二十八話 拳を握れ
二十八話 拳を握れ
呼吸を整えたヴァーゴ・ピウスは、翼を羽ばたかせる一挙動のみで距離を零にし、内側を破壊するように拳を3度、関節や胸部に抉り込んだ。アマデアが動こうとすると、鈍る。
(動かない……なら、直して、生やすまでです)
触腕を追加で無数に生やし殴り込むアマデア。その腕部が掴みかかる瞬間に関節をひねり破壊し、そのつど引きちぎっていく。無数の長い触腕を螺旋状になるまで絞るように束にして、一本の丸太のようにする。
「使わせてもらうぞ!!」
槍術の応用のように、質量のみを持った槍でアマデアを一撃殴る。崩した直後、全身で回しながら打撃を続け、相手が青いアザだらけになったところを追撃する。アマデアは腕を千切ると骨の剣を取り出し、丸太のような腕の束を切り裂いた。
「お互い、得物はあるようで」
「あぁ、獲物だ!!」
舞うような腕の束がアマデアの顔面に迫る。先端部分を刀剣で削ぎ落としていき、長さを削る。ヴァーゴ・ピウスは武装を投擲する。束を力技で横断すると、正面からヴァーゴ・ピウスが飛び込んでくる。
一撃一撃、打撃部位を破壊しながら連打を行うヴァーゴ・ピウス。顔面を砕いた瞬間、息切れしながら心臓を抜き取り握り潰した。しかし間髪入れず、アマデアがボロボロの腕をヴァーゴ・ピウスに向ける。
「……??」
アマデアの腕が貫通し、中から骨の剣が飛び出る。ヴァーゴ・ピウスは眼前に剣を向けられ、翼の軌道で直撃を回避する。首を若干斬ってしまいながら崩れるように滑空していく。
「あぁ……そうですね……」
腕で腕を掴んで、そのつど引きちぎっていく。先端の腕から骨の剣があふれ出た、真っ直ぐに力んだ、腕の槍を作り出す。
(槍……アマデアはあれでも、戦闘それ自体は強くはない。レドゥビウスのような動きはできないだろう……槍なら、半身で近寄り間合いを無くして……ん!?)
アマデアは唐突に、触腕や脚部を束ねて翼を形成すると、羽ばたいてヴァーゴ・ピウスを吹き飛ばした。
「くっそ……いきなりなんだ!?」
骨が折れる音、肉の抉れる音。ヴァーゴ・ピウスの目の前に、生々しい兵器が現れる。
(なんだ……なんだこれは……!?)
アマデアは肉と骨を抉り、螺旋状に絞った、クモの巣のような、投石器の様相をもった肉塊を組み立てる。赤々と腕で繋がった兵器の内部には、アマデアが千切って作った槍が装填されていた。
(投射器……兵器の類い、自らの肉体で作り出したというのか……!?!?)
肉の伸縮の音のみ、爆発など1つもない兵器から、空間を真っ二つに一閃するように、さながらレドゥビウスによる斧槍の投射を越える威力の槍が放たれた。ヴァーゴ・ピウスの腹は無くなった。胴体が下半身より先に落ちていく。ヴァーゴ・ピウスは、動きが止まったように感じる。髪の毛がアマデアに掴まれていた。
「いつか、誰かが言っていました。科学は力を妬み、それでも立ち上がる物にある最後の弾丸だとか。私は力に劣りますが、力以外で劣った覚えはありません。科学は力を生み出す、そしてあなたの負けです」
「……私は」
「何も守れてなどいません……いや、確かに私はあの二名を見失いました。あなたの勝ちと言えましょうか?」
「……妹を、なぜ殺した?」
「……我々に、家族の概念を導入したのは、間違いでした」
「あなたが守ってくれた……アマデア様が、狼に襲われる彼女を、助けてくれた。ソフィーは言っていた。狼を、たった小石の投擲で撃滅したと」
「あぁ……確かにそうでしたね」
「あなたの行いは……聖典に、あ、る。それだけじゃない……アマデア、あなたの行いは、様々な……書物に記載されている。世界全てにある、天女の伝説、旅人の伝説、翼を持つ女人の伝説。世界に存在する、それらに類する全ての伝承は……あなたと、主たる父が残した……旅の断片だ。あの禁書指定された、一対の旅人を執拗に求めたのは、やはりそれが原因だろう?貴様は、世界を、人間を、主たる父を、その誰らより知っている。アンタは全てを見てきた……アマデア、貴様は、どこで変わった?あれほど愛されていたのに、あれほど世界を愛していたというのに、ソフィーはあなたから、世界の美しさを知ったと言ったぞアマデア……世界は、今の貴様のように、ひどく……ひどく醜いというのか……?」
「……?」
「気付かないか……自らで腕を千切るたび、血は確実に、貴様を蝕んでいる。あぁ、主たる父よ……世界に…………………慈悲、を………………」
アマデアはヴァーゴ・ピウスの遺体を、湧き出るベストロたちの波に投げた。無残にも身体は引き裂かれていき、跡形はなくなった。
アマデアは、バビロンを旋回する一機の飛行機を見つけ、羽ばたいていった。




