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ブルートアウス ~意思と表象としての神話の世界~  作者: 雅号丸
第三章 信人累々

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五話 人形を掘りたまえ

第五話 聖堂


「人形を……ほり」

フアンはうっすらと目を開けると、夕焼けが窓を通って目に入る。下は柔らかい、寝床に倒れているのを分かった。

「人、形?フアンくん、そんな趣味があったのか!分かった、街の子に頼んで借りてくる、待ってろ!」

テランスらしき人物が扉を開けて走っていく感覚の中、周りには誰もいなかった。足音がする。

「お、いたいた」

「フアン、大丈夫そう?」

ヴァルトとノイが開いた扉から入る。フアンは身体を起こす、少し重い。

「……聞いた、災難だったなマジで」

「フアン、その……」

ヴァルトとノイを見ると、寝る前のときの不快な感情は、不自然なほどわいてこない。

フアンは立ち上がろうとすると、やはり身体が重くふらついた。ノイが押さえつけ、寝かせる。

「動かない方が良いよ、そんなすぐ」

「……ヴァルト」

「おう」

「……ヴァルト、僕はあれから?」

「あんまりにもぼぉっとしてるもんだから、サボりと勘違いされて、フェリクスが叱りにきた。お前が立ち尽くしてるのを確認して、ここに連れてきた……んだが、さっき出ていったのテランスだったよな?フェリクスは一緒じゃないのか?」

フアンは夢なのか現実なのか分からない会話を思い出す。

「……ヴァルト、何か臭いませんか?」

「ん?なんだ急に、夕方で飯作ってるからか、良い匂いならそこらじゅうで」

「苦い感じの……えっと、深く吸ってはいけませんよ?」

「はぁ?」

ノイが少しあたりを嗅ぐ。

「……なんか、燃やした感じの」

ヴァルトも嗅いでいく。

「……タバコだ」

「……えっと、扉を閉めて下さい」

声色の変化でヴァルトはささっと扉を閉める。夢のことをヴァルトとノイに打ち明けた。

「新情報持ち込みやがったな」

「……臭うのであれば、あれは夢ではないです」

「老婆、フェリクス……いや、フェリクスだと断定はできなのか」

「声の感じはフェリクスさんだったとしか」

ノイが首を傾げた。

「人形を掘る……なんのこと言ってるのかな?」

「まぁお前が分かるようなもんじゃねぇのは確かだ」

「なっ!」

フアンが心配する。

「我々の情報だけで、対処できるでしょうか?」

「そうだな……」

ヴァルトは、ユリウスから貰った手紙を思い出す。

「まて、いまアイツ来てるよな?」

「と、言いますと?」

「ユリウスだ。アイツ経由で、レノーのガキに調べてもらおう」

「推理なら、確かに彼でしょうけど……」

「んじゃ、あの人に合うの?」

「貰った手紙の四隅にでも書いて、あれに渡すか」

「それ、内容はなんだったんですか?」

「あぁ、レノーはしばらくバックハウスに預けられる。んで、ハンナとシュヴァリエはクロッカスで、ジェリコの面倒を見てるらしい。ナーセナルの防壁は修繕が完了した。バズレールの死体は、メロディとリカルドで発見したらしい。レノーと離れるのが、ジェリコ結構いやがったとか、パメラが変わらず酒を呑んでるとか……まぁそんか感じだ」

「バズレール……あれも結局なぞのままですよね」

「俺らの繋がりを上層に持っていかねぇとダメかもな」

「……と、いうと?」

「兵士達と話してるうちに、実は色々と俺も情報を貰った。ノイも色々と聞いたらしい」

「うん、ここ2~30年で治安が、西の方は悪化の一途を辿ってるってのは本当らしいの。安全ではあるけど結局、身の危険を感じやくて不安になってるって、街の人も色々言ってた」

「と、ほぼ同時期にオルテンシア内部……とりわけ西部で治安の悪い区画で、如実にベストリアンの発見が相次いで、今に至るらしい」

フアンが顎に手をあけた。

「偶然?」

「どうだろうな……あと1個新情報だ。俺らが今日まで、まともに飯が食えてる理由の1個があるとか」

窓の外から、オルテンシアの内側が見える。そこに見える荘厳な、巨大過ぎる教会の側面には、やけに高く大きな、壁にも見えるものがある。

「聖典教はいままで肉食を避けていた影響で、畜産の技術が足りねぇ。土壌だってそんなあるわけでもねぇ。だがあのでっかい教会の隣のデッケェ壁の中で、オルテンシアの7割の食肉・穀物の需要を賄う施設がある。それだけじゃねぇ、生活用品やら軍需用途の物品まで、素材をイェレミアスから運んで、あの中に入っていき、出来上がるとか」

「……重要な施設なんでしょうね。しかしどうやって」

「上から地面の下まで、何層にも石材で地面を建設してあるとか」

「そんなことが?」

「……俺は、家を建てた経験がある」

ヴァルトは、溜め息を出す。

「……そんなのが完成する可能性は低い。まぁ噂とか妄想だろうな、事実とは違うだろう。一回くらい中を拝んでみたいもんだな。あと、国が管理する書類とかなんとか、俺らが必要そうなのがあるとすれば、あのデッカイ教会……」

「なんだっけ名前、サンピ……サンポ……」

フアンが窓の外を覗く、夕日が防壁の上に今消えようとしていたなkじゃ、巨大な聖堂があった。

「サン・プルースト大聖堂」

「その壁の施設には名前とかあるんですか?」

「イノヴァドール」

「研究所ですか……安直ですね」

様々な情報がいっきに手に入ったことで、ノイが顔を難しくした。

「なんだお前、話聞いてたのか。やめとけ、頭吹っ飛ぶぞ」

「これくらい、うぅぅぅ、付いていかなきゃダメでしょ……?」

部屋の扉を蹴飛ばし、ノブが完全に取れた扉が開けられる。

「なんだ!」

人の型をした金髪が、多種多様で愛を感じる風貌の、数多の人形に埋もれながら部屋に倒れ込んだ。

「……ん!!!……ん!!!……んん!!!」

「なんか、喋ってね?」

ノイが人形をどかしていく。

「これテランスじゃないかな?声こもってるけど」

不安が思い出した。

「あぁ~、お人形を持ってくるとかいってたような?」

「んん!!!………ん!!!……ん!!!」

人形の山から手を出し、全身を出し、深く呼吸をする。

「……お、飯の香り!今日はなんだ!?飯だ!!」

笑いながら小走りで部屋を出るテランス。

「……俺もうアイツ怖ぇ、どんな情緒してんだ」

「私も」

フアンが若干笑う。

「みんなから愛されているんでしょうね。街で人形集めてくるって言ってましたし」

「貰ったもん、床にぶちまけん¥だよなぁ」

ノイが人形をフアンが寝ている寝台に置く。

「フアン、とりあえずこれ預けるよ?」

「え!?」

フアンの寝床には、ヴァルトとフアンによってその人形が嫌というほど敷き詰められた。すべてフアンに向いている。

「……寝れないです」

「なんで?可愛いじゃん」

「怖いでしょこの数は!なんでしかも、全部こっち向けたんですか!?」

「可愛いからでしょうが!」

「じゃあ、あなたが持っていって下さい……!」

「なぁんで!?テランスがアンタのために持ってきたんでしょ!?」

「いや、そうですけど……これは……」

ヴァルトが部屋を出ていく。

「まぁとりあえず飯食いにいこう」

「ヴァルト……ゼッタイ他人事だと思ってますね!?寝てる間に皆さんのところに敷き詰めにいきますから、覚悟して下さい!」

ヴァルト達は、食堂に向かった。


―4日目―

フアンとノイが街を歩いている。

「ねぇ、今日は何するの?」

「話を聞いていなかったんですか?昨日の夕食のとき、言われましたよね?」

「……???」

「明日から、オルテンシアは厳戒態勢に入るんです。冬季第二次デボンダーデの日付は、明日からだそうで。我々はとりあえず、ここから中央の方までを巡回しろということです」

「えっ、どういうこと?」

「聖典教は、ここ50年で毎度来るデボンダーデの時期を、日付すら絞って予測できるようになったんです。といっても、完全に経験則らしいのでなんともいえませんが、精度は高く、少なくとも予測より前に来ることはないそうです」

「じゃあ、ここが安全なのって今日までなんだ……」

フアン達は徐々に中央に近寄っていった。大きな教会と大きな鐘楼、昨日は遠くから見えた壁も、近寄ればその大きさは目を見張った。

「……大きいですねぇ」

「なんだっけここ、なんか建物を牧場にしちゃいましたみたいな場所だよね?」

「イノヴァドール……」

フアンは近寄って音を聞いた。

「牛に豚に鶏……小さくて少ないですけど、人の声も混じってますね」

「へぇー」

「でも……そんな建物なんでしょうか?僕の位置から聞こえるの、ここからまっすぐの位置からだけです、上下にから聞こえてくるわけではないので」

「普通に牧場ってこと?噂だったってだけじゃない?」

「でも、普通の牧場であればここまで大きく防壁を敷設そますかね……謎です」

ノイが溜め息をする。お腹を押さえた。

「……あんまり美味しくないよね」

「食事の話ですか?まぁ、品質より量なんじゃないですか?」

「……にしたってさぁ、それに牛とか豚って、本当?その辺の野生の動物みたいな味しかしないよ?オオカミとか」

「まぁ……中々に獣臭い味わいですよね」

「それが原因なのかな。大体は団子にして煮込んでって感じ。飽きちゃうよ、贅沢だけどさ」

「食べ過ぎて太るよりは良いのでは」

「なっ!」

「ヴァルトが太ったノイを見たら……なんていうのかなぁ」

「ちょっ!!」

「はっはっはっ、良い反応ですね。良かった」

「えっ?」

フアンは顎に手を当てる。

(シャルリーヌのこと、正直もっと引きずると思っていましたが。やはり傍に好きな人はいるというのは、安定するものなのでしょうね。あの時ネズミのベストロをちょうど良く倒せたのも、きっと働いているかも?どうであれ、我々でこのことはもう、しまっておくべきでしょうね)

フアン達は、オルテンシア中央の大きな教会の前にある広場に着いた。中央には噴水が設置されており、数多くの人がそこに集まって、祈りを教会に向かって捧げている。

「中に入れば良いのに」

「サン・プルースト教会は昔から、行政区です。一般人は立ち入りが禁止されています」

「あんなおっきな建物だよ?いいじゃんちょっとくらい」

「逆です、あれ一つでオルテンシア全てを統括しているんです。イェレミアスとの外交、物資や人材の管理、税務、軍需……さっき話したイノヴァドールもここで取り仕切っているんですよ?」

「なんだか、おじいちゃんみたいだね」

「ハルトヴィンさんの手腕と国の行政区……本質はそうですね」

突如、周囲から閑静が上がり始める。気付けば広場は、多数のオルテンシア国民が集まっていた。もはや身動きのできないでいるのに、フアン達は気付く。

「うわっ、すごい量になってる……!?」

広場にいる民衆の視線は目の前の教会、その大扉の上にある張り出したような、屋根のついていない空間表れた、装いのあまりに豪華な、きらびやかな老人に向けられていた。


挿絵(By みてみん)


手を振っているのが確認できる。

「えっと……?」

「サン・アンブロワーズ・カヴェニャック……アドリエンヌ国王にして、聖典教最高位である教皇を冠する方です」

「なんであそこにいるの?」

「……あぁ、そういえばカルメさんが言ってました。明日は中央で、演説があるとか」

「そっちも忘れてるじゃない!」

「あはは、すみません」

アンブロワーズのやけに響く声が、おそらく演説用に設計されたその教会と広場の位置関係などで増幅され、民衆に届いた。

「主は、試練をもたらす。かつて我々は、神に寄せて作られ、この大地に放たれた。我々の祖先は一度、この大きな厄災をしのぎ切り、果てに封印を果たした。我々もまた今一度、その御業をここに再現し、超越し、神のご照覧する歩みを、生き様を、今宵の度よりも刻もうではないか。諸君、祈りたまえ、兵士よ、戦いたまえ、我々は常に主と共にある。明日に生きよう、共に生きよう」

民衆は声を大きく、ただ盛り上がりを見せる。ノイは首を傾げそうになった。

「何言ってるのか、さっぱり分かんない」

「こら」

後ろから声が笑い声が一瞬聞こえた。フアンが振り返ると、一人、聖典教の信者がよく身に着けている外套が汚れで汚くなったようなのを、深くかぶった者が、近寄ってきた。

「あ、アンタ……誰よ、顔、見せなさいよ」

その外套は、フアンを見た。


挿絵(By みてみん)


「君たちは、被らなければ生きられない」

「何を……」

外套を振り払うようにそれは勢いよく袖を振り、何かが転がっていった。火の臭いと共に四方に散らばるそれに、フアンは危険を感じ、しかしノイを庇った。

「危ない!!」

「ちょ、なにっ?」

歓声は慟哭へ転調した。焦げ臭い肉の薫りが、その裂光の後の漂い始める。四散する信者の白い外套には、鮮烈にも赤が染まる。腸のまき散らしが恐怖を増幅し、一帯の人々は狂乱し始めた。死人と生者の行き交いを、フアン達から離れながら一歩一歩、進みながら形成していく。

「鈍色の明け 彼岸の邂逅 捧ぐ贄はただ信仰に 清きを孕まんとする」

気持ち良く、歌うように教皇の視界に入りながら、一人の男の首を絞めながら持ち上げた。

「聖なるを罰するは魔の生業なり さぁ、主よ!今こそキサマの愚かを、このい惨劇を以て照覧したまえ!」

男の口に何か小瓶を入れ込む外套は、男の声でそう語った。遠くに投げ捨てられた男は、血相を悪くしたのちに蠢き、炸裂し、それはクロッカスで発見されたモルモーンと似ているが少し違う、しかしモルモーンである。

「あれは!!」

「フアン、いくよ!」

ノイとフアンが戦闘に入る中、外套は幾人にさらに小瓶を使い、投げ捨てていく。

一頭、また一頭とモルモーンが増える中、そうして教皇の位置で、先込め式の銃を一列に構えた保安課の兵士たちが並んでいた。

「これだけ私が民衆を纏っているというのに、誤射を承知で、平気な顔してそれを向ける。その銃に入ってるのは、銀の弾頭だったりするんだろう。貴様らにとって、後ろでなげくこのももらも、足元にいるこの血まみれの方も、ベストロに見えるのでしょうか?あなたが大切にしているのはいったい何だ、アンブロワーズ」

おそらく指揮官らしき掛け声とともにその横列で掃射された。外套はそれを、足元に転がっている、瀕死の老婆で防いだ。血反吐を吐きながら、老婆は最後の力で外套を睨みつける。

こと切れる老婆の目を優しく閉じ、置いて、アンブロワーズと目を合わせた外套。

「聞きたいのは一個だけだ。バズレール家」

次の銃弾が発射される、周囲に人が居なくなってはいたのをその外套は察知し、外套から一本の刀剣を取り出すと、弾丸を刀身でいなした。アンブロワーズが睨みつけた。

「話を戻させていただこう、バズレール家の騒動……あれは我々の起こしたことだというのでオルテンシアでは通っているが、実際に我々は、何も行っていない」

銃弾を再度いなす。もう銃弾は撃たれなかった。兵士たちが騒然としていた。

「バズレール家……オルテンシアにおける最高の一家。聖典教における、真に最初のベストロの被害者一族であり、有名な作詞家や作曲家を次々と排出してきた芸術の一家。私たち魔天教は確かな筋から情報を得て、お前たちの陰謀を暴くために、あの家を探るために、潜入は行っていた。だが、直後に邸宅が燃え始める……何か、心あたりはないか?」

兵士達はアンブロワーズを見る。アンブロワーズは兵士達を見た。

「あれに耳を傾けるのは、善か悪か」

「でも、あの老婆は」

「この惨劇を一刻も早く終わらせるのは、善か悪か」

「……善、だと思います」

「よろしい、ならば引き金を引き給え。我ら神に似し者、人、人の子ら。その銃を担ぐのはお主だけでない、主の御手、御肩が、お主に重なって担ぐのだ。善という意思は、主が我々に、産まれた瞬間にこそ与えた、まことに正しき尺度。それはまさしく主の意思である。遂行せねば、すなわち罪でもあろう」

銃弾は放たれ、避けられた。

「論より信仰……正しさを纏った弾丸はベストロよりもなおのことおぞましい。思考と気付きこそ救世の才覚である」

外套は一回り、転がした爆弾より大きなものを取り出し投げつけた。教会の上から、軽めの鎧と白い外套を着た、一見だけフアンの装いの、しかし背の大きな者が降り、爆弾をたたき切って地面に着地した。着地と同時に、地面付近で爆発した切られた爆弾の威力を、外套で受け取るようにして突進する。

二着の外套が接近するも片方、惨劇の主犯格たるのはそう言い残し、早々に逃げおおしてしまった。アンブロワーズはそれを聞き取った。

他方、フアンとノイがモルモーンの討伐に動いていた。フアンは袖を振って二刀を取り出し、片手で両方を抱えながらにして、空いた手の方の袖をまた振り、袋を取り出した。袋をの中にあるきらびやかな粉を剣に振りかける。ノイにそれを渡すと、人の型に巨大で蠢くそれから振られる大きな爪での攻撃を避け、懐に入り、関節や筋と思われる部位を刻んでいく。

(姿勢は中腰に、比重を、振る直前に前かがみ!)

動きが少しだけ、いままでと違う。切り返しは素早く、そして遠心力や自重を上手く活用した動きは、確かに西陸の動きを感じさせる。

(重心の動きを意識、切り返しで手首はひねらない。身体で勢いを止める。流れるほどに、一撃の精度は落ちる!こちらから打ってで出る!)

重厚な動きは、しかし模倣というよりは柔和を感じさせる動きで、どことなく普段の動きを残しながらも実戦的な様に完成されており、数日で変えられるような有り様ではなかった。槍に変形し喉元を貫き、頭が低くなったところで目を抉り、悶えるところを追撃し討伐した。ノイはその間に、迫り来る2体のモルモーンを同時に相手する。爪と脚、噛みつく動作を難なく避けていく。

腕での凪払いを地面に臥せるように回避し、腹筋と背筋の力で身体を起こして脚力で回転するように、流れで跳躍し頭部を蹴り飛ばす。歯を吹き飛ばし、地面に転がる。続くもう一体を、目の前のが昏倒しているうちに仕留めまいと動き始めたとき、馬車が到達した。それかクロッカスから来るときに行動隊が使っていた代物であったが、しかし張り合わせの外装で、何らかのものを隠しているように見える。過去に拝見できた大きな弩は見えない。

「いくぞぉ!!」

テランスが馬車から降りるやいなや、地面に大剣を叩きつけ、爆発と共に飛散し、昏倒するモルモーンを仕留めきる。

「ヴァルトくん!!」

続く一体の、頭突きのような攻撃に対してテランスは、大剣の火薬が相手に向けられるように、そして盾のように構え、柄を手首でひねって火薬を刀身に補填した。頭突きの衝突が摩擦を起こし、発火。爆発を浴びたモルモーンは転倒する。

フェリクスが馬車から弩を発射し命中、モルモーンは悶え、地面にある焦げた死体を捕食しようとするも、ノイが戦棒で殴って邪魔をする。血反吐を吐きながら片足でモルモーンは、人だった死体を懸命し蘇生しようとしている女を捕まえ、腕で持ち上げる。ヴァルトは、柄の引き金を引いて刀身と柄を分離、鞘の引き金を引いて刀剣を射出する。鉄糸で柄と繋がった刀剣は腕をかすめ離れていく。

「よし!」

ヴァルトは柄を振り鉄糸を波打たせ、剣の移動を制御し、モルモーンの腕に鉄糸を巻き付けるようにした。鉄糸はきらびやかであり、銀の添付がされているようであった。

(こういう使い方も、ありってな訳だ)

鉄糸を引っ張り、拘束し、腕を溶かし切った。落ちる女を、すでに接近していたフェリクスが救助した。背中に回した女には目もくれず、フェリクスは懐から骨組みだけの銃床の折り畳まれた、先込め式らしからぬ大口径の、銃身の極端に短い銃を取る。展開された銃床は、銃身から伸びるようなバネが露呈しており、それを引っ張りあげて引き金を引いた。大きな弾丸がモルモーンの鼻らしき部位に命中すると、銀の粉が舞い上がる。苦しみながらモルモーンは倒れ込み、動かなくなった。

(銀粉擲弾筒……マルセル、これは費用対効果が低すぎる)

フェリクスの視線の先では、矢継ぎの早すぎるカルメが、次々にモルモーンから自由や命を奪い、倒れ込んだモルモーンはマルセルが騎乗からの回転ノコギリで取りこぼしなく仕留めていた。

付近で泣き叫ぶ少女や老人を、テランスが先導して避難させていく。モルモーンがそこを襲うが、テランスが火薬の一撃のもとに粉砕した。

「大丈夫だから、みんな逃げてくれ!」

テランスは、笑顔満点で子供達を見送り戻ってくる。と、すでに殲滅は完了していた。フェリクスの元にいた女性は、1つの死体に駆け寄っていく。

「兄さん、その子は」

「あれは、どうやら思い人だったそうだ」

「……そっか」

「また増えてしまったな」

「兄さんのせいじゃないさ、というかなんだいコイツらは。ヴァルトくん達は、なんだか慣れた様子だったし……それにカルメおばさんだって」

他の保安課の兵士達も戦闘に参加しており、少数の犠牲を出しながらも、オルテンシアでは初めての対モルモーン戦は幕を閉じた。

2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。

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