十九話 突撃分隊
十九話 突撃分隊
リボルバーを携えた老人が、ヴァルトの前にある真っ白な設計図を見る。ヴァルトはそこ図面の一点を見つめながら、目をみひらいて静止している。
「おい、助言が必要だって言われてみてみたらなんだよ、ちっとも進んでねぇじゃねぇか」
「いや、ほぼ完成してる」
「あぁそっか……おまえ、マジで設計図いらねぇんだってな」
「紙ってのは高ぇんだ。おいそれと書き直すこともできやしねぇ。こっちの方が早いんだよ」
「で、何に困ってるって?」
「いま作ってるのは、装備重量ど返しの、とにかく撃ちまくれる機関銃だ。何が問題点だと思う?」
「なるほど?俺の知識が試されるってワケだ」
「どうなんだ?」
「まず、撃ちまくるにあたって必要なのは、どうやって銃身を冷却するかだ。分かってると思うが、銃は撃つと熱が内部にこもる。それをどうにかしねぇとブッ壊れる、とりわけ熱が集まる銃身がだ」
「貯水槽いたいなので被ったらなんとかなんだろ」
「水冷式か」
「なんだ既出かよ、ミルワードってすげぇな」
「……で、銃を撃つと銃口から出る炸薬の火、発射炎、あるいはマズルフラッシュっつうのがあるんだが、コイツが視界を覆っちまってサイトごしじゃあ何も見えなくなる、どうにかしねぇといけぇね」
「拳だいの傘みてねぇな部品を内蔵させる予定だ」
「フラッシュハイダーか、悪くない。前方に炎を集約させる感じなら尚よしだな」
「また既出かよ」
「お前がヤベェって話なんだがな……つか、お前のそれはキチンと撃てる銃なんだろうな?」
「あぁ、連射に必要なのは反動をピストンでもなんでも使ってボルトを後退させて再装填に利用しやいい、それを引き金を引き続ける限り動くよう工夫すりゃいい。簡単だな」
「簡単じゃねぇよ……」
「銃身は勿論ライフリングありだ。想定される敵を考慮すると大口径で軽量な弾丸がいいが、いかんせん今使える弾丸は、ギムレー反乱軍の鹵獲品、小銃の弾丸しかねぇ」
「なんだよ、拳銃弾で対応しようってか?」
「装弾数を増やして、再装填の隙を減らしたいんだよ。持ってく物資も最小限だ、いかんせん時間がねぇ、あと1時間で作らねぇと」
「ライフル弾の方向が火薬の量が多い。それはつまりリコイルをスプリングがより受けやすい、銃が持つ再装填のサイクルが円滑にできるってことよ。拳銃弾があったとしても、大人しくライフル弾にしとけ。あと機構を覆う鉄板、レシーバーカバーはできれば薄くしとけ、軽量化になる」
「いや、ノイが持つから気にするな。あとそれ薄くしたら射撃中に誤作動起こすだろ絶対」
「度返しってそういう話だったのか……」
「あと必要なのは?」
「例えばピストルグリップ、リボルバーみたいに銃を握れるようにしろってことだ。あと、装弾数気にしてるってことはマガジンにしようと考えてるみてぇだな。ミルワードにはベルト給弾っつうのもある。弾丸をベルト、帯状に繋げて一本のマガジンにするってことだ」
「いや、動きの邪魔になるだろそれ」
「無論だな、戦い方はどんな感じなんだ」
「持って撃つ」
「じゃあマガジンがいいな」
「ベルトごと巻いて弾倉に入れるってにはどうだ?」
「ドラムマガジンか、ゼナイドが握ってた銃もそうだったな」
「ピストルグリップなら、銃床も必要になるか?」
「ストックは木にしとけ、鉄なんかで作ったら熱が伝わって構えられないぞ。あとそうだな……バイポッドって分かるか?」
「狙撃銃に付けるあれか」
「あれも付けとけ、役に立つ」
「あれ使いにくい印象があんだよな」
「底面をスパイクにしたらどうだ?」
「採用」
「まぁ概ねこれでいいだろう、あと一回まず設計図にしろ、誰も助言できやしねぇ」
「……わぁったよ」
「それ専用銃か」
「実質な」
「じゃあストックの形状は嬢ちゃんの肩に合わせとけ」
「……うっし、じゃあ作るか」
「おいおい、ちゃんと嬢ちゃんのを計ってだなぁ」
「……体格なら覚えてる」
「お前、色々とすげぇな」
「MG01水冷式突撃用二脚付重機関銃」
「長くねぇか?その副題みてぇなのいらねぇだろ」
「……MG01」
「おぉ、っぽくなったな」
「俺、名前付けるの下手なんだな……」
「は??」
―オルテンシア、南門―
防壁の内側、壁面ほぼ全ては黒いように赤く染まっていた。こびりついた脳と骨の欠片は、ちょうど人の高さで全て揃っていた、やけに低い血痕もあった。
なぎ倒され、引きちぎられ、引きずり出された臓物。五体が満足のヒトの死体はあまりない。区別なく、全てそうだった。痩せ細ったベストリアンは爪や牙を尖らせ、切り詰められた小銃を片手に、ヒトを防壁に突き飛ばした。
防壁に背を向け、一歩一歩上がっていくニンゲン。四肢につまずいて転ぶと、ベストリアンは勢揃いで嘲笑った。震えて、泣いて立ち上がるニンゲン。何も言葉を発することはなく、呼吸をただ荒くしていき、向けられた銃口を見つめていた。そんな光景は、防壁の全面で引き起こっている。
南門で、そうして付き出された一人のニンゲンが、空を見つめる。
「……返って、きたんだな。私は何ひとつ、ベストロとも、ニンゲンとも、関わらず生活してきた」
ベストリアンの一人が銃を放つ。頭部をこするように外れた。
「……ちっ、なんで当たらねぇんだよ」
「……誰が始めたんだろうな、こんなこと。俺は、アンタらと俺らがそんなに差があるとは思えない。いや、それは外見上のことじゃない。より内側、本質」
銃が放たれる。肩に当たる。間接を破壊して貫通し、防壁にまた新しい弾痕を作る。
「……こんな痛いこと、誰が率先してやれって。きっと、なにか苦しみみたいなのとは遠いヤツが考えたんだろうな。誰だろう、いや、誰でもないのかもしれない。結局、何かと何かを比べて初めて、モノの価値を測ることができるんだ。そう考えりゃ、互いを嫌い合うのも合理だ」
一人のベストリアンが、撃たれたヒトの前に走り込んで、盾になるように腕を開く。
「あんた……?」
ベストリアンは、他のベストリアンを震えながら見る。
「なんだ、おい!!」
「……おかしいって、おかしいって!あぁいや……わわ、分からないワケじゃない!でも、ででも、やっぱさ!俺だって苦しかった、ずっと暗い空と赤い空気、ずっと辛かった!でも、なんだろう、こうやってじゅ、銃だっけ、与えられてた、解放されてさ、始めにやることこれかよって!俺、こんなこと自分の子供には話せない!いや、居ないけどさ!?その……その……!」
銃が放たれる。脚を貫いた、腕を貫いた、喉を貫いた。溺れるような音を立てて、ベストリアンは倒れる。
「ヒトに味方すんなら、てめぇもヒトだ!!このクソが、恥さらし、ゲス野郎が!今さら負け組に迎合なんて、なぁんてアホらしい。俺たちはなぁ、いま勝ってんだよ!!」
ヒトが笑った。
(蓋をして見ないできた、あるべき未来の形はここにある……知恵を扱いきれず、言葉を扱いきれず、自分をわかっていない。あぁ……なんて……なんでこんなにオレタチは……頭悪いんだろうなぁ)
ヒトに怒りを覚え銃口を向けたベストリアンの眼前で、大きなその南門が爆炎に包まれる。視界の外側が明るくなったヒトの前が、一際大きな鉄塊で染まる。
その鉄塊は振り向いて、まるで視線が合ったかと思うと、そのボルトを後退させて弾丸をレシーバーに装填する。
ピストルグリップをしっかり右手で握ったそれは、腰だめで、脇に銃床を挟んで、筒に備わった持ち手を左手に銃口をベストリアンに向けた。
背負った巨大な盾は分厚く、装備した鎧も極めて厚い。鎧はその銃口を右向きに向けると、銃声を無尽蔵に轟かせながら、凪払うように機関銃を撃ち放った。
銃身から湯気が出るようになりながら、恐れ震えて倒れるベストリアンなどを、なに1つ容赦せず、その身体は切られ落ちるようにして死んでいく。
腕や脚は吹き飛び、頭は弾け、臓物はダダ流れる。応戦して射撃する弾丸は鎧で軽く弾かれる。囲われているにも関わらず、何十と撃ち込まれても、立ち姿はまるで崩れないでいる鎧に、ベストリアンは逃げ惑い、南門から敵は撤退していった。
弾丸が放たれることがなくなり、チャンバーを覗き込むと、ボルトを後退させる。
ドラムマガジンを抜き取ると、背中の盾の内側から新しいのを取り出して装填、弾帯を中から引っ張って、ボルトを再び後退させる。発煙筒により南門が煙幕に包まれると、ヒトは肩を掴まれ、肩を圧迫される。
「おいお前、大丈夫か!」
「……えぇ、あぁ?」
「いいか、しっかり押さえておけよ、今すぐ治療はできねぇ。悪い」
その白髪の少年は大砲を携帯していた。続々とたった二人が後ろから合流する。
「爆薬ほとんどを使いましたよ、いけますか?」
「問題ねぇ、戦闘はほぼノイに頼んである。オブレツだったか何だか、火薬の装薬量から貫通しない鎧を計算して、そこからさらに分厚さと丸さで耐久性を持たせた。リンデが狙撃でノイを援護する。前衛は俺ら二人だけだ、気合い入れろ」
リンデは狙撃銃を構え、走り出した。
「斥候、行ってくるわ!!」




