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ブルートアウス ~意思と表象としての神話の世界~  作者: 雅号丸
第7章 世々後天

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二話 sigを冠する

二話 sigを冠する


黒い空間にこだまする、壁を挟んだかのような、遠く感じる声。


「完璧とは、末恐ろしい。いくらかの欠点より尚たち悪い。完璧という像は、誰よりも人を騙し、嗜み、しかし正しく存在できる……」


ヴァルトの眼前にこだまする近い声、目を開けるヴァルトの先には、薄いヴァルトがいた。


「俺はどうなる?」

「……意識がある、つまり生きてるってことだ」

「……そうか」

「確認だ。人は人が立ち上がる姿にしか興味がない。なにかができる者しか、存在価値はない」

「……いや、人間はそんなんじゃねぇ、もっと色々なその価値の量り方があるんじゃねぇのか……?」

「そう思うのはお前の勝手だが、価値の尺度はまず見える部分に集約される。お前だってそう思うから、モノを作ることにしたんだろ?まぁ、趣味に合ってたってのもデカいがな。確認だ、皆がなんでも、とにかく、代わりにやってくれる人を常に探している。価値を望むクセ、自分で価値を作り出すことなんて面倒だからゴメンだ。いいか、心に刻め……膝を折って涙を流すことに意味なんてないんだよ。立ち上がるのを待ってくれる程、他人という存在は優しくない。お前は良いことに、物作りには適性がある、得手不得手を理解し、伸ばせ」

「……いや、だから」

「だいたい、お前……他人の価値はなんだって思ってるんだ?」

「価値……そんなもん……そんなもん……」

「……分かんねぇだろ?お前、他人に興味あんのか?」


ヴァルトの声に、猿の遠吠えのようにこだまする。ナーセナル、崩れた館、その場にはノイとハンナがいる。ハンナはノイと手を繋ぎ、走り出してヴァルトを越した。


「兄さん遅い、皆待ってる」

「はぁ?お前ら無理すんなって……も」うみんな死んでんだろ、待ってるってどういうことだ?死んだらただの死体じゃないのか?


「ずっと計って、ずっと取り入れて……あのおっさんが言ってた一言で自分を帰るほど、自分すら持ってなくて……お前、そのことバレるんじゃねぇぞ?この社会は狭い、異物を排除するために社会がある、文化がある、集団生活がある。最悪でも、一つだけ守れ」

「分かってる……」


両者の言葉がかさなった。


「「ノイにはバレるな」」



揺れる暗がりでヴァルトは目を覚める。掛けられた布は分厚く、めくるようにして起き上がろうとする。湿気った匂いが潮に現れ、寝床が大きく揺れた。


平らな寝台に倒れそうになったとき、ヴァルトは身体を強い力で包まれる。かなり強めの感覚。沈み込むようになるも顔をあげると、そこにはノイがいた。黙ったままのノイは、しばらくの間、ヴァルトを離さなかった。ヴァルトが力を込め、肩を持って離れようとすると、ノイは力を緩める。ヴァルトはノイと目があった。


「あぁ、えっと……ん?」

「……なんて、込めればかけたらいいか、その……分かんなくて。でも、嬉しくて……ごめん。痛かった?」

「……いや」

「そっ、か……」

「……俺は、どうなった?ここはどこだ?」

「……あぁ、えっと」

「ここ船だろ、ギムレーはどうなった?お前、マジで身体は大丈夫なのか?なんだおい、幻覚だったのか?」

「落ち着いてヴァルト、全部説明するから……あぁ、でもどうしよ……」


ノイはヴァルトを背負うと、歩き始めた。


「おい、俺は大丈夫だろ」

「いや、ごめん。本当にどうすればいいか分かんなくて、なんか本当、今のヴァルト、どうすればいいのか分かんないの」

「はぁ?」


ノイとは甲板へ出た半月が立ち上る夜。視界にうつる水平線は星に飾られている。そして、フアン。そして、白い髪を後ろ手に縛って垂らす、女性がいた。


「……あぁぁ?」


自分の格好とほとんど変わらないその女性に、ヴァルトは驚く。フアンと女性が近寄ってくる。その女性は、ノイと視線を合わせると、下を向いた。


「……あぁ、えっと、その……アンタが、ヴァルトね?」

「あぁ、そうだが」

「……私、リンデ」

「……随分と俺と格好が似てるんだな」

「そう……ね」

「その武器……俺のだな」

「そうね、半自動の火薬の装填。使いやすい、わよ」

「……そうか」


フアンが、間に入る。ノイにヴァルトを下ろさせると、ヴァルトは歩いた。フアンが肩を持って補助する。


「お前も無事だったか、今、どんな状態だ?海にいるってことは、リヴァイアサンぶっ飛ばす算段でも……」

「ヴァルト……えっと……その……オフェロスさんとは、会話できますか?」

「あぁ?そりゃ……」

ヴァルトは心に声をかける。しばらく波の音が響く。

「……ダメだ、寝てやがんのか?」

「そう……ですか」

「……なんかお前、どうした?なんか、たどたどしいっつうか、なんつうか」

「えっとその……ヴァルト」

「なんだよ」

「身体に異常は?記憶に何か欠損とかは、ないですか?」

「まぁ、特には……俺が、そのなんだ、ブチキレてからのことはあんまだな」

「そうですか……」

「いや、マジでどうしたんだ。でコイツ誰だ?」

「現状、いや……経緯を、全て教えますね」

「何だよ、経緯って」


ヴァルトによるギムレーの救出、ヴァルトの消失、ジークリンデの顕在化、リヴァイアサンの討伐、ミルワードへの渡航、蒼騎士病とゼナイド・バルテレミー、魔天教の真相、リンデの活躍、そしてリンデとヴァルトの再びの顕在化、ヴァルトが【消失】していた時期に起きた出来事を、フアンはただ、赤裸々に語った。ヴァルトは頭をかきながら、上を向き、下を向き、水平線をみたいり、甲板を歩いたり、風を吸った。少し血生臭い、肉の焼けた臭いがあった。


「……俺は、俺は……じゃあ何だ、一回死んだ、ってことか?」


フアンとノイが、ヴァルトを挟んで、三人で水平線を望んでいる。フアンがヴァルトに顔を向ける。


「それは……不明です。ただ言えることは、ヴァルトの身体からヴァルトが消えて、リンデになっていた」

「俺が消えるっつったってよ……はぁ?さっぱりだ」

「リンデさんも、さっぱり……だそうです。ギムレーでも議論はされましたが……全て、分からず終いです」

「……お前、俺にオフェロスと話せるか聞いたよな?」

「はい」


ヴァルトは振り返る。中央で帆を立てる柱に、リンデは身体を預けるように、腕を組んで立っている。ヴァルトは近寄っていった。


「お前、オフェロスとは」

「……話せない」

「そうか」

「消えた、ってことよね?アンタみたく」

「さぁな」

「……ねぇ、ノイの話だとさ、アンタ結構頭良いのよね」

「へぇ」

「どう?何か思い付いたり、思い当たったり、する?ギムレーまで、あと2~3日はかかるし、やることもないし……色々と、考えるにはもってこいの時間なのよね」

「まぁ、そうだろうな。だが一番謎なのは……」

「アンタ、そして私……そしてオフェロス」

「お前はどう考える?」

「そうね」


リンデは、背中にかけていた狙撃銃を取り出すと、布を取り出して磨く。


「……思うに、私は記憶と関係性があると思うのよね。前提として、ヴァルト。私はあなたの記憶を持ってるのよ、ただ一つ、ノイのことを除いてね」

「……はぁ?」

「フアンのことも、ハンナのことも、フェリクスだってマルティナだって、機関車の操縦技術から刀剣の扱い方まで……でも、ノイのことだけは分からない。あなたが私になったときの私は、そんな感じだった、だから私にノイの情報を流し込めば、そのままヴァルトになるんじゃないかって憶測も出たのよね」

「……誰だよ、そんな単純計算考えたアホ」

「ヴァルヴァラよ」

「あんのババア……」

「そういうワケで、私はヴァルトと私、そしてオフェロスという3つの者。これを繋げるのは、記憶なんじゃないかって思うわ」

「記憶……ねぇ」

「あなた、幼少の記憶はある?」

「……いや、ない」

「私はね……あるの」

「……はぁ?」

「あなた、ノイのことを知ってるなら、ノイとの思い出とかはあるのよね?」

「……まぁな」

「……私たち1人ひとりが私たち自身である理由、それって、やっぱ記憶とか思い出、よね?」

「詩的な考えをすればな」

「……そう、だから私は記憶とか思い出が重要なんじゃないかって思うわ、たったそれだけだけどね。オフェロスのことは……そうだ、アンタ、力は使える?」

「力だ?」

「なんて言えばいいか分からない、名前なんてついてないし……ほら、雷ばぁーんってやったりする」

「あぁ、これか?」


ヴァルトは腕に雷を纏わせる。


「……アンタは、できるのね」

「……お前は?」


リンデは腕を胸前に出す。ただ、それだけであった。


「……できなく、なったのよね」

「できなくってお前……いや、お前は、つまりなんだ、俺な、ワケなんだろ?」

「……そう、とも言えるのよ、だから余計おかしくて」

「これ以上考えるとはよそう」

「そう、ね……」

「まぁあれだ、とりあえずよろしくな」

「……あぁ、えぇ」


フアンがヴァルトを連れて船内へ戻っていった。リンデが、水平線を見るノノイの隣にきた。


「……あれが、ヴァルトねぇ」

「そうだよ」

「口は……悪いわね」

「ヴァルヴァラのこと、ババアって言ってたね」

「まったく、女の子の前で何してんだか」

「えぇ?」

「……アンタ、気付いてないのね」

「んぇ?」

「お互い鈍感なことね……まったく」

「えぇ、もう分かんないって」

「……ずっと見てたわよアンタ、ヴァルトを」

「うぇ!?えっと、それは……」

「隠さなくたっていいわよ別に」

「……ごめん」

「私が生き返ったよりも、ヴァルトが生き返ったことの方が、きっと嬉しいんだろうなぁ~」

「そ、そんなこと!」

「ごめんごめん、意地悪させてよちょっとくらい」

「んえぇ、なんで?」


リンデはノイを抱き締める。少し長い。


「私、覚悟決めてたんだから」

「……ありがとねリンデ、生きててよかった」


リンデはノイを離した。


「……そうね、そう思うことにしましょ。ほら、アンタもいきな、ひょっとしたら

フアンにヴァルト取られちゃうかもよ?」

「何言ってるの……あぁ、えっと、でもヴァルトの側にはいたいな」


リンデが目をノイから背けた。


「じゃあね、先おやすみ!」

「……えぇ」


リンデは1人、月を見ていた。後ろから、歩いてくる音がする。段々と煙たい香りが漂ってきた。


「……へっへっ、二人っきりだなぁ」

「気持ち悪いわいわよ、ブラッド」

「……はっはっ、しかしお前、随分諦めがはやいな」

「……は?」

2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。

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