十話 凶走
十話 凶走
フアンの後ろから蹄の音が近寄る。弾丸がフアンをかすめる。発煙筒がなくなり、煙を抜ける。機関車は速度を低下させて運転されている。ナナミはドナートが操る馬に乗せられており、防壁から弾丸を受け流す。
「すっげぇな嬢ちゃん!!」
「馬に専念せんか!!」
「うっしゃぁ!!」
徐々に機関車に迫っていき、両者を乗せた馬は、機関車の最後尾、貨車に迫る。貨車の上部から顔を出した兵士を、フアンの散弾銃が襲う。二名仕留めた段階でナナミがドナートの肩に乗り、貨車に飛び込んだ。
フアンも飛び乗ったと同時に、ヴァルヴァラが腰あたりに弾丸を食らう。操縦が狂い、速度を持った状態で落馬した。ドナートは叫ぶなか、フアンはドナートに声をあげる。
「あとは僕らでやります!!!!」
ドナートはヴァルヴァラを馬上から救い上げると、離れていった。
ナナミとフアンが貨車の上を走ると、開閉式の昇降口から兵士はが顔を出して狙撃してくる。ナナミが先頭に立って弾丸を切る。相手がボルトを後退させる瞬間にナナミがしゃがみこむ。フアンが散弾銃を撃って敵を仕留める。3度ほど繰り返し先頭車両へ走るなか、フアンがナナミを止め、口をふさいだ。
「……???」
フアンが耳を澄ませ、前方車両の音を聞いた。先頭の貨車の兵士は、車両上部に銃口を擦り付けている。
(音がなったと同時に、至近距離から貨車ごと撃ち抜くってことですか……)
フアンは、懐にある聖典を貨車に投げる。下部から射撃が一斉に起こり、聖典は蜂の巣のようになった。貨車と貨車を繋げる連結部位に飛び込み、貨車の扉を開けて手榴弾を投げる。爆発により何人もの兵士を倒した。貨車の陰を狙いながらフアンが前方を歩くと、うごめく大型の獣人がいた。それは、ナナミを叱責し、フアンを勧誘した、牛の獣人であった。
「あなたは……」
「……皮肉なものだな。てめぇ、よりによってなんで……」
その牛の獣人は、ナナミを見た。
「……そうか、お前はそっち側【人間の味方】だったな」
「どっちもそっちも、僕にはないです。大切な方々のために、僕は戦います」
「ははっそうか。肺に破片が入った、俺はもう無理だ……列車砲を積んでるから速度は出せない、さっきの狙撃で車輪もイカれた……お前らの勝ちだ、人間」
「僕は……」
「人間だよ。人間の味方するやつぁ、全員……人間……だ……」
フアンとナナミは貨車の内部を音で確認しながら先頭の車両へ走る。
「……いませんね」
「びっしり兵士で埋める訳にもいかんじゃろ、城でもあるまい。先頭車両には操縦士がいるはずじゃ。その鉄砲はなんじゃ?随分と細かい弾丸のようじゃが……ん?」
フアンとナナミが同時に振り向いた。機関車の駆動の音が、どこか二重になって聞こえるようになる。音にはまばらで、しかし音源は徐々に迫っていた。
汽笛が鳴り響く、前方ではなく、後方からだった。その若干ひしゃげた機関車は、フアンの爆弾で倒した機関車であった。刻々の倍以上の速度で駆けるその操縦席には、ポルトラーニンがいた。機関車の後ろには、1つも貨車が付いていない。
「老骨をナメるな、若造どもぁぁ!!!」
最後尾の貨車に、ポルトラーニンの操縦する機関車が突っ込んだ。衝撃で貨車の連結部位同士が連鎖するように押され、フアンとナナミが転倒する。
ポルトラーニンは機関車の操縦席から外れ、運転室と煙室の側面を走り、飛び込むようにして貨車最後尾へ飛び移った。ポルトラーニンは貨車内部に入ると、息を吐ききるようにして呼吸を整えると、極めて前屈みに突進し始め、次々と後方から前方へかけて扉を破砕しながら突き進む。
フアンは扉へ向け、散弾銃で待ち構える。扉は勢い良く前身するように外れ、扉を盾にしてポルトラーニンが車内へ突っ込む。散弾が2発防がれる。フアンが散弾銃を中折れさせた瞬間、ポルトラーニンは盾にしていた扉を蹴飛ばしてフアンに命中させる。
フアンは散弾銃を落とし、押し飛ばされ下敷きになり、そしてポルトラーニンはナナミへ突っ込む。
(くっそ、室内じゃさすがに振り回せん……!)
ナナミの後方から、爆弾の安全装置が外れる音がする。
「ナナミさん!!」
フアンが扉と床に挟まれながらも、辛うじて爆弾を投げる。ナナミは咄嗟に体格差のある牛の亜人の死体を盾にした。ポルトラーニンが車内から出る。爆弾は爆発し、破片が飛び散る。フアンが扉を退かそうとするが、動かない。
「くっそ、どこか!引っ掛かってるんですか、ねぇ…!!??」
ナナミは転がる小銃を構え引き金を引く。発砲され、的外れながらもポルトラーニンを止める。ぎこちなく構え射撃を繰り返すと、ポルトラーニンは貨車の上へ登り、昇降口へ向かって走る。ナナミは腰を溜めて刀を突き出して直下からポルトラーニンを、鉄でできた貨車の天井を突き破って火花を散らしながら攻撃した。
辛うじて避けたポルトラーニンは、刀が迫ってくるのを視界に入れる。ナナミは突き出したままの刀を肩で押し込んで、天井をまっすぐ切りながら前方へ走る。ポルトラーニンをそうして後方貨車上部へ避難させると、ナナミをは小銃を持って走る。
袖から紐を取り出して刀に巻き付けると押し当てるように車両の間に立てて足場にし、半分ほど車両上部位へ上がると、小銃でポルトラーニンを牽制、再装填をせずに小銃をポルトラーニンへ投げさらに牽制し、上部へ上がった。
ポルトラーニンは後退しながら小銃を掴みとりボルトを後退させ再装填、ナナミへ射撃する。ナナミは足場にした刀を繋がった紐で回収しながら貨車に登り、真正面から来る小銃の弾丸を3度弾く。
ポルトラーニンはナナミをのすねに小銃を投げ当てる。痛みを気にせずナナミは走り、踏み込みながら下から斜めに振り払った。ポルトラーニンは脚と肘で挟み込むようにして受け止めると、その姿勢d3腰を溜めて踏み込みナナミへ殴打を繰り出す、ナナミは腹部へ打撃をくらい、そしてポルトラーニンは下がった。
するとポルトラーニンは、ナイフを逆手に取り出す。ナナミは一瞬、頭を伏せたように動いたが、すぐに動きを止めて正面に構える。
(なんじゃ、刃物か?鉄砲か?聞き間違いか……?)
ポルトラーニンはまっすぐ柄をナナミへ向けるように構える。ナナミはその意味のない行動で、状況が読めなくなった。
(……???)
発砲音が1つ。ナナミは腹部に弾丸を食らった。ポルトラーニンのナイフの柄から、銃弾が放たれた。ナナミは腹部を抑えて倒れ込む。
(柄から弾丸じゃと……聞き違いなどではなかったか!!)
発射煙を立てるナイフを、ポルトラーニンは逆手のまま突進した。ポルトラーニンはナナミの前で止まり、ナイフを振りかざす。
ポルトラーニンがナナミの喉元へ振りかざしたナイフは、切り払われた。
「……!!」
フアンは貨車上部へと登っていた。フアンはナナミを庇うようにして、立ち塞がる。
「貴様……動けなかったはず……」
足音が、フアンの後ろから聞こえてきた。軽い音で、震えた呼吸をしている。ポルトラーニンが、動きを止めた。
「……ノンナ」
「おじいちゃん……」
「なぜここにいる!!お主は倉庫で、部品の点検作業を……!!!」
「私、いっぱい言うこと聞いてきた。怖くても、皆を守るために、武器を作って、列車だって作って、大砲も、全部作ったよ。おじいちゃん、私いっぱいおじいちゃんから話聞いてきた。秘密だって言われて、ギムレーどうできたとか、おじいちゃんがどう思ってるかどうか、ヒトが私たちのおじいちゃんのおじいちゃんに何してきたか……でも私、全部分からなかった。ごめんおじいちゃん、私はおじいちゃんみたいに、もういない誰かに優しくできないよ。私、今生きてる人と、お話して、仲良くなりたいよ!!ごめんねおじいちゃん、私悪い子だ!!本当にごめん!!!」
ノンナはそう話しながら、小銃をポルトラーニンに向ける。
「フアンさん言って!私、操縦士……殺した。この距離なら弾丸のほうがおじいちゃんより強い。ナナミさんの止血も私ができるから、どっちもよく知ってるから、列車を止めて!このままだと事故になっちゃう!!」
「でも……!」
「はやく!!」
「……ナナミさんをお願いします!!!」
フアンは操縦席、先頭に走っていった。ポルトラーニンは手を上げる。
「……そうか」
「ごめんごめんねおじいちゃん」
「……よい、急ぎその者を治療するんじゃ」
「……でも!」
ポルトラーニンは、目を瞑った、ノンナは小銃を下ろしてナナミへ駆け寄る。ポルトラーニンは足音を聞く。
(駆け寄るか……まったく警戒しておらん)
ノンナが腰に下げた鞄から包帯を取り出す。
「ごめん、止血しかできない!!」
「……よい、あまり大きな弾丸でもない。この調子じゃイェングイも同じようにやられておるの」
「そんな!」
「あっちはナタリアもおる、案ずるでない」
「……ごめんなさい」
「戦場など、童の舞台ではないのじゃ、おるだけ天晴れよ」
ノンナは力いっぱい腹部を抑える。治療を終えると、ノンナは小銃を再びポルトラーニンへ構えた
「ちっちゃいころから私、誰かと仲良くなりたいとか、あんまりよく分からなかった。だから、道具とかに……逃げた。できることして、誉められるうちにね、段々分かってきたんだ。鉄とか溶かす炉なんかより、いっぱいあったかいって……」
「……よい。悪いのは、ワシじゃ。先走って、子供に銃を取らせた」
「おじいちゃんは、優しいだけだよ……」
「優しくなど、あろうものか」
「でも今、手を上げてるよ?」
「……」
「本当に優しくなかったら、きっとさっき私たちを殺せてた……私がここに登ってる間にできることあった。でもおじいちゃん、それ分かってたんじゃない?」
「……まさか、単に気が回らなかっただけじゃ」
「道具に名前なんて付けて、色んな子に気味悪がられて、でもおじいちゃんは優しくいsてくれた……ありがとう」
「命のない物に興味を示す。その意味でワシは、お主を理解でき、理解されると思った……それだけなんじゃ」
ノンナは小銃を下ろさなかった。
「……偉いの、お主は。ワシがおかしなことを吹き込んでも、誰にも言わんかった」
「……おじいちゃん、悲しい目をしてたからね」
「……凄いの」
機関車前方で、大きな爆発があった。機関部が吹き飛んだ影響で車列が次々に横転していく。ポルトラーニンはノンナを抱え、そしてナナミもまた、塵に消えていった。
2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。




