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ブルートアウス ~意思と表象としての神話の世界~  作者: 雅号丸
第7章 世々後天

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十四話 包囲

十四話 包囲


ノイとリンデは、一部のナハトイェーガーの兵士を連れてイェレミアスから南下していった。馬にまたがり走る戦列。吊るされ、棄てられたベストリアンの死体が本人のみを残していた。ナハトイェーガーの兵士は、坂瓶を持ち馬に乗っている。


「……こういうの、全部残ってるもんなんだな。ベストロとかが食っちまってると思ったんだが」


ノイが先頭から声をかけた。


「ナーセナルの近くにはないよ。みんなで解体したの」

「……結構数があるんだがな。無名の平原、無名の木、そうしたなんてことない普通の背景にすら、こうやって差別・圧政・恐慌の歴史が刻まれている。私はヒトこそ殺したこちはあるが、あの感触はひどく恐ろしい。それを、一般の人間がこうも多量にやれるというのは、もはや人間がそうした暴力装置のみに見えても不思議じゃないな。なぁ、ゼナイドはこういうのを見て、俺たちを見捨てたって線はないか?」

「ごめん、途中から何言ってるのかわかんない。あと、お酒やめてよね、今から戦うかもしれないのに」

「気にするな、俺は強い。それに水よりは安全だ」

「それは……そうだけど」

「体調は万全に、嫁にもよく言われてる」

「……一緒になって、その……どうなの?」

「はぁんなるほど、嬢ちゃんはいったい、誰と一緒になりたいんだい?」

「なっ!!」


リンデは二人の速度が落ちていることを注意する。銃声が届き、前方に煙が見え始め、ドルニエは酒を片付けると、革製の肩掛けで携えた小銃を構える。


給弾口と銃身を一本の配管で繋いだような機構が取り付けられていた。比較的握りやすい取っ手も切り詰めた配管で構成されており、ドルニエはそこを握り引き金に指を添える。


「WellHon小銃半自動化改修装置。弾倉20……20連射ってすげぇよな。先込め式をこの前まで使ってた俺らからしてみれば、コイツはまさに未来の兵器だ。ウーフーが使ったらどうなってたか」


リンデは狙撃銃を構え、曇りがないことを確認した。


「1から作るより楽だし、製造も改修にかかる工程も少ないから、無作為性の原則で性能が低下する可能性も避けられる。1から作ることを前提としないのは、やっぱ凄いとしか言いようがないわね」


ノイは、背中に担いだ大砲を構えた。


3人は煙の元に向かい森に入る。少し登って下りに入る。窪地の中央、ナーセナルは目の前。次第に血の匂いと共に、手製の街道を通る。街道を通って森を抜けた小さな平原に向かってあるは、大量の罠にかかった亜人・獣人の姿だった。踏んだ拍子に地面へ落ち、木の槍に貫かれる。また自重で起き上がる槍の束に腹をくり貫かれてもいる。


「ノイ、これって……」

「ベストロ用の罠だけど……結構引っ掛かっていたいだね」


引っ掛かった者たちの手には、切り詰められた小銃が握られていた。時たま矢で貫かれている者もいる。3人は馬を降りて罠を回避しながら前方に向かう。すると、様々な端材を組み合わせて作られたような防壁が見えてくる。


火事の火元はその一部にあり、上部から弓で亜人・獣人を殺している。入り口の大扉前にはクマやウシの亜人・獣人の死体がいくらか積まれていた。ドルニエは小銃を構えると、下部で死体の山で持ちこたえるようのする者に射撃する。リンデとドルニエの射撃による速射で、20も立たずに防壁前方の制圧が完了した。一本の矢がノイから離れた位置に飛んでくる。矢には手紙があった。ノイはそれを読む。


「えっと?そのままぐるっと一周制圧して欲しい……これ、ハンナの字だ、キレイだし」

「……ハンナって、青色の髪の毛の?」

「うん、珍しいよね」

「この調子ならすぐ終わりそう。ノイ、先に状況を確認してきて。中に入られてたら面倒よ」


半刻もいかないうちにナーセナルへの襲撃を騎馬による機動と面制圧で、全ての銃声、矢の飛行が止んだ。


騎馬の二人がナーセナルの粗雑な正門にやってくる。弾痕はまばらで、まるで狙っていないかのような状態であり、ドルニエはそれらを観察しながら待機する。


正門の、丸太で作られた扉は引き抜かれるように開けられていき、その奥から馬に跨がった壮年と少女や、戦いに赴く様相の者らが出迎えた。壮年が前に出て、騎馬の二人に話しかけた。


「君らが……ノイからできる限り情報は貰ったが、まずはクロッカスへ行くぞ。オルテンシアが亜人・獣人に制圧されここへ向かってきたということは、奴らは既にクロッカスを発見、あるいは既に知っていたということになる。どうであれ制圧はされているじゃろう。至急援護に向かいたい、偵察を頼めるか?」


リンデは記憶を辿る。


「クロッカス……フアンの母親がいる場所ですね?了解しました」

「……あぁ、頼むぞ」

「……私のこと、ノイはなんて?」

「見たことをそのまんまという感じじゃな。じゃがより、優先順位が先のものがある。そうは思わんか?」

「ハルトヴィンさん。斥候は私が」


ドルニエは小銃の、若干前側に湾曲した、うちっぱなしの弾倉を取り外し中身を確認する。ハルトヴィンとリンデ、ドルニエは先頭で並ぶ。


「想定以上の戦果ってもあるが、コイツらまともに戦闘もできてないでやがる。指揮系統はないんじゃねぇか?俺らとノイの嬢ちゃんだけでも、意外と制圧できるかもしれんぞ。兵隊は、むしろこことクロッカスとやらの復興に充てるべきじゃないか?」

「戦闘中、指揮系統を司るであろう者を先に仕留めたからかもしれん。爆発物を携行しているワケでもないかったからして、おそらく物資が枯渇しておったか、ナメておったかじゃ」

「ほぉ、ナメる?」

「お主らの銃を見れば分かる。きっと他国の兵器じゃ、あるいはミルワードの。見たこともない未来の兵器を、つまりいきなり力を与えられた場合の行動など、相手をナメて襲いかかる以外、あまりないと考える。実際、窪地にある敵領土の防壁を、援護無し・爆発物無しで制圧など、よほど愚かでない限り実行せん。窪地とは、山岳であり中央は平地、山で体力は削られるし、平地は遮蔽も少ない。あるいは連れすぎた兵士を減らす策だったかもしれん」

「あんた策士だな」

「ヒトが近付かん場所に、集落を作ったまでよ。ワシらはクロッカス直前の森で待機する。お主らだけでやれる数ならそれでよし、戦闘をお主らだけで仕掛けるなら報告は送れ、伝令にハンナを貸そう。気を付けるのじゃ」


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