二話 後天計画
二話 後天計画
「……後天計画、アマデアが主たる父、すなわち神のために計画したものだ。目的は、主たる神の権能の復活と、それに伴う、次元の跳躍だ」
レノーが手を上げて質問しようとする。
「全部話してから質問に答える」
「分かりました」
「続けるぞ……神は、自身の持つ【物体を創造する力】に気付き、天使を作り出した。幾千年の歳月、アマデアと旅するなかでヒトと、ベストリアンと関わるうちに発露した懐古の思い……親に会いたいという、文明的で普遍的な欲求が発露したんだ。神は記憶のなかで、自身の母親が遥か遠くの次元にあることに思い当たり、また自身は幼少のころ、その身体を別の追放された記憶にも思い当たる。神は次元というものを認識し、次元を越える方法を編み出すもしかし、次元を越えたところで母親に会える場所に繋がるかは分からなかった。神は自分が思い付くもの、見たもの、あるいは外的に与えられた知性でしかモノを顕現できない。さらに、顕現は自身の身を削るような行為でもあった。神はこの状況を打破するため、つまり母親がいる次元の【座標】を知るため……世界のある理と、それにもっとも関わる生命体、ニンゲンを利用した」
「それは……」
「無作為性の原則だ。モノの品質が上下するアレ。そしてニンゲンは物作りに長けていた……神はそこに目を付ける。神は、自身の存在を関知し宗教すら作成して敬ってくれるニンゲンであればあるいは、自身の母親の次元の座標すら導きだしてくれるのではと思い当たる。そして、そんな座標を導き出せるような天才、つまり【外れ値のニンゲン】を、いわば発掘するため、聖典教のある特徴を利用し、ジンルイを間引き増えるその循環を操作し加速させた。それがベストロであり、デボンダーデだ。つまりだ……ベストロなんて、【元々この世界にはいなかったんだよ】」
「そんな……!」
「ベストロは神がジンルイの競争相手として用意した兵士そのものだ。しかし神はやり過ぎた。西陸を襲わせるのに、ベストロは伝承のままでは強すぎたんだよ。強さもそうだが、事前に数を用意し過ぎたってのもあるらしい。伝承にある位置関係で奈落を創造し、そこを兵士の宿舎のように利用して、ベストロを送り込んでた。だが数年で西陸を滅ぼしかけ、神は加減を誤ったと焦る。そこに、アマデアが計画の建て直しを提案し、アマデアの主導もと、計画に変更が加えられていった。
そこからが第二次ベストロ進行、デボンダーデ、さらに全世界でのスタンピードの始まりだ。具体的には、ベストロとジンルイの個体数を、聖典教を利用して把握し管理する方式になる。生物学を徹底的に学習しベストロを操作できる存在しないベストロ、ドミニを創造した。ドミニってののは丸くて黒いベストロだ。両生類や昆虫類の見られる、死んだら仲間にその位置を伝える性質を持っている。それを利用して「こっちに敵がいる、離れろ」と、「助けて」という信号を放つとかなんとか。そうしてデボンダーデを引き起こさせ、神のやり過ぎた行いである第一次ベストロ進行により、オルテンシアにちょうど集まっているニンゲンを周期的に襲わせることで、やり過ぎない間引きを行う……また西陸だけじゃなくとも良いという判断のもと、西陸以外の国でもデボンダーデを引き起こすため、世界各地の伝承を元に怪物を創造し、それとジンルイを戦わせる。ここまでが、神がまだ顕在していたときに考えられた、後天計画の概要だ。そして……こうも書かれている。これはただの概要であり、アマデアの目的は他にある。こっからは、この暗号を記した天使、ヴァーゴ・ピウスの考えだ。
いいか、ヴァーゴ・ピウスは、天使のなかでも最高位の存在であるアマデアを疑っている。天使自体、神がニンゲンを模して作られたものなんだが、ヤツは神が星に降り立つとき、神が最初に創造した天使であり、生命体だ。それが起因しているのか何なのか、アマデアは全ての行動原理が神の信仰で動いてるとか。だがそうなると、この計画は大きく破綻している。現在進行として、世界は滅びつつある。いや、もう滅んだといってもいい。
過剰に創造された世界各地の怪物は、様々な国家を壊滅させ、もはや西陸以外でまともに息してる国はないといっていい。間引く数が多いほど、ガキが産まれる確率も低くなる。世界を大地に、文明・そしてジンルイを栽培しようっていう腹図もりのはずが、いったいどうしちまったんだってことだ。
それに、とんでもないほど巨大で強力な個体も数多くいたはずだ。シレーヌ、リヴァイアサン、シュエンウー。奴らの存在理由は本来、ジンルイが強くなり過ぎた場合に文明ごと間引くための存在だった。
だがどうだ?さして凄いわけでもない、例えばギムレーなんかはミルワードを最高位の国家だとした場合発展途上といえる。だがシュエンウーはそこに現れた、しかも2体。ヴァーゴ・ピウスはシュエンウーが2体いることも、ザションがあそこまで大群になることも承知していなかった。ナーセナル?に向かったベストロたちも、カエルムの会議で却下されたはずのモルモーン創造も、冬期第三次デボンダーデも、モルモーンの改良、ゼナイド・ジャン=ポール・マルティナとの接触、全てヴァーゴ・ピウスの知らないうちに、アマデアの独断で行われたという話だ。
アマデアの暴走は神が第一次ベストロ進行、聖典教の枢軸議会と話を付けてから、カエルムからいなくなった時期と一致する……ヴァーゴ・ピウスの見立てでは、神がいない間に、すべての計画を台無しにすることで、神が別次元へ向かうこと、つまり俺たち天使から神が離れないようにしているんじゃねぇかって話になる。
だが……俺はそうは思わねぇ、ヴァーゴ・ピウスは野郎を信頼し過ぎてる。あの女はまさしく怪物だ、ベストロもジンルイもヤツには及ばないだろう。思考の冷徹さは極めてあるし、そんな生易しい理由とは思えない。知ってるか?カエルムの天使は壊滅状態だ。ナーセナルって所にベストロが送り込まれる日だったか、あれが主体となって、カエルムの天使は思想が二極化された、兵士と市民でな。
それを引き起こしたのもアマデア。しかもアイツ、たった一体の天使が地上に瀕死で落下していったのを見て、一目散に地上へ降りていった。意味わかんねぇ。まだ確証ができるワケじゃねぇ、だが思う、今いった計画は、あくまでもジンルイを生存させながら間引くための策だ。だがアマデアのやることはほぼ全て、自分が計画したものを破壊するものだ。あるいは計画は破綻させる前提で今まで動いていた可能性もある。神のためだろうが自分のためだろうが、あまりにあのアマは勝手が過ぎる。ヤツは確実に、ジンルイを滅ぼす気だ。それだけは断言できる。何があってもヤツを生かすな。まぁ、殺せるかも怪しいがな……あのアマは……不死身だ」
「そこまで知っていて、あなたも加担していたのですね」
「逆らう技量がなかったってのもある、腹は立つ。俺だってニンゲンに色々と楽しませてみもらってんだ。力も技も、ニンゲンから授かったものだ。知恵もな」
「……それほどに、アマデアは強いのですか」
「不死身の怪物だ、四肢はすぐに復活、頭を粉微塵にしても、心臓を薄く切り揃えても、全身を灰にしても生き返る。おまけに手足は無限に生えてくるときた。射程も実質無限、索敵も無限」
「でも、神への執着がある」
「そこだ、俺はいっそのこと神を探しだして人質にでもすればなんとかなると思ってるワケだが、どうだ?」
「どうでしょう、執念の強さがこの行動範囲や巨大な計画に現れている訳ですよね、現実的に考えて……ん?」
レノーは突然歩き始める。
「……そうした女性って、一般的にはどのような分類なんでしょう?」
「あれが女だって?」
「美しさを保つことは、並大抵の努力では欠かせません。アマデアは話によれば美しいと」
「お前頭おかしいのか?」
「美しさを保つ理由が不明なのです。神はいま行方不明のはずですよね?」
「……ははぁん、読めてきたぞ。つまり、神はあのアマの傍にいて、だからアマデアは美しさを保つ努力を怠っていない?」
「信仰の対象が自身の傍にいる。美しさを保つ理由はそこにあります」
「あのアマの近くに親父が……」
「親父?」
「言っただろ、天使は神によって作られるって」
「ちなみに母親は……」
「まぁいねぇわな。男手1つだ。なんだ、母親人質に取ろうってか?」
「はい」
「ハッキリとまぁ……お前中々ヤバイな」
「我々西陸の勝利は、アマデアの傍にいるとされる、神の奪取にあります」
「その前に、終わらせないといけないもんがあんだろう?」
「……この戦争を、どう終わらせるかですね」




