九話 亜獣を第一として
九話 亜獣を第一として
亜人や獣人たちにより車庫から出されてくる列車砲。半月のもと、鉄を軋ませ、ゆっくりと機関車に繋がっていく。砲弾が担ぎ込まれるなか、両腕を手錠されたイェングイがそれを眺めることなく、銃声の響いた方角を向いている。
(雪梅は、無事だろうか……?)
ポルトラーニンは機関車を望み、しかし笑顔になることはない。
「これで最後だ」
イェングイは、ただ言葉に違和感を持つ。
「……最後、とは?」
「言葉のままに、なるべきなのだ。イェングイ、助かったぞ」
「用済み、ですか?」
「いや違う。我々に協力してもらったことへの、純粋な、な」
「……つかぬことを伺いますが、貴方は何をもって、人を憎むのでしょう?ギムレーに人類が踏み込んだのは、ヴァルトさん一行と私らのみではないでしょうか?」
「……歴史は確かに刻まれているのだよ。我々は古くから奴隷として西陸に縛られていた。奴隷となる前は、その頭数を減らす目的での虐殺も横行していた。私はな、このギムレーの創始者が、何を思ってここを作ったのかと……答えは、この技術力にある」
「機関車、小銃、大砲そして列車砲……どれもこの寒冷地で使えるよう発展していますが、大元はミルワードの技術から来ているように感じます」
「科学をまずもって善しとはしない西陸において、ミルワードの技術に触れられる者は限られる。ベストリアンであればなおのこと……しかし例外がある」
「……魔天教?」
「正確には、旧亜・獣解放戦線。この技術を最初にイェレミアスへ持ち込んだのはあの者らだろう。私は、ギムレーの大元は、そこにこそあると考える。彼らは亜人たち、獣人たちの悲しみを埋めないために立ち上がったはずだ。我々はその思いを無下にして良いのだろうか?私はそう考える。ヒトを信じられないというのもそうだ。いつか誰かが喚いたらしく聞いたこともあるだろう。我々ベストリアンはかつて多様な部族だった。人類はこちらから見て三種類、例えどのような者であっても、我々から見れば単一の存在にしか見えぬ」
「兵士のわたしたち、球凰人への目線の正体ですね」
「……我々には仮想敵がたった3つしかない。良い機会なのだ、それを二つに絞れるかもしれないという」
「西陸だけが、白い人種の住む地域ではないでしょう」
「無論だ。だが私はそうして兵士たちを鼓舞した、言説において大切なのは正確かでなく、どれほど多数の心を動かすかじゃ。意味や理屈に興味ある者は極めて少ない、そうであるからして嘘を付くことを、知恵ある者は磨くのじゃ」
ポルトラーニンが手を上げると、機関車は白い煙を上げて出発を始めた。汽笛が長く長く鳴らされる。
「イェングイ、聞きたい……お主はどこで嘘を付いている?」
「……いえ、特に」
「そうか、残念だ」
機関車は車庫の付近を通過していく。
「……来るなら、今なのじゃがな」
機関車の速度が軌道に乗り始める瞬間、轟音が鳴り響いた。若干の速度を持った機関車は線路から飛び上がり、後続の列車砲や貨車が連れて横転していく。
「ふっ、そうか」
ポルトラーニンの頭上から、ナナミは刀を閃かせ振り下ろす。ポルトラーニンはナナミの体重ごと、手のひらを擦り合わせるようにして刀を受け止めた。
(嘘じゃろ!?)
ポルトラーニンはナナミを見る。
「来たな、小娘!!」
ナナミは刀から降りるようにすると、半身になっての連続して突く。ポルトラーニンは細かく最小の動きで交わし、前に出る。
突きの後、引き抜くようにして間合いを逆手に取るように刃をポルトラーニンに寄せる。ポルトラーニンは袖からナイフを取り出し刃に当て、受け止めながら接近し足払い。ナナミは投げるように引き込むと、刃面だけを握って受け取り、構え直す。
(白刃取りなんてひさしぶりに食らったのぉ)
フアンは片付けてられていた貨車のを伝ってイェングイの元に飛び降りると、2つの刀剣をまず片方、当てる。傷を付けたところに刃を重ね、もう一本で打ち付けるように振るい、手錠を破壊した。
破壊と同時にイェングイはポルトラーニンの元へ走り、蹴りで牽制し互いに腕を掴んだ。イェングイが背中を生かした投げ技に打ってで出たところ、ポルトラーニンは身体を折り畳むようのしてイェングイの背中を強く蹴り飛ばし、投げの勢いと合わせて掴まれた腕をほどく。
着地を狙ってフアンが袖から散弾銃を取り出した。
飛びながらポルトラーニンがナイフを投げて射撃を停止させる。
ナナミは若干ある距離を高速で移動するも、銃声で駆け寄ってきた衛兵たちに足止めされ、そうして全員の動きが止まった。フアンの耳に汽笛がど届くが、それは二つあった。ポルトラーニンがナイフを片付ける。
「賭けはワシの勝ちのようだ」
「……二両!?いやそんな、列車砲は試作品で1つだけのはず……」
「補給のための機関車を利用して貴様らのような暗殺部隊がくる可能性は、ナナミが忽然とギムレーから消えた時点で警戒していた。そして少数の部隊が敵本部に与えられる最大の攻撃手段は、爆薬を用いた破壊工作、無論その標的は機関車や列車砲などの戦術的に優秀な兵器……時間のない中、キサマらが思い当たるかどうか、気付かれるかどうかは賭けじゃった。シュエンウーとリヴァイアサン討伐の裏で、試作品であった列車砲を一両増産していたということに……ノンナは言った、列車砲は私が設計したと。子供の声、理解不能の技術、その試作品の第一号という希少性全てが持つ思考の誘導、すなわち個数の限定、その意識。じゃがあえて言おう、そこになんの保険もない訳がなかろう?」
防壁の上を走る機関車は、ゆっくりとした下り坂を降りて、駅を通ることなく防壁の大穴へ向かっていく。汽笛が籠った。包囲する兵士のなかには、鎧で全身を固めた重装甲の歩兵もいる。
「焦り過ぎた、たったそれだけじゃな。お主らがワシにどのような気を持つか、それは自由だ。戦争の勝敗をいま決めんと動くあれを止められることはできん。やれ、徐々に速度は上がっていく。しかし貴様らは包囲されている……武器を地面へ、そしてを手上げながら一周回るんじゃ」
フアンは武器を置こうとすると、防壁の方角から銃声がした。
その地点には、寝そべる二人いた。片方は銃を、もう片方は単眼鏡を。重装甲の歩兵は胴体から真っ二つに撃ち抜かれる。
「痛っ………肩、絶対壊れたっッス」
「大丈夫、外れただけよ。ちょっと上向き過ぎたかしらね」
一閃する怒号のような音が響き渡った。
「後で治して下さいっす……」
「あとで、抱いてあげるわ。次、車庫屋上の左」
砲弾のような威力とツバメのような速度を持つその弾丸が、間隔をあけて、遮蔽に隠れた兵士でさえ、諸とも消し去るように射殺していく。少ない遮蔽の中ポルトラーニンは難を逃れるように、猪らしく猛進し遮蔽に隠れた。
「……くっそ、逃がした」
「あれを倒すのは私たちじゃなくたっていい。しかしいい音するわね、ノンナ渾身の大型狙撃銃。耳が惚れちゃうわ~」
弾丸を放つたびに、葉巻のような太さの薬莢が、手動で給弾口から投げ出される。次弾を装填した兵士はボルトを前身させる。防壁 突き刺さるような二脚が銃を安定させている。
「もういいわ、機関車を狙って!」
「コイツで抜けるっスかね……」
立ち上がり力いっぱいで構え射撃する兵士。銃口のはね上がりはほぼ垂直であった。
「……あっぶねぇぇ!!」
走行する機関車の、主軸となる車輪を一部吹き飛ばす。機関車は動力を線路に伝えられずに、若干だけ減速した。
「うん、いい腕してるわね」
「俺で止まりますかねぇ……」
「機関部狙ったって意味ないわよ?」
「フアンさんたちは策、思い付いてたみたいッスね……」
「聞いても実践できないわよ、時間なかったし……さぁ、あとはあの夫婦の出番よ」
フアンとナナミが遮蔽に隠れていると、二つの雄叫びと共に後方から射撃が飛んできた。聞き覚えのある、頼りがいのある声。柄付きの手榴弾や発煙筒が大量に飛んでくる、その中を大声を上げて突撃する、鉄の建材を盾にした兵士。
「アンタぁぁ、やっちゃってぇぇ!!」
剣に見えるものを片手にした羊の亜人が、発煙のなかに入っていった。
「おらおらぁぁぁ!!」
不可視の領域で、殴る蹴るの暴行の音のみがこだまする。鉄の折れる音がするなか、ポルトラーニンは場を脱そうとする。足を木材かなにかで払われ、転倒する。転倒した勢いで立ち上がりナイフを取り出すと、眼前の武器を弾いた。
「キサマ、武器は奪ったはずじゃが?」
「外交官として、他国の人間は騙すものですよ?」
イェングイとポルトラーニンは互いに、三節棍とナイフを用いて距離を詰める。その後ろで、やはり鉄の折れる音が響いた。
「あぁやっべ……おらぁ、おらぁ、おらぁ、おらぁぁぁぁ!!」
手榴弾の爆発で煙幕が晴れる。息を荒くした羊の亜人は、不発だった手榴弾を鈍器のようにして、敵兵士を気絶させていた。
重装の歩兵までも、その男の前にはなす術はなかったようだ。
「おっ……おぉ??終わったかぁごらぁ???んぁぁ??」
羊の亜人は自分の握る武器が爆発物であることに気付いた。投げ捨てるが爆発はしなかった。
「うおあぁ、ちょうど良いのあると思ったらマジかよおい!!」
フアンがそこに近寄ると、蹄が響き始めた。再度発煙筒が大量に投擲され、車庫の内外一帯が煙に包まれる。蹄の音がより大きくなり、そしてフアンは背中を掴まれる。発煙筒は馬の上から全て赤毛の狼の獣人が投げていた。フアンは馬に乗せられる。
「ヴァルヴァラさん!!」
「このまま防壁まで煙を突っ切る。防壁から外までは安全だが、それ以上はもう運だ!!」
2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。




