報告書
報告書
CASE X:BLOOT AUS【自決祈祷】
概要
いるはずのない神が実在した世界で、自己肯定感や全能感を全能へと置換し世界を救った、失感情症の少年と仲間たちの事件。
本報告書執筆に際し核となる少年、ヴァルト・R・シュナイダーの持っていた特異能力と、アイオーンの持つ自らの肉体を元になんらかのモノを想像する能力をまとめて、アドリエンヌが使用した呼称、自決祈祷を医学用語として翻訳したもの、ブルートアウスへと正式に命名するものとする。本報告書は時系列に沿って、根拠を明確に書き記しながら事件の根幹となる部分を振り返るものとする。また、ミルワードなどから言語的輸入をした言葉を数多く利用するものとする。
*なおこの報告書は事件が終結してから半年ほど経過してから作成されたものとなるため、協力者の記憶違いなどで、事実とは異なる可能性があることを留意していただきたい。
【零 超越者とアイオーン】
ある時、高次元宇宙プレーローマに住む超越者は身を削り、精神体生命体アイオーンを作り出した。アイオーンは自らの肉体を元になんらかのモノを想像する能力を持っていた。すると肉体を持つという外れ値の存在、神を作り出す。だが超越者と存在として近しいほど優秀であるという優生思想に取り憑かれたプレーローマにおいて、神の肉体は劣った存在という認識になり、神を産み出したアイオーンはさぞ生きにくかろうと哀れみ、次元ごと神を切り離した。このタイミングで、神は次元の隔たりというものを知覚し、実際に次元を切り裂き操る手段を理解した。フェルス川断裂や奈落、カエルムの場所やバビロン頭部の草原は、この次元を超越する能力によって形成されたものである。
神は母に会いたい思いを胸に、怒りに任せて身を削り星を作ってはぶつけてまわり、そうしてアイオーン由来の成分が組み込まれた惑星、地球が生まれる。この時点で、地球に生まれる成形物・生命体は全て神の肉体が素粒子として少なからず含まれるため、物理学に並んで、法則として性能が移り変わるといい無作為性の原則や、メイデントール家を筆頭とする生物学的外れ値の存在が現れる原因となった。神は生き物の弱さと自分を重ねて生物の頂点たる存在、アマデアなどの天使を作り出し、人類文明と触れるなかでカエルムを空の上へ建造。一時の平穏を生きる。
【壱 後天計画とアマデア】
神は、母に会うためには次元を越えた先の、ある種の座標を知る必要があることを認識し、自力ではどうにもできず人類に考えてもらうことを思案、人類史上最も知力のある外れ値のなかの外れ値を生み出すため、生と死のサイクルを極限まで意図的に早める計画、後天計画を発動。西陸の伝承にあるベストロを復活させ、人類の間引きと再生産のためにのためにアドリエンヌに侵攻させた。しかしベストロに対して人類は想定よりも抵抗できず、文明を滅ぼしてしまう可能性が出てくるところで、アマデアが介入し事態の収拾に努めると見せかけて、後天計画にアマデア自らの私利私欲を織り混ぜていった。
アマデアは自分と神以外の、恋愛対象として見れる有機的生命体全てを駆逐することで、家族として見られている自分を、強制的にメスとして認識せざるおえない状態(自然恋愛という形にアマデアはおそらくこだわっていた)にすることを目的に後天計画を改編。地球に存在するあらゆる伝説の怪物を神に作ってもらい、全人類を標的に後天計画を発動。但しこの計画はアマデアが大部分を管理していたため、リヴァイアサンやシュエンウーなどの怪物の能力などが明らかに人類より上回っている事実をアマデアは別で理由をつけて隠蔽。強力かつ過剰な物量で、だが管理者である天使たちにバレることなくゆっくりとジワジワ人類を追い詰める形を取り、天使たちを全滅させる計画も同時に発動、カエルムにて少数の強者と多数の弱者で紛争を引き起こさせ天使は全滅、あとは神を大人しくさせながら、人類の全滅を待つばかりとなる。
【弐 ヴァルトの覚醒】
紛争から唯一生き残った天使でありヴァルトの大元であるジークリンデ・シュナイダーの父親であるオフェロスは、死の間際の強烈な生への執着心から、アイオーンの創造物であることに由来する精神体と肉体の関係を理由に、魂の分離に成功、ヴァルトの体に憑依することができた。ヴァルトはオフェロスの子供であり、オフェロスの憑依もあって肉体の持つアイオーンの素粒子の分量が上昇することで、原理的にはアイオーンにかなり近い状態となったため、失感情症であったとしても多少の自己肯定や自己否定により性能が上下・使用可不可が変化するブルートアウスへと変化し、あまり強烈でない感情でもブルートアウスが発動できるようになる。度重なる冒険のなかでヴァルトが非論理的威力のブルートアウスによる強引な問題解決を見せたのは、そのタイミングでヴァルト唯一の恋愛対象ノイ・ライプニッツ(現在はノイ・R・シュナイダー)による強烈な刺激(キスや告白など)が原因となる自己肯定感の驚異的上昇が起因となっている。記憶を原材料とした攻撃に対してヴァルト・R・ライプニッツは、事件後のこの報告書作成のための質疑応答のなかで「ブルートアウスは認識が操縦桿だ。俺は血肉と同程度の存在として、ノイのことを想っていたんじゃないか?だからブルートアウスは、肉体だと誤認して、あの時きっちりノイとの記憶だけを消費してシュエンウーをぶっ飛ばしたんだと思う。だから、リンデにノイの記憶がなかったんだ。エネルギー総量が合わないって話なら……そんだけ好き……って話なんだろいやまてやっぱ今のは無しだオイなに筆走らせてんだ!!」とコメントを残している。
【参 ヴァルトとリンデ】
ヴァルト・R・ライプニッツは元々はジークリンデ・シュナイダーであった。ジークリンデ・シュナイダーはハーデンベルギアが魔天教に襲撃され母親と死別しており、死別の瞬間にそのストレスから、記憶が思い出せなくなる病、解離性健忘病を患っている。またこのタイミングで同時に、失感情症を発症している。命からがらハーデンベルギアから理由も分からず逃げているところをハルトヴィンに助けられ、名前を聞かれたタイミングでジークとだけ応答。その後はハルトヴィンからジークヴァルトとして扱われたため、前述するオフェロスの子供であることによるブルートアウスの顕現が発生し、後天的に性別を男であると認識したため、実際の生物学的性別が男になった。
深層心理では女である記憶があったことと、肉体ではなくノイとの記憶を素材にシュエンウーとリヴァイアサンへブルートアウスで攻撃したこと、失感情症としての自分の全てはノイであるという自認、これら全てが起因となってヴァルト・ライプニッツは消失し、深層心理の女であるジークリンデ・シュナイダーが顕現したということである。
ヴァルト・ライプニッツの復活はオフェロスの消失と同時に起こっていることから、ジークリンデ・シュナイダーに聞き込みを行っている。報告書作成を行う筆者の想像では、バビロンを一度焼き尽くすほどの何かがジークリンデにはあり、それと人格などを燃料にブルートアウスを発動、ジークリンデ消失と同時にオフェロスによるブルートアウス発動での、ヴァルト・リンデ両者の蘇生を行いオフェロスが消失したと考える。バビロンを一度焼き尽くすほどの何かに関してジークリンデ・シュナイダーは「分からない」とコメントを残している。顕現したリンデに失感情症が発症していない理由として、補遺として、要検証である。
【四 聖典教と亜人・獣人種】
かつて神の証拠を元に設立された聖典教の上層部は、その生活の安定から神の存在に疑問を持ち、神の存在否定を否定するために科学を禁止し、自分たちの国を作るために信者を先導して国を壊滅させた。奈落のあった箇所は、もはや判別不可能なかつてのアドリエンヌだったと言える。その段階で西陸には亜人・獣人による人類差別と奴隷化の風習が存在し、聖典教残党がそこへ介入し、亜人・獣人は悪魔の末裔ベストリアンであると吹聴し聖典を加筆、人類を束ねてアドリエンヌを建国、亜人・獣人を差別階級へ落とすためにベストリアン差別を習慣化させた。
人類は被差別を恥じて、亜人・獣人は地位の失墜を恥じて過去を双方語らなくなり、上記の歴史は公には一切証拠すら残らない結果となり、あえて証拠として存在しているとすれば、バズレール家が保管していた絵柄付き娯楽小説とその蔵書印のみである。
バズレール家がこの小説を保存していた理由は、国の秘密を握ることで生活を保障させる狙いだと推察されているが、結果としてジャン=ポールという異物を招き入れることになった。
これら事実は公表するか否か検討中である。
【伍 その他事項】
ジャン=ポールがクロッカスへ来られた理由は、アマデアによる【安全な捕食】の保障があったのではないかとされている。
モルモーンは人に擬態するベストロであったが、アマデアによる指導により、サキュバスとしての能力が備わっていたとされる。「人に擬態するだけでは弱すぎるため、誘惑する能力を付随させるべき」というアマデアの発言が過去あったことがレドゥビウスから報告されていた。ヴァ―ゴ・ピウスはこれに「擬態と誘惑の足し算は、生命に対してあまりに強すぎる」と反発していた。
レドゥビウスによる天使関連の情報が、聖典の
ー普く象は楽園の歓喜 麗しき閃光より産まれるー
ー粛々とした道としてその後は 至天と共にかくありきー
ー降り立つ翼のとどまる所 義は獣を外に見る、理は獣を内に見る
すべての時にかなって獣は この世の態より見棄てられる
天にまします使いの如く 御光を投じ 律する者こそ聖であるー
という文章と若干似通う箇所が散見されるため、聖典の真の原点は、彼ら天使の存在の目撃情報である可能性が現れた。
例:アマデアは川辺で狼に襲われていたハルフィリアを、投石による攻撃で助けた。
レドゥビウスがかつて戦場で人を殺しまわっていたとき、羽根を露呈したときがある。
ヴァ―ゴ・ピウスはかつて人から哲学を学んでおり、そのとき
「では人における獣(悪意や情動などの比喩)は身体か、心か?」
と疑問を浮かべ、待ちゆく人に聞いてまわったことがある。
また上記事柄から、レドゥビウスこそゲオルギウスの原型ではないかと考える学者も存在する。
【まとめ】
概要にもあるように、これら歴史は、いるはずのない神が実在した世界で、自己肯定感や全能感を全能へと置換し世界を救った、失感情症の少年と仲間たちの事件、そして物語がなければ判明しえなかったものである。
事実とは最も親身に冷徹である。
これらを以て、CASE X:BLOOT AUSの報告は終了となる。
補遺1
:ここ最近になって、哲学がいっきに発展した。それらの中にある本がある、意志と表象としての世界、だ。人生の本質と救済の道を探求するこの本は、意志とは盲目的な生への渇望であり求め続けるという人間の生来の苦難、表象とは人間の知覚にもとづいて意識にあらわれる外界のイメージ、ということになっている。救済、生への渇望、生来の苦難、またブルートアウスとは人間の知覚にもとづいて顕現される能力……不思議と重なる部分が、読むうちに感じる。
補遺2
:筆者は上記の本の著者と協同で、この歴史をなんとか後世に残すために、現在苦心している最中である。
タイトルが思い付かない、そうだ、許可を貰って名前を同じようにしてしまおう。ブルートアウス~意志と……いや、これを物語とするならば、志など誰も持っていなかった。打算、策略、考え無し、過ぎた正義……こんなものはただの思であろう。世界中の怪物は神話や逸話が起点のだったのもある。
ブルートアウス ~意思と表象としての神話の世界~
―終―
完結です、お疲れ様でした。




