八話 揚力式回収装置
八話 揚力式回収装置
エヴァリストが火事場に訪れる。大きな音を出して扉を開けると、ヴァルトは白紙の設計図の前で立ち尽くす。ノンナが羽根筆を持ったまま椅子に座り込んでいる。
「……あんま進んでねぇみてぇだな」
「そう柔いモンは作れねぇからな、そばにはアマデアがいる。いるかも分かんなぇ神をどうこうしようって話な訳だが……やりよう、択が多すぎてなぁ。それにまず、あのバビロンっつうヤツに向かっていかねぇといけねぇ。船にしたって遅すぎるし、あのベストロどもを耐えられるとは思えない。あるとすりゃ空だ。俺たちは飛ばなきゃならねぇ」
「……飛べるってなったら、どうする?」
「……おぉ?どういうことだ」
「テオ、いや……ゼナイドがミルワードからここまで来るために使った、飛行機っつうモンがある……本人のじゃねぇ、姉貴の……テオフィルの減刑があれば、飛行機の場所を教えるってことだ」
「……減刑に関しちゃ俺がどう言えるわけねぇだろ」
「ボウズの口から……なんだ、話を通した方が、通りやすいと思ってよ」
「本当にお前が思ったことか?ゼナイドじゃなくて?」
「……あぁ、えっと」
「……いや、まて?」
「なんだ、いいのか!?」
「そうじゃねぇ、飛行機の性能を聞きたい。飛行速度、搭乗可能な人数だ」
「人数は……二人だけだ」
「少ねぇ、話にならねぇな」
「だが速度はある。鳥くらいは早ぇ」
「速度はある、か」
「……ダメそうか?」
ノンナが羽根の設計図を描き始める。エヴァリストがノンナの隣へやってきた。
「どうやって飛んでるんだろ?」
「聞いた感じでいえば、なんかプロペラっつうのがあるらしいぞ」
「何それ?」
「先端?に着いてる、羽をこうグルグルさせるみてぇだ」
「どうやってグルグルさせてるの?」
「あぁ~どうやってんだろうな……話にあった、エンジンっつうのが関係してんじゃねえか?」
「エンジン?ボイラーみたいなものかな……そうか、動力源ってことだ!じゃあじゃあ、エンジンでプロペラに運動を伝えて、推進力を得てるんだ!!翼で空気を掴んで滑空する感じなのかなぁ~??」
「……嬢ちゃん、楽しそうだな」
ヴァルトは設計図を考え始める。考えながら、フラフラろ歩くと、羽根筆を持って投げてみた。
「……だが2人ってのは少なすぎるな。分隊一個は乗せたい、操縦士以外で4人だ。俺、ノイ、フアン。リンデは座席として、神様を奪おうってなら5人になるか?だが人数を増やそうったって、そもそもいじっちまったら、無作為性の原則で性能が落ちる可能性も……それに今からいじるのも時間がねぇ、なんか他の方法で人数を……」
ヴァルトは外を見る。馬車が通っていた。
「……後ろに貨車?いや無理だ、場所は空」
エヴァリストが思い出す。
「……空っていやぁなんだっけな、飛行船っつうのもあったぞ?」
「なんだそりゃ」
「揚力っつうので空に浮かぶ、クソデカイ船だ。ガス、だったけ?そういうので浮いてるって……俺が聞いてきてやろうか?」
「ガス?」
「あぁ」
「……つまりあれか、軽い空気ってことになるか?」
「空気が軽いなんてことあるのか?」
「水の中に油入ったら浮かんでくるだろ?空気だってどうせそうだ、色んなものには重さがある。つまり揚力っつうのは、空気より軽い空気で浮かぶってことだ」
「お前すげぇこと考えるんだな」
「……いや、ありだな」
「どうした突然」
「……そうか、それでいける。人員を飛行機で浮かせればいいじゃねぇか」
「お前何言ってんだ……?」
「神を回収するのは揚力ガス、それでいける!現地でガスと携行品でクソ小さい飛行船作って、軽い空気で浮かべられれば、浮かんだその飛行船ごと飛行機で回収!これでいける!」
「……あぁ?」
「エヴァリスト、野郎に話つけろ、俺がヴァルヴァラに言って、死刑から終身刑にへ減刑させる」
「マジか!?」
「揚力式回収装置……開発開始だ」
2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。




