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ブルートアウス ~意思と表象としての神話の世界~  作者: 雅号丸
第7章 世々後天

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八話 孕妇【ユンフ】

八話 孕妇【ユンフ】


ナナミは屋根上から飛び降り敵兵士の喉を締めながら路上裏へ引きずり込み、布をほどいた刀で喉元をかききる。出血するところを刀からほどいた布で巻き上げながら転倒させ、山積みの廃棄物の中に置き去った。


崩れかかった廃屋を渡り、防壁の側面を勢い良く走り、子供が遊びで作ったような大きな雪人形の蔭を使い、そうして7~9人ほどの巡回を掻い潜った。周囲と比較して豪華な出で立ち、ヴァルヴァラたちが会合や作戦を開く、城のような建物の屋根上へとたどり着く。物音を聞ける限りで区別していくと、ある会話が聞こえてきた。


「……じゃあ、この作戦って、ポルトラーニンさんが作った訳じゃないってことか?」

「あぁ、イェングイとかいうあのニンゲンが発案したそうだ。地図と歴史、その2つだけでイェレミアスの物資の状況を予測するなんて、あの爺さんでも無理だろ?」


足音が1つ、階の上に行く。


「まぁ、言われてみればそうって感じだったもんな、あの説明じゃ」

「それに、ヴァルトとかいう奴も、その付き添いも皆いなくなった。国内での問題がなくなったってのも、デカイだろうな」


足音の元から、鉄が擦れる音がする。


「なぁ、そういやソイツの嫁、どこにいんだよ。やっぱ牢屋か?」

「ポルトラーニンさんの慈悲で、普通に部屋で待機させてるらしい」


鍵が開いたような音。別の足音が離れていった。


「ほぉん、じゃあ何か、今までと場所変わってないのか?」

「あぁ」

「……マジいな」

「何が?」


足音が床の布を踏みしめる。呼吸は少し荒い。


「いやほら……いたじゃん?あの、ナナミとかいう奴にイタズラ仕掛けたってやつ」

「えっ、あの噂マジだったのかよ」

「変な気起こさないといいけど……アイツ、関わったことないけど、マトモに見えて頭イカれてるっつうか……」


物音と、悲鳴。


ナナミが屋根からぶら下がり窓硝子を木枠ごと破壊して内部に突入した。厚手の服で血だらけの女が一人、腹から引き抜かれた武器は釘のような剣であった。


怒りに震えるような亜人が一人、目を黒々とさせて逆手に強くその武器を握っていた。ナナミに気付いていながらに、その硝子欠をもろともせず、再び女に振りかざす。


ナナミが刀を亜人に振りかざすと、開けられていた扉から、獣人の兵士とが銃を構えて発射する。弾丸はナナミに向かった、刀を構えた瞬間で動きができず、ナナミの頭部、その中心である眼と眼の中間に弾丸を受ける。鉄が弾ける音と共にナナミは倒れた。


筋肉が震えるように、ナナミは刀を手放した。女の悲鳴に気付いた複数の兵士が階段を上がってくる。銃を撃った獣人の兵士は、階段を上がってきた兵士たちと会話を始める。


「おい、何があった!!」

「何って、そりゃ私たち全員が考えてたことっしょ?コイツがいの一番だったってだけのことよ」

「はぁ!?お前、人質は……おい、お前そこどけ!!」

「人質?いやいや、アタシたちもう勝てるじゃん。列車砲は運搬準備中、機関車は稼働中、敵は動かない、こっちは包囲できてる。攻め以外の戦術はもういらなくない?じゃあイェングイっていうニンゲンの価値は?そのイェングイの女の価値は?私からすれば、こうして見張り引き受けて、二束三文でもいいから私に金渡すやつ現れないかなって狙ってただけよ。彼は彼女を殺したい、私は金が欲しい。以上よ」

「……どけぇ!!」


獣人の兵士は目の前の兵士の頭を撃ち抜いた。


「アンタ何?ニンゲンに加担するっての?はい、私無実~、亜獣第一党は今のこの国の主導、戦争に反対した奴は亜人だったけど処刑されら。今のこの国で、ニンゲンに加担する奴は全員国賊、私は英雄……簡単なことね」


ナナミの腕が動く。獣人の兵士は、倒れた兵士の隣の兵士とが手を上げているのを確認すると部屋に入る。腹に突き立てられたナイフを、これ以上刺さるまいと抵抗する女。亜人は怒りで声を上げる。


「おらぁ、おらぁぁぁ!!死ね死ね、くたばれぇえ!!」

「我的宝宝死了!!!!我不喜欢!!!!」


涙を出す女を横目に、獣人の兵士は壁に持たれる。


「別にアンタをじゃないけどさ、私たちは受け継いじゃってんのよ……ニンゲンに対する憎悪。昔はこうだった、昔はどうだった、どこの誰かはどう殺されて、どこの誰かはどうされて……先祖代々、嫌ってほどね。幸運こそつかんで、でも復讐だけはできなかった私たちの祖先、ギムレーを築いた人々の思念。彼はその思いに向き合っているだけで、私は助けただけよ、はははっ」


ナナミの身体は飛び起きる。裏声のような、驚く声を発した獣人の兵士は飛び起きたナナミの身体を追うように照準を動かし、薄暗がりの部屋の天井に向けた。


部屋中に耳飾りの鈴の音が響く。影は確かに少しの月光と溶け込んで、朧気に輪郭を見せた。発砲された銃弾は相手を霞め、しかし兵士の後ろには確かに気配がある。振り向いて距離を取ろうとすると転ぶ。


(えぇ、何……何……!?!?どこ、どこよ、どこに!!)


獣人の兵士が転びながら周囲を観察しても、いない。痛み、鈍くて鋭い痛み。胸の装備を後ろから貫く腕には、鼓動する心臓があった。


(……え?)


目の前でそれが潰れると同時に、獣人の兵士は目を細める。夢中になって女に刃を向ける亜人が壁際に蹴り飛ばされる。喉元に差し込むように腕を付き出したナナミの、眼を覆っていた布が落ちる。徐々に落ちていき地面に当たる。


ナナミの眼の部位に眼はない。そして傷もなかった。差し入れ溶け込まれた光る金属が顔上面を覆い尽くしていた。息が絶え絶えでふらつくナナミは、脱力し倒れる。亜人の喉に食い込んだ指が離れる。


「……てめぇ、何で……はぁ?んだその顔、鉄か、仮面か……?」


女が唾液を吐きながら、亜人が落とした釘のナイフを逆手に、喉を刺した。刺して、刺して、刺して、刺した。女は倒れ、呼吸を絶え絶えに泣き始める。


「……我的宝宝、我的宝宝」


ナナミは、倒れた身体を引っ張るように動か、自分で頭を殴って、ふらついた頭を直す。ナナミは、倒れた女の腹を抑えた。

「シュエメイ!」

「停止移动……」【もう動いて、ない……】

「这混蛋的目标是你的孩子……」【狙いは、子供じゃった……】

「……宝宝、宝宝」

「心跳已经……停止……抱歉,我没能及时赶到」【もう、鼓動が……すまぬ、間に合わなかった】


「我有过错」【私が、悪いんだ】

「你不错」【そんな訳あるか】

「……我撒了谎。我对所有人都保持沉默。我不想要孩子……我想生活。两年前我决定来这里。当我远远地看到这里时,我告诉他“也许等我们有了孩子,我们可以搬过来。”我试图利用别人的善意。我把我的孩子当作工具……但现在我却哭了。为什么?」【私、嘘付いてた、みんなに黙っていた。私、子供が欲しかった訳じゃない……ただ生きていたかった。数年前ここを見つけてから、私は彼に言った。子供を作ってからなら、受け入れてくれるのではと。私は他人の優しさにつけこんだ。道具としか考えてなかったのに、何で?私泣いてる】

「……」

「……如果在孩子出生之前能有更多时间,这个国家就能对它的敌人采取更多措施了……就像不劳而获一样,我是个坏人,所以我不应该哭。可是为什么呢?」【子供ができるまでの時間があれば、この国はもっと敵に対策を講じることができたはず……労働のない食事のように、私は悪人だから泣いてはいけないの。なのに、何で?】

「……有好人不哭,仅此而已。你是个坚强的人……你应该为自己感到骄傲,能够超越理性,掌握理性,也是一种天赋」【泣かない善人もいよう、ただそれだけじゃ。お主は人間としてたくましいのじゃ……誇れ。道理を越えて一周回り道理を掴めるのも、1つの才覚じゃろうて】


銃声に対して、集まってきた衛兵の数は異様なほど少なかった。シュエメイは泣きながらナナミに抱き付いて、そして衛兵たちは銃を構えた。振り返ったナナミの顔は、弾痕をハッキリと印しており、付近には弾頭が凹んだ状態で転がっている。


兵士の1人が、銃を構えながらナナミを狙い部屋に入る。


「……あんた、ナナミってんだろ」

「……おぉ、これでも分かるか」

「その眼……アンタ、本当に何者だよ」

「ちょいと産まれが特殊な、そうじゃな……ご令嬢とでも言うておくか」


兵士の銃の引き金に、指はかかっていなかった。


「……正直、これに関してはこちらにも非がある。そこの死体は俺が片付けておく。お前らは、やりやいことやってくれ」

「銃声が鳴ったにしては、駆け付ける衛兵の数が随分と少ないの……」

「それだけ、この街で銃が撃たれてるってことだ。アンタ、この戦争を止めに来たんだろ?」

「ふっ、そう見えるか?」

「……いや、もう何でもいい。止めてくれこれを、この戦争を。望んだら奴こそいるが、結局俺たちはただ上に従うしかできないんだ」

「弱き者の鉄則は、強者の邪魔をせんことじゃ。お主は、それ分かっておるの」


兵士は小銃の引き金に指を通すと、部屋の扉を閉じた。しかしつかの間、走ってくる音が二つ。1つは屋根を通って、もう1つは建物のなかを走っていた。兵士とが銃を構えた瞬間、それは下ろされた。


「雪梅……!!」


部屋の扉が開けられる。赤毛で狐の獣人だった。雪梅がうめく。


「ナタ……リア……」


雪梅が倒れこむ。出血は羊水に薄められ、より際立って流れる。ナナミが自身の包帯を取ると、眼に巻き付ける


「ナナミ、あなた何しに来たの?」

「要人の場所を聞きにな」

「ノンナは奥の工場、ポルトラーニンは列車砲の搬入を指揮しているわ」


フアンが割れた窓から入ってきた。ナナミは眼を隠し、フアンの方角を見る。


「こやつらのことは任せて先を急ぐぞ。爆薬は?」

「はい、手に入れました。しかし……」


フアンは雪梅の出血具合と鼓動の弱さ、そして1つ鼓動がなくなっていることに気付いた。


「……ナタリアさん、お願いします」


フアンとナナミは窓から屋根へ這い上がる。


「爆薬は?」

「……柄付き手榴弾を束ねて、安全装置に細工を施し線路に敷設しました。勿論雪に埋めてあります。機関車が上を通過した場合、安全装置が外れて、下から機関車を吹き飛ばします」

「なるほど、あやつの速さを利用するわけじゃな?何もかもやるなと言うておいて、しっかり策を講じるとは中々じゃ。であれば機関車はもう問題ない、じゃがポルトラーニンとイェングイ、ヴァルヴァラとノンナ、探さねばならん者は多いぞ」

「……はい!」

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