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ブルートアウス ~意思と表象としての神話の世界~  作者: 雅号丸
第7章 世々後天

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十一話 奇縁

十二話 奇縁


車列最前、喉からナイフを生やして血を流す熊の獣人が、列車砲に使う予定であろう巨大な砲弾を担いでいた。


(甘いなあのガキ。覚悟がねぇんだよ覚悟がよぉ?俺ぁ熊の獣人だぞ、もっと深くやんねぇと死なねぇっつう……銃声で慌ててんのか、機関部を止めもしねぇで走っていきやがった)


獣人は、ふらつきながら砲弾を、ボイラーの前に立て掛ける。


(機関車後方に襲撃があって、銃声が鳴りやんだところでアイツが出てきやがった。つまりここはもう制圧されてる。俺だけでも列車砲は使える、だが距離が、射程がレルヒェンフェルトまで届かねぇ……じきにこっちへ来て制圧され、イェレミアスにいる他の兵士に、列車砲が浴びせられる。じゃあ、どうする?答えは簡単だ……この機関車ごとでもいい、列車砲をぶっ壊す!)


獣人はボイラーに砲弾を突っ込んだ。一気に力が抜けて倒れる。


(ちったぁ足ひっれたかなぁ、俺も……誰かの役に、俺も立つんだぁ……)


機関車前方で、大きな爆発があった。機関部が吹き飛んだ影響で車列が次々に横転していく。ポルトラーニンはノンナを抱え、そしてナナミもまた、塵に消えていった。


線路を破壊し、ひしゃげた車列が飛んで跳ねて横転していく。地面を執拗に揺らして、勢いに任せた鉄の濁流が、うっすらと積もった雪を土壌ごとひっくり返して雪崩れる。


白と茶色の煙が立ち上ぼり、焼け焦げたボイラーはほぼ真っ二つにひしゃげていた。石炭はばら蒔かれ、砲弾や各種弾薬、小銃、軍需物資としてあるほとんどのものが散乱していた。保管していた木箱の破片の散らばり、蛇腹のように削れた大地に、ナナミはふらつきながら、耳から血を流して倒れている。


(くっそ、投げ出された衝撃で耳がやられてしもうた……敵はどこじゃ、味方はどこじゃ……!!)


ナナミは、油と煙と土の香りのさきに、獣のような、しかし確実にそうではない匂いをかぎ分ける。鉄臭さに混じって、より鮮明に血の香りが鼻をかすめ、懐にある包帯で刀を包み、その方角へ刀を地面に叩き、そうして障害物を避けてながら向かう。


(こっちじゃ……こっちにあやつがおる!)


匂いのさきにたどり着く。燃え広がる石炭の山の中、何らかの香りが漂う、ナナミは咳き込み、力んだ拍子に銃創が開いて出血し、痛みで倒れる。香りは著しく近寄るも、傍にあるだけで、動きはなかった。


「……お主なんじゃろ、よう生きとった。すまぬ、手伝ってくれんか?足をやってしもうての、立てぬ」


ナナミは自身の声が籠っている。周囲の状況を理解するため、臥せるようにしながらも刀で周囲を確認する。


「どうした、何もそこまで女になれとらんわけもなかろう?介抱くらいで身構えるな、むしろ幸運とでも思え」


香りは近寄る。声が籠っているが、言葉はハッキリ、その通る声が響いた。


「……目……丈夫……か?」

「……あぁ、あぁ……そうか、サラシは取れておるのか。まぁあれじゃ……いやいや後じゃ後、とりあえず助けんか阿呆!」


朧気ではなく、強烈に震えた空気。焦熱と固有の香り。


「硝煙……??」


鉄の弾ける音は聞き覚えがあり、弾丸を弾くような感触を覚える。


「なんじゃ、鉄砲か!?すまぬ、耳が……!!」


ナナミは何かに抱き抱えられるようになり、それは腕にしては妙なほど歪で、明らかに獣人のそれではなかった。フサフサとした表面に、全体を通してゴツゴツとまばらに突起にも似た感触の、羊や牛を思わせるザラついた角が短く乱立していた。


(なんじゃ?なんじゃ?コヤツ本当にフアンか?いやじゃがこの匂いは確かに……待て、待て待て、ある、嗅いだことあるぞこれは……)


ナナミは一瞬のうちに記憶をたどり、1つの答えにたどり着いた。


(……ベストロ?)


ナナミは下ろされる。背中には冷たい鉄の感触があり、遮蔽であることは分かる。ナナミは、現在位置が転がった貨車のないであるのをで感じた。匂いは遠ざかる。明らかに汗ばんだ獣の香りに、どこか黒々と込み合うような感覚。


「……おい……おい!離れるな!!」


匂いは遠ざかる。


「離れるな、離れんでくれ、フアン!!!!」


匂いは遠ざかるのをやめた。


「……お主が何者なのかなんざ、童にとってはどうでも良い。なんせ童は盲人じゃ、人殺しじゃ、人間の汚点じゃ、社会の醜女じゃ!!頼む、離れるな!お主は離れんといてくれ!!お主くらいはどこにもいかんといてくれ!!童を、童を置いていかんとすればお主くらいじゃ!!お主くらいの慈悲深くて世話焼きで、その体のように手厚い阿呆だけなんじゃ!!」


ナナミは自分の声が泣いていることに気づいた。無くなった瞳が熱くその匂いを見つめる。硝煙の香りも、石炭の燃える匂いも全てなくなり、風を感じなくなった。貨車の出入り口は全て塞がれたのを、ナナミは感じ取った。


「……はは、籠城か?よい、童は飯を食わず、最長で6日は」


ナナミは頭に、感触を覚える。優しく、髪の毛にすら触れないような、ただただ優しい感触。


「なんじゃ、布か何かか?巻いてくれておるのか?隠してくれておるのか?」


何も声は聞こえない。


「……やはり、童の目は正しいようじゃ。いや、別に童、目はないんじゃがの?はははっ」


岩肌にしては毛むくじゃらなその感触に抱えられる。位置が移されたのを感じた。鉄の扉が叩かれているのを、ナナミは聞いた。

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