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ブルートアウス ~意思と表象としての神話の世界~  作者: 雅号丸
第7章 世々後天 二幕

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十四話 心的外傷

十四話 心的外傷


リンデとノイは片目に突入し、草原に転がった。リンデとノイは、アマデアを探し湖畔へ走った。晴れた空に暗雲が立ち込め、そして落雷が落ちる。


「今のって……まさか!?」

「ぜったいヴァルトだ、何かあったんだ!」


リンデとノイが湖畔へたどり着くと、湖畔で血溜まりを作って倒れるフアンがいた。そして湖の水面の上で滞空しながらヴァルトの全身を肉で縛り上げるアマデアがいる。ノイがフアンの盾なるように構え、リンデはフアンの救護を行う。ヴァルトは締め上げられるなか、状況を考えた。


(回収要員と、攻撃要員としてのアイツとノイ……必要最低限だった。でも、さすがに2人であの天使は止められなかったな……だが!!)


ヴァルトはアマデアを横目で見ながら、雷を纏った。


「いいのか?仮に俺を人質に取ったところで、俺たちは神を返すつもりはねぇぞ?」

「あなたは人類種における希望になっていることでしょう。殺せば、生きる希望を砕けます」

「殺すだって?お前も、随分と神に御執心だったらしいじゃねぇか。報復で神が殺される可能性は考えないのか?」

「その可能性は無いですね。神は私を止めるための最後の鍵だというのが、きっとあなた方の結論でしょう。あなたを殺したとしても、報復で神を殺せば、不死である私とバビロンを止める希望はなくなる。


あなた方の勝利条件は、神を捕縛し私を交渉の座に着かせ、バビロンを葬る手だてを考える余裕を勝ち取ること。死なない敵対者を消すことで、勝率を無から1へ動かすこと。しかし上手くいったとして、あなた方が勝つ手立てはないでしょう。仮に私を止めたとして、バビロンは止まらない。ミルワードで見た、島を呑み込むほどの大爆発……ギムレーでもそうだったように、きっとあなたの仕業でしょう?ヴァルト・ライプニッツ」

「ミルワードでの火力を大きく上回るほどの火力がなければ、バビロンは滅ぶことはない。まぁ正確にバビロンの生命力は検討できませんが。ですがあらゆる面において私はあなた方より勝っている。そして今、キサマを捉えた、ヴァルト。あなた方の抵抗の程度はどれほどでしょう、滑稽な山羊たちよ」

「勝手に勝ってんじゃねぇよ、ガキかよ、てめぇ」

「ガキという分類は、おおかた知性と態度で決まります。それでいえばあなたの方がよほどガキですね」


リンデでアマデアに銃を向ける。


「そこまでよアマデア、神はいまここを出てすぐの、涙ぶくろあたりで、私がたちの味方と一緒に待機してる!!ヴァルト、ここを吹っ飛ばす想像、頭に留めておいて!!」


アマデアがリンデを睨んだ。


「第一に、それが何の脅しだというのですか」

「気付かないかしら?アマデア、あなたは今命運を握ってるようでいて握られてもいいるの。神がこの次元のすぐ外にいるってことがどういうことか分かっているの?」

「……次元、という言葉を使いましたね?」

「私がたちは次元の性質を知っている。それは、運動もそのまま次元を越えるということ。ヴァルトがこの場で自爆を行えば、バビロンは死なずとも神は死ぬ!!」

「そんなことをして、あなた方の勝率はないではないですか?」

「えぇそうよ?でも同時にあなたの勝率もないわ!」

「……そう、ですか」


アマデアは執拗なほどリンデを見つめる。


「……嘘、ですね?」

「本当でない保証があるとでも?」

「先ほど私を拘束した兵器、あれは本来神を捕縛し回収するための装備ではないですか?殺戮を目的とした戦術であれば、例えばレドゥビウスがここに来ていてもおかしくはない。では彼はどこへ?彼なら、もっとも戦闘を続けられる位置に向かう。


あなた方はどうやってここへ?答えは、レドゥビウスに守られながら、飛行の手段を科学で会得し、ここまで移動してきた。おそらく、ゼナイドの操る飛行機が残っていたのでしょうか?私に使使用した兵器本来の用途は、それに関係するもの……あなた方は神と私との距離を物理的に確保しなければいけない、その用途のための兵器だった。


だというのに、そこまで至近距離に主を置いてはいく道理は?主の全てが不明のまま、仲間に預けるのも非合理……それに何より、あなた方は次元の跳躍が運動を保存することを知っている。あなたら2人組はここから飛び込むようにして逃げた。それがどうして上手いこと、涙ぶくろなどという身体部位に着地できるというのですか?身体は確実に投げ出されたはずですよ?それこそ、主が次元の出口の付近にいないことの証明……反論はありますか?」

「そうやって喋っている間にも、神が危機に曝されているかもしれないわよ?」

「あなた方の生存こそ、主の安全を保証しているではありませんか?どのようにしてあの高度から生存したのかは不明ですが、やり様があるという以上主の生存は保証されている」


ヴァルトはアマデアを逆に睨み付けた。


「……てめぇ、ニンゲンがそんな合理性の塊だとでも思ってるのか?俺たちは何するか知らねぇぞ。自分でも分からねぇくらいに、神が大嫌いなヤツだっていてもおかしくはねぇ。ニンゲンの間じゃ、もう神は敵だっていう認識がある……リンデとノイの生存は、その野郎の安全をむしろ否定してんだろうが。


俺たちは合理に生きちゃいねぇよ、ニンゲンをナメんな。必要かそうでないか、殺戮はその範疇じゃない。今この瞬間にも、外にいる俺ら以外の誰かが神を狙っていてもおかしくない。お前もそんだけニンゲン睨んでおいて、そこまで嫌っておいて、最後に信じるのが俺らの合理性ってのは一番無理だろ。それともあれか?そう思わないと、正気じゃいられねぇってか?」

「現状私を説得しようとする必要はありませんよ?依然として私の優位性は約束されている。それはヴァルト・ライプニッツ、あなたを捕縛しているからです」

「俺が脅威ってことか?」

「あなたの力は異常です」

「お前でも俺のことは分かってねぇってことかよ……」

「主に関する何かを持ってはいるのでしょう。ですが、何ら血縁という訳でもないことは分かっています。結論、あなたは計画における変数、はやく仕留めておきたかったですがヴァーゴ・ピウスのお陰で、ニンゲン1人殺すだけでも、面倒なことになるのです」

「ニンゲンの厳選が目的だもんぁてめぇら、そりゃ勝手にもやれないか」

「特にあなたのような、結果を出す者を仕留めるのは難しかったですよ?もう、関係ありませんが」

「……殺ったのか、てめぇ」

「説得すべきカエルムの天使は、もういない」

「カエルム……奈落に大量に転がってた天使どもも、てめぇが殺ったか?カエルムでの天使たちの殺し合いとかは全部、お前がどうこうって話だぞ」

「あれは……ふふっ、勝手に自滅していったに過ぎません」

「はぁん、関与は否定しないって?それ、神に言ってやろうか?あんま知り合いに、てめぇのキショイとこ知られたくはねぇだろしな」


アマデアはヴァルトを強く締め上げた。ヴァルトがうめく、アマデアは明らかに血管を浮かせていた。ノイは拳を強く握りながら思考を巡らせる。


(みんなでアマデアをどうにか言い負かして余裕をなくそうとしてるには分かる……よく、分からない。でも回収装置のこと、それだけ考えられるって、つまりアマデアって頭良いってことだよね?でも、神のことになると途端におかしくなってる。いまヴァルトをぎゅってしたのもそうだし……あれっ?ヴァルトの力って神に似てるんだよね確か……あれ、神ってどれだけ生きてるんだろ?それだけ生きてて、お嫁さん1人もいないってのもおかしな話なのに……アマデアって、1人もいないって分かるんだ?ん???アマデアって、そんなにずっと一緒にいたの?誰がいつ神と関わったとか全部……そうだよね、そうじゃなきゃあんなにすぐ分かってる感じ出せないよね……でもなんでそんなこと覚えてるの?どれだけでも生きてるんだから、例えばお嫁さんなんて1人じゃ逆におかしくなるよね?いや、そこ重要じゃない。いやあれっ、でもそんなこと覚えようとは思わなくない?数えたらきっと大変になりそうじゃない?アマデアってどうやって生まれたんだっけ、作られた……アマデアは最初に作られて……だから、神はお父さんなわけで、でもさっき湖で、遠くから神を見てた目線……それに神は無抵抗で私たちの捕まった……あぁ、やっぱり繋げられそうなところない、かな……でも……)


ノイのアマデアへの認識が変わっていった。


(……言葉にするなら、いいやあり得ないけど……なんだろ、やっぱさっきの目線、どこか、どこか……親近感?)


ノイは口を少し開けて、気付けば少しヨダレが出るほどに集中していた。息を吸うことすら忘れた思考の果てに、ノイは1つの結論を出す。


「……アンタってさ、神のこと、好きなんじゃない?」


アマデアは、ノイを睨むことはなかった。


「……えぇ、えぇ?な、なぜ?」


気の抜けた声が、アマデアの喉から出る。


「分かんないわよそんなの!でも……あぁなんだろうこの……分かんないけど、そんな感じだと思っただけ、こんなこと言ってどうなるのって話だけど……なんだろう、やっぱそう思えるのよ!あぁもう、自分が気持ち悪いわ!!」


ノイは頭をかきながら、ヴァルトを見る。


(……なんでそう思うって?分かんないけど、あの目は私だから分かる。憧れより強い、で独占したいみたいな願いの混じった、でも構ってほしいわけでもない。私と同じ……好きな人を見る目だった……!気持ち悪いけど、思っちゃった……私にできるかしら、そんな、賢くないとできないこと……やるしかない!大丈夫、今日はいっぱい考えられる!!)


柄を握る力を抜いて、アマデアを見た。


「……なんでこんなことしちゃったの?こんなことして、神様喜ぶと思った?」

「……何を、言っているの?」

「好きなんだよね?神様のこと」

「何をいって」


ノイは目を見開いて、アマデアを凝視する。


「私の中であなたの答えが出たの。あなたは神様のことが好きなんだ、構って欲しかった?違うよね。そんな頭悪いようには見えなかった。どうして神様のための計画を壊したのか?そこまでは分からないよ?でもさ……さっき神様を私が拐っていったとき、神様は何も抵抗してなかった。目なんて見えてないだろうけどさ、たぶん神様は状況を分かってる。あなただって分かってるんじゃない?神様があなたの味方してないって」

「……何を」

「何か理由があるんだろうね、きっかけがあったんだろうね……ひょっとしたら奇跡が起こって、あなたは夢を叶えられたかもしれない。でも神様は残念だけどあなたに、色んな意味でさ……もう興味ないんだと思うよ?」


アマデアは血管という血管を膨れ上がらせる。筋肉は膨れ凝固するように力み、歯は軋んで、全身が震え上がっていた。ヴァルトを拘束する肉体は強ばる。ノイは徐々に声を大きくしていった。


「自分のことしか考えないで、私たちをこんな目に遭わせて……お互いお似合いだったかもしれないね……でもね?あなたは自分の好きな人の自分の幸せより、自分の幸せにために動いた。それって、負けてる女の動きなのよ、私でもやらないわ。どこかで追い込まれて、自分のことしか考えられなくなったかもしれない、そんな経験私もある。でも……可哀想あなた、仲間は自分で殺して、住んでる場所は自分で壊して、好きな人から見放されて……あなたっていま何者なの?でさ、そんな女に惚れられるあの神様って男って。どんだけ無価値な男なの?」

「……なんだと……??」


アマデアの目は鋭くなる。


「キサマ、いまなんといった」


ノイはさらに思考を巡らせる。


(さっきヴァルト言ってた、作家がどうとか何とかって……反応の感じ、私はアマデアを理解できてるかもしれない。私も同じくらい、この天使と気持ち悪いのかもしれない。あぁ、私なんでこんなこと覚えてるんだろう?言葉ひとつひとつちゃんと覚えてるなんて気持ち悪い、気持ち悪いな。でもありがとう私……こうなったらやることは1つよ。私が理解できる限りのアマデアに、私が言われたら嫌なことを言ってやる、限界まで……心を揺さぶってやる!!!!)


ノイは深く呼吸をした。


「……知ってる?恋で大切なことは近寄るだけじゃない。あえて冷たくあしらうことも必要なのよ。でもあなた、相手の幸せと自分の幸せ重ねて、まさか同じように幸せになってくれるとでも思った?頭、ホントに大丈夫なの?あなたなんかより、他の女の方がめんどくさくなくて良さそう。あなた絶対重たいでしょ?で、もう一回聞くけど、そんな女に惚れられるあの神様って男って。どんだけ無価値な男なの?」


ノイは心臓が早くなっていく。


(私、ヴァルトが変なこと言われてたら絶対嫌。だから言ってやるんだ。全部全部言ってやるんだ!!)


ノイは鼓動が呼吸に現れる。


「あなたね、そもそも頭をおかししくない?だって、神様ってあなたの父親なんでしょ?ヒトってその関係、家族とか血縁っていうのよ。そういうヒトとは、結婚しちゃいけないのよ?あぁ……だからこんなことしてるの?ぜーんぶ壊したら私と神様は結ばれるしかなくなる的な?」


ヴァルトが話を聞いて、鼻で一瞬笑う。


「……ふっ、てめぇマジか?」

「そんな……こと……!」

「つまりてめぇ、家族関係だからって神様に女として見られてなかった哀れな女って話だったか。それでブチキレてジンルイ全部ぶっ殺して常識を根絶して、そうか、全部ぶっ壊したらヒトもいなくて、希望は潰れて、神はお前に泣きつくって腹積りか……お前のその嫌な目付きにも納得がいく。お前らはジンルイを元に作られた存在だったな、じゃあ常識も言語もニンゲンから学んだはず。神様は血縁という者をヒトによって理解、お前に対する感情に、恋愛消えた。はぁぁぁなるほどな、お前がニンゲン嫌いな理由分かったぜ。神様と私が結ばれる可能性を、ジンルイは常識を与えるという形で奪い去った……それが、お前がニンゲンをそうやって睨み付ける理由か!?」


アマデアはふらつきながら、頭を抱え、過呼吸になりながら、頭をえずきながらかきむしっていく。髪の毛は落ちていき、血が垂れ、涙が垂れる血を薄める。溺れるように声をあげるアマデアは、ヴァルトの拘束を緩める。ノイは視界の外に自分がいることを理解し、ヴァルトに飛び込んだ。


「ヴァルト!!!!!」


アマデアはノイの素早い踏み込みに感ずき、触腕を伸ばして攻撃を開始した。動きが単調であり、ノイは触手腕を掴み取ると引っ張り、アマデアを懐に持ってくる。ノイは装備した戦棍を強く握ると、アマデアの腹を見た。


(最初に、ナーセナルで戦ったとき……空中で、お腹を刺しまくった。アマデアは、明らかに嫌がって、暴走して、最後はうずくまって泣いてた。アンタに何があったか知らないけど、きっとお腹を攻撃されることが嫌なんだ!!!)


ノイは戦棍を突き付け、アマデアの腹部を貫く。


(……自分が嫌なこと、自分が嫌なヤツにやってやる!!!)


アマデアは吐血し、ノイに血がかかる。湖畔の砂利に血がかかる。ヴァルトの拘束が解かれ、一気にノイはヴァルトを抱えて下がった。


フアンをリンデが抱え、ヴァルトとノイがそれを守る編成ができる。ノイは戦棍をアマデアの腹に置いていったことに気付いた。


(……やっばい、焦って回収するの忘れてた!)


アマデアがフラついて、大粒の涙をこぼし、加速するように怒りと悲しみを顕にし、触手腕を出すことなくもがき苦しむ。泣いて目を赤くしながら、腹から戦棍を抜こうとするも、力が足りないかのようにして、抜くのをためらう。


腹がえぐれる感覚がアマデアに走り、涙と怒りで、アマデアはさらに泣き叫ぶ。湖を震え上がらせるようにな叫び声と共に、アマデアは全身から触腕を形成し、目を形成し、触腕の束でヴァルトたちを次元の境目へ突き飛ばした。

2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。

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