一話 カエルムの言葉
一話 カエルムの言葉
窓にかかる雨が飛び散るようにある。ユリウス邸宅の室内では、腹部に包帯を巻いた天使が分厚い本を読んでいる。
「……俺はカエルムのこと、カエルムの言葉に詳しい訳じゃねぇ。だが……お前らが解読したこの暗号は、確かにカエルムの言葉なのはたしかだ。できり限り詳細に翻訳する」
天使の前で、シャノンとヴァルヴァラが飲み物を飲む。兵士たちは部屋のあちこちに待機しており、武装は解かれていない。
「治療を条件に手を貸す……正気とは思えない条件だ。天使よ、いや、貴様の目的はなんなのだ?聞く限りでは、明らかに敵意があるワケだが」
天使は羽根を毛繕いするように撫でる。
「俺は、殴る蹴るだのの暴力が大好きだ」
「なおのこと信用ならん」
「まぁ、聞けよ……俺はなぁ、別に好き勝手生きていたいワケじゃねぇ。暴力は、論理として好きなんだよ。物事にはいつだって始まりがあって終わりがあるべきだ。喧嘩だって政治だって、問題を解決していかなくちゃならねぇ」
「それと暴力にはなんの相関があると?」
「俺は、あらゆる全ての問題解決に、必ず暴力が躍り出る。そういうところが好きなんだよ。ベストリアン差別だって、不倫問題だって、金の不祥事だって、近隣住民のいざこざだって、どっちが子供の名前付けるかだって、なんでもさ……殴りあって勝った方、殺しあって勝った方が問題の着地点の権利を得る。そこに知性の介入はない」
「より問題を複雑化させているだけじゃないか」
「だが決着がつく。お前はベストリアン差別が、この世界からなくなる方法を思い付いているか?……無いだろ?そう、知性を使うと、論理を念頭に置くほど、問題は基本的には解決から遠くなる。だが暴力による強制的な解決は、それ以上の被害者をなくすどころか、問題をなかったことにすら可能だ。暴力ってのは、確かに非倫理だがそれでも、知性の一歩先へ行く。だから俺は殴りまくった。殺しまくった。どんな戦争にだって介入して、どんな陣営だろうと勝たせてきた……ニンゲンが、まだ暴力に正統性なんていう邪魔なものを持ち出すまではな。そっからは俺は、暴力を使うようになったニンゲンがそこまで好きにはなれなかった。聖戦だのなんだのって信徒を駆り立てて戦場へ送り、自分は飯を食って女を抱いて……暴力は、思惑を持つ当人たちにより振るわれるべきであって、誰かに代替させるものじゃない。つまり、俺の暴力には美学がある。その範疇を越えた暴力は、一切お断りだ。アマデアは俺をコマにするために、暴力をあてがった。気付いてからはすぐ路線を変えてやったぜ……どうやら、ヴァーゴ・ピウスが伝えたかったことは……なるほど、じゃあ全部教えろってことだな」
天使は歴史書と、文章化されら暗号の冊子を閉じ、溜め息を1つ吐いた。
「……まぁ、アイツは一応俺の兄貴だってのもある。この暗号の文はな、俺の住んでるところ、カエルムっつうところで使われる言語だ。所々読めねぇが、それでもあらかたは把握できた。いいぜ教えてやるよ……俺たち天使の、計画の全て……【後天計画】の全容を」




