六話 聖会の最後
六話 聖会の最後
テオは、ゼナイドと共に一緒の牢屋に入っていた。お互い鉄の手錠をはめられており、向かいあって、背中を壁につけて座っている。
「……あなたが私に充てた魔天教の団員には、悪いことをした」
「いつの話でしょうか?」
「第三次デボンダーデが始まったとき、近衛兵に変装して下水道から上げたんだ。魔天教のみなが、あの作戦を思いつき、私に提案してきた。魔天教のなかでも、人間に対して敵意はあった。だがいつか復讐したい相手がここで滅んでは、魔天教はたち行かなくなる言ったいた」
「そんなことが……」
「……自分の命を、そこまで復讐に費やす。テオ、私たちはあまりに過ぎた過ちをしていたのではないか?凄惨な事件はあった、人間の恐ろしさを知った……だが、だから過去を引きずれと、私たちは他者に強制してきた。これは答えでもあるのだろうが……魔天教の策略より直接的に、あのギムレーという国家が動いていた」
「……彼らは、どのようにして精肉されるベストリアンたちの情報を手に入れたのだろう?」
「それは……ポルトラーニンという者なら、知っていたのだろうな」
「……あるいは」
「何か知っているのか?」
「……世界を滅ぼそうとする動き、裏から動かすその兆候、あり得る存在が一つある」
「誰だ」
「……アマデアです」
「話にあった、バビロンからモルモーンまでを計画したというあの?」
「彼女は、常に殺気を纏うような、その恐ろしさを隠そうともしない、常に他者に対する冒涜がありました」
「……いったい、何があればそのような」
「我々罪人とて、それは同じことです。故に我々がもっとも彼女のことを考えなくてはならないだろう、我々が彼女の思惑を推し量ることで、その思惑を逆算し、原因を根絶しなくてはならないでしょう」
「……できると思っているのか?」
「ベストリアン差別よりは、根絶するのは可能かもしれないです」
「……元は存在しなかった脅威の具現化。神というのは恐ろしいものだ」
「ヒトの根絶は神の思惑なのかアマデアの思惑なのか、疑わしいものです」
「……こうして話していられるのは、きっと奇跡なのだろう」
「そうですね……」
「……あの時、テオを守ったことは正解だったのだろうか?」
「教会内での私の扱いは割れていましたからね、身体の白さは神の証明なのか」
「いま思えば君をいじめていのは、神がいれば困る派閥だったのだろうな」
「あなたはいつも衝動で動いていましたね」
「成りたい自分がなくて、でも何者かにはならなくてはいけなかった。社会的なところで、私は立場を決めかねていただけだ」
「……ありがとうございました。あなたとエヴァリストくらいでした、神々しいとも神への冒涜でもない、純粋な意見を言ってくれたのは……ですが私は歳を取ってしまった。もうあの頃の美しさはもうないです」
「……そうか?…………………私はそうは思わないぞ?」
「……?」
「いや………………すまない、からかった」
「…………だと、はい、思いました」
「……本当に私は醜いな」
「どこがですが?力強い女性、素敵だと思いますよ」
「……テオ、名前を入れ換えたときのことを、まだ覚えているか?」
「認識のうえでの撹乱目的、聞きかじった情報だけで私にいじめを行おうとする者に対する牽制、間違えてあなたをいじめようとした者を、あなたが執拗に罵って返り討ちにしていましたね」
「我ながら何をやっているのか、今でも分からないでいるよ」
「……名前を交換したことで、私はどこか頑張れることができました。私の努力がまるであなたの者になっていくような。結局も行動も、最悪の形で現れてしまいましたが……少なくとも私は、追い込まれてもまだ死ねないと、私が死ねばあなたが死ぬという意識が芽生えました。今日までこの罪を背負って生きてこられ、罪を伝え、断罪されるまで生きながらえられた」
「……そうか」
「……ありがとうございます」
牢屋のある部屋の扉が開けられる。
「よぉ、お二人さん。お涙一滴くらい反省できたか?」
エヴァリストが大きな歩幅で入ってくる。
「……言うこと聞いただけの俺もまぁ十分に悪いわけで、そういう訳でごり押しで押し通して、見張りは俺だけだ。イェレミアスの歴史は複雑らしくて、時代ごとの新しい務所と牢屋が乱立してる。お前らが二人っきりになれるなんて、今くらいなんだぜ」
エヴァリストは椅子にもたれるように腰かける。
「えぇいしょ~……テオ、お前なんで、ここまでおおごとにしやがったんだよ」
テオとゼナイドは、しばらく黙った。
「……私は、当時の局長ギ・ソヴァージュの研究を知った。それはもはや噂程度しかない彼の研究室の話、その噂が立つ原因となる、ソヴァージュの痕跡がよく消える建物の一角があった。そこに彼女もまた消えたことに違和感を持ったからだ。気迫こそあれ、彼女は、ゼナイドはそれでも女性だった。私はそれが気がかりになったままでいると、ちょうどその地点がある方角から銃声があった。螺旋階段を下がっていき、部屋に駆けつけると、看守などではなく、白装束の存在が一室の前に待機していた」
ゼナイドはテオを見た。
「初耳だ」
「当時思い当たったのは、彼女がよからぬことに巻き込まれたと思った……私の殺人は、それが初めてだった。研究員として在住していた関係上私に戦闘力がないという意識があるはずという思いで近寄り、懐にある文房具で相手を殺害しすぐ別部屋に片付けた。部屋に入ると、彼女がソヴァージュを殺したことが分かり、研究室で何が行われていたのかが分かった……」
「……私が協力を求めたのは、この殺人に関する隠蔽だった。我ながら醜いなと思う、だがテオは彼女をを抱き締めていた……」
「……私はあの瞬間、全てを理解しました。部屋に散らばる無数の骨は、例えば肩骨などが撫で肩の形状をしており、またベストリアンにある獣の兆候もありました。
実験の犠牲になっている対象が女性のベストリアンであることと彼女の存在が、この計画がある理由を想起させました……この実験は、ベストロとベストリアンが近縁であることを証明するための実験だと。ベストリアンに関して私はあまりわかってなどいません。当時も今でも……私は……ヒトとベストリアンの違いが分からなかった。私は白子症です、体質が他者と産まれながらに違う、故に多くの回数、自分と他人の違いを感じ、そして考えました……しかし私は他人とは別段大きく変わらないだろうと思い始めた。
そしてその思いは連想し、我々ニンゲンとベストリアン、つまりアジンやジュウジンとの、それらすべての違いが分からなかった。私のような者が他に、アドリエンヌで、西陸でいるだろうか?いいや、いないと思った……結果この事件を知り私は、西陸のヒトとしてあり得ないほどの嫌悪感に包まれた……そこからは、もはや義務感で動いていた。私以外で、犠牲になった彼女たちを弔える者がいないということに囚われた……それに、ゼナイドの目には確かに怒りがあった……問題の規模は、差別という枠を大きく越えていたと感じた。善悪などあそこにはなかった、実に生理的なものとして私は、聖典教という正義に歯向かおうと、悪人になろうと決意した……これは、既にユリウスや他イェレミアスの関係者には伝えてあることです」
エヴァリストは股をかきながら、立ち上がる。
「……背負いすぎだ、ったく」
「はい、分かってはいたつもりです」
「お前は、西陸のニンゲンにしては優しすぎた、そして考え、感じすぎた。そういうことだな」
「……そう、ですね」
「お前はさすがに死刑は免れない。だが……1個、マジで聞きたいことがある」
「なんなりと」
「いやまぁ簡単な話なんだがよ……お前、ここまでどうやって来た?」
「ミルワードの試作兵器で、鳥のようにして」
「……あぁ、ちらっと横目に見たあれ……あれが必要だって小耳に挟んだ。ミルワードの連中だって悪さはたんまりやって、まぁ自滅?したわけなんだが……それでもお前には、贖罪の機会に全てを投じる義務がある。あの鳥はいますぐ、動かせるか?」
「着陸した時点で燃料は少ない。飛べてもミルワードまでいけるとは思えない」
「状態は?」
「ある程度の部品の修理さえできればなんとか。できるだけ丁寧に着地したつもりです」
「……じゃあつまり、お前なら操縦できるって話だな?」
「勝手は分かります……しかしそれが何か……?」
「よし……あのガキに話を通してみる。減刑の糸口、例えなくとも、お前らのため、俺は探してやるよ」




