!」

フアンは理解し、柄をもつテランスのあたりに攻撃し発破。縦に遠心力をかけて、剣は地面に突き立てられるようになる。テランスは一瞬、鍔のあたりで立つよいにし、上からシレーヌを見下ろした。

「……フアンくん!!」

テランスが剣から降りるのを見て、着地点にフアンは大剣を投げた。掴み取り、落下の衝撃でかなり高めにあがる。テランスがまたも大剣で剣先を叩きつけ浮き上がった剣先は天に掲げられる。二回転した銀剣にはススがひどくこびりつくも、もはやその銀の純度など関係なく、重さでのみでシレーヌを叩き切る意志を見せつけた。カルメがノイを掴んで尻尾から引かせる。

「今よ!!」

フェリクスがヴァルトから爆弾を受けとると、それを剣先に投げる。銃弾をそこに撃って爆破し、剣の降りかざされる力を増やした。

「テランス、叩き斬れぇえ!!!」

「おぉぁあぁぁああああぁぁ!!!!」

テランスは喉が焼ききれるほどの声を出しながら、血管を浮かび上がらせる。テランスの筋力で存分に加速した剣。

亡骸の群れをかすめ取った悪し鳥の、全てを貪り、呑み込んだ首。それはいま、輝かしい眼力の、尊厳に興味を持たないものから解き放たれ、殺意と希望と遠心力を乗せた黒煤の執行者により、屍山血河を築いた愚か者の古城を断頭台とし、表の骨を砕き、髄を砕き、肉を切り裂いた。食らったものの数を示すようにして赤い雨が吹き出るように注がれ、空の青と対比するように、赤が地面を覆った。屍にそれらがかかる。

テランスは、過度なまでの呼吸で、感覚が失いかけた舌に入ってくる血液。

「……たお、した……のか??」

場にいる全員が、生きているのを互いに疑いながら、次第に興奮に達成感が浸透していく。

誰が話しているのか、誰も分かっていなかった。雨が終わる。テランスが振り返って、全員が生きていることを確認した。

「あ、っあ……あ、あ、あ、あぁ……あ!!!!!」

フェリクスが少し笑った。

「ふっ、ははっ、言葉が出ないか?」

「あ、あ!!!!!うおあぁあああああぁぁああ!!!!」


―城外西部遠方 空―


「へぇ……殺すか。いいねぇ、いいねぇ……命が輝いてやがる……滾るよなぁやっぱ……しっかし待たせすぎだなこらおい……連中いったい何してやがる?日付は決まっていたはずが……ま、聞いてみるのがはえぇか」

2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。

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