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ブルートアウス ~意思と表象としての神話の世界~  作者: 雅号丸
第三章 信人累々

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一話 特科礼装

第一話 特科礼装


「……んで、オルテンシアはまだなのか?」

「まだなんだよねこれが、おばちゃんここまで来るの結構大変だったんだよ?」

「ジャン=ポールはどうやってここまで」

「第三者の関与……クロッカスを出る前に、そういってたような?」

「オルテンシアに行かなきゃわからねぇがな……ほかの可能性だってある」

「君が追う必要はないよ、おばさんに任せてね」

クロッカスでの事件を終えてヴァルト、ノイ、フアンはカルメと共に各々が馬に跨がり、街道跡を移動していた。やはり吊るされた者達が、クロッカスへの道中と同様に目立つ。

「うちの国民は、いったいどうなりたいんだろうね……」

「古典派っていう奴らのことか?んなもんほっとけって思うんだが……」

フアンは道にある死体に角が映えているのを見る。体が小さかった。

「問題は彼らの子供ではないでしょうか?単純にその……巻き込まれているだけというか……」

「うん、まぁそこだよね。私達、えっと……まぁ何?守る側……うぅん何だろう」

「管理する側?」

「それはあまりに言い方が悪いかな。オルテンシアでは口に気を付けなきゃならない相手が、数える限り全身の指でも足りないんだ」

ヴァルトがため息をついた。

「髪の毛より少ないことを祈るよ」

ノイはカルメの肌を見る、色艶はしっかりある。西陸側によくいる、ヴァルト達同様の白い肌が、日に照らされ少し赤い。

カルメはノイを見る。

「おばさん、あんま老けてみえない?」

「こら、女性に年齢の話がはダメだよ?」

「いいじゃん私女だし!」

ヴァルトが首を横に振る。

「お前は筋肉だろ」

「うっさいなぁ!」

「ケリュネイアぶん殴ったの、たぶん史上でお前が初だぞ」

「なっ!」

カルメは笑う。

「あっはっはっは、いやどうだろう?以外とうちの子で、やってそうな子いるしなぁ……」

しばらく寒空を馬で走っていく。

「んで、オルテンシアに入るにあたって最も難関なのが」……フアンか」

「君、獣人なんでしょ?」

フアンが肯定した。フアンは考える。

(まぁ、じいさん曰くバックハウス家がなんとかしてくれるみたいだけど……)

ヴァルト達の行く先に、廃墟の乱立が見て取れる。

「あそこで少し休憩しようじゃないか、おばさんが見張っとくよ」

「……はぁ」

「どうしたんだい、ヴァルトくん?」

「いや、まぁな」

休憩の最中、秘密で話すように3人は輪になった。

「俺の能力こと、オルテンシアに入ったら調べられねぇ……」

「あ、確かに……危ないよね。なんかそういうのって」

「天使がどこと繋がりを持っているか……あり得るとすれば聖典教なわけで」

ノイが小声で話す。

「クロッカスから出る前に、結構実験したよね?」

ヴァルトは右手を出した。すると、雷が少しだけ手に沸き立った。すぐにそれは消える。

(あれから結構考えに考えたが……こりゃなんつうか、いや意味は分からねぇ。最初の出来事で俺は、雷を落とす魔法か何かだと思ってたら。だが実際俺ができたのは、俺が思った場所に、思ったことを顕現するような感じ。落ちろって思ったら雷が落ちて……爆発しろって思ってたから爆発したんだろうな……)

ヴァルトは思わず呟いた。

「肉体を代価とした事象そのものの創造……だが問題は、その代償だ。」

ヴァルトは手に、ほんの僅かに水を作り出した。

「いや手汗じゃねえぞ?」

「うん、さすがに分かってる……」

焦るノイを横に、フアンが話を聞いた。

「とりあえずクロッカスで分かったことは、最初の雷だけが力じゃねぇってことだ。雷も、この水も……だが代償の規模が分からねぇんだ。何が負荷になるのか……迂闊に発動させたら、俺はヒョロガリになっちまうかもしれねぇ」

「最初の発動で、何か分かりませんでしたか?これをやった後がすごく……なんでしょう、疲れたとか」

「いやぁ……どうにも、さすがにあの状況じゃな」

ノイが自分の胸を叩いた。

「何かあったら、私が担ぐよ」

「はぁ?」

ノイはヴァルトを見つめた。

ヴァルト達の会話に、カルメが入ろうとする。

「すまない、少し聞いておきたいんだ」

「どうかしましたか?」

「ハルトヴィンさんから色々と話は聞いた。でもだからこそ思う……なぜあの紳士は我々に口を開いたのか、君らという戦力を私に任せたのか、腑に落ちない」

「じじいにとっちゃ行動全部が、復讐みたいなもんさ。きっと、ナーセナルで育ったやつらがオルテンシアを救ったら、それはもう反逆者としては成功だろうよ」

「……なるほど、ある意味であの紳士の悲願成就であると?」

ヴァルトは思案する。

(テキトーにいなしとくか)「そうだ」

「……でも、であればおかしい。私はそれでも、願いであるとして言ったはずだ。願いを叶えること、それは相手を幸せにすること……それを見たとして、復讐の炎が鎮火するとは思えない。何より……君らの意志が、いや来てくれるのは本当に感謝しているのだが……」

「それで良い。これはいわば雇用契約だ」

「オルテンシアの情報とイェレミアスの情報……最新のものを提供し続けることが、君らの命を掛けるに値すると?おばさんとしては、もっと要求しても」

「んじゃ飯と鉄と銀くれ」

「それはオルテンシアも欲しいよ。ハーデンベルギアが奴らに占領されて以降……我々は徐々に鉱物資源の不足に悩まされている」

「奴ら……?」

「聖典教それ自体に反旗を翻した、亜人や獣人の集団……魔天教」

「物騒な名前だなオイ」

「抑圧の果ての、然るべきものだよ。ちなみにベストロが現れる前は、亜・獣解放戦線なんて大層な名前だったさ」

「時勢に合わせて呼び名を……頭領はひょっとして切れ者か?」

「……クロッカスで起きたことの、元凶かもしれないね」

「根拠は?」

「人を殺める根拠なんて、見渡せば転がっている程ある……すまないが、もはや生殺与奪に単一の理由なんてないよ」

「……茶化すな、ばばあ」

「いっきに伝えると頭が追い付かないだろう?ノイくんを見てみろ。頭から湯気が出そうになっている」

「はぁ?」

「これ以上話せば、彼女は再起不能になるだろう。よし、馬を進めよう。夕方にはオルテンシアに……」

フアンが唐突に振り返った。

「……何か来ます。オルテンシアの方面、蹄の音がします!」

ヴァルト達が戦闘体制に入った。音は徐々に迫り、蹄の他に鉄の擦れる音が聞こえ始めた。カルメがヴァルトに近寄る。

「蹄と鉄の音……アイツしかいないよね」

「まった絵付きかよ、いすぎだろオイ!」

崩壊寸前の焼け焦げた家を木っ端微塵に破壊して、その家以上の大きさを持つそれは現れた。斧槍を手にする大柄な獣人の上半身が、下半身といえる馬の四足に繋がる。四足にはやけに太い矢が刺さっており、やはり他のベストロ同様に赤く黒い。

「……ケンタウロス。ノイ、まず相手の武器を破壊するよう動きますよ!」

「ぶ、武器っ!?」

ヴァルト、ノイ、フアンは構えるが、カルメは構えていない。

「またです、蹄の音!」

「もう1体!?ねぇ本当に倒せるの!?」

カルメは耳を立てた。

「そのさらに音の後ろから、もう1つ蹄の音がしないかい?」

「……えぇ、します!」

「……あの子らに任せた方が良さげだね」

斧の部分での凪払いを皆で回避すると、倒壊しいまだ焼跡の舞う箇所から同等のケンタウロスが現れる。やけに血塗れであった。

「……おい、なんか弱ってねぇか?」

「邪魔になるよ」

「邪魔っておい」

飛び出してきたケンタウロスの後ろ足に突き刺さっていたやけに太い矢が炸裂した。脚を吹き飛ばされ行動できずに、しかし斧槍を地面に突き刺して減速し体勢を整えるケンタウロスがいた。

「叩けよ、さらば開かれん!!」

自信に溢れたそれが聞こえた瞬間、爆音と炎が舞い上がったと思うと、その金髪の男がケンタウロスの上に見えた。


挿絵(By みてみん)


それが携えた剣は、剣とはギリギリ言えない大きさをした、人1人以上の大きさを持った、くすんだ銀の大剣であり、刀身が半身、亀の甲羅のような模様が付いていた。そんなものを携えた男が、大層な鎧を着込んで、空中にいるのを、ヴァルトはみいっていた。

(……爆発で空を、飛んだのか!?)

気合いを入れるような雄叫びと共に、大剣を振りかぶって、斬るではなくなぜか甲羅の側面で殴った。途端にその剣が燃え上がり、爆発するように炎が燃え上がる。炸裂してケンタウロスの頭部が吹き飛ばされるように燃え上がり、その爆発と慣性でヴァルト達の元に煤だらけで着地した。

すると、もう1体のケンタウロスが斧槍を振り回して突撃してくる。

「やらせないぞ!!」

大剣で打ち上げるようにしてそれを弾いたと思うと、剣が光だし爆発した。ケンタウロスは爆風で斧槍が吹き飛んでいき、それを取りに行くように後退していく。ヴァルトはその剣を見ている。

「あれ、火薬塗ってんのか……!?」

金髪は振り返り、自信たっぷりの笑顔で白い歯をびっしりと見せる。肩に大剣を担いで、拍子に鎧の音が響いた。

「分かるかい少年……あぁいや、僕と同い年くらいかな!?もう大丈夫、我々保安課が来た!安心してくれ!」

顔を燃やしたケンタウロスが、生きていたのか突撃してくる。

ケンタウロスに崩された箇所からまた蹄が飛び出す、2体の馬に引かれた馬車は木材で構成された一般的な物であったが、乗っているのは特大の弩であった。誰かがそれを操縦しているのがヴァルトの視界に映った瞬間、光るやけに太い矢がケンタウロスに当たる。ケンタウロスは体勢を崩して転倒する。

「後ろを見ることだテランス、まぁいつも言ってることだが……」

フアンには、弩を操る者がそう言っているように聞こえた。

馬を操る者が、手綱を捨てて1頭に跨がると、馬と馬車を繋げる部品を動作1つで外し、駆けてきた。

「テランスさん、下がって!」

馬に乗った兵士は軽装で、背丈は小さめであった。武器は大きかった。太い長柄の先に丸いノコギリが装着されたようなものが取り付けられており、握りやすく取っ手が施されていた。ノコギリの装着から垂れた紐を引っ張ると、銃のように火打石が叩かれ、爆発。ノコギリが回転し始める。転倒したケンタウロスに騎乗で接近し、ノコギリをケンタウロスの下半身に当て、走り抜け、その方向から見れば真っ二つになったかのように削った。悶えるケンタウロスに対して、馬車から弩が放たれ絶命した。弩を操る者は、再装填をしているかに見えず、弩の側面の棒を自分に向かって引く。そうして弩から出るようにして矢が装填される。男の左手方にある手回しの装置で方向転換し、残るケンタウロスに命中……今度は爆発した。ふらつくところをヴァルトが近寄り鞘の引き金を引いて抜刀、脚を切り落とした。金髪がそれに続いて大剣を振りかざし、刃を押し当てて叩き切った。爆発はしない。

「君のそれ、凄いな!後でマルセルにも教えてやってくれないか!?」

金髪は急にヴァルトに接近し、肩を両手で掴んだ。

「えぁ?あぁえっと……とりあえずありがとな」

金髪はカルメと目が合う。

「すまない、小規模のデボンダーデがあって、討ちち漏らしたのが逃げてしまってな。勢いのままに追ってきてせいか……カルメおばさん!どうしてここに!?」

急にヴァルトから離れ、カルメに近寄る。

「良い子にしてたかい?しかしあの矢、まだ完全じゃないねぇ。爆発するときとしないときがあるってのも、なかなか面倒だね」

馬に跨がる兵士が降りた。この場にいる誰よりも身長が低い。


挿絵(By みてみん)


「申し訳ありません、改良をしてはみたのですが……やはり火種を内蔵させるのは難しいですね。突き刺さった時の運動を利用して内蔵の火打石で点火……では難しいです。それとテランスさん、カルメさんは任務だったんですよ」

「そんなマルセルに良い報告がある。イェレミアスからうちへ派兵さ。この3名は今日からうちの隊員、特科礼装はそれぞれもうあるよ」

「貴女の任務はイェレミアスまでの要人警護だったはず……そんな報告は受けていませんよ?」

「あれぇ、おかしいな。シラクさんから聞いてない?」

「我々の任務が急に増えたと同時に、貴女の不在で書類仕事が全てあの方に……数日はまともに会話ができていません」

「んじゃ、テキトーにこの人達が入れるように手配してくれるかい?」

「いえ、我々の独断で入れる訳には……」

カルメはその少年の前に行き、手を握った。

「な、何ですか!?」

「お願いだよマルセル、この任務が終わらないとおばさんも外で待機だよ。もう冬だよ?まだ先だけど、雪が降るかもなんだよ?お願い」

「わ、わ、分かりましたから、は、離して下さい!」

「何でそんなに顔赤くするのさ、おばさん別に、麗しの乙女でもないんだがね」

「とにかく、僕がなんとかします。そしてそのためには、皆さんの氏名が必要です。移動しながらで、自己紹介お願いします」

ヴァルト達は馬に跨がり、カルメの馬は馬車に繋がれて引かれ、一向はオルテンシアへ向かっていった。

カルメが馬車に乗っており、隊員を紹介していくのをヴァルト達人3人は馬に乗って聞いている。

「さっき私と話したのが、マルセル・モニエ。特科礼装は炸薬式回転ノコギリ。趣味は研究……部隊の頭脳派の1人」

「特科礼装ってのはなんだ?」

マルセルはヴァルトを睨み付ける。

「特科礼装を御存じない……本当にイェレミアスから来たのですか?」

フアンが喋り始めた。

「すみません。訓練ばかりしていましたので少々忘れていることがあるんです……例えば、研究に没頭するあまり他のことを忘れていたみたいなことってありませんか?」

「……あぁ、確かに。そういうことでしたか、申し訳ありません」

「ははっ、警戒が強いのは良いことですよ」

カルメが話し始める。

「えっとそれでね?特科礼装っていうのは、見た目で科学を感じられるような、爆破だったり動力で動いたりでベストロを倒していく、行動隊の基本武装だよ。忘れてただろうから覚えておいてね」

マルセルが自信ありげに語りだす。

「保安課の役割は、ベストロからのオルテンシア防衛だけではありません。国民に蔓延る、科学に対する嫌悪感を打ち消すことも任務なのです。宗教的に今までアドリエンヌは科学を否定し避けてきました。でも今は目下の敵であるベストロに対抗しなければなりません。大砲、小銃、交通、建設……どれも50年前のミルワードに届かない技術力にまでなりました。国交も50年前から国力に余裕がなく断絶。色々と手詰まりになった中、国民が教えによって死ぬのはおかしいとして科学を肯定し始め、今の保安課とこれら特科礼装は存在します」

「保安課っつうのもその特科礼装っつうのも、なんかおかしくねぇか?国軍とかはねぇのかよ」

「上層の中にも教えで死ぬことを善しとする者もいました。それらに目を付けられないように、軍事関係の武装が許される、当時のアドリエンヌ軍部最下層であった保安課を軸に改革されていきました」

「色々と抜け穴で問題を解決していった結果が保安課か、じゃあ特科礼装ってのも?」

「書類上提出する際の正式名ですね。元は儀式用の礼装として提出していましたから、その名残です。僕らはもっぱら武器だったり変形武器って呼んでます。小説じゃないんですから誰も剣のことを、短剣や大剣、直剣や曲剣と、いちいち分けて呼ぶ人はいないでしょう?」

「まぁそうだな。よろしくなマルセル」

カルメが話し始めた。

「で、弩をケンタウロスに打ち込んでいたのが……」

その男が金髪に怒り始めた。

「テランス、先走るのは良くないと前から言っているだろう?」


挿絵(By みてみん)


「いいじゃないか兄さん、急いだ方が良いって思ったんだ!」

「だが、お前は火薬を使いすぎた。お前のそれは専用の火薬で、高い値段を有する。資金を捻出するのに、どれだけシラク様の睡眠時間が削られているか分かっているのか?」

「分かってるさ、だから全力で戦うんじゃないか!」

カルメが溜め息をついた。

「弩を撃ったのは、フェリクス・グランデ。いつもは私と上司で書類を担当しているが、射撃の腕は確かさ。一応国の最高司令官ではあるが、こうやって前線に出張って弟の援護をしてる。んで騒がしいのが……」

怒られていたはずが馬車からヴァルト達の方向へ乗り出してきた。馬車が揺れる。

「僕はテランス!テランス・ジュルジュ・グランデ!ベストロは任せろ!それ以外は任せた!」

フェリクスという者らしき人物が、それを馬車に戻した。

「うちの弟が申し訳ない。いつもやけに元気でな、疲れると思うがどうかよろしく頼む。私はフェリクス。弟には何も聞かなくて良い。これの主な食糧は根性だ」

その弟らしき金髪がフェリクスに声を当てる。

「なんでそうなるんだい兄さん!僕は一応ジョルジュだぞ!」

「その名誉が穢れるだろう、キサマはもう言葉を発する必要はない」

睨み付けるようにはね除けるフェリクスであった。

ノイがフアンに近寄った。

「ねぇ、ジョルジュって何?あぁえと、なんだっけ」

「ョルジュとはアドリエンヌにおける、最強の兵士に贈られる役職です。元は、奈落にベストロを追いやった英雄の名前だったそうで。まぁ国ぐるみでの験担ぎですね、やることは他の兵士と一緒です」

ヴァルト達の進む先に、防壁が見えてくる。これまでの石材ではなく、鉄が露骨に張り巡らされていた。

「なんか、怖ぇな」

マルセルが反応した。

「元々あった石材の古い防壁を基盤として、急拵えで50年に製造されたものです。鉄細工から何までとにかく張り合わせたもので、当時の民衆の心境そのものを感じさせます」

フアンが反応した。

「慌てていた、ということですね?」

「……」

「マルセル、さん?」

「貴方が人間であると、保証されていない。僕は貴方とは……話したくはないです」

「……そうですか」

「亜人や獣人は昔、人に変装するために、耳や尾を削ぎおとしたり、被り物をして人に紛れることもあったと聞いています」

「確かに格好は怪しいですね。いくら書類上通っていても、君に信頼が選られていないのは確か……」

「イェレミアスは不誠実な人間もおおいですから。ですが人であったなら……申し訳ない。知っての通りオルテンシアでは慢性的にべストリアンが出没しているため、警戒しているんです」

「……肌があれば見せられるのですが、申し訳ない」

フアンは馬で近寄り、馬車に乗った。

フアンは袖をまくり、異臭を放った。焦げたようにも腐ったようにも嗅げる、そして見える。

「これは……!?」

「風に当たるだけで痛いのでこれで……」

フアンは袖をめくるのをやめる。

「僕がこの分厚い服を来ているのは、原因不明の皮膚病なんです。腐って腐って、そしてしっかり痛いんです。亜人だ獣人だと言われながらもこれを着るのは、まともに生きるにはこれしかないというだけのこと……人ではないだろうと疑いの目をかけられてきました。ですが鏡で見た自分なんて見たくありません。自分ですら愛せない自分を誰が愛しますか?僕は人であるには、人の為に戦うしかないい……信じてください」

マルセルがテランスに顔を殴られた。テランスの顔には涙は溢れている。

「こんな良い人にそんなヒドイ、やめろぉおお!この覚悟を、この生き様をぉ、何でそんなこと言うんだぁぁ!!ううあぁぁあ!」

泣きっ面は更に、拳をこめかみに埋めて抉る。

「いえ、まさかここまでとは……痛っいたたたた」

「あやまれぇ、あやまれぇ!」

「ご、ごめんなさい」

「彼と、彼らにだぁ!」

「いったんやめてくださ、いたたた」


―半日前―

、ヴァルトとノイとフアンはレノーとハルトヴィンと一緒に、パメラの家で会議をしていた。

「フアン……お主はかなり入るのが面倒じゃ。書類に関してはこっちでなんとかしよう。じゃが問題はとにかく出会った奴に信頼を得られなければならぬ」

レノーが手を上げた。

「……では、彼に新たな人生を与えましょう。僕が物語を書きますので、その通りに人格を考えて下さい。ですが……この物語に説得力を持たせなければ……」

「どんなのだ、教えろ」

「病気が目に見える……皮膚病、これだ。焼け爛れたような感じの皮膚を、再現できますか?表面上だけせ良いです」

「うっし、ちょっと待ってろ」

ヴァルトは酒場から様々な材料を持ち帰り、パメラの家で何かを作り始める。ノイが近寄ってみた。

「……くっさ、何これ」

「生き物の腐りかけの肉、酒場から持ってきた。グチャっとしてこれに……っしょ」

ヴァルトは剣を抜いて、鞘を持ち上下に降った。黒い煤を振りかけもみ込んでいく。

「うわぁ」

「まぁ爛れたとか言われたらこうだよなぁ……」

「ヴァルトが何か作るときって、だいたいその辺りにあるものが多いよね。作ってるっていうよりか、こう……」

「まぁ組み合わせっってのが多いかな。バックハウス家に納品した浄水装置とか、木の棒とデカイ葉っぱか平ら石があればほぼかんせいできるし。これがあったら作れるよなぁっていうのは、なんつうか意味ないだろ」

「……?」

「身の回りにあるものでなら、形に持っていけるだろ?」

「……つくれるってこと?」

「品がなきゃ意味がねぇからな、設計しても使いたい誰かがいても、物がなきゃ意味はない。素材はできるだけ安く……作りも簡単に」

「そんなこと、考えてたんだ」

「まぁ武器はだいぶ凝ったけどな。素材使いまくって良いって話だったしよ」

「ヴァルトって……その、凄いんだね」

ヴァルトの手が止まった。

「……守ってくれて、ありがと」

2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。

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