十一話 汝ら善き行いをもってその身の飾りとせよ
十一話 汝ら善き行いをもってその身の飾りとせよ
濃い春色の光に安らぎを与えられる平原に勢いよく転がった戦士4人。立ち上がり、見渡す。その限りは、山々や川に透き通っていた。
川の続きにある湖の先にはき木が映えている。ヴァルトたちは空を見上げた。血走った瞳が空を埋めつくし全てを俯瞰しているはずの、その視線はただ一点に集まっていた。ヴァルトは双眼鏡で眺める。
島の中にある木陰に、紫色の服を着た何者かがいた、その顔に焦点を当てると、眼は赤く、削れたようになっており、明らかに盲目であることが伺えた。
「……あれが、神か?」
畔に天使がいる。畔から島へ向かって祈りを捧げ、翼は降り立たんで休んでいるようにも見える。その天使は深く祈りをしながら、言葉を重ねている。
「あなたは私という羊を飼う。私は乏しいことがない。あなたは私を緑の野に伏させ、憩いの汀に伴われる。あなたは私の魂を生き返らせ、御名にふさわしく、正しい道へと導かれる。たとえ死の陰の谷を歩むとも、私は災いを恐れない。あなたは私と共におられ、あなたの息することが私を慰める。私を苦しめる者の前で、あなたは私に食卓を整えられる。私の頭に油を注ぎ、私の杯を満たされる。命あるかぎり、恵みと慈しみが私を追う。私はあなたと家に住もう、日の続くかぎり。あなたは高くおられ、低くされた者を顧みる。遠くから、高慢な者を見抜かれる。たとえ私が苦難の中を歩んでいても、あなたは私を生かし、手を伸ばして敵の怒りを防ぎ、右の手で私を救ってくださる。主は私のためにすべてを成し遂げてくださる。主たる父よ、あなたの慈しみはとこしえに……御手の業は、私が紡ぎます」
ゆっくりと睨みながら振り返り、戦士たちを見る。
「……目的は、主たる父の奪取ですね」
「分かってて襲ってこねぇとは、意味分からねぇな」
「……大切な存在から離れたくない、あなたにも分かるでしょう?」
「お前に大切な存在があるとは思えないな。何よりお前は、俺たちを利用しようとした」
「……あなたは亜人や獣人含め、人類という存在をどう捉えていますか?」
「……はぁ?」
「そしてその逆は?」
「逆ねぇ……」
「人類以外をどう捉えているかという問いです」
「……水とか鉄の話か?」
「はい」
「……なるほど、お前らにとってニンゲンも何もかも、鉄みてぇにただ便利で使える存在だとしか思ってない、そういう話か」
「分かるということは、あなたもそう思っているのでしょうか?」
「いいや、どうだろうな。お前、悪役が出てくる物語を読んだとき、物語の作者はその悪役が持つ美学を本気で信じてるって考えるタチだろ」
「……思い付くとはつまりそういうことでしょう」
「頭が良いだけだって考えられないものかね」
「人間はそこまで単純ではありません。無論、単純ではありますが」
ヴァルトは腰に携えた刀剣を抜かずに構え、島を見る。
(仮にあっこまで行くってなら……ノイが思いっきり吹っ飛ぶ必要がある。往復するための時間が必要だ、ノイなしでアマデアの火力に耐えられる保証はねぇ、つまり答えは、事前に共有した通り戦法……)
ヴァルトが跳躍し、足裏をノイが蹴り飛ばす。弾丸のようにヴァルトがアマデアに飛びかかり、引き金を引いて刀剣を繰り出す。炎熱を纏った刀剣がアマデアの腹を引き裂いて翼切り落とした。
(超、短期決戦……!!!)
アマデアは腹を治し翼を再度生やすと、翼を複製するようにして手足を生やす。地面に潜り込む触腕と空中に広がり攻撃を開始するアマデア。フアンは側面に走る。
「地面に注意して下さい!」
リンデは狙撃銃を構え、いっさい動かずに照準をアマデアに向ける。地面から腕が生えリンデをとり囲う。ノイがそれを引きちぎると、リンデはアマデアの頭部に銃弾を撃ち込んだ。アマデアの動きが停止する。
リンデは、懐から別途で銃を構える。それはゼナイドが持っていた、短機関銃であった。やや不安定ぎみに構えると、まったくブレることなく射撃した。弾丸が発射される度に反動は増幅していく。弾倉1つを撃ち込んで再装填をする。
アマデアは頭の再生を終えると、再び攻撃を再開する。大きく翼を羽ばたき、滑空してフアンに飛び込む。フアンは宙を舞って回避し、すれ違い様に別途で短剣を抜いて投げ付ける。アマデアの喉に突き刺さり、アマデアは抜き取ろうとする。
アマデアが半端に再生した翼の端を握ると、地面に叩きつける。叩きつけられると同時にノイは短剣の石突を叩いて内部に入れ込む。ノイが引くと、場にいる戦士が全員銃を取り出していた。
「撃てぇ!!」
リンデの声で、一斉に射撃が行われる。リンデ以外の全員は、ミルワードの人々から預かったリボルバーを撃っていた。反動はやや小さい。
アマデアが傷口を治すと、やはり睨みを利かせた。
「その兵器で、私が倒せると踏んでいるようですね?」
アマデアは体勢を崩す。
(動きが鈍く?)
ノイが接近していく後ろからリンデが頭を撃ち抜く。アマデアは動きを鈍化させることなく、翼を大きく羽ばたかせて旋回し始める。アマデアは、身体が重いことに気が付く。
(……身体が不可解なほど重たい、何かされた?それに)
アマデアは首をえぐり短剣を引き抜いて捨てる。
(……そう、そういうことですか)
ノイは戦棍を構える。フアンは二刀の剣を構える。リンデは狙撃銃を構える。ヴァルトはリボルバーを再装填した。
(鉛は鉄なんかより比重が大きい、加工もしやすい、毒も持ってる。この野郎は再生するだだけして、弾丸を取り出してはいない。コイツの治癒能力に、手術は含まれてない。骨身の内側に鉛を背負わせて、動きを抑制する)
アマデアはヴァルトを睨む。
(……なるほど、弾丸を食い込ませて行動を抑制。間接部も的確に弾丸が食い込んでいる。だがそれが何だというものです。私はいくらでも中~遠距離から攻撃ができる…!いや、懐を弱くしたい?私に接近しようと?いや、であれば初撃で何かを仕組むはず……できなかった?何にせよ、攻撃には十分に警戒はすべきでしょうね……)
ノイは突然武器を捨てると走り込んでいった。リンデ、フアン、ヴァルトは射撃を繰り出し、アマデアの動きを封じる。アマデアは腕や脚部を増殖させていき、祭事に着込む衣装のようになっていった。手足で縫われた血みどろの被服の中から手足を生やして、戦士たちを追い回す。しかし、ノイには追い付かなかった。アマデアは焦る。
(捉えられない!)
ノイは湖畔から高く飛び上がり着水すると、ほぼ走るのと変わらない速度で水を搔いて移動し、いっきに島まで移動した。ノイは木陰に座る神を捉え、抵抗させること前提で突撃していった。接近したところでノイに顔を向けることもなく、ノイは驚く。
(なんにも抵抗してない……寝てる?そんなはず……でも、仮に……うんそうだ、これ絶対違う、神様ってたぶん、アマデアの味方じゃない!!)
ノイは過ぎ去るように神を担ぐと、アマデアとは正反対の方に走る。アマデアは顔をしかめ、怒りで震える。
「触るなぁぁぁぁ!!!!!」
明らかに表情を一変させるアマデアは、翼を広げて羽ばたこうとする。翼を広げた瞬間、フアンは懐から散弾銃を取り出して射撃し、飛膜を穴だらけにしていく。アマデアは焦る。
(弾丸を撃ち込まれすぎて、肉体の重さに対して飛行能力が追い付かない……付随させて翼を大きくしたところで、飛膜は穴だらけにされる。肉体を増やしたところで、当てられる箇所を増やすだけであの娘には追い付けない……1度全て仕切り直す必要がある……落ち着いて、まだどうにでもなる!!)
ヴァルトは思考を巡らせ続けた。
(俺たちの勝利条件は、神を奪うこと。それが分かってるアイツは、守りに徹すれば勝利。だがそれでいい、守りに入れば入るほど、野郎は広範囲の攻撃をしなくなる。選択肢に攻勢を思わせるな、俺たちは火力に弱い……そして、野郎がもし今から攻勢に出ようとするなら……身体を仕切り直したいはず!)
アマデアは撃ち込まれる弾丸が減っていくのを感じた。リンデは短機関銃を撃ちきると、再装填をせずに狙撃銃に切り替えた。
(弾切れ?これ以上妨害はない……!)
フアンが背中に背負う鉄の箱を構えると、アマデアは自身の首をひねり潰し、ねじ切った。リンデは銃の構えを若干解いた。
(……観察眼はありそうって話、本当だった?焦ってるわね)
流血が草原に撒かれる、そして落ちていく首からはすでに肉体ができ始めた。
「フアン、やれぇ!!」
ヴァルトの指示と共に、フアンは背中から布の塊と円筒状の容器を取り出した。布の塊にある管を容器の管と結合、さらに布の塊に鉄縄と固定具を装着させると、アマデアの首にそれを装着させた。
「起動!!!」
容器についた管のさきにある圧力を調節する弁をひねると、空気の流れる音と共に急速に布地は気球へと変わっていき、高速でアマデアの首を持ち上げていく。一瞬ではるか上空に飛んでいきアマデアは頭がだけで思考を巡らせる。
(なるほど、私自ら距離を取らせるための策でしたか……ですが!)
回収装置を敵との距離を開けるに使ったヴァルトたちは、ノイの移動を見る。ほぼ一挙動で湖を半分飛び越える。水中が浅いことを確認すると、ノイは一度潜って水面を蹴り飛ばし飛んでいく。ヴァルトたちと合流したノイはフアンとヴァルトを背中に、リンデは先頭で走った。リンデは振り返ると、すでにアマデアが落下の勢いに合わせて滑空してきている。下半身を再生せず胴体のみの再生でアマデアは飛んでくる。
「触れるなぁぁぁ!!」
フアンは散弾銃に弾丸を装填すると、残り短いノイとアマデアの間に揚力ガスの入った容器を投げる。撃ち出された銃弾は炎を纏って容器を破壊、大きな爆発を起こしてアマデアを粉砕、そしてノイとリンデが吹き飛ぶ。
「外に向かって下さい!!」
ヴァルトとフアンが壁になりアマデアの復活を阻害しながら攻撃を続けた。ヴァルトは笛を吹いてリンデとノイを振り返らせる。
「外に出たらゼナイドを頼れ!!」
ノイの脚が遅くなった瞬間にリンデは背中を押して返事をする。
「分かったわ、後ろをお願い!!」
「……あぁ!!」
ノイとリンデは平原を走り、光が続く地点へ走っていった。
2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。




