十話 ニヴォーズ作戦
十話 ニヴォーズ作戦
アドリエンヌの北。海のそばにある古い、馬車の格納庫。内部はやや湿気っていたのを、撒かれた藁がなんとかしている。
飛行機が格納されている、機首のプロペラ先端から、鉄線が折り返すように張られている。正面に2門、後部座席に1門の機関銃を備えたそれは、機首からさらに先に伸びる2本の角が組み込まれていた。ノンナが座席の中から這い出ると、まっ黒な手をして降りる。ヴァルトとエヴァリスト、そしてゼナイドがその場にいた。
「最終調整、完了したよお兄さん!」
「おぉ、まぁ上場じゃねぇか」
「もっと褒めて~!」
ヴァルトはしかたなくノンナの頭を撫でる。ノンナは尻尾を振る。ゼナイドは側に置かれておる布の塊が目に入る。
「……これは?」
ヴァルトが布の塊を、まるで棺桶のような保管容器を入れる。ゼナイドはそれを見ていた。
「ニヴォーズ作戦の要は2つ、1つは神が本当にアマデアのそばにいるかの現地調査、これは今レドゥビウスが先行して行ってる」
「あの者は信用に足るのと?」
「飛べるヤツが1人しかいねぇんだ、しゃあなしだ」
「……」
「2000フィートの鉄の縄と、化石燃料っつうのから精製した、ミルワードの技術を使った水素ガス容器・水素ガスで膨らませる回収用の気球」
「……つまり、この先端にある角で鉄縄と気球ごと、要人を吊り上げて回収する装置ということですか?」
「そうだ。操縦は俺でもいいんだが、少しでも実績があるやつがいい」
「レドゥビウスというのに任せるというのは」
「そこまで信じてるわけじゃねぇよ」
「……そうですか」
兵士たちの呼び掛けによって、4人の戦士が集められた。ヴァルト、ノイ、フアン、リンデがヴァルヴァラの前で整列する。
ユリウスの指示によって、格納庫が開けられていき、日差しと共に巨大な怪物が見える。悠々とうごめくその女人からは目視で確認できるほどの膨大な数のベストロを産み続けており、絶えずた叫んでいる。ヴァルヴァラは4人を整列させた。
「……飯、食ったか?」
全員が首を縦にふる。
「……旨かったか?」
全員が首を縦にふる。
「よし……これより、ニヴォーズ作戦最終確認を行う。概要、ニヴォーズ作戦はベストロ出現の元凶とされる存在、主たる父、つまり神の回収を目的とした作戦だ。すでにレドゥビウスにより神の存在と、その位置が確認された。
標的はバビロン頭部に生成されている空間だ。報告によると、片目にあった眼球が突如輝いたところに空間があり、カエルムや奈落のように、次元を繋いだような空間があったそうだ。そこに神は収容されているということになる。
作戦段階ごとに進行を確認していく。第一段階は、神のいる頭部への移動を飛行機に吊るされるようにして向かう。現場に到着し次第各員は飛行機から切り離され、落下傘による着地を行い現場へ直行。アマデアを掻い潜り神を回収。
携行する兵器により一時的にアマデアを封殺したのち、頭部から脱出し揚力式回収装置を起動して全員を飛行機で吊り上げる。空ではレドゥビウスが援護してくれるが、飛行するベストロから飛行機を援護するため、アマデアとの直接対決では諸君ら4人の力に大きく依存することになる。回収が完了した時点で神を人質に取れるため、攻撃は止むと考えられる。ここまでで質問は?」
フアンが手を上げた。
「作戦の所要時間は?」
「飛行機の燃料によるが、レルヒェンフェルトで精製ができている。レドゥビウスに補給させ空中で給油すれば、時間はほぼ無限といえる。期限があるとすれば、世界が滅びるまでだ」
他は全員が黙っていた。
「……では鉄縄を各員装備せよ。ニヴォーズ作戦、開始だ!」
飛行機は押され、車輪で動く。搭乗席にはゼナイドとリンデが乗っている。土で即席に固められ作られた滑走路についた。エンジンに曲柄を通して始動させると、黒煙を吐いてエンジンが起動する。
プロペラが回転し推進していく。風ほどに加速していくなか、登場したゼナイドが機首を上げ高度を高める。先で待っている3人の戦士が、全身に装備した固定具に鉄縄を装備していた。その鉄縄は飛行機の尾翼に繋がれている。飛行機が戦士たちとすれ違い、鉄縄が引かれていく。格納庫の前で何人もの兵士や民間人、関係者らが見守っていた。ヴァルトにフアンが話しかける。
「これ、身体耐えられるんですかね?」
「あぁ、一般で募ったヤツら10人くらいで試験飛行した。多少方向感覚のズレが報告されてるから気を付けろよ?でもまぁ、縄を切り離して落下するときは俺に任せろ」
「……なんでしょう、やっぱり怖いです!!すごく!!」
ノイは首を傾げた。
「なんで怖いの、空飛べるんだよ!?
」
フアンがそわそわを極めていく。
「なんでっていうか……逆になんでしょう、楽しみなんですか?!」
縄は徐々にはりつめていく。
「楽しみでしょそりゃ、私飛べないし」
「だからってそんな楽観は」
「ヴァルトの作ったやつだよ、信じられないの!?」
「いやあの理屈でも、もうちょっあああああああああ!!??」
フアンの叫び声が曇り空に消えていった。急上昇していく三人。ヴァルトは浮かびながら双眼鏡で敵陣をする。ベストロの波が海を覆っていくのが見える。フアンが必死に言葉を堪えていた。
「……うぅ、あぁぁ……!!」
「一番騒ぐのはノイだと思ってたがフアン、お前だったか」
「あのですねぇ、どれだけ戦闘を積んだってそこまで肝って座れませんよ!?」
「そういうもんか?」
ヴァルトは下を見る。真っ青な海のところどころに白く波がぶつかる。雲に届きそうな気がしなくもない高度。
「雲ちっか」
「それだけなんですか……!?」
ノイは目を輝かせているのをリンデが確認すると、リンデが機関銃を強く握る。ヴァルトは首にかけていた笛を鳴らす。下からレドゥビウスが上がってきた。
片手ずつ、ノイが持っていた機関と大砲が装備されている。機関銃は銃身が穴空きになっていて、風を取り込んでいた。前方から、飛行するベストロの集団が現れた。レドゥビウスが機体の羽根に乗る。
「俺が切り開く、取りこぼしはお前らでやれ。ゼナイド、機体はあまり動かすなよ」
「事前に説明はありました、気にしないでいただきたい」
「んじゃ……いくぜ!!!」
レドゥビウスはヴァルトとの話を思い出した。
「ベストロは普通の獣と同じだ、血の匂いでいくらでも興奮して襲いかかる。前にパメラっつう女が同様の手口で敵対を買った事例もある。お前らならなんの抵抗もなく野郎どもの血を浴びていられるだろ?」
レドゥビウスは斜め下からベストロを射撃し、飲み干すように血を浴びて恍惚としながら、いっき群れのなか飛び込んでいく。
大型のベストロに大砲を撃ち込んで、熱を持った薬莢をベストロの向かって捨て、貫通させ絶命させる。
ベストロの大群は脈動し雨のように降り注ぎながらレドゥビウスに突撃を行う。いくらかの飛行するベストロは、飛行機の登場席や、吊り下げられた戦士たちの銃撃で落ちていく。
レドゥビウスは翼をすぼめて急降下すると、背を海に向けて射撃し、ベストロは接近してきたところで急上昇、そうして機動力で翻弄しながらベストロを引き連れて上空に上がっていった。
「おらおけぇ、雑魚ども!!」
落ちていく薬莢は海に沈まない。バビロンから産まれてくるベストロの溺死体が海を埋め立て、死神が侵食し大地のようになっていく。
バビロンは大きく仰け反ると、悲鳴をあげはじめる。腹の腫瘍がさらに肥大化していきベストロの波が強まると、腫瘍を抜け出して赤い龍が顔を出す。甲殻は剣のようのようの鋭い。ゼナイドは操縦席から見下ろし、姿を確認する。
「赤龍ですか、ミルワードにそんな伝承がありましたね……全員気をしっかり保って下さい、あれが産まれる前に所定位置まで飛ばします!!」
赤龍は腹を食べるようにして、這い出ようともがきながら、口を大きく開けて明々と口径を燃やし、巨大な火球を作り出して吐き出した。
ゼナイドは即座に舵を切って、下に紐付けた戦士たちは引っ張られる。火球を一発回避したところに、さらに赤龍が火球を放つ。レドゥビウスが火球に大砲を放って破壊する。爆風が飛行機を煽り、ふらつく。赤龍は伸びるようのうなだれる。ベストロの大群がレドゥビウスを追いかける。バビロンまでの前方が若干開いた。
「今ですね……!」
いっきに加速して前方へ飛んでいく。複数のベストロが正面からくるが、積載した機関銃で全方位を攻撃しながら飛行、バビロンの顔面を真正面に捉え、さらに高度を上げていく。ヴァルトが高度を目測で計る。
「降下準備、降下準備!!!」
ヴァルトが首にかけた笛を鳴らす。
「降りろ!リンデ急げ!」
各員が吊り下げられた鉄縄から固定具を外し、リンデは座席からバビロンに向かって飛び込んだ。飛び込んでしばらくし、上空に4つの落下傘が開いた。片目を光らせたバビロンの頭上に向かっていくと、バビロンは上を向いてヴァルトたちを凝視する。血の巡る翼を羽ばたかせて風を起こし、落下傘は大きく機動はズレる。
「体制を崩すな、海に落ちるぞ!!」
ヴァルトはバビロンの体に、若干の輝きを見つけた。足元の方から這い上がってくる光に合わせて流血が確認できる。エヴァリストがバビロンの身体を走るように登ってくる。腹部にいる赤龍が火球を溜めるところに突撃し大剣を振りかざす。
火球が明後日の方向に飛んでいき空中で爆発。さらに上へ上へエヴァリストは走り、肩まで登るといっきに跳躍し、バビロンの血の翼の根元へ攻撃を加える。レドゥビウスの大砲とゼナイドの操縦席lする飛行機の機関銃が細部を削り、エヴァリストの渾身の切り込みで、町ひとつほどの大きさを持つような翼がもげる。苦痛に悶えて仰ぎ見るようにして泣き叫ぶバビロンの片目に、落下傘起動が合わさる。ヴァルトはレドゥビウスの報告を思い出す。
「片目に突入してすぐ、横に投げ出される感じになる。受け身を忘れるな」
ヴァルトは落下傘を切り離す。
「続けお前らぁ!!」
ヴァルト、ノイ、フアン、リンデは順に落下傘を切り離して急降下していく。全員が片目のなかに突入し、光に包まれた。ゼナイドが赤龍と、そしてエヴァリストを目視する。
エヴァリストはバビロンの頭頂から飛んでくる。飛行機の複葉に捕まる。
「よぉ兄弟!」
「どうやってここまで?」
「レドゥビウスに途中まで運んでもらった。まぁ途中からはベストロを飛んで跳ねてで」
「飛行能力を持つベストロを足場に……なんででしょう、驚けませんね」
「そら残念だ、しかし高ぇな、チビりそうだぜ」
エヴァリストとゼナイドは赤龍を見る。
「……おっちゃんたちであれやれってか?いいじゃん竜退治、あがるねぇ~」
エヴァリストは首を鳴らした。
「援護は任せて下さい」
「任せたぜ兄弟!!!!」
エヴァリストは複葉の中央で大剣を構える。飛行機はバビロンの腹から這い出て、睨みを利かせる赤龍に突撃していった。
2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。




