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ブルートアウス ~意思と表象としての神話の世界~  作者: 雅号丸
第六章 蒼之肉叢

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二十六話 戦

二十六話 戦


斧槍の斧刃部分でレドゥビウスは老人の靴裏を叩く。勢いは乗り一瞬で老人はアマデアの前にいく。振り抜いて横を通過すると、風船の船の気嚢をけり飛ばして反転、アマデアに切りかかる。無尽蔵にわき出るような触腕を重ね盾を作りそれを防ぐアマデアは、その触腕を押し広げ花弁のように広げるようにして攻撃し牽制、距離を作ったところで触腕を束ね丸太の数倍ほど太くし、螺旋に回転させながら老人に放つ。


「おぉ、なんじゃそりゃ!?」


老人は大剣を振りかざし、一挙動で縦に振り抜く。軌道のそれた触腕に乗り込むと、根元であるアマデアに向かって走り込む。その太い螺旋状のあちこちや、アマデア本人からも向けられる触腕を大剣や拳や足で殴る蹴るでちぎり、突撃しながら触腕を押し込んで固め、一個の肉塊にしそれを投擲する。


アマデアが投擲に触腕を突き刺して止める瞬間に、老人は大剣に巻き付けられた鎖を解き放ち、放り投げるように、鎖をに繋がった分銅をアマデアの胸元に叩きつけた。打撃の威力のみで分銅はアマデアの胴体をちぎり、しかし肉片の一部は繋がったままであり、アマデアの脚部のみで、老人に飛び込んできた。


蹴りを入れる動きをするそれは、老人を驚かせるも体当たりでそれは破られる。飛び散った肉片は地面に落ちていく。老人は大剣の刃を構えアマデアの胴体に飛び込んで横に斬る。急速に胴体の出血する箇所から腕や脚を乱立させ、重ねて盾にすることで攻撃を防ぐ。


「あぁっ、クッソそうだった。さいせいだっけか」


触腕がしなり老人を殴り付ける。上空に投げ出される攻撃がきた瞬間、レドゥビウスが老人を連れさった。


「ったく、覚えろって!!アイツはすぐに腕でも脚でも生やす。攻撃にもそれを使ってくる、無限に剣とか盾を持ってるくらいに考えろ!」

「そういう感じか!?」


アマデアは生やした触腕を胴体から切り離すと、新たに下半身を生やした。


「いいか、お前の怪力なら、あの腕の束の盾を突破できる。俺の槍じゃそうはいかねぇし、投擲しても連続して攻撃性できねぇ、ジジイ、テメェが頼りだ!」

「……あぁ~、初代ジョルジュ、ゲオルギウスならこうはいかないんだろうなぁ~」

「……まぁ、アイツも苦労してたと思うぜ」

「はぁ?なんだお前知り合いか?」

「とにかくぶん殴れ、この老害が!」

「合わせろよ、若造!!」


老人はまた斧槍の平手打ちで靴裏を吹き飛ばされる。


(ジジイだの老害だの、俺はエヴァリストだっつうの……!!!)


エヴァリストは大剣を構え、鎖を解き放ち、分銅を投げ放つ。


「おらぁぁ!!!」


アマデアが分銅を受け止める間に、エヴァリストが接近。エヴァリストの真後ろ故に視界の外であった場所から、大きく振りかぶって一閃、レドゥビウスの斧槍が真っ直ぐ投擲される。エヴァリストはひるがえし、顔を地面と水平に、眼球の前を切っ先が通り、アマデアの胸部を貫く。


アマデアは中距離で背にしていた風船の船の気嚢の突き刺さり、吐血しながら力が抜ける。エヴァリストは気嚢にぶつかるもしがみつく。


「ん~、なんだこれ、ブヨブヨしてやがる」


レドゥビウスは斧槍を抜く、アマデアの抵抗はあったが力は少なく、湧いてくる触腕を、舞うような斧槍で凪払う。首を切断し動きを封じると、脳天を割るようにして斧刃を食い込ませ、そのまま低空へ連れ去った。


「お前のその不死身っぷりはめんどうでたまらねぇ、だが常に再生し続けるお前を、止める手段がある!!」


天空から地面に向かって一閃し、瓦礫やバビロンの濁流を破砕する。


突き刺さった斧槍、アマデアの首から下が徐々に形成されてく。レドゥビウスは翼で滑空し斧槍での柄を握るとそのまま地面で引きずるようにして、縦横無尽に地面スレスレで飛行し続けた。


斧槍に引っ付くようなアマデアの肉体は、再生した瞬間に地面は建物の壁ですりおろされていく。髪の毛のように生えた触腕すら、角度を変えておろすことで、完全に無力感していた。


「俺の体力がある限り、お前は動けねぇ。そして、その間にジジイと話にあったテオっつうヤツを片付ける。そんで残るはあのバケモン、3つとも絞めてやるぜぇ!!」


雪崩れるようなアマデアの肉片が、王都に溜まっていくなか、風船の船の気嚢を破って内部に潜入したエヴァリスト。内部は鉄の気球が溢れていた。気嚢の内側は金属の骨組みで補強されている。


(……不用意にぶっ壊すのもどうか、いったんテオに合うまで手は出さない方がいいか?いや、やっちまった方がいいか?どっちだ、どっちの方がいい?)


エヴァリストが顎ヒゲを掻きはじめる。


(くっそ、俺はこういうの苦手だっつうの……)


足場は鉄の管で補強されている骨組みに、穴空きの鉄板で足場が作られていた。揺れ動くなか、下を覗く。


「おぉ、こっわ」


鉄の擦れる音。エヴァリストは動きを止める。視界の奥、黒装束の者が1人、穴空きの銃身を持つ小銃を持って、半身になり片手を隠してやってきた。


「軍用硬式飛行船・L99、素晴らしいでしょう。大気より軽い浮揚ガスというものを利用した、空を飛ぶための、人類なりの羽根だそうです。穴空きの足場は軽量化を狙ってのことだとか」

「随分とやる気のある銃持ってるじゃねぇか?こっちの銃弾は、そんな片割れの金玉みてぇなの着けてんのか。まるで俺だぜ」

「相変わらずの口ですね」

「感動の再開にしたかったぜ、兄弟。で、お前なりのやってんだ」

「……私は、ただ悲しみを埋めたくないだけです」

「そうか……なぁ、これひょっとして、聖会の施設がぶっ壊れたこととなんか関係あんのか?あの日、何があった?俺にいきなり預けた黒装束のガキのことも……外にいるあのクソデカチャン姉と関係あんのか?」

「……ローズは無事ですか?」

「まさか、あいつてめぇのガキか?」

「……」

「……生きてるかは、怪しい」

「……残念です」

「俺は近衛兵っぽい連中に追われて、しゃあなしで奈落に入った」

「……やはり、奈落はあったのですね」

「奈落にいって……そうだ、あん時も天使に襲われた、ひょっとしてあのレドゥビウスとかいうヤツだったのかもな。くっそ強くてよ、奈落にいけば追ってはきまいと思ってたが、ベストロのことをうっかり忘れちまってた。疲れ果てるまでぶち殺し回って……すまん、俺は倒れた」

「あなたでも、倒れたのですか」

「力も万能じゃねぇみてぇだ。俺はじきゅうりょく?がねぇって、お前言ってたろ」

「……そうですね」

「……すまん、まさかお前らのガキかだったとは」

「いえ……でも、必ずゼナイドには報告を」

「アイツとは、うまくやれてたみてぇだな」

「いえ、そういうワケでは」

「はぁ?じゃあ誰とのだよ!?俺、結構手伝ったよなぁ!?ほら、誕生日だかなんだのって贈り物どうすればだとか、カッケェ男はどんなだとか、筋肉はどうつけるだとか!」

「若気の至りを……やめていただきたい」

「いや、だが……」

「私に子などいない……ただ、彼女に親がいなかったんだ。ゼナイドは……」

「……拾ったか、まぁお前ららしい、妥当だな……で、どうなんだ。昔話やってられるほど、あの若造の体力もない。お前が間違いなことは、さすがにこの状況をみりゃ俺でも分かる。言い訳はきかん、だがこの惨劇を止められるうちだってなら、俺に言え。勿論、まずはお前をぶっ飛ばすがな」

「……そう、ですか」

「……暴れちまってもいいな?この、船か。他に乗ってるやつは?」

「……いません」

「1人かよ」

「えぇ……全員、あれになりましたから」

「あのチャン姉か」

「……あの巨体を用意するのに、少しでも多くの肉が必要でした」

「まて……お前、何人殺した……!!!!」

「ミルワード国民、総人口3050万人……魔天教信者、87名」

「淡々と、何言ってやがるてめぇ!?お前、自分がしたこと分かってんのかよ、あ〝ぁ〝!?!?」

「どうなのでしょう。私は、何を思っているのでしょうか」

「少なくとも、楽しいワケじゃねぇだろ!じゃあなにか、お前が楽しくってうん千万人の人間殺すために、着々と計画練ったってか!?人ぶっ殺す計画立ててよ、お前一瞬でも楽しいって思ったかよ!?なぁ教えろ、お前そんなんじゃなかったはずだ。優しくって、人1っバイに物考えれて、んでメチャクチャに女に不器用な、くっそ普通なガキだっただろ!!なぁ、何がお前を、そこまでに変えた……産まれか、育ちか!?いいや、産まれも育ちも、お前は確かに特殊だ。じゃあこうなるかって、俺はそうは思えない……お前は、優しいんだ。すっげぇアホほど優しいやつだ!!」

「……私は、優しいのでしょうか?」

「あぁ、そうだとも。俺がワケも分からず腕っぷしでのしあがった後も、なんか変にすりよってくるってワケもなくよ、友達でいることをやめなかっただろ!普通に接してくれたじゃねぇか!」

「……そう、ですね。私は、確かにあなたと友達だ」

「……何がお前を変えた!?俺は誰を殴ればいい!!??」

「……私は、世界を殴ります」

「テオ……」

「……あなたは、私を殴って下さい」

「……くっそ!!」


エヴァリストは背負った大剣を持とうとするも、テオの銃から弾丸が出てくる様子はない。片手を執拗に隠したまま、半身で警戒をしているだけである。


(コイツ、撃つ気がねぇのか?いぃや待て待てよぉく考えろ。撃たねぇじゃねぇ、撃てねぇかもしれねぇ、弾が入ってない?いぃやそんなワケねぇ。つまりなにか、ここで暴れるのはイケネェっつう話か?まて……コイツさっき、ふようがすとか言ったな。がすってなんだ?だが、この周りの鉄風船、分かったぜテオ……)


エヴァリストは握った柄を慎重におろし、大剣を下に置いた。


(火花散らしちゃマズイ。そういうことか……ははっ、俺ってば天才ぃ!!)


刀剣を置いた瞬間、テオはその銃を連続発射する。排莢された黄金色の薬莢が散らばる。その弾丸は周囲の鉄風船を破り、中から外へと気流が発生する。


(ごめんなさい、エヴァリストさん。あなたは常に勝ちたがる……それが例え自分が相手より劣っている部分であっても)


左手から、柄付きの手榴弾が4つ投擲され、銃が放たれる。


(ですが、ばかすという行いにおいて、私は先にいます。これで眠って下さい……)


手榴弾の爆発でテオは気嚢から飛び出た。あちこちの気流が熱を持って赤熱し、飛行船の気嚢全てが大火力の爆弾のように吹き飛んだ。空気の揺れは全てを揺らす。黒装束の男が落下していくのを、複数の翼を持った、羽が回転する機械に乗ったアーサーが回収する。


「……これは?」

「最新鋭の複葉型戦闘用意飛行機、空を制するための兵器だ。大口径のマシンガンを二門搭載してある。複葉には直進する擲弾筒もな」

「……そうですか」

「そのエヴァリストという男が来る保証なんてどこにもなかっただろう?どうして事前に準備できたんだ」

「……あの人は、仲良しと思う人をよく、兄弟と呼んでいました。あの正義と力のみに人格を与えたような方が、私を止めようとしないはずはありません。いつくるかまでは、そうですね、感です」

「私も、エリザベスのことをそれほどに感じられることができたら……」


爆風のなか、黒焦げの者が1人、飛行船から落ちていく。


「……さようなら、兄弟」


横から真っ直ぐ飛んできた天使が、黒焦げの者を奪いさるように救出した。片方のみの翼で旋回しながら、周囲をバビロンの生み出す口の海に囲まれた廃墟の屋根に不時着する。


「いっっ、てめぇ、何してやがる……!!」


黒焦げの者は立ち上がり、煤を払った。


「あぁ、くっそ……しくじっちまった。まさか、俺をやるためにあんなデカイの持ち出したワケ……あるか、くっそ。若造、水かなんかあるか?全身火傷だぜ」

「火傷で済んでるのはキショイだろうが」

「で、アマデアは」

「再生が俺の思ってる倍は早い……あのクソアマ野郎、今まで俺がアイツに挑んだとき、本気じゃなかったってことだな」

「お互いバカされてら、悲しいねっあぁいって……あっつかったぜマジ、くぅ、あぁ、ヒゲ焦げてねぇよなぁ……」


エヴァリストとレドゥビウスの側に、羽根が落ちる。五体満足の艶かしく、常に睨んだ表情の天使が、日を塞いでいくほど巨大化していくバビロンを背中に、触腕を生やして手足を絡むように生やし、巨大な翼を果たしていた。


「……レトゥム・ノン・クワド・フィニット」


エヴァリストが肩を回す。全身の違和感と疲労感で背筋がまがる。首を鳴らすレドゥビウスは斧槍を握る。


「なんつったか知らねぇけど……いや、普通になんつった??」

「てめぇ、結構やられてんじゃねぇか……死が全てを終わらせる訳でない、野郎の口癖だ」

「へぇ、で不死の怪物は俺らに何ようだ?なんかクッソ睨まれてる気がするのも気のせいじゃねぇだろ。おい姉ちゃん!!てめぇが人間をどうこうしようって話なら無理なこった、人間は思ってるよりしぶといぞぉ?仮に世界がどうこうなろうって時、俺はゴキブリか人間どっちが生きるかって話があったら、迷うことなく人間を選ぶぜ」

「……えぇ、その、考えには私も賛同します」

「おいマジかよ、俺いま天使と会話してるぜ!ここはあの世か?」

「あの世などありません」

「へぇ、天使が言うならそうなんだろうな。で、神さんは俺らに何か求めてるのか?ぶっちゃけ聖典教のこと、お前らはどう考えてんのよ」

「……羊飼い」

「言えてる……んぁ?まて、言えてるのか?」

「さすが先代ジョルジュ、知性の低さは噂通りですね」

「おうよ、お陰で毎日驚きの連続だぜぇ?目玉いくつあっても気付いたら飛び出ていっちまう」

「……下らない」

「おいおい、これテオが考えてくれた最強の返しだぞ?それがオモんないっつうのは……ったくこんなこと話してるワケにもいかないか。お前、結局何がしたい?どうせテオのことも、てめぇがたぶらかしたんだろぉ?」

「……はぁ??」


アマデアはいっそうの睨みをこめ、低く吠えるように、エヴァリストを威嚇した。


「たぶらかす???私は、そのような下賎な女ではない……!!!」

「なんだぁお前、いきなりキレやがって。まぁその身体じゃモテモテなのは分かるぜぇ?男なんて取っ替え引っかぇ……」


アマデアは、頭を抱えはじめる。


「私は、わたし、わたしは、わた、わ、わた、私、私ぃぃ、私はぁぁぁぁ!!!!」


急速に落下し周辺の瓦礫やバビロンから溢れる蒼騎士を全て一撃で吹き飛ばし、膝を折って、地面に頭をついて、頭皮をかきむしるようにしながら、頭を地面に打ち付けている。


「私、わたしは、わた、わたし、わたし、わたし、私はぁぁ!!」


喘ぐようにも聞こえ、その実泣き崩れ、涙を浮かべながら頭を砕き、内部が抉れ流れ出てくる。エヴァリストが呆れる。


「おいおい可哀想なこって、その感じで頭イッちまってんのかよ……神さんも手焼いてんのかねぇ。


アマデアの動きが止まる。


「……死んだか?」

「あぁ……あぁ……威厳なる主たる父よ、荘厳なる主たる父よ。捧げましょう、私の全てを。貢ぎましょう、私の全てを……ですから、ですからどうか……」


傷跡ごと、全てが再生していく。


「アンフォラム・インプレオ・アクアェ・プアレ」

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