六話 ソードオフ
六話 ソードオフ
ユリウスが、一枚の報告書を長椅子の前にある机に提示した。ヴァルトがそれを手に取り読んでいると、ユリウスが話し始める。
「半月ほど前、首都オルテンシア内部で、ベストリアンによる集団的暴動が発生した。アドリエンヌ最後の都市、首都オルテンシアは亜人・獣人によって占拠されている。驚くべきことに、使われた武器が……これだ」
ユリウスは机の上に、一丁の銃を置いた。アル=ライスが驚く。
「……ソードオフのボルトアクションだって?」
ヴァルトが引き金や取っ手を握ると、ほとんどリボルバーのように手に収まってしまった。ユリウスが溜め息を出す。
「……しっかし切り詰めすぎだなこりゃ、こんなの至近距離で頭狙っても爪先かするぞ。命中率なんか合ってないようなものだ。だが……持ち運んで数揃えるなら最適解」
「そう、そういうこと。連中ははなから亜人・獣人をどこからか運びだし、兵士として利用しようと考えてた。おそらくどこかで機会を見計って、一斉に運搬した。帰還兵制度利用者の中で、早期に帰還する申請が受理され、その運搬が終わってすぐだ。奴らがギムレーからレルヒェンフェルトまでどう運んだのかは不明……デボンダーデが終わって、さらにベストロがまったく見られなくなったのが、おそらく発端だろう」
「見られねぇだ?」
「君らがいなくなってからも、アドリエンヌとイェレミアスは絶えずベストロを討伐し続けた。だが小規模な衝突こそあって、それ以上はなく、人海戦術で西陸は安全を勝ち取った」
「つまりだ、亜獣第一党の目的は、反乱を起こさせるとかじゃなく、国家の奪取って話か?」
「察しがいいねぇ、つまりそゆこと。敵さんの考えも分からないでもない、ベストロという脅威に一時的とはいえ対策しなくて良くなった。奪うには上々の機会」
「奈落からベストロは来てねぇってか?」
「うん、まったく報告なし。君らがシレーヌを討伐した時点で、いや、第三次デボンダーデが訪れた時点で、ベストロも数が少なくなってたんだろう」
「50年以上人類を攻撃しておいて、今になって底がついたってか……そんな都合良く?」
「アドリエンヌの情報は、ちゃんとした人たちからの情報だから、安心してくれな」
「嘘だって報告の方がマシだろこんなの」
「まぁね……さてどうしようか」
シャノンが長椅子から立ち上がった。
「イェレミアスの戦力、ギムレー側の、アドリエンヌ反乱部隊踏まえた戦力。まずはそれを知る必要がある。今我々は、挟撃の危機に晒されている」
アル=ライスは、地図を広げた。
「個人的には、ギムレーかオルテンシア、双方の防衛に務めるのは避けたい」
「賛成だ。敵さんは分かってるんだ、今のレルヒェンフェルトにあまり物資がないことを……ハーデンベルギア陥落以降、ここレルヒェンフェルトは出来得る限りで開墾したがそれでも、全盛期ほどの資源はない。第三次デボンダーデ到来による被害の影響もあって、歴例年最多で帰還兵制度利用者がいて、それを食わせるために冬備えの食料すら削ってしまった。そこに包囲からの兵糧攻めって、もはやこっちのこと筒抜けだっつうか……そこまでして傷つけないでここが欲しい理由ってなんだ?まぁ確かに、建造物としては、この街の価値はたかいけどさぁ」
ムタリカが手を上げる。ユリウスが指差す
「はい、そこの綺麗なお姉さん」
マルティナがユリウスの頬をつねなか、ムタリカは話す。
「相手が海岸線を押さえに来る可能性があります。国家を略奪したい理由は、南下政策なのでしょうか。話によればギムレーは非常に狭い、山間部の寒冷地にあると聞きます。極寒により土地そのものが零土と化し開墾も難しいでしょう。」
アル=ライスは顎に生える髭をかいた。
「……それだけだとは思えないな」
「と言うと?」
アル=ライスはミルワードの言葉で話を始める。
「……ハッキリと、上になりたいんだろう。亜人・獣人はしいたげられてきた。その思いは継承される。ギムレーで産まれて、実際に人類から被害にあったことなくとも、先祖代々受け継がれる悲しみだってある。芽吹いた恨みは草原のように広がる。ヤツらの目的に1つの目星を付けるとしたら、現在の人間とベストリアンの相関関係の逆転、ベストリアンが、人間を差別する世界だ」
ムタリカが翻訳してユリウスに伝える。ユリウスは立ち上がり、窓を見た。夕暮れになった緋色の空は燃えている。
「……たまーに、娯楽小説とかにあるよねぇ、復讐は何も生まないって……なんというかさ、復讐を無価値だと思うのって、自分の被害が計算できない人か、復讐先が存在しないほど恵まれた環境で育った人だけな気がするんだよな。あるいは、本当に復讐を無価値と思えるほど人徳のある人物……そんな外れ値さんの言うこと聞く暇あったら、そらやり返すほうがいいに決まってるよなぁ」
シャノンは、ユリウスのそばによった。
「復讐は諦めるか、それ以外は連鎖です。そして人であれば、当然諦めないでしょう」
「俺別に、亜人さんや獣人さんらをマジで殴った経験ないんだけどなぁ」
フアンが話す。
「……ミルワードで、かつてこんなことを言った人物がいました。復讐は直接なほうが良いに決まってるだろう。だが、それは加害者を特定できるならの話だ。差別、戦争、迫害、そういうのは被害者も加害者も膨大、となれば、もはや敵と仇の境界線は曖昧になる。被害者っていうのは、傷を治そうとしない身体がないように、あがってしまった拳をつい振りかざさずにはいられない、そして振りかざせないときが多いほど、かざす相手を選ばなくなる……」
ユリウスは、資料を見る。
「ミルワードもミルワードで、被害者を作り出すことは多い……聞いてますよ、督戦隊の話。」
「督戦隊ですか……植民地を広げるための、兵士の指揮を一時的、強引に引き上げる政策でした。工業化により手工業が廃れた結果で街に溢れた者を兵士とすることで、できる限り国の糧になってもらうための工作だったと、私は考えます」
「人口を意図的に減らしたってことですか」
「そこから先の時代は、植民地の人間同士で争わせる、代理戦争の時代でした」
「こと戦争においては、やはりミルワードの御人に任せた方が良さげで?」
「……まぁ、流させた血の量では勝りますので」
「すっごい嫌そうな顔、君、本当にミルワード人なの?」
「産まれ以上に変えられないものはないのに、どうしても忌避してしまいます」
「……じゃ色々と話、詰めていこっか。こっちの手札、あっちの手札……ギムレーの方とも、ぜひお話を交えたい」




