二話 オルテンシアへ
第二話 オルテンシアへ
ヴァルトら一行はオルテンシアの防壁、その門へとやってくる。門番に事情を説明しようとしたテランス、その後ろでマルセルが書類を渡す門前で止まった一行に、マルセルとテランスが戻ってくる。
「顔で通したぞ!すごいだろ!」
「いえ、遭難した方を救助した場合なんかに必要な通行許可証を、貴方の後ろから見せただけです」
「残念過ぎる!」
マルセルはフアンに酔った。
「いや、でもフアンさんが通れたのはあなたがあってこそかもしれませんね。遠くにあえて止めましたが、フアンさんの恰好が見えていたようで……少し小言を言われました。馬車に布がありますので、乗ってそれを被っていた方が良いですよ」
「……分かりました」
ヴァルト達はオルテンシアに入った。
ヴァルト達はオルテンシアの景色を、さほど焼き付けようとはしなかった。
「……普通、なんていうか、本当その……うん、普通」
「教会が乱立してて、そこかしこ天使とか初代ジョルジュの像があるくらいか」
フェリクスが話しかけた。
「君達、オルテンシアは初めてかい?」
「まぁそんな感じだ」
「イェレミアスというのは、つくづく使えない国といえる……どういう訳で、来訪したことのない人間を派兵したんだか……」
布の中からフアンが声を出した。
「すみません、たぶん質で選んだかと!」
「あのお気楽貴族連中のやりそうなことだ、顔だけ国家イェレミアス……あの国はやはり後方にちょうど良いということだろうな……ある意味であれは絶景であるといえよう。貴族連中に選ばれたにしては、君達人間性が平均的過ぎる、やはり怪しさはある……」
カルメは怒った。
「その多方面にいっきに喧嘩売るようなマネ、やめなさい」
「いや、これは兵士が思っていることを言ったまでで」
「支援を切られては困るでしょう?それにあなたは最高司令官でもあるんだ、立場のあることを忘れるんじゃないよ」
「寄りかかった壁だか船だかが、塗装だけのハッタリだと分かれば危機感の1つも出ようものでは?……」
ヴァルトはカルメに話しかける。
「そういえば、さっき話に上がったシラクってのは……」
「会った方が早いわね」
過ぎ去る人々は外套を着ており、十字光の飾りを握って祈る者が多い。ヴァルト達に話しかける者はいなく、睨むものも多かった。
「全然歓迎されてないな、お前ら」
「今は東側、西側に行けばいく程私達への当たりは優しくなるわ」
「ほぉ……あぁそういうことか。俺らが見た壁に武器はみてぇなのが全く無かった。西側に固めてるのか」
フェリクスが話す。
「その武装を見たくないものが東側に多く、保安課の兵士やその家族が多いのが西側。見たくないとはつまり、平気および科学に否定的ということ」
「当たりが強いのも当然だな」
ヴァルトら一向は進み、西側に入っていく。すると、とある場所に到着した。大きく白く、窓のない、やたらと大きな釣鐘の塔がある。
「何あれ!?」
「聖鐘というものです。元は婚姻に使用されるものでしたが……今ではデボンダーデの襲来を知らせるものですね」
「知らせる?」
「デボンダーデは、大前提西側からしか来ません。そこで資源を集中運用し防備を固めるのというが国家の方針。その一環として駐屯地を用意し、鳩を飛ばしているのです」
「それは知ってるぜ、でも不満は上がらなかったのか?聖典教はベストロごと、動物とか結構嫌いじゃねぇか。」
カルメは話した。
「いや、支配できればさして嫌うべきものではないっていうのがあってね」
「……馬といい鳩といい、都合いい動物は利用するんだよな」
「しっ、ダメだよそんなこと信者のまえでいったら……」
「お前だって信者だろ」
「私は部隊を信じてる」
西側に入っていくと、人が集まってきた。それは馬車が移動できないほどに。
「お帰りなさい、皆さん!」
「どうだった!?ベストロ倒したかい!?」
食糧を渡すものもいた。ヴァルト達にも渡される。
「あんたら、行動隊に新しく入ったのかい!?」
「すげぇ、こりゃあ良い今日は宴だ!」
ノイは驚いていた。驚きながら、ためらいなく渡された食事を食べる。
「落差が逆にすっごいなぁ……」
「おいのい、あんあくうあようとうお」
「食ってから喋れ」
フアンは寂しくしていた。
(僕も欲しいなぁ……)
ノイはしかし、何だか気持ちが悪くなった。
(……あんまり美味しくないのは、黙っておこう。なんでだろ、ナーセナルのご飯美味しすぎた?頑張って結構耕したの覚えてるけど、そのせいなのかな)
テランスが飛び出していった。
「皆、ただいまぁ!ケンタウロスはもう倒したぞ!」
「お怪我はありませんか!?」
「大丈夫、それより皆、今何か困っていることはないか?」
テランスは一瞬で囲まれていった。馬車の通れる道が開かれ、馬は駆けていった。ヴァルトとノイは食べながら駆け寄っていった。
「おい、置いてくのかよアイツ!?」
ヴァルト達が走っていくと、徐々に風景が鉄臭くなっていく。焼けた家の残骸や、所々燃えた死体さえある。
「こりゃ、どうした!?」
カルメが遠くを見ている。
「デボンダーデのたび、ちょっとずつ追い込まれてるんだよねオルテンシア。絶対に被害は出る。壁は登ってくるし、潜ってくる奴もいる。一般人の被害は、増える訳じゃないけど絶対にあるのさ毎度。まぁ、ほぼ防げるはずのものなんだけどね」
マルセルが話し始めた。
「整備も間に合わないので、こうやって放置するしかない……我々は一刻も早く、デボンダーデの元凶とされるあの怪鳥を討たねばならない」
「シレーヌの呼び方で、少し面白いのがあるよ。獣竜」
「……いえ、怪鳥です。ベストロはホニュウ類です、そう決まっています」
ヴァルト達の視線の先に、ひときわ厳つい建物が現れる。カルメがそれを見ている。
「あれがアドリエンヌ保安課、西部拠点」
四角の積み重ねといえる、効率重視の建物。雨がたまって腐らないかと疑問に思える。
「本部は中央か」
「当たり前さ、まぁほぼここが本部だけどね。ちなみにデボンダーデのたびに建て直しだよ」
「シラクってのはここに?」
「そう、着いてきな。あとフアンくんは先に着替えな。中になんか荷物が届いているはずだよ。着替える専用の部屋もある、肌を見せたくないんでしょ?」
布越しに声を出すフアンはいきなり飛び出すと、そそくさと中に入っていった。
「まだ部屋教えてないっ、まぁいっか……」
ヴァルトは疑問に思った。
(じじいとあの成金野郎、手際早すぎないか?あっこ出てまだ数日しか……そうか、あいつ一応有能だもんな)
ヴァルト達は馬を降り、中へ入っていった。絨毯を踏んでいき両開きの扉の前にくる。カルメが扉をいきなり全開にする。
「起きてますかぁ~!!」
中には1人だけ、男がいた。髪は白いので一瞬だけヴァルトとノイは強ばった。目の充血して、クマがもう1つの目のように大きい。どこかを見るように上を向いて焦点を合わせないままよだれを垂らしている。、おそらく換気というものを数日していない空気にヴァルトとノイは圧倒された。その男は椅子に座って書類を書いているようにも見えるが、話し始める。
「……びちゃびちゃの大砲で、馬小屋を作ろう。海がいいな……ちっちゃくて気持ち悪いし、ちょうど良い。威力満点の鉛筆を、重ねて束ねて、あぁそりゃ良い太陽だ」
ヴァルトはさすがに疑問を持つ。
「あのすたれ顔は何を言ってる……?」
フェリクスがそれに近寄る。
「シラク様、行動隊ただいま帰還致しました。並びにカルメ副隊長も任務を終えて帰還。テランス隊長は置いて群衆に囲われたため、いつも通り放置してきました」
シラクという人物が汗を書き始めた。
「あぁぁ!!すみません書類はまだ……!?あぁあえ、今回の小規模な襲来は被害皆無、弾丸などの経費につきましてはいまだ把握できてはおらず、行動隊の帰還まで最終的な諸々の数字は……!」
ノイがさすがにかけよった。
「おじさん大丈夫……!?」
「あぁ!?私は……!?」
立ち上がって、大きく息をすった。
「おじさんではないわぁぁあ~!!」
そのまま椅子と一緒に後ろに倒れた。ノイはそれをただ唖然として見ていた。フェリクスは目を閉じる。
「……遺言、伝えておきます。それから今回の経費ですが、夕方には提出します」
ノイがフェリクスを横目で見た。
(んえぇ、会話続けてるぅ)
ヴァルト達はカルメに連れられ、別の部屋へ移動していった。中には白い装束、頭巾を被った者がいた。
「カルメ、あんたの知り合いか?」
「え、まぁ一応」
「……?」
白装束は近寄ってくる。
「……いや、僕です!フアンです!」
「お前かフアン、つか白いなおい!」
「上から羽織っただけですがね、黒いよりは白い方がと……それと」
フアンは袖を振り、手紙を出した。
「……えっと、母さんからハンナちゃんに関して手紙を頂いてまして」
「おぉハンナ、何かあったか?」
「結婚したそうです」
「はぇ良かったじゃ……ん??」
ノイが飛び上がった。
「えぇえぇ!?」
「いやその……えっとすみません言葉が足りませんでした。レノー君がその」
「レノー君とぉ!?」
「話を聞いてください!」
ノイが落ち着いてから、話は始まる。
「ハンナちゃん、ノイが会ったときは元気だったそうですが……どうやら、無理をしてたようで……それでレノー君、事情を聞いて、結婚式を挙げたそうです。亡くなったピーターくんの名前を、正式な届け出に寄せたて作ったものに記して。それとこれ」
フアンは大きな袋を1つずつ、ヴァルトとノイに渡した。
「ヴァルトとノイの隊服です。諸々の手続きはやはり、既に完了しているようですね」
「やっぱ動き早すぎだ、動き完全に詠んでただろじじい」
フアンはカルメに聞こえないよう、小声で話す。
「手紙をにはこうも書かれていました……そっちで何やっちまってもどうにかしてやるから、好きに暴れろ。これからもバックハウス家を宜しく」
「あぁ、理解した。先に恩を買わせた感じか。また変な注文来ないといいが、せめて納期くらいは長いといいが……」
「弓剣の納品、ほぼ1週間でしたもんね」
「一週間で、一個小隊分の装備を用意って、しかも武器は音の出ない最新のって、戦争でもしてぇのかって思ったぞ。寝かせろっての、あん時ほぼ寝てなかったからな」
ノイが袋の紐をほどく。
「……ねぇ」
ヴァルトとフアンがノイを見ると、隊服を取り出していた。白を基調とし間接に取り付けるであろう装甲が付随した軽装、装飾は銀を感じさせ、襟巻きは青い。
「ヴァルト、一旦出ましょう。着替えの邪魔になります」
「おう、んじゃカルメ、そいつどうせ鎧着れないから頼む」
腕を後ろで組んでつまらなさそうにしていたカルメは、にこやかに返答した。ヴァルトとフアンは部屋を出ていく。
「……ノイくん、私と話す気はある?」
「え、何?」
「いや、結局私達の信頼ってどのくらいなのかなって」
「ヴァルトとフアンは、今のところ怖がってないし、私はそれを信じる」
「はっはっ、それはありがたいね」
カルメはノイに近寄った。
「腕っぷしだけでいえば3人の中でも最強だよね、思ってる3倍はがっしりしてる」
ノイがすね当てなどを取り出して装備しようとしても中々上手くいかない様子。
「でも隙があって、可愛いじゃない」
「隙?」
「頭の悪さも可愛さだし、それは隙だよ」
ノイは少しだけ、ほんの少しだけ真剣になった。
「……ダメ」
「ダメって?」
「そんあの、だれも守れないじゃん」
「ノイちゃんはそのままで良いと思うよ。ちょっと頑張り過ぎなくらい」
「2人が凄すぎるんだもん……頑張らないと」
「あらゆる局面において、確かに彼らは聞いた感じ、本当にすごい。でも君は女の子なんだ、少しくらい周りに甘えたって」
「そんなこと言ってたら皆死んじゃう……」
「……私が言ってるのは得手と不得手の話さ。できないことを見つめるのも大事だが、できることに注力するのも大切だよ」
カルメはクロッカスにて、シャルリーヌがノイにとって外で初めての友達だということを知っていた。そして、彼女の死に対してあまり涙を流していないと感じていた。
ヴァルトは別室で着替えながら、フアンと小声で話をする。
「あの力、どうすればいいんだぁ……?」
「ド派手なものも、手汗のようなものできますし……」
「手汗じゃねぇって」
「しかし、程よく何か力を利用するとしても、やはり危険であることに変わりません。人前で使うのも、どうかと思いますし。持ち腐れですね」
「……あの変わったとかいう天使も、結局あれ以来出てこねぇ。俺は当初、寝たり気絶したりで俺の意識が吹っ飛んだときにアレになると思っていたが……どうやらそういう訳でもなさそうだ」
「気絶はしていないので何ともいえません。睡眠と気絶が厳密に違うとなった場合、その限りではありませんよ」
「あぁ、確かにそうかもな……わざと気絶ってのは」
「やめてくださいね?危ないです」
別室の、閉じられた扉が勢い良く開けられた。
「着替え終わったか!?訓練を始めるぞ!」
「えっと、テランスさんですね。はい、ヴァルトも終わっています」
ヴァルトの服装がテランスの目に写った。
「おぉ!ヴァルトくん、フアンも!似合っているじゃないか!」
「これ、中々いいな」
ヴァルトの服装は、今までの茶色の服装から一転して白色に変化し、只でさえ爽やかさのある面を際立たせている。武装が重たいのを考慮して、支給されているすね当てなどは装備していない。鞄や鞘を固定する装具を繋ぐ多めの腰帯が汚れた茶色なのが目立つ。腰から下にいくと段々と細くなり、脚絆の部分で締め付けられ、大きめの袋が対象で縫い付けられており、鉄製の留め具で閉じられている。
「道具をここに入れればすぐに取り出せるししまえる。留め具はもう少し補強した方が良さげ……てかいつの間に戻ってきたんだあんた」
口調は変わらず似つかわしくはない。
「はっはっは!あんなの走ればすぐさ!」
「結構距離あっただろ……?」
「そんなことより、君ら。さっそく訓練を始めよう!今日から君達は、我々行動隊の一員として、1週間の特訓を行ってもらう!」
「1週間だぁ?んな短期間で何を鍛えろってんだ」
「それについてはマルセルとシラクさんに言ってくれ!さぁ訓練所へ行くぞ!」
ヴァルトとフアンの腕を掴んで部屋を飛び出た。飛び出た先でノイとカルメがいた。
大きさが当人に悲しく合わない盛り上がりを見せる薄めで、前面のみの、心臓を守る意図がありそうな胸甲を、接がれていない布地が隠し、しかしそれの下部の丸みが少し布から見えかくれする。腰以外は間接に装甲を着けており、手甲と足先の鎧が目立った。下衣も胸甲同様大きさが合っていないが、こちらはどちらかといえば小さすぎるようで、袋は縫い付けられているが小さく、その脚力を遺憾なく示す筋肉がさせるのか、布地は張っていた。
「ノイ、お前のだけやたら凝ってねぇか……?」
「ズルいです」
ヴァルトがその服を凝視しているのを、ノイはただ顔を赤くした。
「な、何……!?」
「破れてるぞ」
「なっ!?」
ノイの下衣の、ちょうど左太もも、股下から少し離れた内股の部分が破れていた。筋肉で張ったしなやかな肌が見える。
「あとで直すから持ってこい」
カルメが大笑いしながら、ヴァルト達をその訓練所とやらへ連れていった。
2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。




