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ブルートアウス ~意思と表象としての神話の世界~  作者: 雅号丸
第7章 世々後天 二幕

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九話 平和を囮に

九話 平和を囮に


ヴァルトはレノーと廊下を歩く。レノーは紙を渡し、ヴァルトに読ませた。


「マジでこれ言うのか?」

「マジです。ここから平和を掴むなんて難しいですから」

「協定のない停戦……できんのか?」


アクセルが廊下の先に立っていた。


「ヒトの命以上に価値を持ってるのはありません、赤子が泣くのはその価値を知って嬉し泣きしているという学説が、ミルワードにあったとかないとか」

「んな訳ねぇだろ、むしろ逆なんじゃねぇか?」

「命の価値のなさを感じて悲しくなっていると?」

「かもな」

「悲しい発想ですね……ですがそれもまた発想です。思考それ自体に罪はありません」

「お前はなんで、ヒトのことを考えたがるんだ?精神科医っつう仕事だからか?」

「……そうですね。一つ言えることがあるとすれば、この世界を席巻するのは決して論理的なものではないということです。事実より物語のある偶像・虚像こそ、ヒトを動かします。私は、ヒトをはどのようにして理論を越えた価値を図るのかが気になるのです。幾百年前の絵画が現代の金塊に匹敵する価値とは?ロジカルにしてスピリチュアル、それが精神なのです。価値の有り様に興味があるからこそ、価値を決めるヒトの心に興味があります。故に、私はヒトを分かりたい」

「そんなの分かってどうするんだ?」

「わかったところで終いです。興味とは全て、そういうものなのですから」

「ほぉん」


ヴァルトは、レルヒェンフェルトの中央にある城の場内、広場後ろにある城門の上にある切り出しに立っていた。


前方には、指示なく区分けされていた人種ごとの民衆がいた。人種の境目は空いている。


(集められる限り均等になった多種族、一括で、脅さなきゃならねぇとは、ったく恐ろしいもんだ。不思議と緊張もしねぇってのはやっぱ……マジで俺興味ねぇんだな)


ヴァルトは手すりに手をかける。兵士の一人が鉄の箱と持ってくる。ラッパのような形状を持つ機材を電線で繋ぐと、ヴァルトはそれを持った。


「聞こえっか、アホども!!」


拡大されたヴァルトの怒鳴り声が街に響く。ヴァルトも驚いた。


(なんだこれ、シャノンが言ってた拡声器ってやつ、すげぇな)


ヴァルトは市民の目線が一か所に、自分に向けられているのを確認した。


「てめぇらが考えてる平和ってのはなんだ?お前らが掲げる平穏ってなんだ?知性ある平和、恒久的な平和……どれも欲しいよな……本当にそうか?今こそ革命のときだって火をつけようとやっきになって、傷害事件を起こすベストリアン。ベストリアンと待遇が同じでは不服だと訴えるニンゲン。お前たちは何を守ってりたいでもなく、何をどうやって傷つけようかと躍起になっている。俺たち生き物の目的はなんだ?敵対する相手を殺すことか?憎い相手が悲しむ顔を拝むためか?差別の歴史に終止符を打つためか?世界を救うことか??……少なくとも、お前らにそれはできない!!誰かがそれをやってくれるまで、お前らは粗相なく生きるためお前らは命がある。生き物ってのは共通して、でこることやれることなんて変わらねぇ、飯食って寝て増えることだ。断じて大義とか復讐のために殺し殺されをするもんじゃねぇ。お前らじゃできねぇことだらけだ。食うために命は奪えても、復讐のために殺し合うなんざ、生き物の性能を、用途を完全に間違えた行いだ。机で殺し合うアホはいねぇ、銃弾で飯を作るアホはいねぇ、お前ら、自分の意味を・用途を履き違えるな、大義で死ねるやつらかお前ら、覚悟を持って殴り合えるかお前ら、お前らは食って寝て増えてりゃいいんだよ、問題を起こすな!!」


民衆から声があがった。


「じゃあ何か、俺たちが今までされてきたことを飲み込めっていうのか!?」

「示談で終わらせられるものじゃないんだよ小僧!!」

「冗談じゃないわ!私の子は彼らの殺されているのよ!」

「こんな臭い連中となんか、仲良くできるか!」

「いったい何を考えてんだアンタは!アンタはニンゲンの味方なんじゃないのか!」

「お前は誰の味方なんだ!」


ヴァルトは頭をひどくかきむしるようにして、息を強く吸い込む。


「勘違いしてんじゃねぇぞ、てめぇらぁぁぁ!!!」


ヴァルトは光を纏い、手を伸ばしてそれを空に打ち上げる。その光は分厚い雲を形成し、雷がイェレミアス内部にいくつも落ちる。民衆は怯えはじめた。雷がやむと同時に、ヴァルトは再度光を放つ。


(現象の想起、こうすると俺の力は発動の前段階に入る。雷を纏い始める……威嚇にはちょうどいいな)


ヴァルトは空に手を伸ばす。


「……俺は今、てめぇらに選択を迫ってる!どんなアホにも伝わるよう言ってやる。いま、世界を救えるとしたら誰だ!?俺だ、俺らだ!!断じててめぇら有象無象じゃねぇ!!いいか、俺はてめぇらに救われる気があるかって話を、しようとしてた!そしらなんだお前ら揃いもそろってなんにもできねぇくせにいっちょ前に、まるでここから先の世界が滅びねぇ前提で話をしてやがる!!いいかお前ら、今から俺たちは世界を救いに、あの海の方に見えてるデカイ化け物をぶっ飛ばしにいく。だが……そうやってウダウダやってるなら、もう俺は完全にお前らを突き放す。好きにくたばれ、世界なんか救ってやんねぇ、大人しくもできねぇハナ垂れ小僧しかいねぇ世界なんかこれっぽっちだって救う気が起きねぇ!なんてったって、救われるつもりがねぇんだもんな!?救う価値ねぇもんな、救われた世界でてめぇらはどうせまーーーた殺し合うんだろどうせ、世界が存在する必要あんのかよそれで!!」


民衆から声があがる。


「ふざけるな!」

「それが強者の言い訳か!?」

「私たちはこんな辛い目にあっているのに!?」

「お前らは強いからそんなこと言ってられるんだ!」

「何者でもない俺らのこと、知った風に言うな!!」

「力に責任を持てぇ~!!」


ヴァルトはキレる。


「うるっせぇなごちゃごちゃと!!力ある者には責任だぁ!?範疇があらぁクソが。俺は感情がある、モノを考える頭がある、他人だって、世界だって嫌える!!グダグダやるなら俺はてめぇらの今後なんざどうでもいい、楽しく知り合いと酒でも飲んで食っちゃ寝させてもらう!!俺は英雄なんだ、そんくらいの権利はあるぜ?お前らにできないことを、俺はやれる!!何者でもねぇてめぇらはどんだけ自分を大切にされるかだけ考えれりゃいいものを、よくもまぁそこまで厚かましくなれるはなぁ。想定はしてたが力に責任を持てっだなんて、じゃお前ら考えてみろよ!お前ら大切にしてぇわけでもない奴のために、死ににいけんのかよ!!俺は無理だ!!いいかてめぇら、これ以上俺に不快感を与えるな、口閉じて腕切り落としてでも明日があることを俺に祈れ、ざーーーこが!!!」


国が一つ、静かになった。人種が2つ、静かになった。口を大きく開けるもの、血相を変えるもの、理解ができないものなどがいた。徐々に不安の表情が表れてくる民衆は、だが言葉を失っていた。ヴァルトは再度放つ。


「それでいいお前ら……しっかりちゃんと、大人しくしてろ。そしたら世界でも何でも救ってやらぁ」


ヴァルトは城の門の上にある露台から姿を消した。


「ごめん……なさい……許して、下さい……」


子供がひとり、そう呟いてないていた。子供と手を繋ぐ大人が上を向いていた。


「……誰よりも先に子供が謝ったこんな世界、確かに滅びるのが正しいかもしれない。みんな、少しあの少年の為に大人しくしていよう。俺たちより一回り二回りも若いやつが世界のために命捧げようってなってんだ。まぁ聞いての通り口は悪かったな、普通に、

失礼だ、礼儀を欠いている。だがハッキリ言えることとして、残念ながら、争えることすら今は贅沢なんだ。生きていることが奇跡なんだ。噂じゃあの怪物に突撃しようって部隊は、全員20年も生きてない若い奴しかいないらしい……あの子らがどんな思い出で自分を送り出すのかって思うと、こんな世界じゃ残っても恥ずかしいじゃないか。彼らが俺たちを救ったところで、救った後の世界で自滅するんじゃ、話にならない。彼らが幸せであれる、そんな世界のために……彼はあんだけ言って、飲み込めなんて言ってなかっただろう、今は大人しくしていよう。世界を救えるヤツがいても、ソイツが世界を愛していなければ、窮地の今、いったい誰が救われるんだ?俺たちはいつも被害者か加害者かで、世界のことは考えていない。こんだけ生きてるやつが集まって、悪人ばっかで善人がいない。せっかく考えてくれているヤツらがいても、救われようとも思わない……一度全員で、考えてみたいか?俺たちは最悪なことに自分のことしか考えられないが、幸運なことに自分のことなら考えられる。ならもっと自分のことを、先を見据えて、考えてみようじゃないか?」


その声に、民衆は耳を傾けている。少女を捉え、ヴァルトの隣から飛び出したノイが、民衆をどかしながら歩いていった。


「……ねぇ」

少女は耳が立った。ノイと目を合わせる。少女は涙を拭いた。しかしまた泣き始めた。


「……あ、あの。あのね?その……私、知らなくて。その……でも、さ、あの……その……」

「ごめんなさい」


ノイは驚いた。そして次の瞬間にはすでに、少女はノイの胸に飛び込んでいた。


「ごめんなさい、ごめんなさい。私、あなたが優しくしてくれたのに……怖くて……地下を出るとき、頭巾の人に言われたんです。私、言われたことしか頭になくて、お腹空いてて、でも何も覚悟なんてしてなかった。食べ物はずっと、落ちてきたのしか食べてなかったのに、自分で集める大変さもしらないのに……何も覚悟できてなかったんです。ヒトは怖いって聞かされて、怖くて、怖くて……ありがとうって言うべきでした……!!」


ノイは少女を抱きしめ、背中を撫でる。


「そんなこと考えてたの……謝られるなんて、考えてなかったよ……お姉さんが、あの怪物倒してくるから、泣かないで?」

「……えぇ?」

ノイは抱きしめるのをやめ、立ち上がった。


「……大丈夫、ちゃんと行って、倒して、帰ってくるから」

「……あの」

「何?」

「い、いってらっしゃい!」

2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。

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