十五話 奪還戦
十五話 奪還戦
ナーセナルから東側に、森を抜ける騎馬隊に、青い髪の少女がいた。それはリンデの隣で、小銃を視界にちらつかせる、少女の持つ滑車の付いた弓を、リンデが見ていた。
「それ、滑車で威力上げてるのよね?」
「うん、威力もそうだけど、引っ張りやすいですよ」
「私の銃、実は結構使い込んでてね?先端の部品、サプレッサーって言うんだけど……あまり今、調子が良くないの。銃声を小さくする部品なんだけど……つまりね?」
「私の弓、実は重要だったり?」
「そう、だからごめんね?その……伝令役とか関係無しに、頼っちゃっていいかな?」
「守るためには、何もためらっちゃいけませんから……分かりました」
ハンナは弓を強く握った。ドルニエが指揮を取る。
「事前に話しておきたいことがある。軍隊における基本、相手が素人の場合、損耗率を2から3割合にすれば相手は散り散りになる。指揮系統が生きていてもだ。相手の数によるかもだが、1ヶ所に集めてドカンもありだし、一人ひとり仕留めるのもありだ。俺とハンナで狙撃を担当する。リンデとノイは近距離で待機、狙撃の完了はハンナで伝令する。その銃はハンナに渡せ、狙撃に使う」
リンデは銃を渡す。ハンナは、リンデの手入れを少し見ていた影響か、比較的滑らかに動作を確認する。
「どう、使えそう?」
「はい、兄さんの道具よりは複雑じゃないです」
「ははっ、言っとくわ。でも気を付けてね、連射するとサプレッサーは熱を持つし、何よりもうほぼ耐久力が尽きてる。あと1マガジン、5発ってところかしら」
極めて短くボルトを後退させて、給弾ができていることを確認する。
「分かりました、5発ですね」
しばらくして、ドルニエの指示で騎馬隊は森に馬を止めた。ドルニエとハンナ、ノイとリンデに分かれ、腰を低くして走る。ドルニエはリンデから預かった双眼鏡を手にハンナを見る。
「俺にガキがいたらお前くらいかもなぁ」
「……奥さんは?」
「ふつうに生きてるよ」
「良かったです」
「腕は確かなんだな?兵士として扱うぞ」
「大丈夫です」
ハンナは半腰で矢をつがえておくと、脇にそれを置いて狙撃銃を構えた。ドルニエが双眼鏡を構えると、その集落は顕在ではあった。切り詰めた小銃を持った亜人・獣人が徘徊し、中には兵装をした者も含まれる。
(略奪とかは……されてないみたいだな。じゃあさっきのはやっぱ……そうか、数が多くて追い出されたんだな?管理できない、そりゃつまり兵隊の母数に対して指揮官が足りない……確か5発っつってたか嬢ちゃんは、丁度良いな)
ハンナはドルニエの肩を叩く。
「どうですか?」
「……1ヶ所に敵を集めて叩きたいところだ。手持ちの爆薬はリンデたちに渡してあるが、どういけば良いやら。まずは指揮官の排除だ。俺が場所と、射撃の瞬間を指示する。肩付け・頬付け、しっかりな。しっかしこっからだと狙撃はやりにくいなぁ、射角があまり取れない……」
ハンナは狙撃銃を取ると、伏せて構える。
「……相手が出てくるまで、待ってみましょうか」
「いや、それはリンデとノイも待機させることになる。いっそのこと」
「じゃあ?」
「……どうしたもんか」
森から鳥の群れが飛び立つ。集落のなかで、銃声が一発響いた。ドルニエの双眼鏡には何も映らない。
「くっそ、なかで何か起きたみてぇだ」
「……そうだ、監視塔」
「なんだそりゃ」
「ここからギリギリ見えるんですけど、あの古びた塔は分かりますか?」
「なるほどそこを取って狙撃か、いい案だ嬢ちゃん。先行してるリンデたちに伝えよう。戦闘開始の挨拶は……爆薬でドカンだ」
クロッカス、酒場と称されている配給所、その内部。幾人かの亜人・獣人は椅子にがめつく座っているが、一人の亜人が立ち上がるとフラフラを歩き、その切り詰めた小銃からは煙が上がっていた。球凰の装飾のある黒い装束の者は脚部から血を垂れ流し、橙色の犬の亜人が、出血箇所を圧迫し、止血をしながら庇っていた。
「なっ、なんで撃ったの……!?」
「……てめぇ、結局どっちなんだ?」
「どっちも何もないじゃない!!貴方たちに抵抗しない、貴方たちは危害を加えない、そういう約束でしょ!!」
亜人は側の椅子を蹴り飛ばす。
「力を持ってるやつが、秩序を作る。俺たちが散々食わされてきたことじゃえぇか、なんでお前が分かってねぇ?」
「分かってないのは貴方でしょう!!」
「そこの黒いの……ヒトか、俺たちと同じか……どっちなんだって話だ。俺たちは、オルテンシアでたっぷりとニンゲンを殺してからここへ来たんだ。あんまなめんなよ?」
黒い装束の女は、息が荒かった。
「……はい、えっと……獣人」
「嘘つけぇぇ!!この匂い、この感じ、毛なんてねぇ、ヒトじゃねぇか!!」
「ですから私は……」
「俺はなぁ、ずっとあの、思い出したくもない暗いところで生きてたんだ。暗いならやれることなんて何一つない、腐った肉を食わされる日々……やっと与えられた、もう奇跡としか言い様のない、この状況!!1人でも多く殺したくって仕方がない!!……でも、止められた。俺たちを救ったやつは、殺す数を決めやがった。秩序のためだと、そう言った。待て待て待て!!俺たちが殺されてきた、惨劇のこの歴史に秩序なんて一個もなかっただろう!?誰がベストリアンを殺すことをためらった!?誰が秩序だのなんだの言ってた!?いいやいないねぇ、殺された数をがそれを物語ってんだろうが!!あんまり俺らを不快にすんじゃねぇぞクソアマどもが!!!二度と調子こくなよ、次やったら全員まとめて犯してやっからなぁ!!!」
橙色の亜人は、怒りで喉を震えさせ、威嚇するように鳴らした。
「……なんだぁ、てめぇ」
「男って……いつもそう。何にも考えてない。いつだって、自分が愉しく生きるためだけ、誰のことなんて考えてなくて、どこまでも汚らわしくて……!!」
黒い装束の者が、前身を起き上がらせる。
「待って、メロディ!!」
「私、あんたみたいな男大嫌いなのよ!!何が暗いところで生きてきたよ!!だから何よ!!結局全部与えられただけで、貴方たちじゃ何もできていないじゃない!!どこから来たとか、もう知ったことじゃないわ!!貴方はただ、自分に与えられた自由と、その銃の力に溺れてるだけよ!!
与えられない苦しみなんて痛いくらい知ってるけど、与えられたからって、それにかまけて、調子乗って、自分に見合わない行動・言動をとってる。アンタ自身、どうせ自分に自信のない空っぽな男なんでしょ!?だから暴力に訴えるしかなくなる。それ以外の発想ができない、惨めな男だからよ!!誰があんなこと二度も……その股ぐら引っ裂いてやろうじゃない!!!!!」
メロディはその亜人に飛びかかると、その鋭い爪で股間部を引き裂き、倒れ込んだところの耳に食らい付いて引き裂いて、盾にするようにした。切り詰めた小銃はメロディの手に渡り、場にいた敵に見えるもの全て向ける。メロディが過呼吸になっているのに、黒い装束の者は気付いた。
「落ち着いて、メロディちゃん!!」
切り詰めた小銃を持つ者全てが、引き金に指をかけた瞬間。酒場の両開きの扉が開けられ、小銃を構えた、狼の獣人が入ってきた。
「全員、銃を下ろせ!!」
その者は村人というよりも兵隊であり、青い腕章を着けている。切り詰められた小銃を各員が下ろすなか、その者も銃を下げ、メロディに近寄った。
「近寄らないで!!」
「その方以外で、負傷者は!?」
メロディの瞳から涙が溢れていた、身体は震えている。
「……申し訳、ありません」
メロディが抱えた亜人を蹴り飛ばすと、黒い装束の者に駆け寄り、治療を再開した。
「パメラ、大丈夫!?」
「……痛い、かな?」
「そりゃそうよ、弾は……」
「……たぶん身体のなかかな」
「そんな……!!」
メロディはパメラを抱える。
「手伝います!」
狼の獣人が小銃を下げて、それを手伝おうとする。その手は跳ね返された。
「……余所者はもう信じない。アンタもバズレールと一緒……関わらないで」
酒場の二階へ運んでいこうその瞬間、別の兵隊が酒場へ入る。
「随分お前は、肩入れするんだなぁ」
「アンタ、外の見張りは!頼んだだろう!」
「大丈夫、こっちの亜人・獣人は血に気が多い」
「アンタなぁ……」
「……お前、なんでここの奴らに肩入れすんだよ」
「それは……」
「お前、こっちだとリカルドって名前で動いてたんだろ?お前の任務は何だっけ?」
「……タキシム作戦、今回の大規模強襲作戦における、アドリエンヌ側からイェレミアス帝国までの中間地点に、兵站になり得る村落跡や地形を発見し報告すること」
「報告で帰還もしねぇで、どこで野垂れ死んだと思ったら、こんな集落見つけておまけに現地のニンゲンどもとも仲良くやってて、よくそんな苦行に耐えたもんだ。下手に怪しまれないよう帰還を延期してたのは立派だが、お前はここを随分気に入った様子だな。なんだ、惚れたメスでもいたか?」
「……そんなじゃないです」
「なら?」
「……国家への、忠誠心です」
「宜しい、君は本国ギムレーへ帰還次第、流血沙汰無しで部隊をこの集落に通した功績を称え、勲章や報奨が需要されるだろう。今後も励みやたまえよ」
その兵士は、持っているタバコに、燐寸で火をつける。窓際に立って、煙を吹かした。そして、倒れた。脳や血を垂れ流して倒れた。脳から生えるような、羽根の付いた木の棒。矢じりは深々と刺さっていた。燐寸の火が血で鎮火される。建物にいる者は全員が頭を伏せた。
―クロッカス中心部、ポワティエ邸監視塔―
小柄な身体を武器に草茂を活用し、物陰から矢で敵を仕留めていく。ドルニエの指示を徹底して守りながら隠密で行動を開始し、防壁を登り、そのまま重要拠点であるポワティエ邸へ潜入した。
ハンナは2発の銃弾と何発もの矢を使い、できる限り少なく敵を葬り、ドルニエとハンナは監視塔に潜入する。
最下部にある弾薬の倉庫を発見、ドルニエはそこから柄付きの手榴弾を鹵獲した状態で、最上部の敵1人を、足元のおぼつかない、穴空きな足場の隙間を縫って頭部を撃ち抜く。
倒れ込むのをドルニエが掴み、音を立てずに監視塔を制圧した。ドルニエは双眼鏡で全体を確認すると、兵士装の者が1人、2人と酒場らしき場所に入っていくのが見えた。
「なんか分からねぇけど、今だな。ハンナ、窓辺に出てくるのを待て、狙撃銃で……」
ハンナは矢をつがえていた。
「これくらい、矢でいけます」
「マジかよ……」
ドルニエの双眼鏡に、窓際にいる兵装の者を発見する。
「見えるか、いまタバコ吸ってるやつだ」
「……確認」
「裸眼でか……撃て」
ハンナの放った矢は、窓際に立つ兵士に命中し、出血で倒れるのをドルニエは見る。
「次、左前方」
「はい」
「次、酒場右側の陰、頭が出てる」
「はい」
「……あとは好きに撃て」
「はい」
四発の矢を放ち、最後の一本以外は全て敵に命中した。脚部や腕に命中した者もいたが、ほとんどが首か頭であった。当てられた矢の向きから、敵の亜人・獣人は方角を定めると、監視塔に目掛けて切り詰めた小銃を射撃する。一点集中での射撃に、監視塔から顔を出せないでいる二人に足音が聞こえ始めた。
「これ、下にもういます!」
「丁度いい、戦闘開始だ!」
ドルニエは鹵獲していた柄付き手榴弾を下層へ投擲。木材の梯子のような階段を転げ落ち、下の弾薬が積まれた場所で爆発。監視塔が崩れていく、その側面を滑るようにしてドルニエは、ハンナを抱えて隣の建物の屋根へ飛び込んだ。
「ハンナ、ここから伏せたまま狙撃をしろ。サプレッサーは外して、音いっぱいに撃ち続けるんだ!!」
ハンナは狙撃銃、ドルニエは機構の取り付いた小銃を構え、向かってくる敵に射撃を開始した。
「敵の銃は精度がゴミだ、気弱ずに撃て!!」
相手の銃は空や森に飛んでいくばかり、ハンナたちの射撃により、敵の数をは徐々に減っていく。しかし数により相手の戦線が上がってくる。ドルニエは装填すると、射撃を中断した。ハンナも射撃を中断する。
「撤退ですか?」
「違う、やられフリだよ。敵はド素人だ、こうすりゃ相手のさんは死んだって思って、勝手に前に出てくれる。そこを……」
集落の家の一軒から、射撃が敢行される。また小さめの砲弾が相手陣営のど真ん中に届き爆発した。
「リンデたちが強襲できる!今だ、射撃を続行する!!」
リンデとノイは建物を一軒制圧したのち、ドルニエに合わせるために待機していた。射撃により戦線は完全に崩壊し、死者数が増えていく。すると、敵が散り散りになって分散し、逃げていく。それを見た他の敵も、合わせるように逃げていった。リンデが一軒一軒、銃口を向けていく。
「……いなく、なった?」
ノイが大砲を担いでリンデに近寄る。
「あれじゃない?ほら、3割って」
「そっか、相手軍隊じゃないから、統率なんて取れないんだ……ミルワードのときみたいなの想像してたけど……」
「とりあえず、さっき鉄砲の音したとこ行こ?誰か撃たれてるんじゃないかな……」
「そうね」




