十三話 キョウハ、ツキガキレイ、デス、ネ
十三話 キョウハ、ツキガキレイ、デス、ネ
昼。雪原に一人、包帯を刀に巻いた女が歩く。頭には傘のような帽子を被って、雪を積もらせていた。小声で、唄を歌う。
「花~も~雪も……なんじゃったっけ?……払~へば清~き袂~か~な……あぁしんどい、日輪の歌はどこまでも言葉を長くしがちじゃ、歩きながらは……ちと堪えるのぉ。もっとハキハキと唄えなかったものかのぉ。あぁ、米が食べたい」
雪道の足跡は意図的に残るように深々とその女の前にある。
すると、進み続けて、しかし夕暮れになっていき、斜陽が雪を覆っていった。気付けば日が落ちるなか、森に入っていく。森のなかで、ナナミの耳飾りの鈴がこだまするなか、その情景に彼女は昔を思い出していた。
鈴の鳴る森、抜かれまた納めるうちに響く拍子木のような反響。定位を確認した少女は、陰から飛び出て首を跳ねていた。
「怪しだぁ!!」
各々の、甲冑を着込んだ武士や足軽が、四方八方に構え震える。鈴の音と拍子木の音、ふたつの音が1個になる度また1人、また1人と首が落ちていく。
「違う、やつだ、夜修羅が来たぞ!!」
「こんなやつ相手にどう戦えというのだ!!」
「落ち着け、まず状況を」
また1人と首が落ちる。そして音が止まると、最後の1人の前に小柄な少女が立っていた。最後に残った甲冑の武士は脇差しを抜いて少女を捕まえると、喉元にそれを向けた。
「近寄るな、この奇っ怪な者どもめ!!この童がどうなってもよいとは云うまい!!」
直下から武士は刀で貫かれ、股関節から頭頂までを刀で串刺しにされた。武士は、その少女の手に刀が握られているのに気付いたが、その瞬間意識はなくなった。
ナナミは、ある限りでヒトを殺した過去を思い出していた。
(……なんで、妾はあの者にあんなことを言ったのじゃろう?離れんといてくれなんて)
ナナミは、自分の感情を咀嚼できないままで、前方が明るくなった。
(……焚き火?)
火の元から気配などはなく、明らかに狩猟用ではない刀剣で狩られた鹿があり、ほぼ全ての可食部が切り取られていた。串に刺して焼いている肉は、ちょうど良く焼けていた。ナナミは刀で叩くように周囲を探る。その傍に、刀剣が置かれていた。
(……あやつのか。得物を置いて、いったいどこをほっつき歩いとんじゃ?お主の服、雪で湿気ってしまうぞ?)
耳飾りの鈴を鳴らして周囲をよく感じるナナミ。削るような足跡を見つける。
(……なんじゃ、ずいぶんと慌てて、逃げた感じじゃの?)
ナナミは足跡を辿った。少し山なりの森を上ったさき、熊が冬眠でもできそうな大きな木の樹洞を発見した。足跡はそこへ続いている。その樹洞には氷柱などはついてなく、ナナミは臭いを嗅いだ。
(……獣の縄張りというわけでもないか。ここを寝床にしておるのじゃな?)
樹洞のなかで、音を感じた。匂いを感じ取った。
「……お主じゃな、フアン」
「……はい」
ナナミは懐から服装を一式取り出す。
「ここに詰めるの苦労したんじゃぞぉ?ほれ、ぬくいうちにさっさと着替えい」
「あぁ……えっと」
「……そうか、まぁでは」
樹洞の手前でそれを地面に置いた。さらに懐から、仮面を取り出し服装の上に、重りのように乗せる。
「お主は……妾の眼を隠してくれた。見せたくないものというのは、やはり譲れんよな。童にとっての眼や乳房が、お主はにとっては身体の全てなんじゃろう……これはヴァルトお手製のものじゃ、炎でも燃えないよう、綿や麻、童は焚き火のところで待っておるからの」
ナナミは、樹洞のなかの者に言葉をかけ、そして焚き火へと戻っていった。火に当たり、焼けていた肉を手に取る、少し焦げていた。ナナミ串ごと引き抜くと、手に持った。後ろから、足音が聞こえた。
「食べてもいいですよ」
ナナミは鈴を鳴らして振り返る。フアンがそこにはいた。
「いらぬ、魚じゃったら好きなんじゃがのぉ……野生の獣は臭いが強くてな」
「魚の方が臭いは強いと思いますが?」
「釣ってすぐの魚は上手いぞ~?」
「分かります」
「……で、大丈夫か?」
「怪我は……とくに」
「特にってお主……いった!」
ナナミは腹を抑える。
「……貴方以外でも追えるように、たくさん痕跡を残したんですがね」
「腹に弾丸を食らったやつの仕事量などたかが知れておる。しかし、あなんでこう腹ばかり」
ナナミは、対面に座ったフアンから顔をそむけ、肉を渡す。
「ほれ、見ぬようにするから、はよう食ってしまえ」
フアンは肉を受け取る。
「……あの後、どうなりましたか?」
「イェレミアス側に亜人・獣人らにより鹵獲品である小銃や大砲を1時間程度の訓練。軍事運用の成功とヴァルトの発明品により、敵前線を突破。妾たちはそうして浸透してきた部隊に助けられた。兵站の断たれた敵前線は完全に崩壊。包囲網が完成する前に逆包囲を行って、ほぼ無傷で戦いに勝利じゃ」
「雪梅さんは?」
「……赤子は、亡くなってしもうた。今はイェングイが側にいるが、アヤツは骨盤を抜かれたようじゃ、しばらく立つことは叶うまい」
「ノンナちゃんやヴァルヴァラさんたちは?」
「あの家族は全員無事じゃ。ナタリアが上手いこと敵に取り入って、うまくヴァルヴァラたちを逃がしたそうじゃ」
「ポルトラーニンさんは?」
「……機関車に、引き殺された。ノンナを庇ったそうじゃ、そして迫りくる貨車のしたじき。原型は、ほぼ留めておらんかったとか」
「……それと」
「ナーセナル、クロッカス。どちらにもイェレミアスから救援を送って対処している。ナーセナルはハルトヴィンとやらなどが居るから大丈夫だとして、クロッカスは危険じゃと……故にノイとリンデが全力で向かっておる。あの娘らに任せれば、勝るであろう」
「……良かったです」
「クロッカスには、お主の母親もいるのじゃろう?良かったな」
フアンは、顔を落とした。しかし、すぐ上げる。
「発明……品?」
「妾も気付かんかったが……お主は撃たれなかったのか?」
「はい、飛んできました。結構な数」
「お主を撃ったのはたった1人じゃ」
「そうなんですか……!?」
「お主、気のせいかもしれんが……弾斬ったか?」
「慌てて、剣を出して、それで……」
「ははっ、天晴れじゃ」
「あの量を1人で……それがヴァルトの発明ですか?」
「どうやらヴァルトは……なんじゃったっけ、ぼるとあくしょんというカラクリをせみおうとにする部品、を開発したようじゃぞ?」
「半自動……ヴァルトの剣の機構に、外部なら追加で部品を取り付けるような……ははっ、さっぱりですね」
「あぁ、同感じゃ」
「すごいなぁ、ヴァルトは」
「お主も十分にすごいじゃろ」
「だとしたら、ヴァルトは12分です」
「なら妾は15分じゃ」
ナナミは雪に寝ころがる。別段暖かくもない寒空、周りに木がはえていない。風はなく、煙はまっすぐ上に上っていく。
「寒いですよ、それ」
「あぁ、そうじゃな」
「……あの」
「……なんじゃ?」
「……嬉しかったです。僕だって気付いてくれたこと」
「ちょうどお主の匂いを知っておったかたの。たまたまじゃ」
「それでも、です」
焚き火は弾けるような音を立てて燃えていいる。
「ナナミさんは、自分のことをどう思っているのですか?」
「それはつまり、妾の眼が気になるということか?」
「周りと違う身体で生きている、という意味でです」
「お主はどう思っておる。つまりお主は、妾から、周りと違う存在として生きる、その方法や矜持を知りたいという訳じゃろう?欲しい答えに合わせてやろう」
「あぁいえ……その……えっと」
「歯切れが悪いの~、ハッキリ思ったことを言えば良いというに」
「……あなたの事が、知りたいです」
「なっ……お主……っまったく、女な慣れよと言うたがそういう方向はダメじゃぞ?」
「……」
「……まぁ良い」
ナナミは起き上がり、肩に乗った雪を落とす。
「妾の家は、お偉いさんの家じゃった。土地を貸して百姓を束ね、そうして勢力を拡大し続けた。幕府はそれを善しとは思わず、政府関係者の親戚を嫁に出し、妾が産まれた」
「家柄は良いんですね、貴族……のようなものでしょうか?」
「言うなれば百姓貴族じゃな。そうして産まれた妾じゃったが、ちと特殊じゃった……眼がの」
「眼が……特殊?」
「黄色みのかかった明るい左目、青みがかった暗い右目……左右で色が異なったんじゃ」
「そんなこともあるんですね」
「じゃが……産まれた場所が悪かったにじゃな。その左の瞳の色は、どちらの家系にもなかったんじゃよ。母体となった母親は不貞を働いた者として扱われ、追い出された。それでも子は引き取るとして、妾は家に置かれた。知識を身につけるほど、妾はただそう産まれただけで不貞の証拠はどこにもなく、人相などはむしろ父親に似ていった。きっと、父親側、つまり貴族側が体よく政府の干渉を免れるための、言い訳だったのじゃろう」
「それが、幼い頃のナナミさん……」
「まぁ、なんというか、そうして大人の争いに巻き込まれ、しかも父親側は妾に暴力も振るっておった。本心から、幕府を嫌っておったのじゃろう……もう嫌になって嫌になって……いつからかな、この目が嫌いになってしもうた」
「……まさか」
ナナミは包帯を取り払う。その瞳は鉄で覆われている。
「取り除けば血が出るかもしれんと思うて、ならいっそ何かで埋めてしまおうと思うてな……こう、流し込んだんじゃ、鉄を」
「……ではまだ、瞳は」
「あるといえば、あるんじゃ。この鉄に埋まった奥にな」
「……怖く、なかったんですか?」
「ウザかったんじゃ、自分が。なんというか、スカッとした。まるで、本当の自分はこれであるというような、幼いながら、これこそが成長じゃと、そう思った」
「……でも、あなたは」
「妾の眼を潰したのを、大人たちは利用したんじゃ。そもそも童、齢3~……か4の時点で、他の家に嫁ぐことが決定しとったらしい。まぁ貴族ならあり得ん話でもない。じゃがここで婚約相手が盲人になったとすう。相手はどう思う?」
「……鉄は、さすがに本人がやったとは思わない?」
「そこを利用したんじゃ。幕府はその物好きな婚約相手に嘘を流し込んだ。嫁に出したくないから、子を醜女にするような狂人の家じゃと。そうしてあれよあれよと戦争は始まり、見事に幕府の狙い通り、我が家は破れた。さすがに百姓貴族の部隊で訓練を詰んどる兵士には変わらない」
「簡単にやれる相手なのに、幕府は手を出していなかったんですね」
「人を殺す、物を奪う。そうしたことだけはしていなかった。幕府が手を下せるには、結局のところ悪人だけじゃ。悪人さえ作り出せば、それは執行対象であり、獲物である。土地も権力も奪われ、妾は八つ当たりとして父親に殺されそうになっておったところを、夜修羅に救われた」
「……名前からして怖いですけど、話を聞いてる限り、本当に良い集団だと思います」
「あぁ、幕府にも地方の貴族にも顔が聞く、非営利世直し集団【夜修羅】。非営利とはいっても、ちゃんと飯は食えるようにしてあった。妾は人を殺しながら、そこで飯を食った」
「……ナナミさんに、そういう才能があったのですね」
「音で父親の攻撃を交わしたのを、妾を直に助けた者が、夜修の長に伝えたから、妾は夜に動く、忍としての技を教わり、付随して刀の扱いを教わった」
「……どこかで、その長の方の話がありましたね」
「おじじのこと、話したことあったか?」
「そもそも夜修羅に関してはほとんどないですよ」
「……全員、一本筋が通っておった。理由はなんであれみな各々の正義を燃やして、なんでまだ生きとるのか分からんくらい死戦を潜った者もいた。姉上……いや、そう呼んでおった者など、とくにそうじゃった」
「……でも、その方々って……」
「……みな、いいい人じゃった。おじじの隠したお菓子を妾に持ってきたり、訓練と称して、川で遊ばせてくれたり、目が見えない妾に、雪でも月でも花でも、色・形の美しさを、できる限りで音で分かりやすく教えてくれた。あの6人は妾の本当の家族じゃ。家族は血縁のみでない、むしろ血縁であるかなどどうでもよい。ただそう思いたいならそうなんじゃ……」
ナナミの声が、徐々に曇る。湿る。溢れる。
「百鬼夜行……お主らがデボンダーデと呼ぶようなものが、我が国、日輪でも起こった。獣に対抗する術ならまだしも、そらつらはむな奇っ怪な技を持っておった。言い伝えにあるように、人は水に、地面に引きずりこまれる。ナマズは地震を引き起こし、提灯からは口が生え、波や雷は竜となって襲いかかった……もっとも幼い妾を生かすため、強引に舟に縛り付けると全員が、命を張って守ってくれた……何が正義じゃ、結局は身の周りの者しか救えぬでないかと、感情を怒りでしか表に出せないでいた。ずっと……ずうっと舟で流れておった。刀を竿に魚を釣り、そして陸に降り、もう何年じゃ、何十年か?時間の経過も分からぬうちに、ここへたどり着いた……涙はまだ、枯れておらん。なんせ泣けんからな」
「そんなことが、あったのですね……」
「ううむ、話が長くなってしもうたが、つまり童は自分をどう思っておるか……童は、この恵まれた人生、繋がれた命、どうしても繋がねばならんと思っておる。童はしかと生きたと、教えたい相手がおる。やれることは全部やる……そんだけじゃな、音で目と変わらぬほど周りを理解してからの考えじゃ、あまり役立てはしないじゃろうて。してお主はどうなんじゃ?」
「あぁ……その……」
「まぁ、童が勝手に喋った部分は多い。じゃが、お主だって少しくらい、心を開いても良いのでは……ないか?」
「……僕、なんだか、自分が分からなくて」
「……自分とな」
「ナナミさんは僕を、何者だと思いますか?」
「それは内面か、それとも外見か?」
「……外見です」
ナナミは、しばらく黙る。
「……獣人であり、やはりベストロのような、黒々とした匂いを感じる。服装で誤魔化してる部分もあっただろうが、今までバレなかったのが不思議なくらいじゃ」
「……前に、ある方が言っていました。僕らの故郷は、ヒトとベストリアンが合併してできたんです」
「初耳じゃぞ」
「はい」
「おかしいではないか、恨みあっとるのじゃろう」
「……恨み恨まれ、それに疲れた方々が集まって、その集団は作られました」
「……察するにお主がその身体であることが露見せなんだ理由は、そこからくる他者への感心の薄さにあるのじゃな?」
「……かも、しれません。それにまだあります」
「なんじゃ」
「……母さん、と、お婆さんの存在です」
「血縁……まて、まてまてまて」
「はい……でも、僕と同じように黒い衣装を纏って、常に二人とも肌をさらけ出さない、毛の一本も見せないんです」
「……聞くとしたら、血縁の大元じゃろう。その者の調査をすぐ」
「……いえ、いいです」
「……疲れたか?」
「はい……」
「お主は……もう戦わんでも良いんじゃなかろうか?」
「そういうわけにはいきません」
「……ヴァルトか」
「……彼は、僕を見ても怖がらなかった。戦う理由が僕にはある」
「それがただの嘘っぱちの可能性は?」
「……あるわけがないです」
「本当に、アヤツは優しいなのか?」
「……そういう訳でもないようです」
「……?」
「……服、ありがとうございます」
フアンは立ち上がり、雪道を歩こうとする。
「待てお主、どこへいくのじゃ」
「イェレミアスへ帰還します。敵はまだ、健在です」
「……少しはゆっくりせい」
「大丈夫です、さっきまで、あなたから受け取った本を読んでましたから」
「本じゃと?」
「はい、日輪とアドリエンヌの言語を翻訳したものです。ほら……」
フアンは、多少焦げ付いた本を取り出した。
「それ……無事だったのじゃな」
「機関車から落下するとき、落とてしまいまして。ナナミさんが運ばれていってみんながいなくなった後、こっそりと」
「そこまで執着するものか普通……」
「結構面白いですよ?前に話したかと思いますが」
「……で、どうするんじゃ?」
「……えぇ?」
「帰るのか?」
「……はい」
「よし、では出発じゃ。夜はまだ浅いし、半月もある」
「……まぁじゃあ、行くだけいきましょうか」
ナナミは結局肉を頬張りながら夜道を歩く。
「嫌いなんじゃ?」
「腹が、な」
半月に照らされる黒装束と、やや紫色がかった忍が、森を抜けて雪原に出た。うっすらと積もった雪は足跡を、帰り道のように示している。
「ここを通ってきたんですか?」
「ほうひゃぁお」
「食べてからでいいですよ」
「……そうじゃのぉ」
フアンとナナミは、ナナミを先頭に歩いた。ほぼ道は一本、雪が別段と降っているわけでもなく、静かに未熟なわだちを二人は踏みしめ続ける。
「……あの」
「ん、なんじゃ?」
「……離れないでほしいと、ずっと仰っていました」
「……あぁ、まぁ……慌てておったしのぉ」
「……すみません、僕は……離れるべきだと、思ってしまいました。僕はこんな身ですから……」
「そんなこと気にしとたんとも、たぶん言うたはずじゃ?こと外見に関して、妾に何を考えておる、妾、盲人じゃぞ」
「……はい、なのでなおのこと、ありがとうございます」
「目の見えないことに感謝するなど、野党かお主くらいじゃ。あぁというかお主、日輪の言葉はどのくらい覚えたんじゃ?」
「文章は、結構いけるかもしれませんよ」
「では何か言うてみよあぁ、童に配慮せんと、色でも形でも好きに使うが良い」
「そうですね……う~ん」
フアンは周囲を見渡す。わだち、雪原、雪山、木々、森、空、そして半月。澄んだ空が雲を振り払い、もはや満月と同等ほどに光を放っている。景色の見える帳に、フアンは確かに目立つものを言葉にした。
「キョウハ、ツキガキレイ、デス、ネ」
かたことなそれを耳にし、しかしナナミは胸を握りしめるようにして、立ち止まる。
「……そ、その何じゃ。い、意味はし、知っとるのか……?」
「はい、キョウとは今日であり、ツキとは月であり、最後のデスは、言葉を丁寧にするような意味合い、ですよね?」
「……まぁ、良いわ」
「発音とかは……」
「アドリエンヌの訛りというか、やはり〝レ〝などが違和感あるの」
フアンがポツポツと日輪の言葉を喋る。
しかしナナミの中に、先ほどの文章がこだまし続ける。ナナミは頭をかしげ、胸元を握りしめるのをやめた。
(なんじゃろな、この感じ。胸元が痛いような、熱いような……風邪でも引いたかの。やはり怪我しても無理はせんほうがええ……じゃが、なんで童この任を受けたのじゃろう?)
ナナミは振り返る。フアンは本を読んでいた。ナナミは頬がほんのりと上がる。




