三話 技量
第三話 技量
ヴァルト達はその訓練所といわれる場所に到着した。といっても保安課の建物の隣にあるので徒歩で少しであった。
「拠点はほぼ宿舎のようなものだ、汗を流したらすぐ飯を食って寝る!そうして俺は強くなったぞ!」
「脳筋かよ……」
隣の拠点にる窓からドッとおう音がし、ノイが驚いた。見ると、目の死にかけたあの窶れた男、シラクが窓にしかと張り付いて強引に目を開けている。後ろから手が出て窓があき、男は体重移動のままに窓から出て倒れた。
「……こりゃ新種のベストロか?」
ヴァルトがつぶやくとマルセルが窓から出る、書類の入ったようなとじ込みの手帳を出した。
「改めて自己紹介を、僕はマルセル・モニエ。先ほどはフアン様……並びにヴァルト様やノイ様にはご無礼をおかけしました……僕は特技兵として行動隊に随伴、装備開発・点検を担当しています。そしてそこに倒れていらっしゃるのが、エルヴェ・シラク様。48年前この保安課を設立した方です。今はやつれていますが、眠って体調を回復すれば、不思議と若くみえるので、年齢や序列を間違えないように。彼はここの一番上ですから」
「保安課を作ったって、じゃあ彼は……枢軸委員会とも繋がっていたり?」
「はい、なので粗相のないように……」
「……いや、であれば起こしてあげてくださいよ!こんなみっともない姿で良いのですか?」
「いえ、まぁ人柄が人柄ですので……なんというか、自分が大好きというか。なのでこれでちょうど良いです」
ノイは焦り、体が震え始めた。
(私おじさんって言って怒られたよね、もうやらかしたよねぇ!?)
カルメが外から近寄る。
「こらマルセル、窓から出ちゃダメでしょう?」
「……すみません」
ノイが手を挙げた。
「それより特訓って何?」
マルセルが手帳を取り出し、丸い眼鏡をかけた。
「……お、眼鏡」
「えっと、イェレミアスからの報告書が残念ながら不備だらけだったので、まず皆さんの能力を分析させて下さい。筋力測定、体力測定、一般常識などの筆記試験も行いますので」
ノイは震えた。
「ひ、筆記……!?」
「そこまで怖がる必要はありません。ベストロに比べたら算術や史学など」
「終わったわ……」
フアンはみなぎらせる。
「ちょうど良いですね」
「序列でも決めようってか?」
「運動ではまぁノイが一番でしょうけど、それ以外ではヴァルト……負けませんよ?」
3人はマルセルの指示に従いながら、試験を行っていった。試験はそれらを分別すると、筋力と技術と知識の3つを測るものであった。跳躍の高さや腹筋の回数に思い鉄塊をどれほど持てるか、剣をまっすぐに振り下ろすことや指示されたオルテンシアの箇所にどれほどの時間で到達できるか、銃や剣に槍などそれぞれの武装の得手不得手に構造の説明やオルテンシアの歴史や聖典に関する筆記。多岐に渡った。日が暮れた。カルメに着いていき、西部拠点に戻ってきたヴァルト達は、客間に通された。
「……さぁ、どうだろうなぁ、お前はどうだったよ」
「まぁなんとかなりましたかね、ノイは……」
ノイは筆記試験で脳を使いすぎてしまい、机に伏して喉からエグみのある音を捻り出している。
「えぅっぁぁぅ……」
「ノイ、オルテンシアでおもいっきり迷ってたんですよヴァルト。困ったら登ってといったら、聖鐘に飛び乗って怒られてました」
「……見かけたなら、助けてよ」
「いや試験中ですよ?」
マルセルが大きめの書類を持って客間に入る。
「皆さんお疲れ様でした。試験は全て終了、結果をお渡しします」
ヴァルト達に配られた書類は、彼ら自身がもつ能力をこと細かく分析し言語か化され、そこうえで長所の伸ばし方や短所の克服方法が記載されていた。ヴァルト達がそれを読んでいると、フェリクスが入室してきた。
「行動隊に課されるのは任務ではない、国を、国民を、聖典教を背負うということにある。我々は我々の為の全てを惜しまない。それから、それはただの紙切れであることを忘れないよう。あの阿呆のように一辺倒に筋力を上げてジョルジュになるなど史上でも類を見ない。我々は奢ることなく、ただ邁進し、ただ精進し、謹んで貴び、殉教を厭い、敵を屠るのだ」
「死ぬことを恐れない訳じゃねぇんだな」
「当たり前だ。我々人類は、天上より肉体と理性と知性を賜っている。贈り物を粗末に扱う者などいないだろう」
「だよな」
「紹介の機会をここに見える。私はフェリクス・グランデ、行動隊における現場指揮官であり、最高司令官の任を任されるものである。これから君らにはこの書類に記載されている中で、まず1に長所の弊害となる短所を極々短期のうちに修正してもらう。その2に、君ら以外での連携を学んでもらう。直すのは先天的な得手不得手でない、少々の悪いクセを直すだけだ。私は既に書類に目を通している故にハッキリといえる、情報はイェレミアスからの報告だとはいえ、諸君らはまさしく即戦力だ。しかし、イェレミアスの教育体制が劣悪なのか、原石の磨きを、おそらく大部分を諸君らが独自で行ってきたのだろう。野性味溢れるともいえる動き……しかしここは行動隊、組織だって動かなくてはいけない」
フアンが挙手をする。
「発言の許可をお許し願えないでしょうか」
「フアンくん、いいだろう」
「隊長とおよびすればよろしいでしょうか。それとも最高司令官殿でありますでしょうか?」
「フェリクス、あるいは隊長で構わない。君らの連携は即ち友情からくるものなのだろうから、そこに意識を割かれては学習効率も悪いだろう。言葉の使い方は今後とさせてもらう」
フェリクスは入ってきた拍子に開けっ放しの扉に向かって手を2度叩く。
「おいしょぉおおお~!!」
テランスが大量の食糧を麻袋に入れ抱えて持ってきた。
「飯の時間だぁああ!!!!」
時間が経つ。ヴァルトは、基地に備えられた調理場に、カルメといた。
「んで、何作れば良い?」
「まって、ノイくんじゃないの?」
「あのアホが包丁もったら自分の手で肉団子作っちまう」
「残念、もっとお喋りしたかったのに」
「お前、飯作れるのか?」
「何言ってるの?料理は女の仕事よ?」
「んなこといったら、戦闘は男の仕事だ。この世界でそんなこといってたら死ぬぞ真っ先に」
「……そうかもね」
「他のやつらは、作らねぇのか?」
「フェリクスは指揮官としても、管理職としても仕事がある。マルセルはいつも工房で兵器開発、テランスは……ここと中央、オルテンシア全域を巡回して広報活動。私くらいしかまともにね?」
「女の仕事とか言って、ただ余ってるだけじゃねぇか」
「ははっ、そうだね。でもね、これは本当に私がしたいことでもあるんだよ?」
「ほぉ?」
「……皆の戦術は基本、テランスが目に出て、崩したらマルセルがトドメ、フェリクスが射撃で援護なのよ」
「お前は?」
「全部の状況を見て、適宜動く……遊撃ね。あとは斥候、強襲」
「なんでもやってんな」
「器用貧貧乏なだけだよ、でね、その……私そういう動きが多いから、必然的にその……1人で行動することが多くて、本当に役立っているか、分からないんだよね」
「……飯と何の関係があるんだよ」
「いや、最近分かったんだけど。私がこうしてご飯作ろうって思ってたの、それが原因なんだろうなって。ご飯食べるときは一緒だからさ、繋がってる感というか……それを自分で作ってるって思うと、なんだが希望が持てるんだ」
ヴァルトは少し、よぎった。
(なんだかんだ馴染んだ風だが、結局全員が敵っていう可能性もある。第1にコイツがジャン=ポールを本当に探していたのか、コイツに指示を出したのは誰か、マルセルが任務があること事態は知っているからして、コイツが自分勝手に動いた訳じゃねぇ。書類ってのはたぶん任務か何かの事前通達だろう、それを通せる人物……いや、それが人かどうかも分からねぇ。疑問しかないか……)
ヴァルトは考えている間、カルメはじっとヴァルトを見ていた。
「……心、ここにあらずだね」
「んぁ?」
「気にしている……よね。彼女の友達を、その……」
「お前、結構ズケズケくるな。自分のこといきなり話して、相手にもいきなり」
「あぁ……すまない。やめだやめ、ご飯が美味しくなくなっちゃう」
「おぅ、まだ何もできてねぇがな」
止まった手を動かし、ヴァルトとカルメは料理を完成させた。残った行動隊の面々は客間におり、しかしシラクがいない。フアンが書類を眺めるのを、テランスが隣に座った。覗くのをフアンは止めない。
「……どうかされましたか?」
「なぁ僕、自己紹介したっけ!?」
「フェリクスさんから少しだけ聞きました、でも貴方から聞いたのは名前と、ジョルジュであることですね」
「兄さんが言ったならもう何も言わなくて良いな!」
「いえ、できれば貴方から色々聞きたいですね。もっともそれはヴァルトが来てからですが」
フェリクスがフアンに近寄る。
「そういえば、フアンくん……少し聞いても良いだろうか?」
「なんでしょう?」
「君ら3人を行動隊の所属として加入したのを、中央へ提出したのだが……フアンくん以外は、名前に不備があるとして跳ね返されてしまった」
「名前……」
「おそらくどちらもイェレミアスの名前なのだろうが……ヴァルトというのはあだ名だろう、本名は?」
「ええっと……」
「イェレミアスであっても、まさか書類をあだ名で通せるはずもない。何か特別な事情でも?できれば全てを報告して欲しい。シラク様もお困りの様子であった。曰く、とりあえずジークヴァルトとして提」
ノイがフェリクスの口を塞いだ。フェリクスは反射的に体術を見舞うも、ノイはフェリクスの動きを完全に受け止めた。
「あの、フェリクス、さん……それ、呼ばないであげて?ヴァルトって呼んであげて?それか、名字でも良い」
ノイは手を離した。
「……どういうことだ」
フアンが扉を開けて、周囲に誰もいないのを確認する。扉は閉じられた。
「ノイ、あまり勝手にそういうのは……」
「でもヴァルト、そう呼ばれたときすごい嫌そうな顔するじゃん」
「ノイ、ここは保安課で、彼は指揮官ですよ?」
フェリクスは話し始めた。
「分かった、呼ばない。だが事情を報告しなければならないのも事実だ。もう書類で出してしまったこともある。まず、その名前が彼の本名なのか?」
「……そう、かも分からないの」
「……両親は?」
フアンが話し始めた。
「……ヴァルトは幼い頃、とある孤児院の神父様に拾われました」
「もしや、彼の名字のライプニッツというのは……」
「はい、その神父です」
「ノイくんも同じ名字、同じ孤児院の出ということか?」
テランスが飛び上がりノイの肩を掴んで振るうよいにした。もう彼は泣いている。
「うぅうぅおおあぁあ、よぅ頑張ったなぁ君ぃ!!」
「うあぅ、うぁう、離してぇ」
「ヴァルトが拾われたのは、ハーデンベルギア郊外です」
「ハーデンベルギア、彼の年齢から逆算して……魔天教の被害者という訳か」
「おそらくはそうです。彼は郊外で倒れていたのをその神父様が見つけました。そのときに神父様は名前を聞いたそうなんです。何やら泡を吹くように倒れながら、朧気に言ったのが……」
フアンは袖から紙を取り出し、sigと書いた。 ― ジーク ー
「神父はそこからシラク様のように推測して、件の名前を?」
フアンは続いて名前を書いていく。
「候補はいくつかありましたが……ムントは古く、フリートはイカツ過ぎ、リンデは女の子の名前ですので」
「しかし、なぜ言ってはいけない?」
「……物凄く、嫌なんだそうです。それを聞くと何か、叫びたくなるような感じがあるとか、僕は聞きました」
「精神的な負荷になる?」
「……はい」
「理解はした、だが……」
部屋の外からのかぐわしさが立ってきた。テランスはずっと振っていたノイを離し、扉を開けて食堂へ駆けていった。
2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。




