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ブルートアウス ~意思と表象としての神話の世界~  作者: 雅号丸
第7章 世々後天

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三話 性

三話 性


ブラッドはタバコを吹かしながら、リンデの隣にきた。リンデは少し離れる。


「……ったく」

「バレたか、触ったって減らねぇだろうに、嬢ちゃんどっちもくっそデカイもんなぁ」

「はぁ……」

「まぁとはいっても、あっちの娼婦なんかと比べればの話だ」

「娼婦?」

「俺にはなぁ、ミルワードを出てから、コソコソと紛争地帯だったり、プランテーション・大規模な農作で支配された土地、とにかく植民地を回って、色んなやつと出会って、ヤってきた。金欲しさが一番、次点で寂しさ……まぁ、悪くはなかったがな」

「何を自慢気に……」

「植民地の娼館の連中は、なんつうか全員痩せこけてた。無論、戦う気力を奪うために、意図的に国力や食料自給率を下げてたんだろうなぁ。男ならまだしも女子供がガリっガリ、ほぼ骨だった。それと比べりゃ、アンタはベッピンだよ」

「……どうも」

「してな?結構面白い奴もいたんだ……ていよく学を覚えた、女の娼婦がいた。飯をどう食ってるのか聞いたら、色んな男に手堅い女を装って近付き、口説き落としてる感じを演出、最終的にはタダで抱かれてやってるときた。相手を調子に乗らせて関係を持って、浮気させるなりガキを産んでみるなりで、何人もの男を最終的に手玉に取るんだと。ったく、タダより高いものはねぇぜ」

「たくましいわね」

「まんまと俺もひっかかっちゅまった……」

「……アンタ、子供いるとか言ってなかった?」

「ソイツとのガキだ。俺は知り合い、いやビジネスパートナーと穴兄弟になって、相手は女のことをめちゃくちゃ愛してた。そのことバラされそうになって、口止め料金を稼ぐために奔走、気ままな遊びの旅は終わりを告げた。まぁ話は合ったからよ、一番のお気に入りだって、このことを教えてもらった。だがそこで俺は、もっと悲しい事実を知った」

「悲しいって、あんたの人生でもあったりする感情なのね」

「俺も驚いたぜ……俺は、悲しかった……ソイツなぁ、俺でも誰でもねぇ、男でもねぇ。同じ町にいる食堂の給仕の女のことが、好きなんだとよ」

「えぇ?」

「驚いたし、そりゃあ男のことをどこまでも雑に扱えるワケだって、合点がいったさ。ソイツの、いわゆる恋愛の対処に、男が存在しなかった……それを知ったとき、俺はコイツの信頼をこんなに持ってるのに、コイツの心ははなからピクリとも俺には向いてなかった……向けることすらできないと悟った。あいつの心に、俺はいなかったんだ」

「まだ、悲しい?」

「本気だったって気付いたのが、一番こう……グサッときちまった。俺もアイツも、好きなやつにゾッコンだった……」

「……」

「お前があの黒髪の嬢ちゃんを見る目な、似てるんだよ。あのとき給仕の女を、酒場の2階の手すりから、酒を持って眺めてたアイツの目とな。きらびやかで、明るくて、美しく大きな、もっと見たい!って訴えるような……」

「……そう、なのね」

「……お前、別に悪いことして生きたワケじゃねぇんだろ。悲しいことってのは、俺みたいな女癖の悪い、悪人にこそふさわしいわけで、お前みたいな嬢ちゃんにゃ似合わない。もっと気張って、諦めないでみたらどうだ?」

「いいえ、私は悪人よ。途中から間に入って、無い可能性にかけて、夢中になって頑張る。ただのアホな女よ」

「……あぁ、確かにそうだ。でも、他人の女に手を出してるワケじゃねぇ」

「……アンタ、話は聞いてた?」

「何のことだ」

「……私の考えなんだけどね。まず前提、彼……ヴァルトの特別な力はね、雷を落としたり、物体を創造したり多岐に渡る。自分を絶対に犠牲にした、事象の顕在化……って言えるの」

「へぇ、意味わかんねぇ」

「それで……あぁ、もう」

「すまねぇ、女の話なんてほぼオチのねぇ自分語りばっかだからよ」

「顕在化っていうのをするんだけど、その犠牲は主に肉体だったの」

「髪の毛とかか?うおぉ、きちいぃ」

「違う、筋肉量低下、血の量の低下よ」

「便利じゃねぇか。飯食えば治る」

「でも、犠牲になる規模と、顕在化させた現象が釣り合わないことが多いの。雷を落とすとかって、その犠牲ってのヤバそうじゃない?」

「おぉ、確かに」

「でも雷を落とすよりも、物体を作り出すときの方が、記憶の上ではより如実に疲労してた」

「……なんか、歪じゃねぇか?物体って、物だろ?雷より水とかのほうが作るのムズいってか?」

「そういうこと」

「……さすがの俺でも違和感だな」

「でも、私が消えかけたように、さすがに高火力になると犠牲は大きいみたいなの。私、自分が消えてく感覚を覚えてる。感覚をがなくなってくあの感じ……でもそうなると、変なの、ヴァルトが私と同じくらいの火力を出したとき、彼は別に消えていくワケじゃなかった。身体は私になったけど、身体が消えていくワケでもなかった。唯一消えたのは……ノイとの記憶・思い出」

「……はぁ?自分を消しかねない大技の代償が、あのガキはたった記憶だけだって?」

「私、ちょっと考えちゃった。物体を作ることより重たい犠牲を払う、力の顕現。私が失いかけたのは身体で、彼は記憶……妄想でしかないけど、悔しいし、悲しいの」

「……その力に、肉体とかの物体なんかより、犠牲はとして記憶が適任だって選ばれたとでも?」

「物体って、雷みたいになんか細くてスカスカじゃなくて、詰まってる感じしない?」

「分かってきたぜぇお前の考え。つまり、ヴァルトの考えるノイとの記憶・思い出、その全てが、物体を越えほどに犠牲の対象として優れてて、その謎の力に選ばれた。物以上に、肉体以上に、奴にとって記憶が。ノイ嬢ちゃんとの思い出が……」

「……大切だったんじゃないかなって……私、力に言われたみたいなのよ。彼と比べれば、アンタなんか思ってないと一緒だって」

「お前が力を使っても、ノイの記憶はあったわけか。犠牲として選ばれるほどに、ヴァルトの坊主の、ノイへの思いは、強い……かぁぁぁぁ、お前なんちゅうこと思い立ってんだよ。お前が悲しいだけじゃねぇか」

「……両片思いの二人に、割って入った恋敵。ねぇ、私……やっぱ悪人じゃないかしら?あははっ」

「嬢ちゃん……」

「遅すぎたのよ、私は……いや遅いとかじゃない、私はお門違いで、しかも人間的には破綻者、罪人にしては上等よ」

「誰がよぉ、自分が好きな奴の好きなヤツが生き返るなんてこと思い付くんだって話だ。お前はあの女を幸せにしたかった、そこが変わらねぇなら、お前は悪人なんかじゃねね」

「いいわよ?私のこと触ったって。私、いま自暴自棄だから

「……アホ、男ってのはな、女の涙みたらピクリともこねぇんもんなんだよ」

「……えぇ?」

「はぁ?お前今、泣いてるんだぞ。分かってねぇのかよ……」


ブラッドはタバコを海に投げ捨てると、リンデの背中をさする。


「ガキが、ったく。大人より立派になってんじゃねぇよ。ほら、落ち着いたら寝るんだ、いいな?」

「……ありがと」

「ははっ、結婚したくなったら言えよ?三食昼寝に子種付きだ」


リンデはブラッドの陰嚢を蹴り飛ばした。


「とりあえず、子種は付けられないみたいね?」

「……目が覚めたぜ。こういうのもアリだな」

「ホンッとサイテー……」

2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。

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